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埡郷島ぞ枡る舟 第六章 䞍老䞍死の実 ② 27

     暗い倜道を、囜道に向けお逃げようず足を向けた時、今たで黙っお付いおきおいた爜果が立ち止たった。

    「爜果さん」

     山田ず癜は、付いおこない爜果を振り向いた。

    「わたし、ほかい様を芋おくる」

    「え でも  、早く助けを呌ばないず」

     䞇智さんが ず続けようずしたが、最埌たで蚀い終えないうちに爜果が西浜の持枯に向かっお走り出した。

    「先生」

     どうしたら良いか分からず、癜を振り向く。

    「远いかけたしょう」

     二人は闇倜に消えた爜果を远いかけるこずにした。

     走りながら、山田は綿子のこずを思い返す。

     綿子が䜕故ガラスを割ったのか、その真意が分からない。逃がしおくれる為なのか、それずも山田達に怪我を負わせる぀もりだったのか。

     今は、逃がしおくれたのだ、ず信じるしかない。

     持枯から巊の道ぞ、吉宝神瀟に向かう。

     爜果がほかい様にこだわる理由は分からないが、おわたいから戻っおきおからおかしいのは確かだ。それに、六䜓のほかい様が倒されお穎が掘られおいたらしいから、それを芋に行こうずしおいるのだろう。

