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AIが「相対性理論」を自力で発見できるか?——ハサビスが示したAGIの真の試金石

「AGI(汎用人工知能)はあと5〜8年で実現するかもしれない」——そう語るのは、Google DeepMindのCEOでノーベル賞受賞者でもあるデミス・ハサビス氏です。2026年2月にインドで開催されたインドAIサミットでの発言が、AI業界に大きな波紋を広げています。

しかし単なるタイムライン予測よりも、はるかに興味深かったのは彼が提示した「AGIの判定テスト」でした。

「1911年までのデータで学習したAIが、相対性理論を導き出せるか」

ハサビス氏はAGIを測る具体的な思考実験として、こんな問いを提示しました。

「1911年時点の知識しか持たないようにトレーニングされたAIシステムが、1915年にアインシュタインが導き出した一般相対性理論を、自力で発見できるかどうか。それが真のAGIかどうかを判断する試金石だと思います」

この問いが鋭いのは、単なる性能ベンチマークをまったく無意味にしてしまうからです。今のAIは確かに驚くほど優秀です。数学オリンピックの難問で金メダル相当のスコアを叩き出したり、複雑な幾何学定理の証明を補助したりもできます。しかし相対性理論の発見は、既存の知識を検索・整理するだけでは到達できない領域にあります。アインシュタインがやってのけたのは、誰も見たことのない「知の地図」を一から描くことでした。

同記事によれば、ハサビス氏はこう続けています。

「今日のシステムには、能力の全体的な一貫性が欠けています。数学オリンピック問題ではゴールドメダル級の成績を出せる一方で、少し問い方を変えた単純な数学問題でつまずくことがある。本当の汎用知能なら、そんなことは起きないはずです。ギザギザ(jagged)な知能であってはならない」

この「ギザギザな知能」という表現は非常に的確です。今のAIは得意分野と苦手分野の落差が激しく、まるで凸凹した地形のようなのです。

AGIに何が足りないのか

インドAIサミットに関するOutlook Businessの報道では、ハサビス氏は現在のAIシステムに欠けている能力を3つ挙げています。

一つ目は「継続的な学習」です。今のAIは一定のデータで訓練された後、基本的にその状態で凍結されてしまいます。経験から学び続け、状況に応じて自らを更新していく能力が圧倒的に不足しています。

二つ目は「長期的な計画立案」です。目の前のタスクをこなすことはできても、数年単位の計画を立てて実行するような長期的な一貫性はまだ持っていません。

三つ目は「真の創造性」です。これが最も本質的な壁かもしれません。既存の情報を組み合わせて"それらしいもの"を生成することはできても、アインシュタインやダーウィンが行ったような、前人未到の発見を自ら生み出す創造的な跳躍はまだ遠い話です。

「閾値の瞬間」に立っている

ハサビス氏は一方で、現在の状況を「AGIが地平線に見え始めた閾値の瞬間にいる」とも表現しています。5〜8年という予測は、AI業界の中でも比較的現実的なタイムラインと評価されています。

こうした議論は過去のものでもありません。先日、AI研究者のイリヤ・サツケバー氏が提示した「AGIの再定義」を振り返ってみても、同じような問いが浮かび上がっています。

彼はAGIを「生まれながらに万能な存在」ではなく、「生涯学び続けられる万能な学習者」として再定義すべきだと指摘しました。ハサビス氏の提示した思考実験——「1911年の知識から相対性理論を導き出せるか」——は、まさにそうした「継続的に思考・学習し、未知を発見できる知性」への問いかけでもあります。

また、イーロン・マスク氏が自社のxAIで開発するGrok 5について「真のAGIへの初の真剣な一歩になる可能性がある」と発言したことも記憶に新しいところです。

AGI実現をめぐる競争は、現実のレースとして動き始めています。

リスクも正直に語った

ハサビス氏は楽観論一辺倒ではありませんでした。AIが医薬品開発や気候変動対策、材料科学に革命をもたらす可能性を述べる一方で、「AIは二刀流の技術だ」と率直に認めています。

特にサイバーセキュリティ領域では、すでに今のAIでさえ悪用できるほどの能力を持っています。インドでは2022年から2024年にかけて、サイバーセキュリティインシデントが約2倍以上に急増したというデータも報告されています。「防御側のAIが攻撃側を常に上回る状態を維持することが不可欠」と彼は強調しました。

また、オープンソースのAI開発は普及の恩恵をもたらす反面、脆弱性が発見された際のパッチ適用が困難という新しい種類のリスクも生むと指摘。国際的な協調の重要性を訴えました。

「発見する知性」の問いは、私たちへの問いでもある

ハサビス氏の思考実験には、ある種の謙虚さが込められています。現在のAIがどれほど進歩しても、本当の意味での「知的発見」——既存の地図を塗り替えるような跳躍——はまだできていない。そう認める姿勢は、AI業界のリーダーとして誠実です。

私たちが日常的に使うChatGPTやGeminiは、確かに仕事を速く、便利にしてくれます。しかしそれらは、すでに人間が積み上げた知識の海を巧みに泳ぐ存在です。まだ誰も知らない島を発見する能力——それがAGIへの本当の一里塚になる、というのがハサビス氏のメッセージでしょう。

「1911年のアインシュタイン」に匹敵するAIが誕生したとき、世界はどう変わるのか。その問いは、AIに向けられているようで、実は私たち人間の知性や創造性の本質を問い直すものでもあります。


参考記事

〇A Test Of AGI Could Be If A System Trained Till 1911 Data Could Discover General Relativity: Google DeepMind CEO Demis Hassabis(2026年2月20日)

〇"We Are at a Threshold Moment": Demis Hassabis Says AGI Is Five to Eight Years Away(2026年2月18日)

〇AIの天才イリヤ・サツケバーが明かす、AIの常識を覆す4つの真実|生成AIキュレーター(2025年12月2日)

〇xAI Grok 5がAGI実現への第一歩となるか?イーロン・マスクの野心的な挑戦|生成AIキュレーター(2025年8月25日)

〇Demis Hassabis just defined the real test for AGI — and it's a fascinating one | LinkedIn(2026年2月)


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