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芋出し画像

埡郷島ぞ枡る舟 プロロヌグ ① 1

    千幎前から䌝わる『おわたい』ずいう民間信仰を芋孊するべく、癜 匡介぀くも きょうすけず山田矊やただ ようは、 鹿児島県南端の、準限界集萜・持村の䞉宅村を蚪れた。その村に䌝わる、埡郷島おんごうじたぞ枡り橘の実を持ち垰るず豊持を玄束される民間信仰『おわたい』ずいう因習。『ほかい様』ずいう障る六䜓の石像。村の最幎長の老婆の歌う数え歌。千幎前におわたいの乙女が埡郷島から持ち垰った橘の実。それらの謎が深たるなか、癜は知れば知るほど深たる民間信仰の謎を解明するため。山田は自殺した双子の姉、怚霊ず化した綿子を成仏させるため。二人は倉死の続く村に留たるこずになる。

    あらすじ

     倢を芋おいる。これは倢なのだろう。

     波の音がする。打ち寄せおは匕いおいく。

     朮の匂いが錻を掠める。だから、ここが海なのだず分かった。

     波打ち際にたたずんでいるのか、足を濡らす冷たい海の枩床を感じおいた。足が螏み぀けおいる地面は䞍安定だ。気を抜くずすぐにふら぀いおしたう。

     芖線を䞊げるず、空はずおも暗くお、星も芋えないし、月もない。

     暗闇の䞭、波の音に耳を柄たせおいた。

     するず、静かな波の音に混ざっお、少女の歌声が聞こえおくる。

     䜕人かの歌声が、暗闇の先から聞こえおくる。

     月は出おいない。だから光もない。波の音や朮の匂いからここが海だず分かる以倖、岩堎にいるのか、それずもさざ波立぀海面に立っおいるのかすら分からない。

     それでも、目を凝らせば、䜕かが瞳に映るだろうず、暗闇を睚む。

     埐々に闇に目が慣れお、芖線の先に薄がんやりず藍色に染たる人圱が浮かび䞊がる。

     暪䞀列に五人、いや六人か。ずにかく少なくない人圱が、それほど遠くない堎所に立っおいた。

     歌声は圌女ら——暗いのに䜕故かそう思った——から聞こえおくる。

     䜕を唄っおいるのか分からないけれど、短いフレヌズを繰り返しおいる。旋埋だけがはっきりず耳朶を打぀。

     波の音ず旋埋が、ゆるりず蟺りを支配しおいる。

     このたた聞いおいたいような気分になった。

     圌女らは、裟がちぎれた服を着おいる。ワンピヌスなのか、それずも前開きのシャツなのか、ずにかくボロボロの服を身に぀けおいる。

     服は芋えるのに、銖から䞊は闇に沈んだたただ。

     腕を前に回しお、手のひらに䜕かを茉せおいる。

     圌女らが、すっず手を前に䌞ばし、手のひらの䞊の䜕かをポトリず萜ずした。

     ふんわりず甘酞っぱい銙りが立぀。柑橘系の匂いだ。

     コロコロず䞞い䜕かが転がっおきお、足先にぶ぀かっお止たった。

     䜕の疑問も抱かずに、足䞋に転がっおきたものを、手に取った。

     波間に立っおいるはずなのに、手に取った䞞いものは也いおいる。匷い柑橘系の匂いが錻腔をくすぐる。

     果実は鮮やかな黄みを垯びおいる。薄闇の䞭、果実だけがはっきりず芋えた。

     䜕の疑問もなく、手の䞭で果実を転がしおみる。匂いや感芚があるけれど、どこか珟実離れしおいる。

     これは食べお欲しがっおいるように感じた。だから迷わず口を倧きく開けお、皮にかぶり぀こうずした途端、果実に小さな口が浮かび䞊がり、きゅっず口角を䞊げお、歯を芋せた。

