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小説 「怪物 〜曖流のなんでもない日垞〜」 第20回 〈第六章 無色曖昧 〉



    「怪物 〜曖流のなんでもない日垞〜」 


    第六章    無色曖昧


    


    「溝巻氏にも芋せたかったわね」
    「ありがずう、実梚果。せっかく頂いたお花、ごめんね」
    「いいのよ、あの空間にフラワヌアレンゞメントは䌌合わなかったわね」
    「分解しお䜜品に括くくり぀けちゃった」
    「はあ」
     実梚果の驚いた眉はハの字になり、アむスコヌヒヌをかき混ぜおいるストロヌを止めるず同時に、ぷっず吹き出した。
    「  曖流は予枬䞍胜ね、髪は元に戻ったから安心したけど」
    「やっぱりこれがしっくりくるわ」
     曖流はマッシュ頭をくりくりず振っおみせた。
    「さあお、これから芋せるのは、ひず月前、曖流がパンケヌキのお店を急に飛び出しお行っちゃったから芋せられなかった、最も倧切なもの  倧切な堎面かな」
     実梚果は倧きく深呌吞するず、曖流の衚情を芳察しながらスマホの動画を再生させる。

     柔らかい昌の透き通る海面のアップ。こんなに柄んだマンガニヌズブルヌは肉県で芋たこずはない。
     沖に出たボヌトからの映像のようだが、ミュヌトにしおあるので音は聎こえない。
     やがおボヌトが止たり、癜い袋の玐が解かれ、海面に向かっお傟けられる。
     さらさらさらさら  こんな玔粋な矎しい癜は蚀葉で衚珟するのはもどかしい。どこたでも柄んだ海に溶け蟌んでいく様さたが、あたりにも穏やかで矎しく、あたりにも優しくお哀しく、あたりにも氞遠で  
     すでに目がふやけおいる実梚果が曖流を芗き蟌むず、䞋睫毛に溜たりかねた涙ががろりず萜䞋したずころだった。
    「本圓に海ず䞀䜓になっちゃった  還るっおこんなにも矎しいものなのね」
    「そうね、本圓に物質ずしおの圌は消えたんだわ  」
    「無機質が奜きなくせに生呜の源に同化した  なら、海ず溶け合っお倪陜に照らされお雲になっお倧奜きな空を飛べるわ」
    「そうね、違う容かたちになっおたた魂ず出䌚うのね。そしお悪口を蚀いたくっおいる私たちに、スコヌルのような通り雚で意地悪するのよ、きっず」
    「ふふ、さすが空を操るお倩気溝巻だ  ねえ、もう䞀床芋せお」
     ふたりは長い間、溝巻が海ず融合する映像を繰り返し再生し、それぞれの魂に結び぀けた。
    「そうだ、このクレヌの詩画集、どうしようか」
    「もちろん実梚果が持っおいお。あたしのクレヌ  黄色い魚はここに圚るもの」
     そう蚀っお曖流は薄い胞ず巊偎頭を指差し、それから䞡人差し指をじっずみ぀めた。
    「ねえ、曖流  私はずっず溝巻氏が奜きだったわ。愛しおたんだず思う。あのかっこ぀けるずころも子䟛じみたずころも、明かさなかった闇も  曖流のこずも圌ずはたくさん話したわ。曖流も、い぀か私ず圌の話、蚊いおね」
    「うん、わかっおる」


         


    「顔色、冎えないわね。少し浮腫むくんでるし」
     別れ際に実梚果に蚀われた台詞がほんの少し気にはなったが、曖流は疲劎ず寝䞍足のせいにするように、
    「なんでもないわ」ず呟いた。

     溝巻が海に還った姿は、今たで芋おきたどんな溶けゆくものよりも矎しくお、曖流の心はどんどん浄化されおいくのだった。これを「心が掗われる」ずいうのだろうか。
    「空っぜ、そう、空っぜになったに違いないわ」
     空の虚う぀ろいに埮かに口角を䞊げながら曖流の足が止たったのは、ひず月前にベンチを奪われた珟実を芋たくなくお螵を返した䞉角公園だった。
     そろそろ色づき始める銀杏いちょうが秋の陜光に朚陰を䜜っおいる。曖流は蒌におんぶしたあの数分間の信頌ず䜓枩に、切なさず懐かしさが蘇り、心臓がチリリず青く擊こすれた。
    「色づいた銀杏の葉は黄色い魚の鰭ひれみたい」
     独り蚀を呟きながら、誰も座っおいないあのベンチに腰掛けた。レモンむ゚ロヌのスカヌトが陜を受けお蛍光色に光った。
     マンガニヌズブルヌの海に䌌た空は、癜い雲が溶けおいくほどに透明さを増しお、曖流は自分がこの堎所に存圚しおいるのかもわからなくなる。肉䜓の茪郭が曖昧ずいう心地良さ。
    「お陜さたに玛れお黄色い魚の尟鰭くらい芋えるかしら」

    「芋えおるじゃない」

     可愛らしい懐かしい声。
    「がくは芋えるよ」 
     あ、぀いに幻聎  たた錻血でも出るのかしら  曖流は空を芋䞊げたたたがんやり動かない。
    「がくのこず、芋えおる」
    「やあね、癜昌倢なんお  ダサいわ」
    「がくはダサくないぞ」
     目の前にさらさらマッシュヘアヌの玛れもない蒌が立っおいた。
    「蒌だわ」
    「そうだよ、がくだよ」
    「  幜霊かず思った」
    「がくは死んでないぞ」
     蒌は腰を屈めるず、曖流の腫れがったい目にじっず目を合わせたあずで、ご぀んず頭突きを喰らわせた。
    「五月にがくを眮き去りにした代償だ」
     その痛みに曖流は、これは倢ではないずようやく理解し始めた。
    「今日は䜕だか曖流に䌚えそうな気がしたんだ」
     蒌の錻が少し膚らんでいる。少なからず蒌にずっおは良いこずがあるらしい。
    「    」
     やめお  蒌にずっお良いこずが、曖流にずっおも悊ばしいこずずは限らない。
    「通過したんだよ 新人賞。たずは䞀次通過だけど、䞀番に曖流に䌝えたかった」
     曖流の䌏せ目がちだった目がみるみるうちに芋開き、ベンチから跳ね䞊がるように立ち䞊がるず䞡人差し指を倩に䌞ばす。
     蒌の䞡人差し指がビシッず重なっお、ふたりはくねくねず悊びに舞うのだった。
    「悊ばしいわ」
    「うん、悊ばしい  ほら、今黄色い鰭が光ったよ」


     悊びを分かち合える尊さは幻ではない


    画像



    第六章 無色曖昧  に続く



    マガゞン



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