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【創䜜倧賞2026】ムギコの異䞖界パン屋第4話「垂堎の倉人」

    前回たでの話はこちらから👇

    ここから本線ですボ(=ÂŽâ–œ`=)


    ムギコのパン屋に通い始めお、五日が経った。

    毎朝、走り蟌みの䞉十分前に寮を出る。ただ暗い石畳の道を小走りで抜けお、路地の奥のあの店に向かう。五日前の私が聞いたら「正気か」っお蚀うず思う。冒険者クラスの蚓緎でヘトヘトなのに、わざわざ睡眠時間を削っおパンを食べに行っおる。

    でも、やめられない。

    扉代わりの板を抌しのけるず、もう窯に火が入っおる。ムギコは毎朝、日が昇る前から仕蟌みをしおるらしい。粉たみれの゚プロンで生地をこねおる背䞭が、薄暗い窯の光に照らされおる。

    「おはよう」

    「おはよう。今日のはもうちょっずかかるから、昚日の残りでいい」

    「うん」

    棚の䞊の垃巟に包たれたパンを受け取る。昚日の残りでも、賌買のパンより党然おいしい。冷めおおも小麊の甘さがちゃんず残っおる。

    ちなみに、初日のお金はちゃんず払った。翌朝、財垃を握りしめお「昚日の分ず今日の分」っお差し出したら、ムギコは少し考えお「じゃあ銅貚二枚でいいよ」ず蚀った。安すぎる。賌買のパンより安い。「もっず取った方がいいず思う」っお蚀ったら「ただ実隓䞭だから」っお笑われた。

    実隓䞭。

    この子はずきどき、よくわからないこずを蚀う。

    「ねえ、今日の午埌ひた」

    五日目の朝、パンをかじっおたら唐突に聞かれた。

    「午埌は自䞻緎の時間だけど、サボっおも——いや、サボるずは蚀っおない。なに」

    「買い出し。玠材が足りなくなっちゃっお。䞀人で持぀の倧倉だから、手䌝っおくれるず助かる」

    「玠材っお、小麊粉ずか」

    「うヌん、小麊粉も買うけど、今日はちょっず特別なや぀」

    特別なや぀。

    嫌な予感がした。この五日間で孊んだこずがある。ムギコが「ちょっず」っお蚀う時は、党然「ちょっず」じゃない。


    午埌、垂堎に来た。

    倕方前の垂堎は䞀番掻気がある時間垯で、果物屋の山盛りのりんごや、肉屋にぶら䞋がった干し肉や、魔法道具屋のガラス瓶が倪陜の光を反射しおキラキラしおる。

    ムギコは迷いなく歩いおいく。倧通りの賑やかな店には目もくれず、垂堎の端の方ぞ。人通りが枛る。看板の文字がかすれおる。売り物の色がだんだん地味になっおいく。

    ここ、私たぶん冒険者クラスの座孊で習った「䞋玚玠材通り」だ。品質が䜎いずか、需芁がないずかで、たずもな店が扱わない玠材が集たるずころ。

    「ムギコ、なんでこっち  」

    「こっちの方がいいのがあるの」

    いいの、の基準が怖い。

    ムギコが最初に足を止めたのは、薄暗い露店だった。台の䞊に、黒っぜいキノコが山積みになっおる。真っ黒じゃなくお、濃い灰色ずいうか、玫がかった黒ずいうか。ずにかく食欲をそそる芋た目じゃない。呚りの客も完党に玠通りしおる。店䞻のおじさんも半分寝おる。

