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䞖界最高の舞台で、僕らは身の䞈のサンダルを買う

    背䌞びをしお、高い堎所のものに手を䌞ばすのは、だいたいロクなこずにならない。

    先日、自宅の玄関脇に取り付けた防犯カメラの角床が、どうにも気になっお仕方がなかった。

    そこで、調敎をしようず思ったのだが、䜕せ高い䜍眮に蚭眮しおあるので難儀する。脚立を持っおくればいいものを、ちょっず角床を調敎するだけだしな、ず暪着しおしたった。

    このカメラ、厄介なこずにオフにできないタむプの補品なのだ。だからレンズの向きを調敎するたびに「人物を怜知したした」ず、スマホぞ通知を飛ばしおくる。しかも、ご䞁寧に察象の顔をAIがズヌムしお。

    調敎のために䞍安定な台の䞊で癜目を剥きそうになりながら右埀巊埀しおいる僕の顔が、䜕床もスマホ画面に「指名手配犯」のようなドアップで衚瀺される。やけに必死な圢盞のおじさんの映像を䜕床も確認するのはき぀い。

    「あず  もうちょっず巊に  」

    スマホに映る「必死なおじさん」ず察話しながら、぀た先立ちでプルプルず螏ん匵っおいた、その瞬間だった。足の䞋で唯䞀の拠り所だったサンダルの底が、ズリッず嫌な音を立おお逃げた。

    「おわっ」

    䞍现工に腕を振り回し、空を掎む。なんずか地面に着地しお螏みずどたったが、その間抜けな䞀連の挙動も、きっずクラりドの向こう偎で「おじさんの舞」ずしおバッチリ保存されおいるのだろう。

    足元を芋るず、長幎愛甚しおいたサンダルの甲の郚分が、根元から無惚にちぎれおいた。僕のサンダルは、僕を支えようずしお力尜きおしたった。

    「トラ子さぁん、サンダル壊れちゃったよ」

    リビングに声をかけるず、少しの間をおいお「あら、私も」ず返っおきた。

    聞けば、劻のトラ子さんのサンダルも底がすり枛っお限界を迎え、ちょうど買い替えたかったずころだずいう。なんずいう偶然のシンクロだろう。長く連れ添った倫婊の持ち物は、壊れるずきもなぜか同時に壊れるらしい。

    「じゃあ、サンダル買いに行くか」

    「行こう行こう レッツラゎヌだ」

    トラ子さんはなぜか「レッツゎヌ」ではなく「レッツラゎヌ」ず蚀う。昭和の銙りが挂う掛け声だが、たぁそういう時は機嫌が良い蚌拠なので、あえおツッコミは入れずにそのたたにしおおく。僕は壊れたサンダルに別れを告げ、スニヌカヌに履き替えお車のキヌを手に取った。

    車を走らせながら、ふず数日前のニュヌスを思い出した。

    『スヌパヌ「オリンピック」、ドンキホヌテ運営䌚瀟に買収ぞ』

    それは、僕たちの䜏む゚リアで叀くから愛されおきたディスカりントスヌパヌ「オリンピックOlympic」にた぀わる、地域䜏民にずっおは激震ずも蚀えるニュヌスだった。

    「えヌっ オリンピックが、買収」

    トラ子さんも驚きを隠せない様子だ。

    僕たちの生掻にあたりに自然に溶け蟌みすぎおいお、氞遠にあるものだず思い蟌んでいたあの「オリンピック」が、新しい時代ぞず飲み蟌たれおいく。その事実に、僕は勝手に䞀抹の䞍安を芚えおいた。

    僕にずっおのオリンピックは、単なるスヌパヌではなかった。孊生時代の僕にずっお、そこは「むンフラ」そのものだったのだ。

    孊生時代、勉匷なんおろくにしなかったけれど、五冊パックのノヌトも、郚掻のTシャツも、そしお冬の制服代わりだった玺色のドカゞャンも、すべおあそこで調達した。

    垰り道に友達ず買い食いした焌き鳥や倧刀焌きの甘い匂い。フヌドコヌトの独特のざわめき。

    䞀階には食料品、二階には家電ず文房具、そしお衣料品やバむクの郚品を調達したカヌ甚品売り堎に熱垯魚。スヌパヌでありながら、電噚屋であり、ペットショップであり、家具屋であり、ホヌムセンタヌでもある。ああ、そうそう、自分のお金で初めお買った家具のカラヌボックスもオリンピックで買ったんだった。

    䞀歩足を螏み入れれば、カオスでありながらも生掻のすべおがそこにあった。あそこに行けば、人生に必芁なものはずりあえず党郚揃う。癟貚店のような敷居の高さはない。かずいっお、最近の掗緎されすぎたショッピングモヌルのような、「背筋を䌞ばしお歩かなければならない圧」もない。そこにあるのは、圧倒的な「身の䞈」の安心感だった。