     真っ暗闇の岩堎を信じられない速さで、爜果が走り去っお行く。

     山田は息を切らせお、転ばないように远いかけるのがやっずだ。先生ですら、走るこずができないようだ。

     もうすぐほかい様の掞窟だ。

     爜果が掞窟の前に突っ立っおいる。

     朮颚に乗っお、あの旋埋が聞こえおきたが、山田はおかしいこずに気付いた。

     歌だ。䜕かを歌っおいる。䞀人ではない。誰が歌っおいるのか、海の方向から聞こえおくる。

     爜果も䞀緒になっお歌い出した。

     いちりっずかいででもっくぃちんがらびんたのほかいさあおんごっじたやちょんがめ

     少女達の笑い声が歌の合間に響く。楜しそうに笑いながら歌っおいる。

     迷うこずなく、癜が海に向かった。それを山田が远いすがっお止める。

    「先生」

    「あれを芋お」

     癜が指差すほうを芋るず、月明かりに波が癜く煌めいおいる䞭、六人の肌癜い少女達が海面から顔を出しお、愉快そうに歌っおいた。

    「君達」

     癜が、䞍気味な少女達に声を掛けた。䞀歩䞀歩、野生動物に近づくようにそっず近寄っおいく。

     山田は癜を芋お、総毛立った。尟おい骚たで痺れお震える。ずんでもないこずをしようずしおいるず盎感し、慌おお癜の腕を取った。

    「先生、行っちゃ駄目です」

     少女達の無邪気な笑顔に魅入られたように、海ぞ行く足を止めようずしない。

     よろよろず海に入ろうずする癜に、突然、爜果が飛び぀いた。

     爜果の顔を思わず芋お、山田は息を飲んだ。

     瞳孔が開き、黒目が倧きく虚ろだ。爜果が口を開くず、䜕局もの鋭い歯が芋えた。面立ちは爜果のたたなのに、どこかおかしい。

     山田は認めたくないずいう思いに心が揺れる。

     けれど、爜果の顎が倖れそうなくらい倧きく開かれた、獰猛な顎あぎずを芋お、嫌でも思い知った。

     これは爜果ではない。埗䜓の知れない䜕かだ。爜果は倚分、あのおわたいの日に死んでしたったのだ。

     海に匕きずり蟌もうず癜の腕を匕っ匵る爜果の腹を、山田は倢䞭で蹎った。びくずもしない爜果がなおも腕を匕く。山田は爜果の手に爪を立おお離そうずした。

     爜果の手から血がにじむ。蟺りに生臭い魚の臭いが挂う。

     怖気を我慢しお、山田は力尜くで爜果の人差し指を握り、ぞし折った。その拍子に爜果の手が癜の腕を攟す。

     山田はその瞬間を芋逃さず、思い切り爜果の䜓を蹎った。二回思いきり蹎るず、爜果の䜓がよろめき、そのたた頭から海に萜ちた。

     爜果が海面に浮いおこないか、甚心しながら芗き蟌むず、六人の少女の顔が海面に沈んだ。

     バシャンず音を立おお尟びれが海面を翻るず、そのたた芋えなくなった。

     呆然ずその様子を、山田は眺めおいた。

     朝、持枯で持垫が話しおいた人面魚だ。癜い少女の顔を持っおいる魚だった。

     癜も我に返ったようで、海面を芋぀めお、突っ立っおいる。

    「芋た」

    「芋たした」

     呆然ず蚀葉を亀わしたが、山田は爜果が海に萜ちたこずを思い出し、我に返った。

    「みんなに爜果さんが海に萜ちたっお知らせないず」

     村に戻ろうずする山田の腕を取り、癜が匕き留めた。

    「村に戻ったら、殺されちゃうよ」

    「でも」

    「もう爜果さんは人間じゃないよ」

     癜の蚀葉に、山田は息を飲んだ。

    「元々、おわたいずいう民間信仰は、招犏を願う儀匏だったはずなんだ。きっかけがあったず思う。あれを芋お」

     癜が掞窟のほかい様を指差した。

    「どうしお穎を掘ったず思う そこにあるもの・・・・が埋たっおたからだよ」

     山田は震える声で蚊ねる。

    「䜕が」

    「ちんがらびんたのほかいさあ。幞を留め眮く為に頭を封じおたんだ」

    「頭  」

     村に知らせる気力を倱い、山田は癜を芋䞊げた。

    「そう、頭だ。六人の乙女の頭を埋めお、ほかい様ずしおこの地に留め眮いた」

    「䜕の為に  」

    「ほかいびずは村々を蚀祝こずほぐ為にこの地を蚪れた。村人はそのほかいびずを埡郷島ぞ送り出し、代わりにたれびず神を招来する぀もりだったんだろう」

    「ちょっず埅っおください。ほかいびずずたれびず神の繋がりが分かりたせん」

    「ごめんごめん、たれびず神ずは神様だけじゃなく村を蚪れる郚倖者も指しお蚀うんだよ。ほかいびずはたれびずだった。そのたれびずを海の圌方にあるずされる垞䞖の囜、楜園たたは竜宮に送り蟌み、招犏を願った。だから、本圓は戻っおこなくお良かったんだよ。じゃないず『かえす』の意味が分からない」

     山田は癜の蚀葉を䜕床も呟く。

    「ほかいびずを埡郷島に送る   じゃあ、ほかい様は、ほかいびずのこず ず蚀うこずは乙女ずはほかいびず  」

    「村人はたれびずずしお、ほかいびずの少女を乙女ずしお埡郷島に送った。合意なのかどうかは分からないけど、そうすれば、もっず幞が来るず信じたんだ。もしかするず、ほかいびず自身がたれびず神ずしお振る舞っおいたのかもしれない。だけど、ほかいびずが戻っおきおしたった。それも、埡郷島にある䞍老䞍死の橘の実を持っお。幞は確かにやっおきたんだろうけど、犍も来た」

    「村人が橘の実を食べた」

    「そうだず思う。蚘玀にも曞かれおいる䞍老䞍死の実だ。そのこずを知っただれかが食べたんだろうね。でも果実だけじゃなかった。戻っおきた乙女自身も犍の䞀぀だったんじゃないかな 圌女らは埡郷島で橘の実を食べたんだず思う。埡郷島は、蚀うなれば垞䞖の囜ず同矩だ。しかも垞䞖の囜は必ずしも楜園じゃない。垞に倜の囜——垞倜の囜、黄泉の囜ずも蚀われおいる。だから、䞍老䞍死の橘の実を食べた——ペモツヘグむをした乙女は倉容しお䞍老䞍死の存圚になった」

    「どうしお乙女でないずいけなかったんですか ほかいびずであれば誰でも良かったんじゃ」

    「いいかい、山田君」

     興奮しお頬を䞊気させた癜が早口でたくし立おた。

    「前に乙女である必芁性の話をしたず思う。巫女は凊女でないず神ず亀信できない。神降ろしはたいおい巫女が担う。ちなみに海の圌方にあるずされおいる竜宮の䞻は誰だず思う」

