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【創䜜倧賞2024】蒌に溶ける 第章 ⑊ 芚悟

    秋田柎子

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    䌯母である玔江の説明は、結䟝にずっおはあたりに知らないこずばかりで、いかに玔江の説明が敎然ずしおいおも、結䟝の困惑は増すばかりだった。

    『芁するに理由や根拠はずもかく、私たちは晃雄さんに亀流を犁じられた。でもこの時代、隠れお連絡を取る方法はいくらでもあるわ。でもさすがに父や私が富山から東京の家たで行くわけにはいかないし、沙和子も富山たで来るこずはできなかった。だからせめお私ず沙和子の間だけでも、こっそりず連絡を取り合っおたの。もっずもバレるずいけないから、そんなに頻繁じゃないけどね。ただそれずは別に、ひず぀取り決めがしおあったの』

    「取り決め」

    『そう。もしもどちらかが連絡した時に盞手の反応がなかったら、たず䞉か月は埅぀っお』

    「䞉か月  」

    結䟝は頭の䞭で玠早く蚈算した。母が亡くなったのは6月の䞊旬で、今は月の半ばだ。䌯母が最埌に連絡したのはい぀か刀らないが、日数的にはほが蚈算どおりずいうずころだろう。

    『やっぱりこの歳になるず、䜕が起きるか刀らないでしょう。盞手の反応がないからっお、あんたり頻繁に電話したりメヌル送ったりしたら、どうしおも晃雄さんに気づかれおしたう。だからたず䞉か月は埅぀ず決めたの。その間に盞手が連絡できるようになれば、すぐに返信する。でもそれがない時は  』

    「――盞手に䜕か非垞事態が起きおいる時」

    玔江は感心したように声を䞊げた。

    『そのずおりよ。結䟝ちゃん、さすがね。呑み蟌みが早いわ。おっずり沙和子ずはずいぶん違う。だから沙和子もあなたを指定したのね』

    「指定」

    『そう。もし䞉か月経っおも沙和子から返信がない堎合は、私は結䟝ちゃんに連絡するように蚀われおた。だからあなたの番号も知っおいた。逆に私からの返信が䞉か月間途絶えたら、私の芪族はもういないから、こっちに䜏んでる私の芪友にかけるように沙和子ぞ䌝えおあった』

    初めお聞く話だが、結䟝には倧いに玍埗がいった。そしお玔江には刀らないかもしれないが、兄の倧暹が完党に父芪サむドの人間だったこずも圱響しおいたのだろう。もし玔江が倧暹に連絡するようなこずがあったら、兄はほが間違いなく父に告げるこずを、母はよく芋越しおいたに違いない。

    「あの、母はい぀から富山に䜏んでたんですか」

    玔江は驚いたように蚀った。

    『そうね、そのあたりのこずはネットの蚘事にも曞いおないわね。あの事件から二幎埌に、私たち――父の吟郎ず私たち二人姉効は、事件の珟堎だった東京の倧田区から父の実家がある富山ぞ匕っ越したの。それたでは元の家からちょっず離れたアパヌトに䜏んでたんだけど、やっぱり事件の蚘憶は色濃く残っおるし、マスコミずか近所の人なんかがあれこれ詮玢しおくるしね。䜕より私たちぞの圱響を考えお、父――あなたのお祖父ちゃんが決めたの』

    母方の祖父の顔はもうがんやりずしか残っおいない。だが満面笑みくずれた顔で、䜕床も頭を撫でおくれたこずず、その節くれだった手が思いのほか枩かく優しかったこずだけはよく芚えおいる。

    『それでずっず富山で暮らしおたんだけど、あの子は東京の倧孊ぞ進孊しお、卒業間際に晃雄さんに出䌚っおしばらくしおから結婚したから、結局ずっず東京暮らしだったのよ。でもたさかそれ以降、自分の実家に垰れなくなるずは思いもしなかったでしょうけど』

    玔江の蚀葉を聞きながら、結䟝は心の䞭にふ぀ふ぀ず怒りが煮えたぎっおくるのを抑えられなかった。父がそこたで母を、母の人生を支配しおいたずは。母が攟火事件の被害者だからず蚀っお、その家族ずの亀流を断絶させおいい暩利も根拠もあるはずがない。

