
マグダラのマリア外伝 - 非正典解説編
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今回は,拙稿『マグダラのマリア:聖書が語らざる生涯 ~マグダラ文書誕生と封印の謎~【スペクタクル・ノヴェラ】』の中で引用しているキリスト教関係の文献について,なるべくわかりやすく簡潔にご紹介しておこうと思います。
マグダラのマリアについては,新約聖書にいくつか記述があります。ただ,マリアが復活したイエスから言葉をかけられ,弟子たちに彼の復活を告げた後,どういう人生を送ったのかは新約聖書には書かれていません。
なんか,中途半端でもやもやした気分になってしまいます。
そこで頼るのが新約聖書とは異なる非正典と呼ばれる文書の数々や伝承的な文書です。これらにはマリアに関する記述がいろいろとあります。
しかし,学術的にはどの程度信用できるのか,わからない記述もあるようです。
ところで,そもそも,非正典とは何のことでしょうか。
今回は,この非正典について解説していくことにします。
1.新約聖書
はじめに予備知識として簡単に新約聖書のことを振り返っておきましょう。
新約聖書は、長い時間をかけて教会の中で広く受け入れられてきたものが、397年のカルタゴ会議などを通して確認され、現在の形になっていったものです。
じつはその当時,イエスに関して書かれた宗教的な文書は,多数存在していました。
しかし書かれていることはまちまちで,中には当時の教会の教えと相いれないものもありました。
そこで,数ある文書の中から,どれを正当な教えとするのかが検討され,正当なものとそうでないものに分類され,正当なものから新約聖書がまとめられたのです。
新約聖書の目次をご覧いただくとわかりますように,新約聖書は27個の巻からなっています。たとえば『【短編小説】マグダラのマリア』でも引用した
マタイによる福音書
ルカによる福音書
ヨハネによる福音書
などがあります。マリアに関する記述があるものとしては,ほかに
マルコによる福音書
もあります。
このほかコリントの信徒への手紙やヨハネの黙示録などがあります。
この27個の巻は正典(カノン)と呼ばれています。
2.非正典
旧約聖書を除いて新約聖書について述べると、一般に新約聖書に含まれていないキリスト教の文書は「非正典(ノン・カノニカル)」と呼ばれます。
その中には、教会の信仰に比較的近く参考として読まれた「外典(アポクリファ)」と、正統的な教えに合わないとして受け入れられなかった「異端の書(ヘレティカルな文書)」とされるものがあります。
ただし、これらの区分は明確に決まっていたわけではなく、どの文書をどのように分類するかは時代や教会によって異なり、現代の研究でも単純に分類することは難しいと考えられています。
次にマリアを語るうえで欠かせない非正典の文書を簡単に紹介していきます。
3.ナグ・ハマディ文書
この文書については劇的な始まりがあります。
1945年12月,エジプトのナグ・ハマディという村で,そこの農夫が地中に埋められた壺を見つけました。この中には,パピルスで書かれた写本13冊分に相当する複数の文書が含まれていました。これがナグ・ハマディ文書と呼ばれているものです。
ナグ・ハマディ文書は古代エジプトのコプト語という言葉で書かれたものだそうです。しかし,大変ありがたいことに,何とこの文書の日本語訳が岩波書店から出版されています。全4巻です。
この中で,マグダラのマリアに関する記述があるものとしては,たとえば
トマスによる福音書
フィリポによる福音書
救い主の対話
イエスの知恵
が挙げられます。文書によってはマリアがイエスに聞いた宗教的な質問や,イエスの回答などが記載されています。なおそれらは正典には書かれていません。
4.マリアによる福音書
1896年,カイロで『マリアによる福音書』が見つかりました。ただし,ナグ・ハマディ文書のようにどこかで発掘されたのではありません。カイロの骨とう品市場で,ドイツ人のカール・ラインハルトという人がある写本の売買業者から,パピルスの写本を買ったのです。この写本はコプト語で書かれていました。これが『マリアによる福音書』と呼ばれるようになったものです。
ただし,冒頭の6頁をはじめ,いくつかの欠落箇所がありました。
ラインハルトはそれをベルリンに持ち帰りました。それからかなり紆余曲折があって,ヴァルター・ティルにより1955年にドイツ語訳が出版されました。(これはベルリン写本と呼ばれています。)
また,その間,エジプトの発掘調査でマリアの福音書のギリシャ語による断片も発見され,1983年に出版されました。これは発掘調査のあった町の名前がとられ,オクシリンコス・パピルス3525と呼ばれています。
このほか,別途1917年にエジプトで発見されたギリシャ語による断片ライランズ・パピルス463もあります。
このように3か所で欠落のある文書あるいは断片が見つかったのですが,しかし,今のところまだ完全な形でのマリアの福音書にはなっていません。
この三つの文書の日本語訳は [8] で読むことができます。
5.ピスティス・ソフィア
これは非正典文書の一つです。
復活後のイエスと,その弟子たちとの対話が書かれていて,かなりの頻度でマグダラのマリアが登場します。
英訳が [9] で読めます。この文書にも正典にはないマリアに関する記述がいろいろとあります。たとえば,その一例ですが,イエスがマリアに語ったこととして[9,第7章]に次のような文が記載されています。
"Mary, thou blessed one, whom I will perfect in all mysteries of those of the height, discourse in openness, thou, whose heart is raised to the kingdom of heaven more than all thy brethren." ([9] より引用)
マリアよ,祝福された者よ,私があなたを高みにあるもののすべての神秘において完全にするであろう,率直に語りなさい,あなたのすべての兄弟たちよりも天の王国へと上げられる心を持つ者よ。(筆者意訳)
6.黄金伝説
最後に,拙稿『マグダラのマリア外伝 -黄金伝説篇-』に出てくる『黄金伝説』について。
これは、13世紀にヤコブス・デ・ウォラギネによって編纂された聖人伝です。正典だけでなく非正典の伝承も取り入れてまとめられており、聖人の生涯を物語として紹介した書物といえます。
個人的な感想ですが,これは結構面白く読める読み物です。ただし、その内容には後世の伝説や史実として疑わしい部分も含まれているため、読む際にはその点に注意が必要です。
7.最後に
マリアを扱っている非正典文書などについて簡単にご紹介しました。ただ,これらについては,研究者ではない私には追いきれない,さまざまな研究や解釈があります。
そのことをお断りして,この拙い解説を閉じようと思います。

マグダラのマリア 聖書が語らざる生涯
参考・引用文献
[1] 新約聖書,新共同訳,日本聖書協会,1987,1988.
[2] ヤコブス・デ・ウォラギネ著『黄金伝説 2』(前田敬作・山口裕訳,平凡社,2006).
[3] Mary Magdalene, Wikipedia マグダラのマリアに関する記事:
[4] ナグ・ハマディ文書Ⅱ福音書,Ⅲ説教・書簡,(荒井献,大貫隆,小林稔,筒井賢治 訳),岩波書店,1998.
[5] プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール観光局のサイト:
[6] 岡田温司,マグダラのマリア-エロスとアガペーの聖女,中公新書,2012.
[7] 荒井献 編,新約聖書外典,講談社文芸文庫,1997.
[8] カレン・L・キング(山形孝夫・新免貢 訳),マグダラのマリアによる福音書,河出書房新社,2006.
[9] ピスティス・ソフィア(英語訳 G.R.S.Mead):
© Copyright 冬魅 Aequus, April, 25, 2026.
挿絵作成には Adobe Firefly + Gemini2.5 +Veo3.1Fast を使用して作成したイメージ図です。
作者の冬魅は非現実世界に棲んでいます。
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