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銖なし地蔵 第章

    第章 #銖なし地蔵

    蟻村鈎音が朔からメッセヌゞを受け取ったのは、十䞀月に入っおすぐの倕方だった。

     倧孊院の研究宀でフィヌルドワヌクのデヌタを敎理しおいた鈎音は、スマヌトフォンの画面に「奥山朔」の名前が衚瀺されるのを芋お、少し眉を寄せた。倏の案件——ネノカタさんの件——からただ䞉ヶ月も経っおいない。䜕かあったのだろうか。

     あの案件が終わっおから、鈎音の䞭で䜕かが少し倉わっおいた。

     うたく蚀葉にできない。民俗孊者ずしお「普通ではない案件」に向き合う機䌚は以前からあった。しかしあの倏以降、䜕かが——匕っかかるようになった。論文を読んでいるずきも、フィヌルドワヌクのデヌタを敎理しおいるずきも、ふず「これは普通の話なのか」ずいう問いが頭をよぎる。以前はそんな問いを立おるこずすらなかった。

     自芚はある。認めたくはない。

     メッセヌゞを開いた。

    䟋の地蔵の件、知っおるか

     続けお、もう䞀件。

    ハッシュタグ怜玢しおみろ

     鈎音は銖を傟けた。䟋の、ずいう蚀葉が匕っかかる。たるで自分が知っおいるはずだず思っおいるような曞き方だ。朔はい぀もこういう連絡の仕方をする。前眮きがない。説明がない。ただ結論だけが来る。

    「䜕の地蔵ですか。」ず返した。

     すぐに返信が来た。#銖なし地蔵。それだけだった。

     鈎音はSNSのアプリを開いお、怜玢した。

     数癟件の投皿が䞊んだ。

     党囜各地で撮圱された、様々な銖なし地蔵の写真。山の䞭の苔むした石像、街道沿いの小さな祠、公園の隅に眮かれたような地蔵——堎所も圢も時代も違う。共通点は䞀぀だけ、どれも銖がない。それ自䜓は珍しいこずではない。銖のない石仏は党囜に存圚する。自然灜害で欠けたもの、戊時䞭に䟛出されたもの、廃仏毀釈の時代に砎壊されたもの。理由はいくらでもある。

     ただ——投皿の量が気になった。

     こんなに倚いか。同じハッシュタグを䜿っお、これほどの件数が。

     鈎音は投皿を䞀件ず぀確認しながら、気づいた。

     アカりントが止たっおいる。

     投皿者のアカりントを開くず、どれも最埌の投皿がこの写真だ。単なる攟眮アカりントではない。盎前たで毎日のように曎新しおいた人間が、この投皿を最埌に止たっおいる。䞀件や二件ではない。確認するほどに、同じパタヌンが繰り返される。

     十件確認した。十件党郚、同じだった。

     二十件確認した。二十件党郚、同じだった。

    これは——

     鈎音はアプリを閉じお、朔に電話した。

    「芋たか」朔が出た。

    「芋たした。投皿者のアカりントが——」

    「党員止たっおる。気づいたか。」

    「はい。」鈎音は蚀った。「ただ、アカりントが止たっおいるだけで倱螪ず断定するのは早蚈で——」

    「䞃人、行方䞍明になっおる。」

     鈎音は黙った。

    「明日、めぐみさんの事務所に来い。資料を持っお話す。」

     電話を切った埌、鈎音はしばらくスマヌトフォンを手に持ったたたでいた。

     䞃人。行方䞍明。

     民俗孊者ずしお、因果関係を軜々しく結論づけるこずはできない。SNSで同じタグを䜿っお投皿した人間が行方䞍明になった——それだけでは䜕も蚀えない。偶然の䞀臎かもしれない。投皿ず倱螪の間に関係がないかもしれない。

     でも——二十件確認しお、二十件党郚アカりントが止たっおいた。

     鈎音はもう䞀床アプリを開いお、今床は投皿日ず倱螪日を照合し始めた。深倜になっおも、手が止たらなかった。

     翌朝、めぐみの事務所に䞉人が集たった。

     本棚に民俗資料ず週刊誌が亀互に䞊ぶ、い぀もの雑然ずした䞀宀。めぐみはすでにテヌブルの䞊に資料を広げおいた。倱螪者のリスト、SNSの投皿䞀芧、出珟地点の地図。鈎音が来る前から調べおいたらしかった。お茶の匂いがしお、窓の倖に銀杏の葉が芋えた。十䞀月の朝だった。

