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第11章 プライベートクレジットと担保通貨 ②

    第2節 QE後市場と安全担保不足

    1 QEが生んだ構造変化

    2008年金融危機以降、主要中央銀行は大規模な量的緩和政策(QE)を実施した。中央銀行は国債などの安全資産を大量に買い入れ、その対価として金融機関へ巨額の準備預金を供給した。この政策によって、金融システムの決済流動性は大幅に増加した。銀行は大量の中央銀行準備を保有するようになり、短期金利は低下し、金融市場には潤沢な流動性が供給された。

    しかし、その一方で、QEは別の構造変化も生み出していた。

    中央銀行が市場から買い入れる国債は、レポ市場やデリバティブ市場において、資金調達を支える基幹的担保として利用されていた。したがって、中央銀行が国債を大量保有するということは、市場において利用可能な安全担保が減少することを意味する。

    このように、QEは決済流動性を増加させた一方で、レポ市場などにおいて利用可能な安全担保を減少させた。金融危機以降のQEを経て形成された市場構造(QE後市場)では、潤沢な流動性供給の下で、安全担保不足が同時に進行していたのである。


    2 担保希少化

    こうした問題は、国際金融機関においても広く認識されるようになった。BIS(国際決済銀行)、IMF(国際通貨基金)、FSB(金融安定理事会)などは、金融危機後の市場構造変化を分析する中で、市場で利用可能な安全担保の不足、すなわち担保希少化(collateral scarcity)の問題を繰り返し指摘している。

    特にレポ市場では、この問題は深刻であった。レポ市場では、国債のような安全担保が短期資金調達の基盤として利用されている。しかしQEによって中央銀行が大量の国債を保有するようになると、市場参加者が利用可能な担保量は減少する。その結果、市場では特定国債の調達難や、担保需要の集中が発生しやすくなった。

    市場において重要なのは、国債残高が積み上がっていることではない。それが実際に市場で利用可能であり、継続的に担保として再利用されることが重要なのである。中央銀行に大量保有された国債は、市場型資金調達に利用可能な担保としては流通しなくなる。

    この意味で、QE後市場では市場で利用可能な安全担保の不足が問題となっていたのである。


    3 担保需要の急増

    QE後市場では、安全担保の供給が減少する一方で、担保需要はむしろ急速に増加していた。その背景の一つが、金融危機後のデリバティブ規制強化である。

    2008年の金融危機では、デリバティブ取引における取引相手方の信用不安が、市場全体へ急速に波及した。特に、相対取引を通じた複雑な取引関係の中で、一部金融機関の経営悪化が他の市場参加者の不安を連鎖的に高める構造が問題視された。

    そのため危機後には、取引の透明化と信用リスク管理強化を目的として、多くのデリバティブ取引を中央清算機関(CCP)を通じて清算する仕組みへ移行させる改革が進められた。

    CCPは、取引当事者の間に入り、取引履行を保証する役割を担う。しかしそのためには、価格変動時の損失に備える担保が必要となる。この結果、市場参加者は、当初証拠金や変動証拠金として大量の担保を継続的に差し入れる義務を負うようになった。

    特に重要なのは、CCPや規制当局が、高品質かつ価格変動の小さい担保を強く求めた点である。実務上、その中心となったのは国債などの安全担保であった。

    さらに、金融危機後にはマネー・マーケット・ファンド(MMF)も急速に拡大した。MMFは、安全性と流動性を重視する短期資金運用主体であり、その運用資金の多くはレポ市場へ流入する。

    その結果、金融市場全体において、国債を担保とする短期資金調達構造への依存が強まっていったのである。

    このように、QE後市場では、安全担保供給が減少する一方で、レポ市場やデリバティブ市場を通じた担保需要は急速に増加していたのである。


    4 なぜ市場はシャドー担保へ向かったのか

    安全担保不足が進行する中で、市場は代替的な担保を求めるようになった。その結果、企業向け融資、CLO、民間資産担保証券、不動産関連資産など、本来は流動性の低い民間リスク資産が、担保として広く利用されるようになっていった。

    その典型例が、「担保変換(collateral transformation)」である。これは、流動性の低い資産を、市場型資金調達に利用可能な担保へと転換する仕組みである。

    例えば、企業向け融資そのものは、本来は相対取引中心であり、市場価格形成も限定的で、担保として広範に利用することは難しい。しかし、それらを多数束ね、標準化された証券として発行したCLOは、価格形成や売買が比較的容易となる。さらに、トランシェ構造によって上位部分の信用力を高めることで、金融市場において担保として受け入れやすい性質を持つようになる。

    このようにして、もともとは非流動的で担保利用に適さなかった企業向け融資が、市場型資金調達に利用可能な担保資産へ変換されていったのである。さらに本書の観点から重要なのは、それらの資産がレポ取引や証拠金担保を通じて資金調達能力を支えるようになった点である。

    この結果、シャドーバンキングにおいては、安全担保不足を補う形で、シャドー担保の利用が急速に拡大していった。そして、そのシャドー担保が市場において繰り返し担保として再利用されることによって、担保通貨が生成される構造となっていったのである。


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    量的緩和(QE)後の金融システムを再設計する。永久変動利付国債(PFRGBs)を核に、通貨・担保・金融政策の関係を再定義し、「担保通貨」の時代を構想する。

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