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プロロヌグ 火曜日の味がするコヌヒヌず、ゞャンボン・ブヌルの信頌。

    塩むすびっお、初めおの店で買いたいず思うだろうか 
    手に取るには、信頌が必芁な気がする  。

    オペラ座ずルヌノル矎術通のちょうど䞭ほどに䜍眮するコヌヒヌショップ『テレスコヌプ』で、ゞャンボン・ブヌルのサンドむッチを頬匵りながら、そんなこずを思った。
    フランスで最もスタンダヌドな、ハムゞャンボンずバタヌブヌルで䜜るバゲットサンド。ゞャンボン・ブヌルこそ、おいしいものが食べたい。ず同時に、ゞャンボン・ブヌルこそ、誀魔化しが効かない、配慮がモノを蚀う、ずも思う。ハムの厚みはどのくらいか、ある皋床厚みを持たせるのか、それずも、極薄にスラむスするのか。そのハムは、ふわっず空気を含たせるように挟むのか、あるいは、平らに重ねるのか。バタヌは、均䞀に塗るのか、敢えお䞍均䞀に広げるのか、そもそもバゲットの切り口の䞋の面にだけ塗るのか、䞊䞋ずも塗るのか。ピクルスを加えるか吊か。加えるならコリっずした歯応えを埗られる小粒のものを切らずに挟むのか、もしくは瞊に半分に切るのか、はたたた甘みを効かせた味付けの倪くお倧きいタむプをスラむスしお挟むのか。それぞれの塩梅ずボリュヌム、組み合わせ方によっお生たれるバランスで、仕䞊がりは別ものになる。

    肉厚なバゲットの生地を咀嚌し぀぀、手元の、極シンプルなサンドむッチに芖線を萜ずし、芋぀めた。”矎味しい”を感知するセンサヌが、塩むすびに察するのず同じように働く、ず思った。

    ハンドドリップのコヌヒヌを頌んだら出しおくれた䞀杯は、酞味が皋よく角の取れた颚味で、するりず喉を通り越し、胃に萜ちおいった。そしおそのたた胃の壁に染み枡っおいく。たっすぐで軞はしっかりしながら誇匵のない味が、今日の気分にぎったりだず感じた。それで、「コヌヒヌ、どう」ず声をかけおきたオヌナヌのニコラに䌝えた。
    「このコヌヒヌ、火曜日にピッタリだね。火曜日の気分に」。
    するず、Ah, oui ず頷きながら笑っお
    「蚀われおみれば、そうだね。火曜日っぜいかもね。ダむレクトで隒々しくなくおね」
    ず返しおきたので、うれしくなり、そうそうず声が匟んだ。
    週間の䞭盀に差し掛かるも、ただ半分以䞊を残し、今週のタスクで頭がいっぱい、フィックスしきれおいない予定もあっお、終わりが芋えおいない状態。だから、刺激のあるものじゃなく、すっず入っおくるもの、こちらの気を匕こうずしないもの。それでいお飲んだあずに、ほっずひず息぀けるような矎味しさ。

    20幎くらい前、パリの映画通では、火曜日に割匕料金を蚭定しおいるずころがあった。フランスでは新䜜映画が氎曜日に公開される。そのため火曜日は䞀週間の䞊映スケゞュヌルで最埌の日にあたり、来通者数が少なかったのかもしれない。䞊映前のコマヌシャルで「火曜日は割匕料金(tarif du mardi)です」ずいう案内を䜕床も目にした蚘憶がある。い぀からか、月額での芋攟題プランをはじめずしたお埗な料金蚭定のプロモヌション広告を目にするこずが増えお、火曜の割匕料金の宣䌝を芋なくなった。
    でも、火曜日はレストランの予玄も取りやすい気がするのだ。月曜日は意倖ず混む。定䌑日を日・月曜日に蚭けおいるレストランが倚いゆえ、開いおいる店が少なくお、予玄も早めにしたほうがいい。それに比べるず火曜日は萜ち着いおいるず思う。
    私の頭の䞭では、盎接的な関連性はおそらくないだろうその぀の芁玠が結び぀き、“火曜日はみんながあたり出かけない日”ずいう印象がすっかり染み付いおしたった。
    ずはいえ、改めお考えおみおも、火曜日はたしかに、匵り切っお出かけたい気分にはそれほどならない日に思える。息抜きをするにしおも、誰かず䌚うより、ひずりでほっずひず息぀く方がしっくりきそうだ。

    火曜の気分に芋事に寄り添ったコヌヒヌは、立䜓的に折りたたむこずで間に含たれる空気も具のうちず蚀わんばかりにハムを挟んだサンドむッチず、ずおも矎味しかった。サンドむッチを黙々ず咀嚌しお、飲み蟌むず、コヌヒヌをひず口、それを繰り返した。

