見出し画像

「各国にとって合理的な行動」を全員が続けた結果、世界全体としてものすごくアホな状態になっている。

最近、ICC(国際刑事裁判所)をめぐるニュースを見ていました。
……と言っても、私は国際政治の専門家でもなんでもありません。

軍事にも詳しくないし、国際法を勉強してきたわけでもない。
なので本当に最初は、ICCってなんやねん。
くらいのところから調べ始めました。笑

ざっくり言うと、ICCは、戦争犯罪やジェノサイド、人道に対する罪なんかの、とんでもなく重大な犯罪について、個人の責任を問うための国際的な裁判所です。

で、今このICCと、アメリカのトランプ政権がめちゃくちゃ揉めています。アメリカはICCに加盟していません。

だからアメリカ側としては、
「いやいや、俺たちこの裁判所に入るって言ってないよね? なんでアメリカ人を裁けるの?」という理屈です。

なるほど。

そこだけ聞けば、まあ分からなくもない。
入会した覚えのない団体から突然、「あなた、うちの規約違反なんで処分しますね」と言われたら、

いや知らんがな。ってなりますね。笑
でも、もう少し調べるとICC側にも当然理屈がある。
ICCのルールでは、犯罪が加盟国の領域で行われた場合、容疑者本人の国がICC非加盟国でも、一定の場合には管轄できることになっています。

これも、感覚としては分かるんですよね。

外国人が日本に来て犯罪をして、「私は日本法に同意した覚えがありません」って言ったところで、いや、ここ日本なんで。になるでしょう。

もちろん、国内法と国際裁判所をそのまま同じにはできません。
でも、「俺は加盟してない。だから俺には適用するな」で全部終わるなら、強い国ほど、「じゃあ加盟しなきゃいいじゃん」にならん?とも思う。

しかもトランプ政権は、ICCがアメリカ人やイスラエル政府高官らを捜査・訴追することに強く反発して、ICCの裁判官や関係者に制裁までかけています。2026年8月には、ICC所長の赤根智子さん自身も制裁対象になりました。

さらに9月22日には、トランプ大統領が国連総会でICCを激しく批判し、加盟国に脱退まで呼びかけています。

そこまで見て、私は思った。

なんか、力持ってる側が駄々こねたら勝つゲームになってない?

もちろん、アメリカにはアメリカの言い分がある。
国家主権もあるし、自分たちが参加していない国際裁判所に、自国民を裁かせたくないという考えも分からなくはない。

ただ、力を持っている国ほど、自分もルールに従った方が、周りは安心できるんじゃないの?とも思うんですよ。

めちゃくちゃ強い人が、
「俺はいつでもお前を殴れるけど、俺を信用しろ」と言ってる世界と、
「俺は強いけど、俺も同じルールには従うよ」と言ってる世界。

どっちが安心できるか?
私は圧倒的に後者です。


で、そんなことを考えていたら、核兵器の話にもつながりました。
核兵器を持っている国は、「核兵器が増えたら危ない。これ以上、核保有国を増やしちゃいけない」と言います。

うん。それは分かる。
核兵器なんて絶対増えない方がいい。
私だってそう思います。

でも。

お前も持ってるやん。

ってなる。笑
「危ないから武器持たないで!」と言いながら、
自分は両手にバズーカ抱えてる。
そりゃ相手からしたら、いや怖いわ。ですよね。

ただ、これも考えてみれば、各国それぞれには理由がある。
アメリカからしたら、「ロシアも中国も持ってるのに、俺だけ捨てたら危ないだろ」となる。

まあ、そりゃそう。

ロシアからしたら、「アメリカが持ってるのに、なんで俺だけ捨てるんだ」となる。

あ〜、それもそう。

中国だって同じように考えるでしょうし、北朝鮮にも北朝鮮なりの安全保障上の理屈がある。
つまり、相手が武器を持っている以上、自分も持っていた方が安全。

一国だけを見れば、別にアホな判断じゃないんです。
むしろ、めちゃくちゃ合理的。

ところが。
全員がそれをやると、

全員武器持ってます。

になる。

A国「お前が武器持ってるから俺も持つ!」
B国「いや、お前が持ってるから俺も持ってるんだ!」
A国「じゃあお前から捨てろ!」
B国「いや、お前から捨てろ!」

そして数十年後。

A国・B国「最新型に買い替えました。」

コントかよ!

