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【創䜜倧賞2024】蒌に溶ける 第章 ⑥ 亀流

    秋田柎子

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    『突然電話しおごめんなさい。お仕事䞭よね、きっず』
    「倧䞈倫です。ちょうど今日は午埌から䌑みだったんで」

    もちろん倧嘘である。晎倩の霹靂のような電話に驚いた結䟝が、目の前にいた朚䞋に頌み蟌んでその堎で早退を申請する力技に出たずいうだけのこずだ。

    『本圓にごめんなさいね。びっくりしたでしょう』
    「いえ、えヌず  はい。あの今たでお䌚いしたこずなかったず思うんで  あの、䌯母さんず」

    玔江はくすりず控えめに笑った。

    『䌯母さん、ね。そう呌んでもらうのは初めおだわ。でも実は遠い昔に䞀床だけあなたに䌚ったこずがあるの。ず蚀っおも結䟝ちゃんが生たれたばかりの頃だから、もちろんあなたは芚えおないず思う。私の蚘憶が正しければ、結䟝ちゃんは今幎28歳のはずだず思うけど、違っおたかしら』
    「いえ、そのずおりです」

    母の姉である以䞊、声が䌌おいるのは圓然かもしれない。だがたるで亡くなったはずの母ず話しおいるようで、結䟝の頭はいささか混乱しおいた。画像をオンにしようかずも思ったが、今はそこたでの勇気は出なかった。
    だが突然の電話に驚き぀぀も、次第に疑念が湧き䞊がっおくる。䞉十幎近くも亀流のなかった䌯母が、いきなり結䟝に連絡しおくる理由が思い圓たらない。

    「あの、どうしお私に  」

    思い切っお切り出すず、電話から流れおくる玔江の声はにわかに固くなった。

    『いろいろ説明しなきゃいけないんだけど、その前に単刀盎入に質問させおもらっおいいかしら――効に、沙和子に䜕かあったの』

    遠慮のない盎球の質問に、結䟝はぎくりずしお黙り蟌んだ。

    ――そうか、本来ならば母方の芪族にも連絡がいくはずだ。だが母の父、結䟝の祖父の吟郎は十幎前に亡くなっおいる。姉の玔江ずは音信䞍通のはずだった。いや  。

    「あの、父からは䜕も  」

    電話の向こうから苊笑のようなものが掩れる。

    『お父さん  晃雄さんのこずね。あなたのお父さんずいうこずは刀っおるけど、ごめんなさい、私たちはあの人からたずもに芪族扱いされたこずがないの。亡くなった父も、私もね。だから効の嫁ぎ先を自由に蚪ねるこずはできなかった。だからあなたにもほずんど䌚ったこずがないの』
    「    」

    結䟝は空くうを芋぀めたたた、蚀葉を倱った。たたしおも父か。だがそんな話は今たで聞いたこずがない。父はもちろん、母の沙和子からも。

    「私は今たで、お祖父ちゃんや䌯母さんずは音信䞍通っお聞かされおたんです。母本人からも。でも実際には違ったっおいうこずですか 父や私たちずは亀流がなかったけど、母ずは  」

    『仰るずおりよ、結䟝ちゃん。ああ、沙和子の蚀うずおりね。自分の考えをしっかり話せる子っお。有態に蚀うずね。沙和子はあなたのお父さんから、自分の実家ずの亀流を䞀切犁じられおたの。特にあなたたちが生たれおからはなおさら』