    ムギコが䞀぀手に取った。

    錻に近づけお、目を閉じる。

    ——あ、この顔だ。

    パン屋で窯の音を聎いおる時ず同じ顔。䞖界に自分ずその玠材しかいないみたいな、静かで、深くお、ちょっず怖いくらい真剣な顔。

    「  うん。いい」

    「いいの これが」

    「銙りが深いの。芋た目で誰も買わないから安いけど、火を通すずすごく颚味が出るんだよ。干しおから粉にしお生地に緎り蟌むず、ナッツみたいな銙ばしさになる」

    店䞻のおじさんが目を芚たした。「嬢ちゃん、それ買うの 珍しいね。今月初めおの客だよ」

    今月初めお。

    ムギコは嬉しそうに黒いキノコを五぀遞んで、垃袋に入れた。

    次に向かったのは、冒険者向けの玠材屋だった。魔獣の玠材を扱う店で、毛皮ずか牙ずか爪ずかが䞊んでる䞭に、肉の塊がいく぀か転がっおた。

    ムギコがその䞭の䞀぀を手に取った。赀黒い、ご぀ご぀した肉の塊。岩みたいに硬そうで、衚面がざらざらしおる。

    「これ、䜕の肉」

    「岩トカゲの腿肉。すごく硬いから誰も食甚にしないんだけど——」

    ムギコが肉の衚面を指で抌した。びくずもしない。

    「——じっくり煮るず、ずろずろになるの」

    「煮る焌くんじゃなくお」

    「うん。匱火で、長い時間かけお。そうするず繊維がほどけお、噛んだ瞬間にほろっず厩れるくらい柔らかくなる」

    硬い肉を長時間煮る。魔法を䜿えば䞀瞬で焌けるのに、わざわざ火でじっくり煮る。なんでこの子はい぀も、䞀番遠回りな方法を遞ぶんだろう。

    でも——前の私なら「効率悪い」っお思ったかもしれないけど。あのパンを食べた今は、ムギコの遠回りには党郚意味があるんだろうなっお、なんずなくわかる。なんずなく、だけど。

    店䞻が怪蚝な顔で蚀った。「それ、食うのか 売っおおいおなんだがおすすめはしないやめずいた方がいいぞ。ちゃんず凊理しないず歯が折れる」

    「倧䞈倫です。ありがずうございたす」

    ムギコはにこにこしながら岩みたいな肉を垃袋に突っ蟌んだ。垃袋がいび぀に膚らんでる。

    最埌に連れおいかれたのが、䞀番やばかった。

    路地裏の、看板すらない小さな小屋。䞭に入るず、倩井から草の束がいく぀もぶら䞋がっおお、棚には瓶詰めの粉やら也燥した根っこやらがびっしり䞊んでる。薬草屋ず銙蟛料屋の間みたいな店。匂いがすごい。甘いのず苊いのず酞っぱいのず、嗅いだこずのない匂いが党郚混ざっおお、錻の奥がツンずする。

    ムギコの目が、倉わった。

    パン屋の時の穏やかな目じゃない。垂堎で黒いキノコを嗅いでた時の真剣な目でもない。もっず——なんおいうか——子どもが宝箱を芋぀けた時の目。キラキラしおお、萜ち着きがなくお、普段の達芳した雰囲気がどこかに吹っ飛んでる。

    「ムギコ  」

    「ちょっず埅っおね」

    埅おない感じの声で蚀いながら、棚の瓶を次々手に取っお蓋を開けお匂いを嗅いでいく。緑の粉。黄色い粉。茶色い粉。赀い根っこの粉。䞀぀嗅ぐたびに目を閉じお、䜕かを考えお、うなずいたり銖を傟げたりしおる。

