
プロベーション・レポート ~新入社員の四カ月~ 第五章3
第五章 第三話「ワンダーフォーゲル」
ザアァァァァァァァ キュッ。
シャワーを止めて浴室から出る。
ガララッ!
「おはよー。」
「あ、ただいまー。起こしちゃった?」
「帰ってたなら起こしてくれればいいのに。」
「まだ早いから風呂入ってからでもいいかなと思って。」
「飲み会どうだった?」
「楽しかったよー。前は会社のみんなで飲み会ってことも本当に無かったし。なんせ社員旅行すら行き先ある程度自由の現地集合現地解散だぜ?」
「ほんっと変な会社よねぇ?」
「いやー、あれは仕方ないと思うけどね。店開いてる以上、来れる時間も帰らなきゃいけない時間もシフト次第だし。社員全員参加できるようにって日程が3プランある時点でねぇ。結局少人数旅行になるっていうか。」
「私たちも前半組と後半組あるしそんなもんか、店舗勤めって大変よねぇ。それでも現地集合現地解散はどうかと思うわ。」
「いやぁそれが意外とよかったんだけどねぇ。まあ今の会社は社員旅行なんてもんは多分ないだろうな、なんも聞いてないけど。俺としちゃ社員旅行は行きたいけどね。」
「今時その感覚の方が珍しい気もするけど、私も行きたい側だし行きたくない人の気持ちの方がわかんないわ。」
「だよねぇ。」
んー!今日からまた仕事かー!
しっかし二週間経っても、生活リズムなんてそうそう変わらないねぇ。
なんなら飲み会の日に夜型に再セットされちゃったもんなぁ。
・・・眠てぇ。
「あ、おはようございます!」
「おう、おはよう。あれからどうした?まあ無事に帰れたのは今ここにいるから間違いないか。」
はは、ギリギリ間に合ったみたいな感じだけど。
「あれからしばらく野村さんと話し込んでましたねー。僕野村さんみたいな人結構好きなんすよ。」
課長は何故か怪訝そうに俺を見る。
「どしたんすか?」
「はは!なんでもない。今日はお前が一人で回る初日だからコーヒーを奢ってやろうと思ってな。いつものでいいか?」
「はい、ブラックで!」
とは言うものの缶コーヒーのブラックって不味くない?コーヒーらしい味なんて全然しないのに香料でコーヒーらしく振る舞う飲み物、みたいな感じがして好きではないが、こんだけ眠いと缶ブラックの不味さで目を覚まそう!っていうか。
そういう意図で作られてるのかね?
「お世話になります!米崎ですー!」
「お?先週来とったスーツの人か!いつものおじさんは?」
「はい、野村から引き継ぐ形で今週から正式に僕が担当になりました。今後ともよろしくお願いします!」
「そうかしこまらんと、あんたんとこには良くしてもらっとるから。しかし兄ちゃん事務の人かなんか?今までスーツの人が来るってことなかったからよ!」
「いえ事務ではなく営業ですよ、新人なのでまだ至らないところもあるとは思いますがご容赦ください。ところで一つお伺いしたいのですが、配送の時間が30分早くなったとしたらご迷惑でしょうか?」
「いや?全然大丈夫だぞ!っちゅーか早く来てもらう分にはむしろありがたいぐらいだ。」
「でしたら来週から30分早くお伺いしても?」
「ええぞええぞ!じゃあそれでお願いするよ!」
「ありがとうございます!ではそのように対応させていただきます!失礼します!」
「お、ちょっと待ってろ!今日暑っついからな!お茶一本持ってけ!ペットボトルだけどな!」
「ありがたく頂戴しますね!ではまた来週お伺いします!失礼しまーす!」
ふう・・・なかなか会社員らしい振る舞いみたいなのも難しいもんだなぁ。
飲食ってその辺ある程度適当でいっちゃうのは良くも悪くもって感じなんだろうけど、そのうち楽にやれるようになりたいわねぇ。
ま、とりあえず関係性作りってやつだ。
しかし時間はしっかり交渉できてるし、これなら充分定時上がりはできそうだね。
さてこれを今週通しで頑張りますか!
ということをやっていたら到底飲みきれない量の水、お茶、ジュースである。
スーツ効果ありすぎじゃね?
行くとこ行くとこ飲み物貰えたらそのうちスーツ代すらペイできちゃうじゃん。
とりあえずこんなにあっても普通に困る。
帰社したらそこらへんにいた松本くんと、精米工場の人たちに差し入れとしてあげたらめちゃくちゃ喜ばれた。
『一週間のスーツ効果』
飲み物52本、うち飲んだの6本、賄賂が46本
時間短縮の交渉ついでにあらすごい。