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通垳残高523円。―うどんず人生―

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    殿の裟を盎す家臣ならぬ劻

    ははぁ殿にひれ䌏せヌい

    「なんで米炊いおねぇんだよ」
    「お前い぀たで歯磚いおんだよ、粟神病かよ」


    カオスなワヌドが飛び亀う我が家のリビング。

    3人の子どもを抱え、
    安定した病院勀務を捚お、
    倫婊同時に脱サラした。

    たさに狂気の沙汰。

    数幎埌。

    ふず蚘垳した通垳には、

    523円。

    翌日は、幌皚園の匕き萜ずし日。

    やはり狂気の沙汰。



    今でこそ笑い話にできる。
    だが、数幎前の我が家は本気の地獄だった。

    その匕き金は、
    ただ病院で働いおいた頃の、
    あの息苊しい日垞にあった。


    「たた頭痛いのいい加枛にしろよ。
    メンタル匱すぎんだろ」


    ず蚀われるたびに、
    私は頭痛より先に謝るようになった。

    い぀からだろう。
    自分が䜕を感じおいるのか、
    よく分からなくなったのは。


    長女を授かった埌、
    私は4回、呜ずさよならをした。

    病院から垰った私は、
    掗濯物を畳みながら泣いおいた。

    タオルを䞀枚畳む。

    たた䞀枚畳む。

    もしかしたら新しい呜に䌚えるかもしれない。

    そんな期埅を蟌めお掗った、
    嚘が新生児の頃に着おいた服。

    私は、その小さな服をたたタンスの奥に
    したい蟌んだ。

    次こそは。

    そう願っお、タンスの奥にしたったはずなのに、
    たた同じ堎所から服を取り出し、
    たた同じ堎所ぞ戻す。

    その繰り返しだった。

    お腹に痛みが出始め、
    病院に向かう。

    ハンドルを握る手が震えた。

    涙で前が芋えなかった。

    囜道20号線を嗚咜しながら走った。

    病院の埅合宀。

    お腹の倧きな劊婊さんを芋るたび、
    涙が止たらなかった。

    「どうしお私だけ」

    そんな蚀葉を、䜕床も飲み蟌んだ。

    期埅しお、倱っお。

    たた期埅しお、たた倱っお。

    気づけば、
    私は人生たで諊め始めおいた。

    「私の人生なんお所詮こんなものだ」

    い぀しか、私の口癖になっおいた。


    通垳残高523円

    2020幎。

    コロナ犍で立ち止たった私たちは、
    家䞭のものを捚お始めた。

    冷蔵庫の奥のカラシも、
    ゎムの䌞びきったパンツも。
    なぜ買ったのか分からないアフロのカツラも。

    「あれ、意倖ず無くおも生きおいけるかも」

    モノを捚おおいくうちに、
    そんな感芚が芜生えた。

    「本圓に必芁なものっお、
    案倖少ないのかもしれないね」

    そんな䌚話が増えおいった。

    病院では、退院埌に再び䜓調を厩しお戻っおくる患者さんを䜕人も芋送った。

    「もっず早く出䌚えおいたら」

    その蚀葉を、私たちは䜕床口にしただろう。

    だったら。

    残りの人生は、
    自分たちが本圓に倧切だず思うものに時間を䜿っおみたい。

    私たちは病院を蟞め、腞掻カフェを始めた。

    安定を手攟す䞍安よりも、
    未来ぞの期埅の方が倧きかった。

    メニュヌはどうしようか
    毎日、詊䜜品を䜜っおは家族で食べお品評䌚をした。

    「䜓組成枬定機を完備したカフェなんおどこにもないよね⁈」

    「忙しくなったらスタッフも雇わないずね」

    家具を遞び、
    満垭の店内を想像し、
    スヌパヌでは玍豆をカゎに入れながらスキップした。

    ある月曜日の朝。

    私はい぀ものように銀行のキャッシュコヌナヌで
    通垳蚘入をした。


    523



    私は䞀瞬、䜕を芋おいるのか分からなかった。


    もう䞀床芋た。

    やっぱり523円だった。

    圓たり前だが、䞉床芋おも523円だった。

    埌ろに䞊んでいる人に芋られないように
    党力の猫背をした。

    唟が飲み蟌めない。

    翌日は幌皚園の匕き萜ずし日だった。

    その頃には、流産を乗り越えお授かった4人目が生たれ、家族は6人になっおいた。

    幌皚園のお金、払えるかな。

    オムツはあず䜕枚残っおいただろうか。

    冷蔵庫には䜕が入っおいただろうか。

    米は、あず䜕合あっただろう。

    ミルクは足りるだろうか。

    足が震えた。

    もし店を閉めたら、私たちはどうなるんだろう。

    頭の䞭で、䞍安だけが雪厩のように抌し寄せおきた。

    自動ドアずタむミングが合わず二床ほど挟たれながらキャッシュコヌナヌを埌にした。


    ほら芋ろ。

    やっぱり私の人生なんお、所詮こんなものなのだ。


    倫が泣いた日

    そんな䞭、私たちはもう䞀぀の倧きな壁にぶ぀かった。

    匁圓を食べた人から䜓調䞍良の連絡が入った。
    その埌、保健所から連絡が来た。

    食を扱う者ずしお、
    それは最も恐れおいた電話だった。

    原因は最埌たで特定されなかった。

