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プロベーション・レポート ~新入社員の四カ月~ 第五章15

    第五章 第十五話「前進/僕/戦場へ」

    俺に言わせりゃ一課長はすげーやつだ。
    俺には到底できっこない働き方で圧倒的な売上を叩き出すバケモノである。

    飛び込み、テレアポ、紹介を縦横無尽にこなし続け、大手チェーン店の契約も何件も抱えるなんてできるだけ新しい人と関わりなくない俺からしたらまさに雲の上の人なのだ。

    そんな彼がどうして緊急会議で吊し上げられることになったのか?
    と言えばまあ一課長のその働き方のせいなんだけど。

    圧倒的な売上!!
    配送は全部外部業者任せ!!
    多額のインセンティブ!!

    つよい、つよすぎる。
    つよすぎる赤字量産マッスィーンだ。

    「課長は当然会議呼ばれてるんすよね?」
    「当たり前だ。営業部全体の問題だからな。あと伝えておけと言われたがお前もだぞ。」

    はいぃ?
    なんで俺ぇ?
    あ!俺もう研修中じゃないんだった!
    じゃなくて!!

    「じゃあ松本くんや須藤くんも呼ばれてるんすね。」
    「何を言っている?お前だけだぞ。」
    ぜってぇおかしいよこの会社!!

    「お前を呼べと言われたから俺としては正直助かったと思っている。いつもお前に頼りっきりになっていて申し訳ないとは思うが最後に力を貸して欲しい。俺はあいつを助けたい。」

    なるほどねぇ、ほんと仲良いなこの人たち。

    ・・・正直羨ましい。

    しかし参ったね。
    会議に出席しろと社命があってもやる気がないならブッチする!
    ぐらいの気概はあるがこの人に頼まれちゃあ仕方がない。

    なんにせよ俺が好き勝手やるための土台になってくれたのには変わらない。
    盾としての性能には疑問があるが。

    「俺が思うに一課長何も悪いことしてなくないすか?インセンティブのルールが売上しか見ない以上どう考えても一課長のやり方が正解そのものっすよ?俺らみたいにあっちこっちお米配って回ってる方がルールに逆らってるっていうか。
    まぁ俺はあんなんやりたくないっすけど。」

    「わかっている。わかっていて俺はうちの課にああいうやり方をさせてはいないが今回お前が色々やったことで少し経営が上向いたらしくてな。
    結果的にあいつの赤字が悪目立ちした、ということだろう。お前が悪いわけではないがな。」

    そりゃそうよ。
    経営を上向かせたから悪いなんて言われた日にゃたまったもんじゃないからね!

    ・・・とはいえ一課長が吊し上げられてハイ終わり!ってのは寝覚めが悪い、悪すぎる。

    「いいっすよーやれる範囲でやってみましょ。」

    専務主導で緊急会議が開かれた。
    一課長が長年に渡り会社に損害を与え続けていたことに対する査問会議みたいな感じらしい。

    いやそれは冗談がキツい。
    だって俺からしたら金を気にして5年も現場を蔑ろにしてきた専務も悪い。

    もっと言えば俺は誰がどう考えてもこうなるとわかるような、こんなわかりやすい穴のある制度をわざわざ作ったのか?
    というところにしか興味が無かった。

    それもまぁいつものオッサンのせいだろうが。
    課長に頼まれなきゃこんなめんどくさいことやらなくて良かったのになぁ。
    おのれ課長!!

    「今回の会議だが営業一課長が長年に渡り会社に損害を与えると知りながら多額のインセンティブを受け取っていたことについて、営業部全体の問題として話をしたい。
    一課長何か弁明はあるか?」

    「いえ、ありません。今回の件につきましては全て私の責任です。」

    マジかよ。一課長それはやりすぎだって。
    っていうか顔こえーなこの人。

    「お待ちください!こいつの何が悪いんですか!?会社のインセンティブ制度で正しいとされる行動を取ったまでです!!」

    「ええ、今でこそ問題として認知されていますが業務改善の一環として財務キャッシュフローの見直しが始まる前は問題どころか営業部全体を通して最も成果をあげている社員として認識されていたはずです。
    つまり今回の一連の流れの中で評価が180度変わってしまった被害者とも言えると思いますが一課長いかがですか?」

    ぶはぁ!息が詰まる!

    「いえ、今回の件の責任は全て私にあります。二課長や小林くんはこう言って私をかばってくれていますが、実際に長年に渡り会社に損失を与え自身は多額のインセンティブを貰っていたことについて弁明はいたしません。」

    アレ?この人俺の名前知ってたんだね。

    「いえ、私としてはあなたを責めるつもりもないのです。」

    「社長!少々甘過ぎるのではないですか!会社に損害を与えるという」
    「黙りなさい!私は確かに会社のことをほとんど知りませんが今回小林くんが必死で動いてくれた件で、いかに会社の仕組みが従業員に迷惑をかけていたのかに気づいただけです。
    お給料の仕組みという会社の都合で一課長がこのように責任を取らされてしまうのは私が納得できませんし、それなら小林くんがそうしたように、なぜこの仕組みが作られたのかを考え、皆が納得できる仕組みに変えていけるのかを考えたいのです。」

    ・・・社長?
    やった覚えの無い武勇伝はこうして増えていくのだ!ふはは!

    「社長までありがとうございます。
    しかし長年会社に損失を与えた責任は全て私にありますのでいかなる処分でも受けます。」

    シン・・・と会議室は静まり帰る。
    ここまで頑なであるならそれもそうか。

    「うむ、彼もこう言っているのだしこれで手打ちでいいのではないかね?彼への処分は当然としてインセンティブ制度の問題については改めて考えればいいじゃありませんか。」

    「そうではないのです常務。これは既に誰がこの仕組みを始めたのかという問題に変わっています。私は入社して5年という歴の浅い人間ですのでいつ頃からこうなのかを知らないのです。
    誰か経緯を知る者はいませんか?常務、いかがですか?」

    ・・・専務の一言で風向きが変わった。

    ー次回ー 
    第五章 最終話「バイバイサンキュー」

    概要・目次はこちら

     
     
    元飲食業。 働く人たちの空気や、職場の歪みと妙な連帯感を書いています。 noteにて小説『プロベーション・レポート』連載中。 この度、作中企業である米崎ライス株式会社様より、外部広報のお仕事をいただきました。

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