いや、笑い事じゃないんですけどね。笑

でも本当に、そんな状態です。
SIPRIによれば、2025年には核兵器を持つ9カ国すべてが、核戦力の近代化や強化を続けています。

しかもNPT(核不拡散条約)って、本来、「核を持ってない国だけ、これからも我慢してね」という条約ではありません。

第6条には、核軍拡競争を止め、核軍縮に向けて誠実に交渉することも書かれています。

つまり、「お前は持つな。俺は永久に持つ」じゃない。
本来は、増やさないようにしよう。持っている側も減らす方向に進もう。という話。だった。

でも現実には、
「だってお前が持ってるし」
「いや、お前が捨てないから」が続く。

何をしているんだ、我々は。笑


調べてみると、これにはちゃんと安全保障のジレンマという名前があります。

自分を守るために武器を増やす。
すると相手から見たら、「え、あいつめっちゃ武器増やしてる。怖っ」となる。
だから相手も増やす。

それを見た最初の国が、「ほら!!やっぱりあいつ危険じゃん!!」となる。
そしてまた増やす。

誰も最初から、「よーし!世界を危険にしてやるぜ!」と思ってるわけじゃない。
みんな自分を守りたいだけ。

なのに、全員で危険な世界を作っていく。
そこで出てきたのが、この言葉でした。

「各国にとって合理的な行動」を全員が続けた結果、世界全体としてものすごくアホな状態になっている。

これ、めちゃくちゃ面白いなと思ったんです。
いや、核の話だから面白がってる場合じゃないんだけど。笑

でも、これって国際政治だけじゃなくて、人間社会で結構やってるな、と。


たとえば価格競争。

A社が、「競合より安くした方が売れる!」と値下げする。
まあ合理的ですよね。

B社も、「A社より安くしなきゃ客取られる!」と下げる。
これも合理的。

そしてみんなで下げる。
結果、全員利益出ません。

でもこれ、実際にあるんですよ。笑
たとえば2000年代初頭の牛丼価格戦争。
松屋、すき家、吉野家が次々値下げして、400円前後だった牛丼が280〜290円まで下がった。

消費者からしたら、「安っ!最高!」なんだけど、当然、周りの店もその価格と戦わなきゃいけなくなる。
一社にとっては「客を取るための合理的な値下げ」でも、みんなでやれば業界全体が消耗する。
これも、『一社にとって合理的な行動を全員がやったら、全体がしんどくなる』という意味では、さっきの話とよく似ています。

SNSもそう。
刺激の強いタイトルの方が見られる。
だから煽る。そしてもっと煽る。もっと怒らせる。もっともーっと不安にさせる。

結果…

SNS全体がギャーギャーしている。

ありますよね。笑

会社だってそう。
「自分だけ定時で帰ったら、やる気ないと思われるかも」で残業する。
周りも残る。
すると今度は、「みんな残ってるから帰りづらい」になる。

結果…

誰も帰らない会社完成。

帰れ。笑

一人ずつ見れば、その瞬間の自分には、それなりに合理的なんです。
でも、自分にとって一番合理的なことを、全員がやった結果、全員しんどくなる。
これ、身近なところからでも結構あるあるなんですよ。