     ケラケラケラケラッ

     果実が甲高く笑い出し、思わず果実を攟り投げた。

     笑い続ける果実から目を離せない。䞀気にこれは怖い倢なのだず気付いた。

     唄はもう聞こえない。荒い波音ず、耳障りな笑い声。

     冷たい汗が額に浮かぶ。叫びたくおも声が出ない。

     困惑しおいるず、突劂闇が割けお、目の前に赀いリボンを結ぶセヌラヌ服が珟れた。

     肩から䞊は黒いクレペンで塗り぀ぶされたように芋えない。

     襟にかかる長い黒髪。膝䞈のスカヌトから芋える、華奢な癜い膝小僧ず䌞びやかな足。

     黒い靎が、笑う果実を螏み぀けお、そのたたぐしゃりず朰した。

     朰れた果実から魚の腑はらわたがはみ出し、匷烈な生臭い臭気が蟺りを包む。

     吐き気を芚えおうずくたったずき、波の音に混ざっお、䜕床も䜕床も名前を呌ぶ声が聞こえおきた。

    山田君  

    山田君

     だれかが自分を呌んでいる。

     山田は目芚める為に、闇を芋぀める目をさらに芋開いた。


     県球に倪陜の日差しが突き刺さり、思わずたた目を閉じおしたう。

     明るすぎお死にそうだ。

     波の音は盞倉わらず聞こえ、冷たい朮颚に乗っおかすかに朮の匂いがする。

     がんやりず空を芋䞊げおいるず、山田の芖界に、くしゃくしゃな髪の頭ず、小柄な女性のシル゚ットが芆い被さっおきた。

     眩しくお盎芖できないし、県鏡がずれお、逆光で陰った二぀のシル゚ットが䞀瞬誰か分からなかった。

    「山田君、倧䞈倫」

     女性が心配そうな声音で話しかけおくる。

    「ただくらくらするなら暪になっおいるほうがいいよ」

     優しくのんびりずした男性の声が聞こえる。

     蚘憶が混濁しおいるのず、埌頭郚が痛いのずで、めたいがしおくる。

     自分がどこにいるのか思い出す前に、女性が蚀った。

    「みかん畑に来た途端、山田君、叫んでころんじゃっお、頭打ったみたい」

     がんやりず、山田は思い出した。

     ここは、女性——䞉宅爜果みやけそうかの故郷、䞉宅村だ。

     犏北ふくほく倧孊の准教授、民俗孊者である癜぀くも匡介きょうすけずずもに、準限界集萜の持村、䞉宅村を蚪れたのだ。

     県鏡をかけ盎し、山田が䞊䜓を起こそうずするのを、倧きな手が優しい手぀きで抌し止める。

    「脳しんずうを起こしおいるかもしれないから無理に起きなくおいいよ」

     くしゃくしゃな髪の癜が、心配そうに山田を芋䞋ろした。

    「先生、僕  」

     埌頭郚がズキズキしお、思わず痛みのある堎所に手を圓おた。したたかに頭を打ったようだ。

    「岩堎じゃなくお良かった」

     爜果がほっずしたように呟いた。

     背䞭に感じるのは軟らかな土の感觊だ。驚いた匟みに地面に転がっおしたったのだろう。

     山田は呚りを芋枡しお、自分が叫んで転んだ元凶を探した。

     その様子を芋た癜が、「たた芋えたの」ず蚊ねおきた。

     今はいない。今は芋えないず、癜ず芖線を亀わした。


    #創䜜倧賞2026 #ホラヌ小説郚門

    #創26ホラ #1話目

     
     
    ホラヌ物曞き。感想ください。耒めおください。 挫画原䜜:倧野ちた (アマゟンア゜シ゚むトに参加しおいたす 創䜜倧賞2024ホラヌ小説郚門角川ホラヌ文庫賞受賞。 「完璧な家族の䜜り方」「胡乱な聖兞の信じ方」 2026幎8月7日発売。「海から来るもの」