
工程FMEAと設計FMEAの使い分け——どちらを先に作るか
「新製品の立上げなので、FMEAを作っておいて」
上司にそう言われて、テンプレートを開いたところで手が止まります。
そもそも、どっちを作るのでしょうか。
FMEAには**設計FMEA(DFMEA)と工程FMEA(PFMEA)**の2種類があります。名前が似ていて、様式もほとんど同じ。だから「とりあえず工程のほうを埋めておこう」となりがちです。
ですが、この2つは目的も担当も違います。 そして作る順番にも意味があります。
今回は、その使い分けを整理します。
一言でいうと、何が違うのか
設計FMEA:設計どおりに作っても、壊れないか
工程FMEA:設計どおりに、作れるか
これが本質です。表で整理します。
| | 設計FMEA(DFMEA) | 工程FMEA(PFMEA) |
|---|---|---|
| 何を疑うか | 製品の設計そのもの | 作り方(工程・作業) |
| 対象 | 図面・材質・構造・寸法 | 加工・組立・検査・搬送 |
| 故障モードの例 | 材質が経年劣化する/強度不足で折れる | 部品を入れ忘れる/締付トルクが不足する |
| 主な担当 | 設計 | 生産技術 |
| いつ作るか | 設計段階(図面確定前) | 工程設計段階(設備発注前) |
| 対策の出口 | 図面変更・材質変更 | 治具・ポカヨケ・条件設定・検査 |
「その不具合は、設計を直せば消えるか?」——この問いで振り分けられます。
消えるなら設計FMEAの話。消えないなら(=設計は正しいのに作り方で外れるなら)工程FMEAの話です。
同じ製品で並べてみる
センサユニット(防水が必要な電子部品)を例にします。同じ「防水不良」でも、2つのFMEAで扱う中身が違います。
設計FMEAで拾うもの
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 機能 | Oリングで内部を防水する |
| 故障モード | Oリングが経年硬化して密封できなくなる |
| 影響 | 水が入り基板が故障 → S(影響度)= 8 |
| 原因 | 材質(NBR)が使用環境の温度範囲に対して不適 |
| 現在の管理 | 材料仕様書のレビュー |
| 発生度 O=3 / 検出度 D=4 | RPN = 8 × 3 × 4 = 96 |
| 対策 | 材質をFKM(フッ素ゴム)に変更 → O=1 → RPN 32 |
これは工程では絶対に直せません。 どんなに丁寧に組み立てても、材質が合っていなければ数年後に漏れます。
工程FMEAで拾うもの
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 工程 | Oリング装着 |
| 故障モード | Oリングの入れ忘れ |
| 影響 | 防水不良 → S(影響度)= 8 |
| 原因 | 作業者の見落とし |
| 現在の管理 | 目視確認 |
| 発生度 O=4 / 検出度 D=6 | RPN = 8 × 4 × 6 = 192 |
| 対策 | 画像検査でポカヨケ → D=2 → RPN 64 |
こちらは設計では防げません。 材質を良くしても、入れ忘れたら防水できません。
つまり
同じ影響(S=8の防水不良)に対して、原因が2系統あるわけです。
設計に起因するもの → 設計FMEA
作り方に起因するもの → 工程FMEA
両方やらないと、片方が抜けます。
どちらを先に作るか——答えは「設計FMEA」
順番には理由があります。3つあります。
理由①:設計で消せば、工程の項目そのものが消える
さきほどの「Oリングの入れ忘れ」を考えてみてください。
工程FMEAで対策すると、画像検査を追加することになります。設備費がかかり、検査時間も増えます。
ではもし、設計段階でこうしていたら?
