
ビミョーな職場で、生きていく ④ (シリーズ最終話)
ベテランはダメな新人を肴に酒を呑みたい
これも以前勤めていたIT系の職場の話である。
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その職場は、毎日多様な問い合わせや作業依頼が発生し、それらを一定の品質で処理していかなければならないハードな職場であった。
その一方で、業務には深い知識や経験を必要としない、事務的なものも多く含まれていたため、業界未経験の新人がアサインされることも多かった。
そして新人の多くは、大量の煩雑な業務を覚えきれなかったり、うんざりして辞めていった。
新人を指導するのは、現場リーダークラスのひとたちだったが、彼らが新人に優しく接するのは最初の数日だけで、あとはどんどんふってくるタスクをあまり考えもせず渡していって、新人が間違えたり、戸惑っていたりすると、「そんなことも分からないのか」と言って厳しく責める。
そして新人は耐えきれず辞めてしまう。
そういうことの繰り返しであった。
リーダー同士で、「今度のやつもダメだなあ」と困ったように話し合っているのをみると、むしろすこし嬉そうな印象すらある。
(このひとたちはなんとか新人に育ってもらって、職場の負担を少しでも軽くしていきたいという考えはないのか)
いつも不思議であった。
むしろ彼らは簡単に新人に育って欲しくないのではないか。
もし、新人がすぐに仕事を覚えてしまうようであれば、自分たちの仕事が誰でもできる簡単なものなのでは。ということになってしまう。
新人の成長により、自分たちの業務の負担が軽くなる。このメリットを放棄してでも、それだけはどうしても受け入れることはできないのではないか。
そんな疑いが生じてきた。
皮肉にも、その後、そのことを裏付けるような経験をわたし自身が体験することになる。
数年後、保育園児であった息子が成長し小学校に入学し、放課後は学童保育に預けていた。
学童保育には色々なタイプがあるが、我が家は保護者運営のタイプのものを選んだ。
保護者運営とは、名前の通り子どもを預ける保護者たちで運営しているもので、法律に基づき規約などのルールを作ったり、イベントの企画や準備をしたり、納付された保育料から予算を計上し、指導員を雇って給料を払うといったすべてのことを保護者で賄っている。
そこでのわたしの役割は、2年続けて書記であった。
書記という役割は話し合いや、決めなければならないことが少なく、わたしには楽なポジションに見えたが、よその家は皆がパソコンを持っているわけではなく、タイピングが苦手なひとも多いようだった。
うちは家にパソコンもあったし、わたしは率先してこの役割を引き受けた。
3年目に入り、書記のメンバーにも何人か入れ替えがあった。そこで新しくNさんという若い爽やかなお父さんが書記メンバーとして入ってきた。
しかしなんと彼は最初に書記担当として役員会に参加した時に、役員会が終わるとほぼ同時に議事録を書き上げて提出した。内容もそれなりにまとまったものであった。
Nさんの仕事ぶりにわたしは大変動揺し、プライドを打ち砕かれた。
というのも、2年間書記として議事録係をやってきたわたしは、いつも役員会の翌日、2時間くらいかかって議事録を仕上げていた。
そのとき、胸になにかピューと隙間風が吹くような、寂しくて悲しい気持ちになった。
わたしはやっとの思いで、引きつった笑顔でNさんに「どうしたらそんなに素早く議事録が作成できるんですか?教えていただきたいです」
と質問した。この行動はわたしのせめてものプライドがそうさせたのだった。
Nさんはわたしに爽やかに議事録の作成のコツを教えてくれた。
わたしは無理に作った笑顔でそれを聞くのが精一杯であった。
このとき、やっと当時の現場のリーダーたちの気持ちがわかった気がした。
やはり彼らは、新人が優秀なのは嫌だったに違いない。新人には、ダメだダメだと言われながら、ゆっくりゆっくり育って欲しかったんだ。
そしてリーダーたちは、業務後に居酒屋で安酒を飲みながら、「今度の新人もホントに使えない。困った困った。」と言いながらも嬉しそうに愚痴をこぼしたかったんだ。
そう思えてならなかった。
ちなみに、当時は今のような議事録アプリなどというものはまだなく、このNさんの議事録の早さは、多少は仕事での経験もあるかもしれないが、単純に優秀で要領がいいというだけのようだ。
「ビミョーな職場で、生きていく」はこれで最終話です。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
しかし、ビジネス編はまだまだつづきますよ!