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花言葉は知らない

「まただ。」
さちかは呆然とした。



さちかの家へ続く道ぞいに、小さな雑貨屋がある。

とてもかわいいお店で、りぼんやフリルや、色とりどりのお菓子や・・・。世界中のかわいいは、ここに標本として集められているんじゃないかと思うほど、胸がふわっとうきたつような、そんな雑貨でいっぱいのお店。

今朝はバスで出かける用事があり、さちかはその道を通った。
「あ!」と目を引いたのは、あざやかなマゼンタピンクの押し花。
押し花と言っても、そのまま押したものではなくて、大きな花びらを一枚ずつ重ねて並べた、平面だけど少しだけ立体のように仕上げた感じ。

あぁ、そうだ、この色。
ちょうど週末にさちかが玄関先に置いた寄せ植えの、ラナンキュラスの色によく似ていた。

ぱっと目を引くその自信に満ちた色あいを、さちかは白や淡いピンクで囲んでやさしい雰囲気にまとめて、自分でも気に入った感じに作り上げていたのだ。

今から向かう先での用事のことなんかそっちのけで、さちかは帰宅後に寄せ植えに水をやる自分を思いうかべて、にこにことした。
好きなものを手ずから整えて、それで少し気持ちが踊る。

さちかはこうやって、自分の毎日がほんの少しだけ華やぐのが好きだった。

早く帰ってゆっくり眺めたいな。
そう思いながら、ちょっとうきうきする気持ちでバスに揺られ、「あぁそうだ、横に少し緑を足そう、なにがいいかな」なんて、頭の中で緑のグラデーションを描いた。

今朝は少し急いでいて、鉢に目をやることもないまま出てきてしまったから、よけいに早く土に触れたくて、さちかはまだ着かないうちから、帰宅後のことばかり想像していた。




夕方、疲れた体を座席にしずめて、さちかは窓の外を見ていた。
前から後ろへ流れる景色を見るともなくながめて、この景色はどこから始まってどこで終わるんだろう、なんてよくわからないことを考えたりしていた。

バスが着くと、さちかは少し元気になって、最後の一歩を跳ぶようにして降りた。
そしてPetit Bonbon ーペティ ボンボンーの前を通りすぎる。

朝、目を奪われた押し花のフレームが、夕方の陽をあびて、また少し違う色あいに見えた。
きれい。
さちかは2秒くらい見とれて、そして歩きだした。

早く帰って、寄せ植えに水をやろう。
そしてグリーンを添えよう。
手に持った丸葉のリーフをやさしくきゅっと抱くようにしながら、さちかは足をいそがせた。




「まただ。」
さちかは呆然とした。

ラナンキュラスが掘り取られている。
マゼンタピンクの株だけが、ごっそりとなくなっている。
誇り高くそこに咲いていたはずの花は、今、大きな穴をひとつ残して、姿を消していた。

「どうして。」
かわいた声でさちかは喉の奥をゆらした。

これは、初めてのことではなかった。
さちかが季節の花を植え替えるたび、なにかいたずらをされているのはわかっていた。

これまでは、配置を変えられていたり、なぜか反対側へ移動されていたりといった感じで、気持ちがざわつくくらいのことだった。
リーフを1本抜き取られたこともあったが、それはとられたのかどうかはっきりとはわからず、さちかは気のせいだと思うことにした。

いま、確信に変わった。
鉢から大輪の花が消えうせ、無残な穴がこちらをうらめしそうに見ている。

Petit Bonbon。
ふわふわのロングウェーブを低い位置でゆったりと結んで、うっすらとそばかすのある笑顔がかわいい、店主の顔がうかんだ。

目を止めたあのあざやかな押し花のフレームは、「さちかのラナンキュラスの色に似ていた」のではない。
「さちかのラナンキュラス」だった。

あぁ、間違いない。
さちかの胸に、押しつぶすような感触が乗ってきた。

花なんて、どこででも買える。
名前が書いてあるわけじゃない。
でも、あれは確かにさちかのラナンキュラスだった。

あぁ、あの人はあの笑顔で、さちかの花びらをむしり取ったのだ。

さちかは、ゆっくりと鉢植えの前にしゃがみこむと、そっと手のひらを土に差し出して、大きな穴をなでた。
まわりに押しやられて盛り上がった土を、ひとなで、ひとなで、ていねいに穴へいざなってその傷をうめた。

そしてその手を払いもせず、そのまま鉢ごと抱きしめた。

頭を殴られたような、足元から激しく揺らされるような、そんな感覚がからだ中を走る。

言葉は出てこなかった。
ゆっくりとドアを開けた。
そっと玄関の中に鉢植えを入れた。





さちかの花はなくなってしまいましたが、この庭には、ひとつずつ花を植えることができます。

はしゃもさんの推し庭、あなたの記事にも作れます。


KITAcoreさんのSAMUNE PRESSを使ってアイキャッチ作ってます。
めずらしく今回苦戦しました💦
NG集だそうかな。

KITAさん、3日間だけティザー公開中です。


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