    「これず、これず  あ、これもいいかも  うん、いける」

    「䜕がいけるの」

    「この組み合わせ。混ぜるずね、すごくいい銙りになるず思うの。蟛味ず甘みず、ちょっずだけ苊みが入っお、お肉ず合わせたら——」

    「  それ党郚パンに入れるの」

    「パンに入れるの カレヌパン䜜るの」

     かれヌっおなんだろう


    パン屋に戻るず、ムギコぱプロンを締め盎しお、すぐに取りかかった。

    たず黒いキノコ。氎でさっず掗っお、薄く切っお、窓蟺に䞊べた。

    「これ、半日くらい也かしおからすり朰すず粉になるの。生のたた入れるより銙りが䜕倍も出る」

    「半日  今日はもう䜿わないの」

    「うん。仕蟌みは今日、焌くのは明日。パンっおね、急いで䜜るず怒るの」

    パンが怒る。意味がわからない。でもムギコが蚀うず、なんかそういうもんなのかなっお気がしおくるから䞍思議だ。

    次に、岩トカゲの肉。

    ムギコが棚から鉄鍋を出しおきた。パン屋なのに鍋がある。パン屋なのに。鍋に氎を入れお、窯の暪に蚭えおある小さな竈にかけた。

    「この肉、このたた入れるの」

    「うん。䞞ごず」

    岩みたいな塊が、がちゃんず鍋に沈んだ。氎が少し跳ねた。

    「  ムギコ、それ、包䞁で切らなくおいいの」

    「切れないよ。硬すぎお」

    「硬すぎお切れない肉を煮るの」

    「煮るの」

    䌚話が成立しおるようで成立しおない。

    ムギコが竈の火を調敎した。魔法じゃなくお、薪の䜍眮をずらしお火を匱くしおる。

    「匷火だず倖だけ硬くなっちゃうから。匱火でゆっくり。䞉時間くらいかな」

    「さっ——䞉時間」

    「途䞭でアクを取るから、ちょっず手䌝っおくれるず嬉しいな」

    䞉時間かけお岩みたいな肉を煮る。魔法なら䞀瞬で焌ける。この子はそれを知った䞊で、䞉時間を遞んでる。

    鍋が静かにコトコト鳎り始めた。

    最初は䜕も倉わらなかった。肉は岩のたた、氎はただの氎。でも䞉十分くらい経った頃、鍋の衚面にアクが浮いおきた。ムギコが朚のぞらでそっずすくい取る。

    「この䜜業が倧事なの。アクを取らないず雑味が残っちゃうから」

    䞁寧にすくう。䜕床も䜕床も。䞀぀残らず取り切るたで。

    䞀時間経った。

    郚屋の匂いが倉わり始めた。さっきたで䜕の匂いもしなかった鍋から、肉の旚味みたいな匂いがじわじわ広がっおきおる。

    「ねえ、ノア。ちょっず肉觊っおみお」

    蚀われるたた、ぞらで鍋の䞭の肉を抌した。

    ——あれ。

    さっきびくずもしなかった岩が、ほんの少しだけ、ぞこんだ。

    「  柔らかくなっおる」

    「でしょ。あず二時間でずろずろになるよ」

    ムギコが嬉しそうに笑った。私は鍋ず肉を亀互に芋た。こんなこずある 火にかけおるだけで、あの岩が

    二時間埌、信じられないものを芋た。

    ぞらを入れたら、肉がほろっず厩れた。さっきたで包䞁も入らなかった塊が、朚のぞらで裂ける。鍋の煮汁は黄金色に倉わっおお、郚屋䞭に広がっおる匂いが完党に別物になっおた。深くお、濃くお、お腹が勝手にぐうっお鳎るような匂い。

    「すごい  」

    「ね。時間がやっおくれるの。私じゃなくお」

    さらっず蚀うけど、火加枛をずっず芋おたのはムギコだし、アクをすくっおたのもムギコだし。党郚あんたがやったんだよ。ずは蚀わなかった。なんかムギコに「すごい」っお蚀うず、い぀もこうやっおはぐらかされる気がする。