だから人類は、「好き勝手やってたらヤバくね?」となって、
法律や条約を作って、裁判所を作って、国際機関を作ってきたんでしょう。

めちゃくちゃ面倒です。
裁判は遅い(時間がかかる)し、証拠がいる。反論する時間もいる。

国同士の話なんか、何年話し合ってんねん、みたいになる。
でも最近、その“まどろっこしさ”こそ、大事なんじゃないかと思うようになりました。

だって、「俺の方が強い。だから俺が正義」で決めた方が、圧倒的に早いんですよ。
早いけど、それをやったら弱い側には何も言えなくなる。

だからわざわざ、力と力の間に、ルールを置く。

で、一番力を持っている人にこそ、「俺もそれ守るよ」と言ってほしい。


そんなことを考えていたら、最近のニュースを見ていて、なんとなく嫌な感じがすることが増えました。
アメリカでは9月、トランプ大統領がCNN、MS NOW、Politicoの3社をホワイトハウスから締め出しました。
トランプ氏は3社を「フェイクニュース」などと批判していますが、3社は報道内容を理由にした排除だとして裁判を起こしています。

ドイツでは、AfDが州選挙で大きく支持を伸ばし、同時に左派も伸びて、これまで中心にいた政党が弱くなっています。
フランスでも、2027年の大統領選を前に国民連合(RN)の存在感がかなり大きくなっています。

もちろん、右だから悪い。左だから正しい。みたいな話をしたいわけではありません。

それぞれの国に事情があるし、移民とか、物価とか、戦争とか、治安とか、格差とか、「今までの政治で本当に大丈夫なの?」と思う理由だってあるのでしょう。

だから、「極右が伸びてる!怖い!」だけで終わるのも違うと思う。
ただ、なんというか、世界中で、今までの仕組みや、他人に対する信頼がちょっとずつ薄くなってる感じがして、私はあんまり好きじゃない。

報道が気に入らない。
裁判所が気に入らない。
国際機関が気に入らない。
相手が気に入らない。

そのときに、「面倒だけどルールの中で争おう」ではなくて、
「俺の方が強いんだから、言うこと聞けよ」に寄っていったら、
そりゃ周りも、「じゃあ私も強くならなきゃ」になるでしょうよ。

で、また武器を増やす。

コントかよ。

……で済めばいいんですけどね。
世界規模だと、これが全然笑えない。


今回ICCについて調べていて、ひとり、めちゃくちゃ印象に残った人がいます。
ICCの所長をしている、日本人の赤根智子さんです。

赤根さんはICC判事だった2023年、プーチン大統領への逮捕状を出した判断に加わった裁判官のひとりでした。
すると、その後、

ロシアから指名手配されました。

怖っ。
いや、普通に怖い。

私だったら「え、ちょっと待って。そこまでの話だと思ってませんでした。」ってなりそうです。笑

ところが赤根さん。
その後のインタビューで、自分の身の危険について聞かれて、
「裁判官は仮に1人が死んだとしても、いくらでも替えが利く」と話しています。

いや…

めちゃくちゃカッコいいな、この人。

もちろん、「死んでもいい」って話じゃないですよ。

そうじゃなくて、私ひとり脅したくらいで、この仕組みが止まると思うな。ってことでしょう。

私が英雄だから私が守る、ではない。
自分がいなくなっても、次の人が同じ法律に基づいて仕事をする。
人が変わっても、法は残る。

私は、そこがめちゃくちゃカッコいいと思ったんです。

しかも2026年には、今度はアメリカから本人が制裁対象になりました。
それでもICC側は、制裁に屈しない姿勢を崩していません。

こういうのを見ると、こういう感覚を持った人に、力を持つ立場にいてほしいなと思います。

政治家でも社長でも、組織のトップでも。
身近なところで行くと、先生でも親でも。

人より大きな権限を持ったときに、「俺は偉いから特別」ではなく、
「私だって、このルールの中にいる」と思える人。

力を持ったら、ルールを破れるようになる。

でも、

力を持っている人ほど、自分を縛るルールを大事にしてほしい。

本当に強いって、「俺は強いからルールなんて知らん」じゃなくて、
「破ろうと思えば破れる。でも、私は守る」なのかもしれません。


ただ、これを、「人間ってバカだね」で終わらせたいわけでもないんです。

たぶん難しいのは、みんな、それぞれ自分の立場ではそんなに変なことをしていないというところ。

自分を守りたい。国を守りたい。会社を守りたい。家族を守りたい。自分の立場を守りたい。
それ自体は普通のことです。

でも、それだけを全員がやり続けると、なぜか全体としておかしなことになる。
だから誰かひとりに、「お前だけ我慢しろ!」と迫るより、みんなが少しずつ安心して武器を置ける仕組みを作らないといけない。

