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プロベーション・レポート ~新入社員の四カ月~ 第五章16

    第五章 最終話「バイバイサンキュー」

    「確かに私が営業部長だった頃にはこの仕組みだったが・・・」

    「私が入社3年目。・・・ちょうど烏丸常務が営業一課長として働いていらっしゃった頃に、こうなったと私は記憶しております。」

    「おい!一課長!!」

    すかさず専務が問う。
    「常務、一体どういうことですか?」

    「あ・・・いや、私は当時インセンティブ制度というものがあれば営業部全体の士気向上に繋がると思い、当時の部長に進言しただけだ!
    私がこの制度を作ったわけではない!!」

    「常務が作ったわけではないとおっしゃいましたが、この制度の草案を作られたのはどなたですか?おおまかな枠組みの時点で今回問題となっている抜け穴のようなやり方が内包、いえ見逃されていたとしたら?
    というところは気になりますね。」

    「小林ィ!!またお前は俺を貶めるのか!!」

    ・・・この人は俺を何だと思ってるのよ。

    「退職日まで決まっている人間がわざわざあなたを貶める理由ってなんなんですか?そんなものありませんよ。強いて言うならこの一ヶ月のうち半分ほどの日数、常務の車が僕の車の出入りを塞いでいて徒歩で通勤していたということぐらいですもん。」

    「お・・・お前!!俺を・・・俺を馬鹿にするな!!」

    あぁ・・・なるほどな。
    この人はきっと『誰かに馬鹿にされたくない』という気持ちだけで、ここまで登り詰めたんだな。


    ・・・正直嫌いじゃない。
    飲食を馬鹿にしたのは別だがなぁ!!

    「・・・常務、そういう話ではないことはわかりませんか?私はどなたがこの制度を作ったのかを知りたいのです。お話していただけますか?」


    ・・・とても長い沈黙があった。


    「・・・私が・・・草案を作り・・・当時の営業部長に提出しております。」

    「では、あなたも制度の恩恵を受けたと?」

    「あ・・いや、それは・・・」

    「私が新人だった頃、常務に直接ご指導いただきました。常務は当時新規営業回り以外の業務は全て外部配送業者に委託していたと記憶しています。」

    「しかし二課長、君は可能な限り自ら配送を行い担当の変更という形で課員にインセンティブごと渡しているじゃないか。
    常務のやり方、一課長のやり方が間違っていると判断していたのではないか?」

    「いえそれは・・・たまたまです。」

    「皆さんの意見はわかりました。どうあれ今の制度は抜け穴があるので変えていかなければなりません。これは誰かを処分してそれで終わりの話ではないですよね?
    小林くん、何かアイデアはありませんか?」

    俺ぇ!?
    またこのおばあちゃんは!

    「申し訳ありませんが財務関係については私などよりよほど専務の方がお詳しいですから専務にご意見をいただいた方が良いかと思います。
    売上ベースだったインセンティブを仮に全て利益額ベースにしてしまうとまた現場が歪みますよ?
    高単価の顧客のみを少数確保することが正解だとなるとそれはそれで問題ですから。」

    「そうですか・・・わかりました。専務、よろしいですね?」

    「はい。可能な限り早めに新しいインセンティブ制度の導入ができるように尽力します。
    小林くん、手伝ってくれるか。」

    お前もかよ!!

    「え?私の残りの出勤日って今日を抜いたらあと二日ですよ?流石にどうしようもないと思いますが。」

    「そうかぁ・・・そうだよなぁ。よしわかった、私の方でなんとかします。来月半ばを目処に草案提出しますので月末の会議で議題にあげさせていただきます。それはそれとして社長、二人の処分はいかがいたしますか?」

    「処分?二人?」

    「常務と一課長です。抜け穴のある制度を作った者と最も恩恵を受けた者ですから。」


    「・・・一課長への処分はいたしません。常務については・・・少し考えさせてください。」


    長い会議が終わり、かといって喫煙所に行く気にもなれず従業員駐車場の片隅で煙草を吹かしているとやたらとデカいラガーマンが来た。

    「ここにいたのか。いつもなら喫煙所で誰かしらとワイワイやっているだろう。」

    「流石にそんな気分にはなれないっすよ。俺だって別に一課長や常務をどうこうしたかったわけじゃない。
    常務が俺の前職を馬鹿にしたんでやり返してぇなとは思ったんすけどこういうのはちょっと違うっていうか。
    もっと・・・なんていうか拳の友情みてぇな関係になりたかったです。」

    「でもお前のおかげで会社は良くなった。本当に感謝してるんだぞ。」

    「俺は自分が自分でいられる場所が欲しかったです。これでも俺・・・ここ結構好きなんすよ。
    そりゃ・・・定時で帰りたいし・・・給料も直したかったけど・・・その上で俺は居場所が欲しかったです・・・。」


    ・・・彼女の前ですら見せようとしなかったのに俺は二課長の前で盛大に男泣きってやつをした。

    ・・・二日後、ただの平社員が退職するとは思えないほど多くの人に見送られ、俺は事務所を後にした。

    第五章 完

    ー次回ー エピローグ

    概要・目次はこちら

     
     
    元飲食業。 働く人たちの空気や、職場の歪みと妙な連帯感を書いています。 noteにて小説『プロベーション・レポート』連載中。 この度、作中企業である米崎ライス株式会社様より、外部広報のお仕事をいただきました。

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