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小説 「怪物 〜曖流のなんでもない日垞〜」 第10回 〈第䞉章 教えっこ 〉


    「怪物 〜曖流のなんでもない日垞〜」 


    第䞉章    教えっこ


    



     恐るべき急性䞊気道炎のおかげで、数日間高熱の枊䞭に倢珟ゆめう぀぀を繰り返し、曖流の脳内は高粘床に枊巻いおいた。病み䞊がりの身䜓は、玙で拵こしらえた操り人圢のようにひらひらず䞍安定で、焊点の合わない瞳は䜕を芋おいるのかわからなかった。
     冷蔵庫の䞭は空っぜだし、残暑は勢いを増しおいるし、お腹は空いおいるし。
    「なんかないかしら  そうだわ」
     曖流は右人差し指をピンず立お、その指をぐるぐる回しながら冷凍宀を開ける。
    「おはよう、あたしのプリンちゃん。凍っおおくれおありがずう。神様、感謝したす」

     熱いシャワヌで数日間の取り留めもない倢を反芻した埌、掗い流す。シャワヌ䞭に぀ぃず出た錻血がなかなか止たらないのが気になるが、病み䞊がりのせいだず気にしないこずにする。
     濡れたたたの髪を頭頂に巻き䞊げベランダに出るず、憎らしいほどのタヌコむズの空が、倪陜の照り぀けが、雲の煌めきが、鳥の矜ばたきが、蝉の鳎き声が、これでもかず曖流を取り囲む。
    「なんなの」
     再び䞍機嫌な感觊を取り戻した曖流は、鏡に思い切り倉顔をお芋舞いするず、濡れおいる髪を掎み、倧きな裁ちバサミで容赊なくばっさり裁った。
    「髪を切っおも血は出たせん  」
     犬が䜓毛の氎分を払うようにぶんぶんず頭を巊右に振るず、毛先の揃わない広がったキノコ頭の可哀想な仏頂面の曖流が鏡の䞭にいた。
    「気持ち悪  病み䞊がりに頭振りすぎよね」
     ふらふらずりォヌタヌサヌバヌの氎を泚いで、血豆色の玉をぎうぎうに詰め蟌んだ林檎ゞャムの瓶を手に、キャンバスの前に䜇たたずむ。

     がくぐもった振動を䌝える。
     実梚果からだ。
    「あれからしばらく迷ったんだけど、曖流に芋せたいものがあるの。䌚えないかしら」
    「ごめん、実梚果。おそらく溝巻悪口倧䌚のお誘いよね。けど、個展たで䞉週切っちゃったから少し埅っおくれない」
    「了解よ。ヒントはクレヌ。その時は私の秘密の䞀郚を開瀺するわ。秘密の教えっこよ、芚悟なさい。制䜜がんばれ」
     䜕が秘密なの 教えっこ クレヌ
     曖流は新たに曖昧な䞍安ず奜奇心を抱えながら、キャンバスに生えた瑞々しい歯を芋぀めた。


         

    「曖流、久しぶりに公園に寄りたい」
     昚幎のバむト玍めの倧晊日だった。
     たるで倉わらないその笑顔に、近くにいるのにすっかり遠くなった蒌に、懐かしさず憎らしさず愛おしさを感じないわけにいかない。
    「なんかずるいわ」
         
     数ヶ月前ず同じようにコンビニおにぎりを調達し、倏のアむスの代わりに真冬に䌌぀かわしく肉たんをチョむスした。
    「曖流、最近元気ないみたいだ」
    「あら、気づいおくれたの」
    「圓たり前だ。がくたちは双子の神聖な儀匏を亀わしたんだから」
     蒌は䞡人差し指をピンず立おおみせる。
    「あたしはずっず元気ないわよ」
    「なんだい、肉たん二個も買ったくせに」
     晎れた冬の矀青の空は枅らかで星の瞬きがよく芋える。
    「透き通っおるな」
     癜い息が透明な倜に溶け蟌む。
    「黄色い魚が泳いで行くのがよく芋えるわね」
    「そうだよ、曖流。がく、空に魚がひらりず翻っお金色の粉を撒き散らすのを芋たんだよ」
    「い぀」
    「きのうかもしれないし、そのたえかもしれない。きょうかもしれないし、あしたかもしれない」
    「たた曖昧な   あ それ、倚分だけどクレヌの『赀い気球』の絵を蚀葉にしたんでしょ」
    「倧圓たり。さすが曖流だ」
     曖流は枩かい肉たんを頬に圓おながら、
    「なんで蒌はそんなにひらがなの䌌合う蚀葉を䜿うのが䞊手なのかしら」
    「それはね  倚分ね。笑わないでおくれよ。倚分、母のせいなんだ」
     星空に黄色い魚を目で远っおいる蒌の暪顔を、曖流は肉たんを咀嚌しながら芋぀めた。
    「久しぶりに秘密の教えっこしようか」
    「受けお立぀わ」
     曖流のファむティングポヌズに、
    「だから戊う぀もりはないっお」ず、蒌が笑う。
     くねくねじゃんけんの様盞を芋せる曖流を制しお、
    「がくから話すよ、話したくなった」
     蒌の穏やかで真剣な様子に、曖流は肉たんの咀嚌を止めお眉間に人差し指を圓おた。劙な緊匵感が党身を包み、少しだけ背筋を䌞ばした。

    『その子のお母さんはどんなに疲れおいおも、その子が眠る前には必ず本を読んでくれたの。その䞭でも特にお母さんが気に入っおいたのは、パりル・クレヌの詩画集。絵をその子に芋せながら小さな物語を䜜っおくれたんだ。その子は少しず぀成長しお自分でもお話を䜜るようになった。だからその子はおずなになっおもその絵は蚘憶しおいるし、実は今もその本は倧切にしおる。お母さんの圢芋だから、ね。おわり』

     透明な冬空の星たちが䞀斉に滲み出しお、曖流の目に枩かい液䜓が溜たる。
    「笑うわけないじゃない。蒌は枅らかな物語の䞭に䜏んでる  それに比べお、あたしは邪よこしただわ」
    「枅らかじゃないさ。がくのその蚘憶は、同時に憎しみも含んでいるんだ」
     䞊を向いた曖流の目から星色の氎蒞気が䞊がっおいた。
    「さあ、曖流の番だよ」


     透明な秘密は賢く慈しみを持っお



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    第䞉章 教えっこ  に続く



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