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プロベーション・レポート ~新入社員の四カ月~ 第五章2

    第五章 第二話「迷子犬と雨のビート」

    さて、今週から定時上がり作戦を始める。
    前提として、やってみる前に止められたら話にもならないので、先週末に課長と話をした。

    徹夜明けのカフェインオーバードーズだったのでぶっちゃけ何を言ったかイマイチ覚えてはいないが、とりあえず課長の黙認はゲットしてある。

    なんでか課長はブルブルしてたし、なんか守ってくれる的な話をしてたからありがたく盾として頼らせてもらうことにする。いぇい。

    というわけで今週は野村さんからコースを引き継ぐためのルート同行だ。
    なら知らなきゃいけないことは三つある。

    今までのコースが、どういう理屈でこうなっているのか。
    変えるとして、どう変えれば時間内に帰れるのか。
    配送先の担当者さんは、話ができる人なのか。

    よーし、集中だ!

    ・・・めっっちゃ野村さん喋るな。
    ごめんよ野村さん、俺だって楽しくやりたい。
    っていうかこの人休憩しすぎなんだよなぁ。

    「ここの担当者さんってどういう人です?」

    と聞いたら、
    「おう!知らん!!」
    と返ってくるので、野村さんとの同行は思ったよりもずっと楽しいのである。

    「野村さんそういやバット吸ってましたよね?一本交換してもらえないすか?」

    「馬鹿言え!これあんまり売っとらんのだぞぅ?」

    「あら残念。それはそうと野村さん、常務ってどういう人なんすか?」

    「なぁんだおめぇ!あんな辛気臭い男のことなんか知らんでもいいだろぉ。」

    「いやぁなんであんな感じなんだろ?ってのが気になって。野村さんなら知ってるかなって。古い人だなとは思うんすけどちょっと古過ぎません?
    うちの親父よりも考え方古いっすよあの人。野村さんと親父は同世代っすけど。」

    「なにぃ!俺がジジィだってぇ?まぁお前らからしたらジジィだけどな!しっかしあいつは昔っからああだった、っちゅー感じじゃないな。
    昔はそれこそお前んとこの課長みたいなビクビクしたやつだったんだがなー。前の社長が死んで常務になった途端にああなっとる!」

    課長クソディスられてるのウケる。
    ってことはあれだ、部活の先輩からいじめられた奴が後輩いじめするやつだ。

    まぁ、そういうことならなんとかなりそうかな。
    根っからの人だとヤベェと思ってたから。

    「ただいまー。」

    「おかえりー。今日も遅いねぇ。」

    「毎日これだと相当しんどいねぇ。でもこの感じならどうにかなりそうかな。来週からは一人でコース回るようになるから、お客さんにも話通してルートの時間は調整できるだろうし。そしたら定時で帰れるようにはなるはず。」

    「でもさー、あんた一人が定時で上がるって大丈夫なのそれ?なんか会社の空気ごとヤバそうって思うんだけど。」

    「あー、それはどうにかなるよ。大丈夫。」

    「え?なんでそんな強気なの?」

    「みんな帰りたがってるからだよ。」

    「ふーん、じゃあ帰ればいいのに。」

    「いいこと言うねぇ、そういうことー。」



    「ねぇ・・・何回も言うのも嫌だし、悪いとは思うけど・・・辞めないの?」

    「うん。もう少しだけやらせて。上手くいけば定時で帰れて、朝も普通の時間に行けるようになるとは思うし。もしダメだったら諦めるから。」

    「わかった。無理しないでね。」

    「おやすみ。」
    「おやすみ。」

    ティンティ・・
    起きたぁ!!
    やはりマネージャー目覚ましは最強である。
    何時に寝ようが1コールちょいで起きれるのだから素晴らしい。

    とりあえず今日は野村さんと回る最終日だ。
    しっかりコース調べるとして、それが終わったら新入社員歓迎会だそうだ。

    この二週間過ごしてみて、歓迎されているような雰囲気は全く感じないが、それでも飲み会は飲み会だ。

    いやー楽しみだねぇ。
    飲食の頃って店閉まると同業者も店閉めるもんだから、飲み会らしい飲み会に集まれる日って案外無い。

    しかし会社の飲み会がある日は19時頃には退社っつってんだから、要はみんな遅くても別に19時には帰れるってことでしょ。
    馬鹿げてる。

    「お疲れ様でーす。」

    「あ!小林くんおつかれー!小林くんは今日行くの?」

    え?俺主役ですけど?

    新入社員が新入社員歓迎会に行かないことってのがもしかして割とおありの会社?
    それか松本メガネくんは天然なのかな?

    「あはは!僕のための会で行かないってことはないっすねー。」

    「あ、そうかそりゃそうだよねー!いやー、僕は実は行かなくてさー。」

    マジかよ、流石にドン引きしちゃうぜ。

    「会社の飲み会って、僕ら若手からしたらあんまり楽しいもんでもないじゃん?」

    いや?前の職場は楽しかったけど。
    飲み会こそ上司いじって遊べる絶好のチャンスだったけど。

    ついでに言うと、それやると普段もいじって遊べるようになるボーナスイベントなんだけど。

    「えぇ?めっちゃ楽しいよ?せっかくなんだから今日は課長と常務くらいはいじって遊べるようになりたいっすよねー。」

    「なんて?課長はともかく常務はヤバいっしょ。流石に立場が違いすぎるっていうか。」

    「そんなもんすかね?酒飲みゃみんなただのオッサンっすけどねー。」

    明らかにドン引きされている。

    「えぇ?じゃあ小林くんがお酒強いから楽しいんじゃないの?僕はあんまり飲める方じゃないからさぁ。」

    「え?僕一滴も飲めないっすよ。」

    物凄くドン引きされている。

    そうは言っても仕方ないんだよなぁ。
    酒を飲むと酔いが回るより先に酷い頭痛になるんだから。
    飲まずに楽しめる、ではなく飲むと楽しめなくなる、という話なんだよなぁ。

    「えーと、それじゃあ僕は一回帰ろうかなー?」
    あ、来ないつもりだ。

    「松本くん家遠いっすよね?」

    「まぁ課長には上手いこと言っておいてよ!おつかれー!」

    参加したくないにしてもなんかやりようはあるでしょーに。
    松本くんは風呂入りに帰ったとでも言っておこう。

    ー次回ー 
    第五章 第三話「ワンダーフォーゲル」

    米崎ライス本社
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    元飲食業。 働く人たちの空気や、職場の歪みと妙な連帯感を書いています。 noteにて小説『プロベーション・レポート』連載中。 この度、作中企業である米崎ライス株式会社様より、外部広報のお仕事をいただきました。

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