Oリングが入っていないと、ハウジングが閉まらない構造にする。
工程FMEAのこの項目は、そもそも生まれません。 検査も要りません。
設計で消したリスクは、工程で管理しなくてよくなる。 これが順番の最大の理由です。
理由②:工程で作り込むとコストが積み上がる
「全数検査でカバーします」——この判断がどれだけの負担になるか、計算してみます。
1個あたり5秒の検査 × 年産139,000個
= 695,000秒 = 約193時間/年
労務費 3,000円/時とすれば
→ 年間 約58万円しかも毎年です。 5年作れば約290万円。
設計で消せば、これがゼロになります。
(労務費単価は社内基準を確認してください。会社によって、法定福利費や間接費を含めるかどうかが違います。)
理由③:設計変更ができるのは、図面が確定する前だけ
量産が始まってからの設計変更は、
客先の承認が必要
金型や治具の作り直し
在庫部品の処分
4M変化点としての初品確認
——と、手続きだけで数か月かかります。
設計FMEAは「まだ直せる時期」にやるから意味があります。
実務の流れ
規格に沿った標準的な順番は、こうなっています。
① 設計FMEA(DFMEA)
↓ 設計が固まる
② 工程フロー図
↓ 作り方が決まる
③ 工程FMEA(PFMEA)
↓ 管理すべきポイントが決まる
④ QC工程図(コントロールプラン)②③④は生産技術の仕事です。 そして③の入力になるのが①なので、設計FMEAの結果を受け取るところから生産技術の仕事は始まります。
でも、設計FMEAが無い——という現実
ここからが実務の話です。
設計FMEAが作られていない現場は、たくさんあります。 とくに、
客先から図面が支給される(自社に設計がない)
設計部門にFMEAの文化がない
昔からある製品で、当時は作っていなかった
こういう場合、待っていても出てきません。
そのときにやること
① まず聞く
「設計FMEAはありますか」と聞いてください。あるのに共有されていないだけ、というケースは意外とあります。
② 無ければ、工程FMEAから始める
無いなら仕方ありません。工程FMEAだけでも、やる価値は十分にあります。
③ ただし「設計起因」の欄を作っておく
工程FMEAを作っていると、必ず**「これは工程では直せない」**という項目が出てきます。
部品公差が厳しすぎて、組付けが安定しない
そもそも治具でつかむ場所がない
部品どうしが似ていて、取り違えやすい
これらを別枠でリストにして、設計へ返してください。
【設計への確認・要望リスト】
1. ハウジングの板厚公差 ±0.03 は、当社設備能力ではCpk 1.04です。
±0.04 に緩められませんか。
2. AとBの部品が形状も色も似ており、取り違えのリスクがあります。
どちらかに識別できる形状を追加できませんか。これが実質的な「後追いの設計FMEA」になります。
そして、この積み重ねが次の製品の設計FMEAの材料になります。「前の機種でこれが問題になった」という事実は、設計にとって最も説得力のある入力です。
RPNの落とし穴——数字だけで決めない
FMEAでは RPN(リスク優先指数) を計算します。
RPN = S(影響度)× O(発生度)× D(検出度)それぞれ1〜10で評価するので、RPNは1〜1000になります。
便利な指標ですが、これだけで優先順位を決めてはいけません。
なぜダメか
具体例で見てください。
| 項目 | S | O | D | RPN | 内容 |
|---|---|---|---|---|---|
| 項目X | 10 | 2 | 2 | 40 | 人身に関わる・法規違反 |
| 項目Y | 4 | 7 | 7 | 196 | 手直しで済む外観不良 |
RPNだけ見ればYが優先です。 しかしXは、めったに起きないとはいえ起きたら人が怪我をする項目です。
S(影響度)が9〜10のものは、RPNに関係なく最優先で対策してください。安全と法規は、確率の話ではありません。
実務での判断基準
私が使っている順番です。
1. S が 9〜10 のもの → RPNに関わらず最優先
2. S × O が大きいもの → 「よく起きて、影響が大きい」
3. RPN が大きいもの → 上記の次
4. D が大きいもの → 「起きても気づけない」ので要注意とくに4です。 検出度Dが高い(=見つけられない)項目は、流出につながります。 RPNが中くらいでも、ここは早めに手を打つ価値があります。
(最近の規格では、RPNの代わりに AP(Action Priority) という表で優先度を決める方式も使われています。社内のルールを確認してください。考え方は同じで、「RPNの掛け算だけで判断しない」という方向です。)
よくある失敗3つ
① 一度作って、二度と開かない
FMEAは生きた文書です。
不具合が出たら → その故障モードが載っていたか確認する
載っていなければ → 追加する
載っていたのに起きたなら → 発生度Oの評価が甘かった
この更新をしない限り、FMEAはただの提出書類になります。
② 全部の項目を埋めようとして力尽きる
工程が20あれば、故障モードは200を超えます。全部やろうとすると、途中で止まります。
まずSが高い工程だけやってください。防水、締結、通電——不具合が客先に届くと重大なものから。
③ 一人で作る
FMEAを一人で書くと、自分が想像できる故障しか出てきません。
現場の作業者を1人でも入れてください。 「あ、それ前にやりました」という発言が、いちばん価値のある入力です。設計・品質・製造・生産技術が30分集まるだけで、質がまったく変わります。
まとめ
設計FMEA=設計どおりに作っても壊れないか/工程FMEA=設計どおりに作れるか
振り分けの問いは「その不具合は、設計を直せば消えるか」
同じ影響(防水不良)でも、設計起因と工程起因の2系統がある。両方やらないと抜ける
**順番は設計FMEAが先。**理由は3つ
設計で消せば、工程の項目そのものが消える(検査も要らなくなる)
工程で作り込むとコストが積み上がる(例:全数検査で年間193時間・約58万円)
設計変更ができるのは図面確定前だけ
流れ:設計FMEA → 工程フロー図 → 工程FMEA → QC工程図
現実に設計FMEAが無い場合:まず聞く → 無ければ工程FMEAから →
「工程では直せない項目」を設計への要望リストにして返すRPNだけで優先順位を決めない。 S が 9〜10 は RPN に関係なく最優先
D(検出度)が高い項目は流出につながるので早めに手を打つ
失敗3つ:二度と開かない/全部やろうとして力尽きる/一人で作る
「FMEAを作っておいて」と言われたとき、「設計のほうはありますか?」と聞き返せる。
それだけで、その後の数か月が変わります。
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