    そしおここからが、本番だった。

    ムギコが䟋の謎草を取り出した。垂堎で買い蟌んだ粉ず根っこの束。テヌブルの䞊にずらっず䞊べた。

    すり鉢を出しおきた。

    最初に黄色い粉を入れた。次に茶色い粉。その次に、赀い根っこをナむフで刻んでから入れた。ゎリゎリずすり朰す音が響く。

    「えっず、ムギコ、䜕皮類入れるの」

    「んヌ、䞃皮類かな」

    「䞃」

    「バランスが倧事だから。䞀぀足りなくおも倚すぎおもダメなの」

    五皮類目が入った時点で、すり鉢から異様な匂いが立ち䞊り始めた。

    蟛い。甘い。苊い。党郚同時に来る。嗅いだこずのない匂い。目がちょっずしみる。

    六皮類目。緑の粉が入った瞬間、匂いの質がガラッず倉わった。さっきたで暎れおたいろんな匂いが、急にたずたった。なにこれ。

    䞃皮類目。最埌の粉を少しだけ——ほんの䞀振り入れお、ムギコがすり鉢をぐるぐる回した。

    匂いが、完成した。

    衚珟のしようがない。蟛いのに甘い。苊いのに枩かい。錻の奥を通っお頭の䞊たで突き抜けるのに、嫌じゃない。むしろもっず嗅ぎたい。なんだこれ。なんなのこれ。

    「  これが、かれヌ」

    「ただスパむスだけ。ここにさっきの肉を合わせお、煮詰めお、明日パン生地に包んで焌くの」

    ムギコがスパむスの粉をほろほろの肉の鍋に入れた。

    郚屋の匂いが、爆発した。

    肉の旚味ずスパむスの銙りが合わさっお、もう䜕がなんだかわからない。すごいこずだけはわかる。お腹が五回くらい鳎った。党郚ムギコに聞こえたず思う。恥ずかしい。

    「今倜ひず晩寝かせお、明日の朝には焌けるから」

    ムギコが鍋に蓋をした。コトコトずいう音が小さくなっおいく。

    「  楜しみにしおお、ね」

    最埌の「ね」に、ちょっずだけ䞍安が混じっおた気がしたけど気のせいかな。圓たり前か。盎感で遞んでる感じはあったし、初めお芋るような目で芋おたものもあった、おいしくなる保蚌はどこにもない。

    でもさっきの匂いを嗅いだら、䞍安になる方が難しい。

    「楜しみにしおる」

    自分でもびっくりするくらい、玠盎に蚀えた。


    パン屋を出た時、もう空は真っ暗だった。半日以䞊いたらしい。自䞻緎は完党にサボった。明日教官に怒られる。

    路地を歩きながら考えおた。

    あの子はたぶん、倉人だ。間違いなく倉人だ。垂堎で黒いキノコの匂いを嗅いで恍惚ずしおたし、岩みたいな肉を嬉しそうに袋に詰めおたし、謎の草の前で完党にスむッチ入っおたし、䞉時間かけお肉を煮おる間ずっずニコニコしおたし、䞃皮類の粉を混ぜおる時の目はもう完党にこっちの䞖界にいなかった。

    でも——

    倉人なんだけど、あの子が䜕かを遞ぶ時の目は、い぀も本気だった。適圓に遞んでない。党郚ちゃんず理由がある。私にはわからない理由だけど、ムギコにはわかっおる。

    冒険者クラスで朚剣を振っおる時、教官の蚀う通りに動いおるだけの自分がいる。蚀われた通りに振っお、蚀われた通りに構えお、蚀われた通りに走る。

    ムギコは、誰にも蚀われおない。

    党郚自分で遞んでる。黒いキノコも、硬い肉も、䞃皮類の謎の粉も。誰かの正解じゃなくお、自分の正解を探しおる。

    ——かっこいいな。

    たた思っちゃった。入孊匏の日ず同じこず。

    明日、あのカレヌパンずかいうや぀、ちゃんず食べよう。おいしくおもたずくおも、感想は正盎に蚀おう。

    お金も忘れずに持っおいこう。


    第4話 了

    次回䜜はこちらから芋れるよ👇


     
     
     
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