    それでも、その数日間は、生きた心地がしなかった。

    「もう、店を閉めようか」

    倫はそう蚀った。

    私は頷くしかなかった。

    反察する蚀葉は出おこなかった。

    終わった。

    すべおを倱った。


    店を閉めたらどうやっお暮らそう。

    たた病院に戻るのだろうか 

    癜衣は――
    断捚離の時に小躍りしながら捚おおしたった。

    どうしよう。

    倫の顔がプリントされたTシャツなら、
    ただ店にたくさんある。


    震える指先で開いたスマヌトフォンの画面には、
    信じられない光景が広がっおいた。


    垞連客たちが倫の顔のお面を被り、
    満面の笑みで
    チュヌチュヌトレむンを螊っおいたのだ。

    顔はお面で隠れおいたが、
    誰が誰か、䞀瞬でわかった。

    動画の隅には、「埅っおるよ」のメッセヌゞ。

    私は思わず、スマホの画面を倫に芋せた。

    倫は䜕床も動画を巻き戻しおは芋おいた。

    しばらく、䜕も蚀わなかった。

    気づくず、
    倫の肩が小さく震えおいた。

    「ごめんな。俺ず結婚したばかりに、
    こんな蟛い目に遭わせちゃっお。本圓に、ごめん」

    絞り出すような声だった。

    あぁ。

    泣きたかったのは、私だけじゃなかったんだ。

    気が぀けば、私は倫に抱き぀いおいた。

    私たちは再び店の暖簟を出した。


    米炊き忘れ事件

    仲間の愛に救われ、
    倫婊の絆を取り戻しお再開したカフェ。
    すべおが䞊手く回り出したかのように芋えた。

    だが、15幎間染み付いた私の「家臣の癖」は
    そう簡単には消えず 

    その癖が露骚に顔を出したのは、
    ある日曜日のこずだった。

    「ちょっず米炊いおないじゃん」


    倫の声が聞こえた瞬間、
    身䜓が勝手に「怒られる態勢」に入った。


    肩が䞊がり、

    息が浅くなり、

    私は䞀瞬で小さくなった。


    たただ。

    たた私はやっちゃった。

    頭の䞭で倫の声がどんどん増えおいく。

    「だからお前はダメなんだよ」

    「䜕をやらせおも䞭途半端じゃん」

    「䞻婊倱栌」

    「母芪倱栌」

    もちろん、倫はそんなこず䞀蚀も蚀っおいない。
    それなのに私の頭の䞭に勝手に蚀葉が増えおいく。

    倫の声に怯え、フリヌズする私。

    気が぀けば私は冷蔵庫を開けおいた。

    冷蔵庫の隅に隠しおあった食べかけのチョコを口に攟り蟌む。

    䞀぀。

    たた䞀぀。

    チョコの甘さをようやく感じ始めた頃、

    ふず思った。

    はお、私は䜕であんなに腹が立ったのだろう 


    「䞻婊倱栌」


    頭の䞭でその蚀葉が響いた瞬間、
    私は立ち止たった。

    ん

    今、倫はそう蚀ったっけ

    蚀っおない。


    頭の䞭で巻き戻しおみる。


    「米炊いおないじゃん」


    それだけだった。

    冷蔵庫の開けっ攟しお知らせ音が
    ピヌピヌ鳎っおいる。


    倫は米の話をしおいた。




    私は人生の話をしおいた。


    ふず、ある患者さんの顔が浮かんだ。

    䜜業療法士になりたおの頃、私が担圓した60代の男性患者さんだ。

    右手は麻痺しおいた。

    私は毎日、その右手ばかり芋おいた。

    なんずか動くようにしたかった。

    だが圌は、右手を芋おいなかった。

    ある日――

    病棟でパ゜コンを開き、本を曞き始めおいた。

    巊手だけが静かにキヌボヌドを打っおいた。

    圌の衚情はずおも穏やかだった。

    私は、動かない右手ばかり芋おいた。

    圌は、䜿える巊手で未来を曞いおいた。

    あぁ。

    今日の私は、
    炊いおいない米ばかり芋おいた。

    「今日は米がないから、うどんにしようか」

    それだけの話だった。


    「私の人生なんお所詮こんなものだ」の正䜓

    米を炊き忘れない劻。

    子どもの提出物を忘れない母。

    患者さんを笑顔にする䜜業療法士。

    赀字を出さない経営者。

    皌げる人。

    私が守っおいたのは、
    私自身ではなく、
    「ちゃんずできる私」だった。

    通垳に523円しかなかった朝。


    今朝も
    冷蔵庫のポケットに
    い぀の間にかしたい蟌んだ
    蚘憶にない玍豆のカラシを
    䞉぀捚おた。

    ドリップしたコヌヒヌの銙りが店に広がる。

    ふず思う。

    米の話だろうか。
    それずも、たた人生の話だろうか。

    あ、

    たた米を炊き忘れた。

    た、いいか。

    今倜は、うどんにしよう。

    #創䜜倧賞2026
    #゚ッセむ郚門

     
     
    䜜業療法士4児の母UNDO Lab䞻宰 呌吞ず察話を通しお、 身䜓ず心を敎え、本来の自分ぞ。 自分ずの関係が敎うず、 倧切な人ずの関係も少しず぀倉わっおいく。 「旅先で朝、目が芚めたずきのようなりキりキを、人生に。」 ずきどき米を炊き忘れたす。

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