メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo byaulora

中堅人事奮闘記#12|~過去、未来④~

    連載シリーズの第4章です。
    第3章は下記から読めますので是非ご覧ください。

    第4章 延焼:組織の中で「火を着ける」人になる

    ■ 現場の熱を消された日:広報業務での苦い敗北


    自分の中の「種火」を見つけ、人事としてのスタンスを固めつつあった私ですが、組織の中でその火を燃やし広げる(延焼させる)ことは、決して容易ではありませんでした。
    初めて広報業務に挑戦し、自社のHP改修を任された時のことです。現場の技術トップと何度もすり合わせを行い、現場の人間が膨大な時間とお金をかけて「これだ」と思える案を作り上げました。部門長や担当者への展開も終え、あとは最終報告を通すだけ。しかし、その苦労の結晶は、一人の役員の一声であっけなくひっくり返されてしまったのです。
    私は怒り狂いました。現場の熱量を知っていたからこそ、それが無下にされたことが許せなかったのです。結果的に、納期や工数の関係でその役員の意見を飲み、妥協した形でリリースすることになりました。「本当にいいアウトプットが出せたのか?」という疑問と悔しさは、今でも胸に残っています。 短納期でやり切った自分を褒めたい気持ちもある反面、この敗北の原因は明確でした。「役員間の力関係を正確に理解できていなかったこと」、そして「役員との関係性が作れていなかったこと」です。 現場の熱(火)を守り抜くためには、ただ現場に寄り添うだけでなく、経営層とも渡り合えるだけの「熱量」と「関係構築」が必要なのだと痛感した出来事でした。

    ■ 逃避からの脱却:分科会で「持論」の剣を抜く


    その反省は、3社が絡み合う複雑な「人事制度構築」の分科会で活きることになります。
    当初の私は、自社の制度構築であるにもかかわらず、自分の知識に自信が持てず、他社のファシリテーターに会議の進行や上申資料の作成をすべて委ねてしまっていました。自ら当事者意識を手放すという、最大の失敗です。
    しかし、このままではいけないと踏みとどまりました。コンサルタントの師匠や人事の先輩と徹底的に議論を交わし、紹介された専門書を読み漁り、自分の中の「持論」を狂気のように磨き上げたのです。
    そして迎えた上位職ばかりの会議体。私はついに、ファシリテーターの後ろに隠れるのをやめ、自ら磨き上げた「持論」を武器に議論の場に立ちました。自分よりも役職が上の人たちを相手に、最後まで自分の持論を信じ、貫き通したことで、なんとか人事制度は形になりました。 逃げずに自分の力で制度を紡ぎ出したこの経験は、「片田舎の剣聖」として自分の剣(持論)を初めて抜き放ち、組織に一石を投じた瞬間でした。

    ■ 人生トップ5の修羅場:役員との「真っ向勝負」


    しかし、本当の戦いは制度を作った後、2025年の4月に新人事制度がスタートしてから半年後にやってきました。 9月、半期の評価依頼を展開したタイミングで、技術本部の役員から経営会議で強烈なクレームが入ったのです。
    「考課(S、A、Bなどの格付け)をどうつけるか、まったく説明がないじゃないか」
    私は当初、「部門長向けには説明しており、動画も残っている」と突っぱねました。しかし、事態は収まらず、毎週のように経営会議で議題に上がるほどの大混乱に発展。ついに、私が直接役員と部門長を集めて説明会を開くことになりました。間違いなく、私の人生でもベスト5に入る「修羅場」の幕開けです。
    説明の場に立った私に、技術部門の役員は呆れ果てた顔で言いました。
    「人事において一番大事な、人事制度の説明会をしていないとは、一体何事か?」
    その言葉に、私はハッとしました。制度を作ることに精一杯で、コンセプトや現状分析への理解度を深めるステップを怠り、何より「作成責任を自分が持ち切れていなかった(自分の力を信じ切れていなかった)」ことに気づかされたのです。
    私は深く謝罪し、「もう一度、一から説明させてほしい」と頭を下げました。 そこからの2ヶ月間は、まさに血を吐くような日々でした。制度のコンセプトから現状の課題、打ち手を一から作り直し、役員へ説明に向かう。打ち手に対してすさまじい勢いで飛んでくる指摘に対し、私は震える手を必死に抑えながら、こちらもすさまじい勢いで「真っ向勝負」を仕掛けていきました。 報告しては資料を修正し、翌週また報告しては修正する。エンドレスに続く激しい議論の連続。
    辛く苦しい日々でしたが、この2ヶ月間で私は完全に一皮剥けました。磨き上げてきた専門性と持論が、ついに「役員と対等に議論ができるレベル」にまで達したのです。経営層と激しくぶつかり合い、火花を散らす中で、彼らの中にも「この制度で会社を良くするんだ」という確かな火が延焼していくのを感じました。 逃げずに立ち向かえたのは、私を支え、専門性を授けてくれた師匠や先輩、そして厳しい指摘で私を鍛え上げてくれた役員の皆様のおかげです。

    ■ 初めての部下へ:自分の「弱さ」という火種を渡す


    経営層との激しい板挟みと真っ向勝負を経験した私に、「初めての部下」ができるという新たな転機が訪れました。
    どう接すればいいのか、このマネジメントで本当に合っているのか。いまだに一生悩み続けるであろう深いモヤモヤの中にいますが、私は自分なりに「3つのルール」だけは絶対にやり切ろうと心に決めました。

    1. 約束は絶対に守る(言ったことは絶対にやる)

    2. 部下の価値観を理解する(何が好きで、何が嫌いで、何に興味があるか)

    3. 自分の弱み、価値観をさらけ出す

    ピーター・ドラッカーが説いた「真摯さ(インテグリティ)」の体現です。 私は、自分が何度も逃げ出し、絶望し、どん底を這いずり回ってきたこと。知識ゼロから恥をかき、経営会議で打ちのめされながらも立ち上がってきたこと。そんな自分の「弱み」を、部下の前で包み隠さず自己開示しました。
    完璧な上司を演じる必要はない。傷だらけの私の姿(自己開示)が、部下が自分自身の価値観を見つけ、心に火を着けるための「安心できる薪」になればそれでいい。 組織の中で火を着ける人になるということは、決して大声で熱く語ることだけではありません。泥臭く真っ向勝負をする背中を見せ、自分の弱さすらも武器にして、隣にいる仲間の心にそっと寄り添うことなのだと、私は初めての部下を通じて学んだのです。


     
     
    ハウスメーカー企画営業3年→中小製造業人事6年 「挑戦できる組織風土創り」に向けた取り組み、他業種、他職種を経験した経験、中堅ならではの人事の悩みや、想いを共有していきます。宜しくお願いします。三児の父、広島県出身です!

    あなたへのおすすめ