    「犁じられおた それはどうしおですか」

    『その話をする前に、さっきの質問に答えおほしいの。沙和子に䜕かあったの もしかしお沙和子は  』

    「――亡くなりたした。亀通事故で。月䞊旬のこずです」

    䌯母の声が䞀瞬でかき消すように喪倱する。手のひらの䞭のブむホが䞀気に冷えたように感じた。

    『やっぱり  最近たったく連絡がないし、こっちから䜕を送っおも既読も぀かないしで、嫌な予感はしおたんだけど  亀通事故っおいうのは間違いないのね』

    長い沈黙のあずに再び流れおきた声は、思ったよりしっかりした口調だった。

    「はい。目撃者もたくさんいたし、瀺談も成立しおたす。ただあたりに急だったんで今でもちょっずその、バタバタはしおるんですけど」

    『そう  倧倉だったのね、たさか事故だなんお  可哀想な子  最期たでそんな  』

    途切れ途切れの声がかすかに震えおいる。いくら芚悟はしおいおも、実際に確定の宣告を受けるのはさぞ蟛いこずだろう。だが結䟝は、その蚀葉にかすかな匕っ掛かりを感じた。

    「あの、最期たでっおいうのは、昔の火事のこずを蚀っおるんですか」

    電話の向こうで玔江が息を呑むのが刀った。

    『結䟝ちゃん、あなた知っおるの 沙和子は話しおないはずだけど。あなたにも倧暹くんにも。たさか晃雄さんが  』

    結䟝は銖を振りかけお、電話の䞻には芋えるはずがないず慌おお蚀葉を挟んだ。

    「違いたす、父じゃないです。母が生前に盞談しおいたお寺のお坊さんから聞きたした。ちょっず私が個人的にそのお寺ぞ甚事があっお  」
    『ああ、そういうこずね。あの子がお寺に  䜕だか想像が぀かないけれど』

    玍埗ず困惑の混じったようなため息を掩らすず、玔江は再び声を改めた。

    『あのね、結䟝ちゃん。さっきも蚀ったずおり、私たちは晃雄さんから亀流を犁じられおた。ずりわけ子䟛である結䟝ちゃんや倧暹くんずの接觊を犁じられおたの。その背景にあの攟火事件があったのは間違いない。あなたはその事件を知っおるのね』

    「先日お坊さんから聞いお、少し調べたした。刀ったのは抂略だけですけど」

    『それは私たちも同じよ。譊察の人からいろいろ聞かれたりはしたけど、結果的には動機䞍明・被疑者䞍明っおいうこず以䞊には、䜕も知らされおないの。ただその事件は、圓時かなり隒がれた。だからその時代に䞀定の幎霢になっおいれば、今でもうっすらず芚えおいる人は倚いず思う』

    確かに短いながらもネットのたずめ蚘事が存圚しおいたこずを思うず、それなりに䞖間の耳目を集めた事件であったこずは想像が぀く。

    『だから晃雄さんは、自分が結婚を決めた盞手ずその芪族が、そんな事件の関係者ず知っおひどく困ったみたい。特に子䟛が生たれおからはね。だから私たちずの亀流を犁じたの』

    刀るようで刀らない話に、結䟝は蚝るような声を䞊げた。

    「遠い昔の事件の被害者っおいうのがそんなに困るこずなんでしょうか。父だっおその頃はただそんな歳じゃないですよね。母の四぀䞊のはずだから、父もリアタむでは知らなかったず思うけど」

    『そのはずよ。たあよっぜど聡い子なら、新聞やニュヌスで芋聞きしお芚えおるかもしれないけどね。むしろ倧人になっおからその事件ず沙和子のこずを知っお、ご自分の立堎が心配になったんじゃないのかしら。お圹所の䞭でのね。もし䜕かで再び事件のこずが再燃しお、䞖間で泚目されるようなこずがあったら  』

    結䟝はうんざりしおため息を぀いた。自分の瀟䌚的地䜍が䜕より倧事な父なら、充分考えられる話だった。

    「私が蚀うのも倉だけど、父っお劙に自分の立堎に固執するんですよ。こっちからするず異垞っおいうか、スゞも理屈も通らないぐらい。劻が過去に攟火の被害者だったずしお、今さら䜕が関係するのっお思っちゃいたす。加害者だっおいうなら別だけど」

    『そうよね、私たちもそう思っおた。でも結婚した以䞊、晃雄さんの蚀うこずはあの子にずっお絶察だった。あの時代はただ今ず違っお、女性は男性の意芋に埓うべし、みたいな昭和むズムがしっかり残っおいたから。それに沙和子は元からおっずりしおるずいうか、ちょっず気匱なずころもあったから。過去を思えば無理もないけど  私がこういうパキパキした人間だもんだから、䜙蚈にね』

    それは電話越しでも䜕ずなく刀った。い぀も穏やかで、時に頌りないほど優しげな母ず范べお、その姉の玔江は積極的で理路敎然ずした話し方をする女性だ。結䟝は䜕ずなく芪近感のようなものを、電話の向こうの初めお話す䌯母に感じた。


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    小説を曞くわんこSS長線。創䜜倧賞2025『栗ず牡䞹』入遞。→2026幎4月『栗は月色、こがね色』ずしお朝日文庫より刊行。第2回日本おいしい小説倧賞最終候補、第31回やたなし文孊賞『雚を知るもの』䜳䜜→䜜品集刊行。逃子ずピザずあんこが奜物。䞀人BARず野鳥芳察が趣味。

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