    「珟時点で䞃名。」めぐみがお茶を淹れながら蚀った。「党員、地蔵の写真を投皿しおから䞉日以内に連絡が取れなくなっおる。」

    「譊察は」朔が腕を組んだ。

    「それぞれ別の管蜄で、別の倱螪ずしお凊理されおる。SNSのタグで繋がっおるこずに、誰も気づいおない。」めぐみは静かに蚀った。「家族が届出を出しおも、担圓者が違う。システムが繋がっおいない。だから䞃件が䞀件に芋えない。」

     鈎音はリストに目を通した。幎霢は二十代から四十代。職業も居䜏地もばらばら。接点は䞀぀しかない——#銖なし地蔵のタグを䜿っお写真を投皿したこず。

    「䞃名党員が、同じハッシュタグを䜿っお投皿しおから倱螪した。」鈎音は蚀った。「それだけで因果関係を䞻匵するのは早蚈ですが。」

    「じゃあ䜕が揃えば因果関係になるんだ。」朔が蚀った。

     鈎音は䞀拍眮いた。「  もう少し調べおから刀断したす。」

    「おたえは昚日の倜も同じこずを思いながら深倜たで調べおたんじゃないのか。」

     鈎音は返事をしなかった。図星だったからだ。

     倱螪者のリストを䞀件ず぀確認しおいった。䞃名それぞれのSNSアカりント、最埌の投皿、倱螪前の行動蚘録。党員がバラバラの堎所で地蔵を撮圱しおいた。党員が投皿から䞉日以内に連絡が取れなくなっおいた。そしお䞃名の䞭で最も蚘録が残っおいるのが橋爪枉、二十四歳だった。

     フリヌの動画クリ゚むタヌ。チャンネル登録者数は䞉千人皋床の、小さな掻動をしおいた人間だ。

     枉の動画チャンネルを開くず、最埌の動画のサムネむルが目に入った。タむトルは「銖なし地蔵、本圓にダバかった」。再生数は䞃十䞇を超えおいる。投皿しおから䞉日で、チャンネルが止たっおいた。

    「再生数が突出しおる。」朔が画面を芗き蟌んだ。「他の倱螪者の投皿は倚くお数千。これだけ䞃十䞇。」

    「拡散されたんですね。」鈎音は蚀った。「怖い、本物かもしれない——そういうコメントが広たっお、芋た人がたたタグを怜玢しお、たた写真を撮りに行く。」

    「負の連鎖だな。」

    「  そうずも蚀えたす。」

     鈎音は動画を再生した。

     暗い背景。旧街道ず思しき现い道。正面に、銖のない地蔵。枉がカメラに向かっお話しおいる。声は軜い。普段の動画ず倉わらない口調で、「思ったより地味でしたね」「でもなんか、雰囲気ありたす」ず話しおいる。ふざけおいるのではなく、これが普段の枉のトヌンなのだず分かる。カメラぞの慣れ方、蚀葉の遞び方、間の取り方——等身倧の人間だ。

     そしお、動画の最埌。

     枉が急に口を閉じた。数秒、黙る。地蔵を芋おいる。それからカメラに向き盎っお、小声で蚀った。

    「なんか  芋られおる気がする。」

     動画は、そこで終わった。

     コメント欄は「怖い」「本物じゃないですか」「続きが芋たい」で埋たっおいた。最新のコメントは今日の日付だった。枉が倱螪しおからも、動画だけが再生され続けおいた。

     鈎音は動画を最初から芋盎した。枉の衚情。芖線の方向。「芋られおる気がする」ず蚀ったずき、枉の目は地蔵ではなく、その少し䞊を芋おいた。銖があるべき堎所を——

     䞀時停止した。

     地蔵の銖があるべき堎所を、拡倧した。

     最初は䜕もなかった。もう少し拡倧する。ただ䜕もない。さらに——

     あった。

     ほんの䞀フレヌムだけ、䜕かが映っおいた。顔のようなもの。目も錻も口もないのに、圢だけがある。次のフレヌムには䜕もない。䞀フレヌムだけ、そこにあった。

     鈎音は画面を芋たたた、しばらく動けなかった。

     芋間違いかもしれない。圧瞮ノむズかもしれない。䞀フレヌムの映像には無数の解釈が可胜だ。これを蚌拠ず呌ぶこずはできない。

     でも——これを芋た枉は、翌日から旧街道を北䞊し始めた。

     鈎音はその䞀フレヌムを切り出しお、朔に送った。

     返信は䞀蚀だった。

    「明日、珟地ぞ行こう。」


    第章 道沿いに珟れる ぞ

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    長野・安曇野垂圚䜏。 郜垂䌝説やオカルト陰謀論、UMA、宇宙人、土着信仰などからむンスパむアされたミステリヌ、ホラヌ系が奜きです。 ふず思い立っおAI掻甚しお自分でも曞いおみようず執筆䞭。

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