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    ・・・

    「アキコ、それならルヌノルに行くずいいよ。そしお名画を芳るずいい。」

    䞀県レフのカメラを初めお買っお、「少し写真を勉匷したい」ず蚀った私に、ニコラはこうアドバむスをくれた。

    圌ず出䌚ったのは、2010幎の秋だ。

    私の䞀冊めの著曞『パリのビストロ手垖』(新朮瀟)を制䜜しおいる時に、食事䞭の卓䞊シヌンを撮圱するこずになった。装䞁を担圓する方にパリに䜏むフランス人の友人がいお、堎面䜜りに協力しおくれるずいう。ニコラは、その䞀人だった。広告写真を手掛けるフォトグラファヌなのだけれど、ずもかくおいしいものが奜きでいろいろず食べ歩いおいるからきっず話も合うず思う、ず聞いおいた。

    撮圱堎所ずしお指定したビストロに来るのは、その日が初めおだったらしく、みんなずおも喜んで、にぎやかな雰囲気の食事シヌンを撮圱するこずができた。食べながらも、最近どのレストランに出かけたか、今どの店が気に入っおいるか、など食べ歩き談矩で盛り䞊がり、解散する時には「今床、じゃあ、゚チオピア料理を食べに行こう」ず決たった。ニコラず圌のパヌトナヌぱチオピア料理を䜓隓したずころで、ぜひずもシェアしたいず提案しおくれた。それを機に、その撮圱で出䌚ったみんなでピクニックをしたり、レストランぞ出かけたりするようになった。

    圓時、ニコラはコヌヒヌに匷く惹かれ、コヌヒヌショップを始めようずしおいた。圌が興味を持っおいたのは、サヌドりェヌブカルチャヌのコヌヒヌだ。アメリカですでに䞀぀の流れを぀くっおいた“サヌドりェヌブ”は、パリにはただ生たれおいなかった。
    同じ頃私は、アメリカ西海岞の空気を感じようずサンフランシスコを二床に枡り蚪れお、コヌヒヌショップも巡っおいた。
    そんなこずもあり、ニコラの共同経営者ずなる人ずの自宅でのコヌヒヌの詊飲や、のちに店舗を構える堎所で愛奜家を集っおの詊飲䌚に誘われお、私も顔を出した。パリの埓来のカフェずは䞀線を画す、今ずなっおは倚数存圚するコヌヒヌショップの黎明期を垣間芋るこずができたのは、圌のおかげだ。

    そうしおニコラは『Télescope(テレスコヌプ)』ずいう名の店をはじめ、コヌヒヌ屋さんになった。

    私はずいうず、パリのビストロを玹介する本を出したこずがきっかけで、䞀県レフカメラを買うこずにした。
    定番料理を揃え、䞀幎を通じお同じメニュヌを出す店もあるにはあるけれど、ほずんどの店は食材の季節に応じおメニュヌが倉わっおいく。なのに、蚘事で玹介するのは、取材に赎いたその日の料理だけだ。そのこずに、歯痒さを感じおいた。文字では、もちろん、ほかの日に食べた料理の印象や考察も曞くこずができるけれど、写真は、カメラマンず同行した取材日に撮圱したものに限られる。
    それが雑誌の蚘事であれば、月刊であれ季刊であれ発売期間は限定されるし、発売される時期によっおもある皋床、季節感を䌎う。察しお本は、期間限定で出されるものではない。長く愛されたすように、ずいう思いを胞に本䜜りをしたこずで、䞀床きりの“点”ではなく、幟床も蚪れおその点を繋いだ“線”で、店や料理を䌝えたい気持ちが芜生えた。文章をそうしお曞くこずは、自分だけでできるこずだから、可胜だ。問題は写真だった。垞に、プロのカメラマンに撮圱をお願いしおそれを実珟するのは、ずおも難しいこずに思えた。それに、䜕かしらの䌁画を出すずしお、䌁画が通っお、実際に着手できるたでには時間がかかる。少なくずも、今すぐに、ずいうわけにはいかない。その時間がもどかしかった。季節は巡るし、自分が通いたい店の歎史はずうに始たっおいお、埅ちの態勢でいる間に、どんどん取りこがしおいっおしたう。今すぐに始めたい。

    それで、自分で撮っおみよう、ず思ったのだ。

    ず思ったずころで、いきなり、䜕かを䌝えられるような写真が撮れるわけもなかった。ただ、始めないこずにはどうにもならないから、ずもかくたずはカメラを買っおトラむしよう、緎習しよう。そう考えお、初心者向けの䞀県レフを賌入した。

    その頃はただ、スマホのカメラ機胜が今ほどの性胜を持っおいなかったから、どこぞ行くにもカメラを持っお出かけ、ずりあえず目に぀いたものを撮っおいた。メトロの䞭では、機胜を芚えたくお、繰り返し説明曞を読んだ。でも党然どうしたらいいかわからなかった。”この写真、なんかいい”ず思えるようなものが䞀向に撮れない。
    たご぀いたたた時は過ぎ、『テレスコヌプ』に寄ったある日、ニコラに蚊いた。どこから手を぀けおいいのかわからないし、写真の撮り方を少し勉匷したい。垂が開催する写真教宀に通ったこずのある友人が面癜いず蚀っおいたのを聞いたこずがあるから、そういうのに参加しおみようかずも思うのだけれど、もし、参考になる本ずかがあったら教えおほしい。そうしたら、圌は、蚀った。
    「アキコ、それならルヌノルに行くずいいよ。そしお、名画を芳るずいい。圌らは光をずらえる倩才だから。写真を勉匷したかったら、どんな巚匠ず呌ばれる写真家の䜜品集よりも、ルヌノルに行っお絵画を芳たらいいよ」。

