
短編小説「檻と手紙・解き放たれた獣」
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前章「記憶の檻」の続きとなります
解き放たれた獣
翌日、桃香がボイスレコーダーをテーブルに置き、正晴の疲れた顔を見た。
「おじいちゃん、無理しないで。辛かったら……」
正晴は首を振った。
「いいんだ、桃香ちゃん。話すよ。ただし、聞いてどう思ったか……学校のみんなの感想も教えてくれ」
「わかった。でも戦争の話って、教科書や映画でしか知らないから、なんだか遠い世界の話みたいで……」
桃香がぽつりと漏らすと、正晴は苦笑した。
「おじいちゃんは、それで構わないと思うんだ。戦争の苦しみなんて、知らずにいた方が幸せだよ……」
桃香は複雑な表情を浮かべて頷き、「じゃ録るよ」と言ってレコーダーを押した。正晴は姿勢を正した。その声は過去の重みを帯びていた。
「昭和二十年、私は十五歳だった。特攻隊の整備兵として最前線の鹿屋に送られた。特攻は、飛行機ごと敵艦に突っ込む作戦だ。死を命じる非道な戦術だったが、戦果を上げたとされ、通常の作戦になった。四千人の若者が散った」
基地の油と鉄の匂い、零戦のエンジン音の記憶ががよみがえる。正晴には、写真の隊員たちの幻影がベッドの周りに浮かび上がるように感じられた。
「真壁 一郎という少尉がいて、彼は二十歳、仲間を鼓舞するリーダーだった。私を弟のように可愛がってくれた。出撃前『我が国が勝って戦争が終わったら、みんなで花見をしよう』と笑った」
正晴は手帳から黄ばんだ手紙を取り出した。
「出発の朝、彼はこれを私に渡した。『生きて、日本の未来を見届けてくれ』と」
桃香は手紙を見つめ、自分と同じ年頃の青年がこのような手紙を遺すことに、桃香は衝撃を受けた。
「だが、彼は戻らなかった。あの非人道的な特攻作戦の犠牲になった」
正晴の声が震えた。
「その日から、彼を死なせた罪を背負ってる」
「どういうこと、真壁さんは特攻で亡くなったんでしょ?」
「違うんだ、桃香ちゃん」
正晴の声は苦しげだった。ボイスレーダーに録音しているつもりだったが、桃花との会話になってしまっていた。
「おじいちゃんは……私は彼を救おうとした。終戦が近いと噂されていた。特攻も縮小されるかもしれない。日数を稼げば、戦況が変わるかもしれない……だから私は賭けに出た」
「賭けって?」
桃香が尋ねると、正晴は口を開いた。
「私は手紙を書いた。そして、飛行機に細工をした」
兵隊の幻たちが正晴を睨みつけた。
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