そのために、条約とか、査察とか、裁判所とか、法律とか、あのクソまどろっこしいものが必要なんでしょう。笑

世界平和って、「みんな仲良くしましょう♡」みたいな綺麗な話じゃなくて、

「お前が裏切らないなら、俺も武器を置ける」

という状態を、どう作るかなのかもしれません。


で。
ここまで国際政治の話を書いておいてなんですが、これって別に、国家だけの話じゃないと思うんです。

「私は正しい」って、日常でもめちゃくちゃ出てくる。

健康の話でも、教育でも、仕事でも、家庭でも。
自分では、「あなたのためを思って」だったりする。

でも、私は正しい。と、
だからあなたは私の言う通りにするべき。は、全然違う。

以前、私自身が治療をしている中で、
「このサプリを飲まなかったからだ」というように、自分の選択について責められたことがありました。

そのときにも思ったんです。
善意は提案まで。決定権まで持っていかないで。

▼こちらもぜひ
善意は提案まで。決定権まで持っていかないで。|何かを勧める前に、逆の立場で考えてみる

国際政治とサプリ。
全然違う話に見えますが、私はちょっと似てると思っています。

結局、自分の正しさを、どこまで相手に押しつけていいのか。
なんですよね。

自分が正しいと思ったときほど、一回考える。

全員がこれをやったら、どうなる?

それともうひとつ。

私は、相手の決定権まで持っていこうとしてないか?

自分にとって合理的なことを積み上げた先に、みんなにとって良い世界があるとは限らない。

だからたぶん人間には、ちょっと面倒でもルールを守ることと、少しだけ自分を抑えること。
そのくらいが必要なんじゃないでしょうか。

じゃないとまた、みんなそれぞれ真面目に自分を守った結果、世界全体として、ものすごくアホなことになるので。笑

ちなみに、今回「ICCってなんやねん」から調べ始めた私のように、もう少しちゃんと知りたい方へ。
ICCがなぜ作られたのか、何を裁くのかをコンパクトに知るなら、このあたりが入口として読みやすそうです。

『入門 国際刑事裁判所―紛争下の暴力をどう裁くのか』

今回ご紹介した『入門 国際刑事裁判所―紛争下の暴力をどう裁くのか』アムネスティ・インターナショナル日本国際人権法チーム編、111ページのブックレットは、ICCができた経緯や「戦争犯罪をどう裁くのか」をコンパクトにまとめた入門書です。2002年刊なので最近のトランプ政権との対立までは当然載っていませんが、「そもそもICCは何のために作られたの?」を知る本としては良いと思うので、ぜひご覧ください。

Amazonのアソシエイトとして、ワンインククリエイション株式会社は適格販売により収入を得ています。

ここまで読んで、
「あ、これ会社でもあるわ」
「うちの業界もまさにこれ」
「家族でも似たことあるかも」みたいな、“身近なコントかよ案件”が浮かんだ方がいたら、ぜひコメントで教えてください。笑

国際政治の話から始まりましたが、結局こういうことって、案外私たちの日常の中にも転がっているんですよね。

私はこういう、「なんか変じゃない?」から調べ始めて、全然違う話とつながっていくみたいなことを、noteでよく書いています。

今回みたいな話が面白かったら、スキやフォローしてもらえると、また「あらゆう、なんか調べ始めたな」と見つけてもらいやすくなります。笑

最後までお読みいただき、ありがとうございました^^

いいなと思ったら応援しよう!

あらゆう(新城優)|人生と仕事を、言葉で編集する人 読んでくださるだけでとても嬉しいです。 もしこの記事が少しでも思考をほぐしたり、日々を軽やかにするきっかけになっていたら、チップでそっと応援していただけると励みになります。 いただいた応援は、また次の言葉や企画を、必要な人へ届けるための制作費として大切に循環させていただきます。