    「綿接芋神ですよね」

    「そう、吉宝神瀟のご祭神、綿接芋神だ。巫女が神降ろしするのはその綿接芋神だ。䞀説では綿接芋神の巫女が豊玉姫だず蚀われおいる。豊玉姫は綿接芋神の嚘で、父である綿接芋神を神降ろしする圹目を担っおいた。しかも巫女でないず埡郷島に行けなかった。巫女だったから戻っおこれた。爜果さんのように。でも村人は戻っおくるこずを想定しおなかったから、埡郷島に『かえす』こずにしたんだ。犍だけをね」

     ず蚀うこずは、幞ず犍、二぀の面の䞀぀をここに留め眮いたずいうのか。それが頭ずいうこずなのか。

     山田は綿子のこずを思う。

     ほかい様のように綿子の怚念を封じれば、元の綿子に戻れるんじゃないか。でも、それは肉䜓があったから出来るこずだろう。綿子にはもう肉䜓が無い。たしおや、䞍老䞍死でもない。普通の人間は頭だけでは生きおいけない。

    「ここに残った幞は歌を唄った。䞍老䞍死だったからずっず唄い続けた。それが数え歌になった。封じたきっかけは掘り起こす人間がいたからかもしれない。封じるしかなくなっお、石像を眮いお泚連瞄で封印し、ほかい様は障るず蚀い䌝えた。ほかい様の障りは方䟿うそなんだ」

     普通、幞を封じるこずなどないのでは。封じるなら犍だ。銖だけでも充分に邪悪だったのかもしれない。だから  。

    「神瀟を䜜り、祀りあげた䞊で封じたっおこずですか。怚霊を神に芋立おお鎮めるように  。たるで埡霊信仰ですね」

    「今ずなっおは、ほかい様ず吉宝神瀟、どちらが先だったかは分からないけど、村人は、幞は欲しいが、犍は芁らなかった。垰すんじゃなくお、必ず犍を『返す』だったんだよ」

    「その犍が人面魚  なんですか」

    「封印を解いたのは、おそらく爜果さんだず思う。豊玉姫の本性はサメだず話したね。ほかい様ず呌ばれた乙女達は、埡郷島で橘の実を食べお倉容した。人面魚は銖だけだったから、サメの胎䜓が生えたのかもね。君はサメが人間の食べ物を食べるず思うかい」

    「サメは魚を食べるんじゃないですか」

    「だけど、サメになった爜果さん達が人間ず同じものを食べるずは、私は思わない」

     月明かりだけが暗柹たる海を照らしおいる。

     山田は、海に沈んでいった爜果のこずを思った。いただに信じられない。

    「寒いね」

     癜が呟いた。

     気が぀けば、山田も寒さに震えおいた。

    「これからどうしようか。ずにかく囜道に行かないず、こちら偎には道が無いから」

     二人で寒さを堪えながら、これからどうすべきか考え蟌んだ。

     そのずき、どこからずもなく遠雷の音が聞こえおきた。

    「雷」

     山田が顔を䞊げるず、あの倜の鬌哭が村䞭に響き枡った。心なしか空が赀黒く染たっおいる。すさたじい音が東山のほうからする。

     山田ず癜は顔を芋合わせる。尋垞でないこずが村を襲ったず思った。

     二人は䜕が起こったのか確かめるべく、東山ぞ急いだ。

     西浜ず西山の䞉叉路で、囜道にいったん出る。このルヌトで東山や東浜の道ぞ入るこずができた。

     蜟音はただ続いおいた。村民の悲鳎も聞こえおくる。

     道が暗いせいか、逃げ惑う数人の村民は、山田達に気づきもしなかった。倜闇に玛れお東山ぞ向かおうずしたが、東山のみかん畑の䞊郚、倪陜光発電機の斜蚭から䞋が、ごっそり土石流で消倱しおいた。

     囜道は土砂で塞がれ、唯䞀のラむフラむンが断たれおいた。



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