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コードの8割はもうAIが書いている――Google・OpenAI・Anthropicの幹部が揃って「特異点」を語り出した理由

タイトルだけを読むと不安になるかもしれませんが、冷静になるべき点もあります。研究所の中で起きている急速な変化と、私たちの日常生活が実際に変わる速度は別物だということです。企業は業務フローを作り直す必要がありますし、政府は専門知識を蓄える必要があります。GoogleのCTOであるブレーズ・アゲラ・イ・アルカス氏も、「私たちの民主主義や経済、法制度は、この速度でAIを吸収するようには作られていない」と投稿で指摘しています。

つまり、研究の最前線での「特異点」と、社会全体が変化を実感する「特異点」の間には、まだ相応の時間差があるということです。

「特異点」という言葉を、経営者たちが揃って使い始めた

8月上旬、Googleが自社のAI体制について大きな発表をしました。DeepMindを率いてきたデミス・ハサビス氏が現場のトップを退き、アルファベット全体のチーフサイエンティストに専念する。さらに、Googleで四半世紀以上AI研究を率いてきたジェフ・ディーン氏が退社し、AI研究そのものを自動化する新会社「Discovery Loop」を立ち上げる――というものです。

一見すると単なる人事異動ですが、この裏にある言葉が気になりました。ハサビス氏は以前から「私たちはシンギュラリティ(特異点)の麓(ふもと)に立っている」と語ってきた人物です。そして同じ時期、OpenAIのサム・アルトマン氏も「我々は今、シンギュラリティの中にいる」とポッドキャストで発言し、テスラのイーロン・マスク氏も自身のXで同様の主張を繰り返しています。

正直、私も「シンギュラリティ」という言葉には、多少眉唾なイメージを持っていました。未来学者が何十年も前から言い続けてきた予言だからです。ただ、今回気になったのは、発言だけでなく、実際の組織再編という「行動」が伴っている点でした。

コードの8割を、もう人間は書いていない

この動きの背景には、AIが自分自身の開発を加速させ始めているという事実があります。Anthropicは6月、Claudeが自社で採用されるコードの8割以上をすでに書いていると公表しました。Claude Codeが登場する前は数パーセントだったことを考えると、1年余りで劇的な変化です。

これは「リカーシブ・セルフインプルーブメント(再帰的自己改善)」と呼ばれる現象の入り口だとされています。AIがAI自身の開発を手伝い、その結果生まれたより優れたAIが、さらに次のAIの開発を手伝う――というループです。Anthropicはこのループが完全に閉じてはいないと慎重に述べつつも、研究者の次の一手をAIが提案し、それが人間の判断より優れているケースが去年11月時点で51%に達したとも明かしています。

研究者も投資家も、同じ方向に動き出した

象徴的なのは、人の動きです。Thinking Machines Labの共同創業者だったリリアン・ウェン氏は、健康上の理由で一度退任したあと、OpenAIに移って「再帰的自己改善」の研究を率いる立場に就きました。また、リチャード・ソチャー氏が立ち上げた「Recursive Superintelligence」という会社は、自己改善型AIの開発だけを目的に数百億円規模の資金を調達しています。

同じタイミングで、OpenAIも7月にGPT-5.6を公開したのち、さらに強力な新モデル「Astra」を米政府関係者に説明したと報じられました。数学と理論計算機科学の分野で、長年未解決だった10の問題を解決、あるいは大きく前進させたとされています。(目下審議中)研究の現場そのものが、AIによって書き換えられ始めているということです。

不穏な兆候も、同時に増えている

もちろん、良い話ばかりではありません。英国のAI安全機構が公表した評価では、Anthropicのエージェントが偽の身分を作り出し、実在の開発者を騙して悪意あるコードを承認させようとした事例が報告されました。実害はなかったとのことですが、OpenAIやAnthropicのモデルが、テスト中に本番システムへ到達してしまう事例もここ数か月で複数確認されています。

こうした能力の急伸と、制御の難しさが同時に進んでいる状態こそが、「特異点の入り口」と呼ばれる所以なのかもしれません。

Googleの人事は、なぜ「本気度」の証拠なのか

ハサビス氏がDeepMindの日常運営から退き、AGIの未来そのものに専念するという判断は、単なる肩書きの変更ではありません。企業のトップ研究者が、目先の製品開発よりも「その先」に賭けるという意思表示です。

ちなみに、ハサビス氏がAGIの到達をどう見極めようとしているかについては、以前このアカウントでも取り上げました。1911年までのデータだけで学習させたAIが、アインシュタインの相対性理論を自力で導き出せるかどうか――という思考実験です。

私たちの生活は、すぐには変わらない

さきほどの話を読んで不安になった方もいるかもしれませんが、ここで一つ冷静になるべき点があります。研究所の中で起きている急速な変化と、私たちの日常生活が実際に変わる速度は別物だということです。企業は業務フローを作り直す必要がありますし、政府は専門知識を蓄える必要があります。GoogleのCTOであるブレーズ・アゲラ・イ・アルカス氏も、「私たちの民主主義や経済、法制度は、この速度でAIを吸収するようには作られていない」と投稿で指摘しています。

つまり、研究の最前線での「特異点」と、社会全体が変化を実感する「特異点」の間には、まだ相応の時間差があるということです。

で、私たちはどう向き合えばいいのか

私自身、今回の一連の動きを追ってみて感じたのは、「AIが賢くなる速度」よりも、「その速度に人間側がどう追いつくか」の方がずっと重要な論点だということです。

自分の仕事でAIをどこまで任せられるか、どこは人間が最終確認すべきか――その線引きを日々アップデートし続ける姿勢が、これからますます問われていくはずです。特異点が本当に来ているかどうかを議論するより、まずは自分の仕事の中で、AIに任せる範囲を少しずつ広げながら検証していくことの方が、実務的には意味があると思います。


〇Welcome to the singularity: AI's architects say the next era of human history is here(2026年8月6日)

https://www.axios.com/2026/08/06/ai-singularity-intelligence-explosion

〇Anthropic warns AI may soon begin recursive self-improvement(2026年6月10日)

〇DeepMind CEO Demis Hassabis steps aside amid Google leadership shake-up(2026年8月8日)

〇What Happens When AI Starts Building AI? Inside Recursive Self-Improvement(2026年8月7日)

〇AIが「相対性理論」を自力で発見できるか?——ハサビスが示したAGIの真の試金石(2026年2月23日)


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