メインコンテンツへスキップ
見出し画像

プロベーション・レポート ~新入社員の四カ月~ エピローグ

    専務編 エピローグ


    小林という社員が会社を去ってから三年が経つ。
    今思い返してみてもあれは正に『熱狂』だった。
    長らく停滞し続けていた我が社に突如として現れた救世主。

    そのように思う人間の方が多いぐらいには奴の残した爪痕は大きい。

    会社全体の超長時間労働が是正され、長年放置していた給与の問題も解消された。
    加えてどの現場も明らかに人が辞めにくくなり、円滑に業務が遂行されるようになった。

    俺はここまでの影響力を持つ人間が一体どのような人間なのかを知りたかった。
    あまり接点も無かったからな。

    しかし社内の誰に聞いたところでその小林という男の印象はまるで定まらず、あまりにも人によって言うことが違いすぎる男のことを理解するのを諦めた。

    ただ、間違いなく言えるのは奴はとにかく『速かった』。

    俺に言わせれば気がついたら奴に会社を半分変えられていたし、奴の速度を甘く見ていたから常務は足元を掬われたのだろう。

    奴が去って最も大きな変化といえば会社が買収されたことだろう。
    社長は退任、常務も退職、俺だけがかろうじて外部取締役という形で首の皮一枚繋がった。

    現場の人間は希望者全員の雇用が継続されたそうだが。

    この結果の大元を辿ると否が応でも小林に辿り着く。
    結果的に他社に買収されようとも、それまでの期間に倒産しなかったことこそが奴の最大の功績だと俺は思う。

    コンコン-
    「どうぞ。」

    「失礼します!高崎専務、こちらの書類にサインをお願いいたします。それと直接の挨拶が遅れてしまいましたが今後ともよろしくお願いいたします。」

    「こちらこそよろしくお願いいたします。
    私も微力ながら社の発展に貢献できるよう尽力致します。社員達のことも何卒、よろしくお願いいたします。」

    これで俺の役目も一区切りつく。

    「ええ、もちろんです。」

    「ありがとうございます。サインはこちらで?」

    親父に顔向けできない、というほどではないな。

    「はい。そちらにお願い致します。」

    「わかりました。」

    小林・・・俺はお前に感謝しているぞ。

    【平成30年9月18日 高崎 英樹】

    プロベーション・レポート
    〜新入社員の四ヶ月〜
    完

    【後日談&番外編マガジン】

    ※近日発売予定

    概要・目次はこちら

     
     
    元飲食業。 働く人たちの空気や、職場の歪みと妙な連帯感を書いています。 noteにて小説『プロベーション・レポート』連載中。 この度、作中企業である米崎ライス株式会社様より、外部広報のお仕事をいただきました。

    あなたへのおすすめ