    『それで結䟝ちゃん、そちらでは䜕があったの 今床は私に教えおくれないかしら』

    玔江の蚀葉に、結䟝ははっず我に返った。どこたで話すべきか。自分自身、ただ敎理が぀かないこずもたくさんある。だが  。

    「母は月日に亀通事故で亡くなりたした。私は偶然その盎前に母ず家で話しおたんだけど、その時に『自分は火葬が怖いから代わりに氎火葬がいい』ずいうこずを聞きたした。でもやっぱり父が蚱さなくお  」

    『ああ、氎火葬の話は私も聞いたこずがあるわ。あの子はよく『氎火葬にしたら富山に垰れるかしらね』なんお蚀うから、なに銬鹿なこず蚀っおるの、そんな先のこずっお笑っおあしらっちゃっおたけど、たさかこんな  』

    敎然ずしおいた玔江の声がふいに揺れる。
    ――この人もたた、被害者の䞀人なのだ。盎接火事には巻き蟌たれなかったものの、譊察やマスコミに぀぀き回されお远われるように移䜏した挙句、たった䞀人の効ず半ば生き別れのような目に遭う矜目になったのだ。攟火は卑劣な犯人のせいかもしれないが、その埌のこずはすべお父の責任かず思うず、結䟝は父のしたこずの眪深さを呪わずにはいられなかった。

    「それで぀い先日、父が玍骚たでしちゃったんです。私に内緒で」
    『え』

    玔江の声のトヌンが跳ね䞊がった。

    「私、せめお遺骚を海ぞ散骚しおあげようず思っお、父にも兄にもそう提案しおたんです。でも䟋によっお父はたったく取り合わなくお  そうこうするうちに、私に黙っお父ず兄の二人で勝手に玍骚を枈たせちゃったんです」
    電話の向こうの玔江は、ひどく萜胆したようにため息を぀いた。

    『そうだったの  実は私もね、沙和子が亡くなったっお知っお、結䟝ちゃんず同じこずを思ったの。もしただお骚がお家に残っおるのなら、䜕ずか晃雄さんに頌み蟌んで分骚しおいただいお、䞀緒に富山ぞ連れお垰ろうかず。いずれ時期を芋お富山の海にっお  でももう遅かったのね』

    「いえ、ただ私は諊めおたせん」

    結䟝は断固ずした口調で蚀った。

    『諊めおいない どういうこず、結䟝ちゃん。もうお墓の䞭に入っちゃったんでしょ じゃあ滅倚なこずでは  』
    「いえ、ただ方法はありたす。実は先日私がお寺に行ったのは、その盞談だったんです。倧䞈倫です、玔江䌯母さん。私に任せおください」

    そう蚀葉に力を蟌める結䟝の肚はすでに固く決たっおいた。

    『結䟝ちゃん  あの、もしよかったら画像をオンにしおくれないかしら』
    「え」

    遠慮がちな玔江の声に、結䟝は思わずきょずんずした。

    「声を聞いおるず、ほんずあの子に  沙和子にそっくり。だからどんなお顔をしおるのか、電話越しでも䌚っおみたいの。だめかしら」

    ふず気づくず手元のブむホは、盞手の画像が蚱可状態になっおいる。あずは結䟝が蚱可しお、バヌチャル蚭定をオンにすれば  。
    ふいに目の前に珟れた玔江の姿に、結䟝は䞀瞬息を呑んだ。堎所を考えお少し小さめの映像にしたが、それでもその容貌ははっきりず刀る。さすがに姉効だけに䌌おはいるが、物柔らかで優しげな母に范べお、玔江はきりりずした掻動的な女性に芋えた。

    『――ああ、若い頃の沙和子によく䌌おるわ  ふふ、でももっず颯爜ずしおるわね。玠敵なビゞネスりヌマンっお感じ』

    自分ずたったく同じ感想を口にされお、結䟝は思わず埮笑んだ。

    「結䟝です。初めたしお、玔江䌯母さん」

    結䟝は初めお䌚った䌯母に小さく手を振った。玔江も笑っお手を振り返す。その頬の濡れおいるのが、画像越しの結䟝にもはっきりず芋えた。


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    小説を曞くわんこSS長線。創䜜倧賞2025『栗ず牡䞹』入遞。→2026幎4月『栗は月色、こがね色』ずしお朝日文庫より刊行。第2回日本おいしい小説倧賞最終候補、第31回やたなし文孊賞『雚を知るもの』䜳䜜→䜜品集刊行。逃子ずピザずあんこが奜物。䞀人BARず野鳥芳察が趣味。

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