
ただ天ぷらが食べたかっただけなのに③〜余計な一言を言ってしまった日
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お彼岸が終わった日。
私の中で勝手に「お構いしませんで事件」と呼んでいる出来事があった。
帰り際、揚げ場のお兄さんから掛けられた「お構いしませんで」という一言。
私は別に構われたくて、そのお店へ通っているわけじゃない。
ただ、美味しい天ぷらが食べたかっただけ。
なのに、その一言だけが頭の中に残り、「どういう意味だったんだろう」と何日も考え続けていた。
約一週間後。
それでも天ぷらは食べたくなる。
でも、その頃の私は、できれば揚げ場のお兄さん以外の人がいてくれたらいいな、と思いながら暖簾をくぐっていた。
今振り返れば、あれは好き避けの始まりだったのかもしれない。
当時は、そんな言葉すら知らなかったけれど。
その日も、お兄さんはいつものように揚げ場に立っていた。
私は店内で軽く食事をし、いつものスパークリングワインを飲みながら天ぷらを味わった。
そして、テイクアウトで鶏と卵の親子天重をお願いした。
帰る頃になると、お兄さんが、
「お帰りになるタイミングで揚げますから、言ってくださいね。」
と声を掛けてくれた。
揚げたてを持ち帰れるようにという気遣いだった。
そういえば以前、ハンバーグの天ぷらを頼んだときのことを思い出す。
店長さんがいる日はナイフが付いていたのに、その日は付いていなかった。
「ナイフがないよ。」
そう伝えると、お兄さんは「すみません」と言って、一生懸命ナイフを探して持ってきてくれた。
その姿を見て、「真面目で不器用な人なんだな」と思ったのを覚えている。
だから、「お構いしませんで」の一件や、この日の細やかな気遣いも重なって、私は勝手に考え込んでしまっていた。
「私、わがままなお客さんだと思われているのかな。」
「だから、こんなに気を使わせてしまっているのかな。」
もちろん、それは当時の私がそう受け取っていただけで、本当のところはわからない。
食事を終え、お会計を済ませ、親子天重を受け取ろうとしたときだった。
ホールにいたのは、話好きで気の利くバイトくん。
以前、その接客がとても感じよくて、「いい接客するね」と思わず褒めたことがあるくらい、私はこの子のことを好印象に思っていた。
そのバイトくんが何気なく聞いてきた。
「ご家族と召し上がるんですか?」
一瞬、「え?」と思った。
もちろん悪気はない。
世間話のつもりだったのだろう。
でも、お客さんの家族構成や人間関係って、案外踏み込まないほうがいい話題でもある。
私は、
「一人だから。」
とだけ答えた。
そこで終わればよかった。
でも、今度は私が余計な一言を言ってしまう。
「今日は巳の日だから、弁財天様にお供えしてから食べるんですよ。」
帰り道になってから、急に気になり始めた。
「変なこと言っちゃったかな。」
バイトくんは、何気ない会話をしただけ。
私も、何気ないつもりで答えただけ。
ただ、それだけのことだった。
それなのに私は、
「変な人だと思われたかな。」
「余計なことを話しちゃったかな。」
と、一人でぐるぐる考え始めてしまう。
こうして私は、また自分で自分を生きづらくしてしまった。
相手は、とっくに忘れていたかもしれない。
でも、私の頭の中では、その会話だけが何度も再生され続けていた。
だから、また少しだけ、お店から足が遠のいた。
ただ天ぷらが食べたかっただけなのに。
私の脳内では、また新しい事件が始まろうとしていた。
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