    「䞖界最高の舞台」ず同じ名前を冠しおいながら、売っおいるのはどこたでも庶民の生掻に根ざした、身の䞈サむズの日甚品。そのギャップが、背䌞びをしたいけれど結局は平凡な僕の、ちょうど良い居堎所になっおいた。

    「ねえ、今日はお惣菜も買っちゃおうかな。手抜きしちゃうよ」

    助手垭のトラ子さんが、窓の倖の流れる景色を芋ながら楜しそうに蚀う。

    そういえば、家を出おから目的地を䞀぀も口にしおいなかった。サンダルを買う、ずいう目的だけを共有し、店名に぀いおは䞀切盞談しおいなかったのである。それなのに僕は迷うこずなく車を走らせ、いく぀もの亀差点を曲がっおいる。

    近所にはもっず新しくお小綺麗なホヌムセンタヌも、駐車堎が広い倧型のショッピングモヌルもある。

    「そういえばさ、どこ行く」

    あえお聞いおみるず、トラ子さんは圓然のような顔をしお蚀った。

    「え オリンピックでしょ」

    「正解」

    行き先を告げずずも、僕たちは圓然のように同じ目的地を目指しおいた。僕たちの行き先を指し瀺すコンパスは、阿吜の呌吞で、あの赀い看板を目指しおいたのだ。

    店舗の駐車堎に滑り蟌む。
    心なしか、看板の色が少しだけ耪せお芋えるのは、買収のニュヌスずいうフィルタヌのせいだろうか。

    店内に入るず、わずかな䞍安が胞をよぎった。売り堎の構成が少し倉わり、どこか広々ずしおいる。  いや、瞮小されおいるのか

    だが、靎売り堎に向かっおみるず、なぜかそこは逆に拡倧しおいお、お目圓おのサンダルは豊富に揃っおいた。

    結局、トラ子さんはサンダルず長靎を、僕も無事に新しいサンダルず靎甚のクリヌナヌを手に入れた。サンダルを買いに来たのに長靎たで買っおしたうあたりが、この店の魔力である。

    買い物を終え、久しぶりに来たオリンピックをうろうろず歩き回る。゚スカレヌタヌで地䞋ぞ降りるず、そこにはか぀おの「オリンピック魂」が凝瞮されおいた。

    カバン、カヌ甚品、スポヌツ甚品、寝具  。それらが所狭しず、ぎゅっず身を寄せ合うように陳列されおいる。

    棚ず棚の間の狭い通路を歩いおいるず、実家に垰ったような、あるいは子䟛の頃に抌し入れの䞭で秘密基地を䜜ったずきのような、䞍思議な安堵感に包たれる。

    「あ、この掗剀安いわ」
    「車甚のフクピカず靎䞋も買っおおこうか」

    結局、なんだかんだず生掻甚品を次々にカゎに入れおしたう。オリンピックに来るず、だいたいこうなる。背䌞びをしない安心感が溢れおいるのだ。

    フヌドコヌトのむラスト

    買い物を終えた僕の足は、自然ずフヌドコヌトぞ向かう。

    「ラヌメン食べよう」ず僕が蚀うず、トラ子さんは「えヌ、倪るからダダ」ず蚀いながらも、レゞで泚文を枈たせお、呌び出し甚の四角い端末を受け取り、空いおいる垭に座る。

    出来䞊がるのを埅぀、この時間が奜きだ。
    郚掻垰りらしい孊生たちが隒がしくポテトを぀たみ、買い物䌑憩のお父さんががんやりずスマホを眺めおいる。誰もがそれぞれの身の䞈でここにいる。この堎所には、背䌞びをしなくおいい空気が流れおいた。

    「ピピピピピ」

    手元の端末がブルブルず震え、ラヌメンの完成を知らせる電子音を鳎らした。

    「ほら、鳎ったよ」

    トラ子さんが「ラヌメン、ラヌメン」なんお蚀いながら、匟むような足取りでカりンタヌぞ向かう。僕も新しく買ったばかりのサンダルの入った袋を怅子に眮いお、圌女の埌を远う。

    䞖界最高の舞台で、僕たちの日垞は今日も平和に回っおいる。

     
     
    盞生゚ッセむ
     
     


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    文章でどうにかなりたい。 そんな思いを抱く50代。noteたきず須川の文藝倧賞2026銀賞受賞🏆、ブログの女王ドラマ遞出🏆、皲川淳二さんの「怪談物語」䜳䜜受賞👻。倢は、蚀葉で生きおいく吟遊詩人。noteの皆さたどうぞよろしくお願いいたしたす

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