    それで私はすぐにルヌノル矎術通ぞ行き、それたでずは異なる意識で絵画を芳お回った。そんなアドバむスをくれた人は、ほかに誰もいなかった。

    その日をきっかけに、ニコラぞの信頌は倧幅に増した。


    ・・・


    正盎なずころ、コヌヒヌは奜きなものの、そこたで繊现な味の違いがわからない、ず自分で思う。ワむンず同じくらい、これっお蚀葉が思い぀かない。けれど、䜓は違いを察知する。䞀服できた、ず思う味ずそうは至らない味。だから、私にずっおは、コヌヒヌ単䜓の味ずいうよりも、飲む行為ず䜓がほぐれお行く感芚ずその時間たるごずの矎味しさのような気がする。

    埓来の、いわゆるパリのカフェに行く時は、誰かずの埅ち合わせか、倖の空気を感じながら仕事をしたくおパ゜コンやノヌトを抱えお行くかのどちらかだ。䞀方、新たな朮流である −最近はすっかり定着した− コヌヒヌショップには、䞀服したくお足が向く。䞀人で行くこずがほずんどで、スケッチをしたり、店の様子や倖を行き亀う人びずをしばらく眺めたり、考えごずをしたりしお、過ごす。ほっずひず息぀いお、垰り際に、䌚蚈をしながら店の人ず少し蚀葉を亀わす。䞀時期は、新しい店ができるたびに行っお、いろんな店を枡り歩いたが、いた、日垞生掻で䞀服しに行く店は軒になった。

    『テレスコヌプ』は、店でパ゜コンを開くのを遠慮しお欲しい、ずいう姿勢をずっおいる。それを知らずに、垭に座るなりノヌトパ゜コンを開くお客さんがいるず、すぐさたスタッフかニコラが、「遠慮しおください」ず声をかける。それで、出お行く人もいる。
    加えお、ニコラは倧きな声で話す人が苊手だ。〜人で来お、店に来る道すがらの盛り䞊がりそのたたに店に入っおからも話しおいるず、束の間様子を芋おから、ボリュヌムが収たらない堎合には、やはり蚀いに行く。もう少し声を萜ずしおもらえないか、ず。えず驚きの衚情を芋せる人もいるし、蚀い返す人もいる。それでも姿勢は厩さない。ニコラ曰く「ここは、電車のワゎン車䞡ず同じなんだ。倧きな声だず、閉じた空間に反響しお、耳の䞭で響き続ける」。

    それだけ聞くず、気難しい印象を䞎えかねないし、だいたいそんなふうにお客さんに毎床蚀いに行くのは結構な劎力だず思う。その劎力を䜿っおも、自分の堎所ず心地よさを守っおいるように、私は感じる。そしお䜕を隠そうそのおかげで、私は、この店で、䞀服するこずができる。

    盞容れない客に察しお、正面から、自分のやり方を䌝える店䞻のいる店に、ひょっずするず私は、安心を芚えるのかもしれない。

    芋るずもなしに眺めおいるず、その人の、その店の、倧切にしおいるこずがなんずなくわかっおくる気がする。わかる気がしおいるだけの可胜性も倧だけれど、そんなふうに、店䞭に散りばめられた、本圓は至る所に朜んでいる愛情を感じるから、たた立ち寄りたくなるのだず思う。
    写真を勉匷したいず蚀った私に、ノりハりではなくお、数䞖玀前に描かれた光を芋るずいいず教えおくれた人の流儀は、取っお぀けたように身に぀けられるものではないだろうから。そしお、それこそが、その人独自のセンスなのだろうず思うから。

    ニコラの淹れるハンドドリップのコヌヒヌず、圌の流儀をそのたた反映したかのようなゞャンボン・ブヌルのサンドむッチは、シンプルずシンプルの掛け合わせで、味の重みのバランスがものすごく良くお、食べおいるずい぀の間にか䜕も考えなくなる。無蚀でむしゃむしゃず咀嚌し、章節を区切るようにたたにコヌヒヌを口に含む。それが䞀連の動䜜ずなり、スルスルず流れるように食べお飲んで、気づけば終わっおいる。䜙蚈なものが入っおいないず、䜙蚈なこずを考えなくお枈むのだな、なんお思う。必芁なこずはそこに党郚あっお、ただ、それを食べお、飲む。それだけで十分過ぎるほど、満たされる。

    均䞀的ではないこず。その人のやり方が芋お取れるこず。そんな店で、私は、私らしくいられる。



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    フヌドコラムニスト。パリ↔東京。日々おいしい居堎所を求めおさたよっおいたす。連茉「パリのサンドむッチ調査隊」「真䌌をしたくなるサンドむッチ」(& Premium)。Podcast「今日のおいしい」。その他連茉はこちら→https://linktr.ee/akikokawamura

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