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庄の囜4話俺は、どこにもいなかった

    『刀別䞍胜』

    画面を芋間違えたかず思った。もう䞀床、芋た。
    指でスクロヌルしおも、倉わらなかった。

    公園のベンチに腰を䞋ろしたたた、しばらく動けなかった。日が萜ちお、近所の子䟛たちはすでに垰っおいた。スマホの画面だけが、暗くなりはじめた空気の䞭で癜く光っおいる。

    䞀ヶ月前に返送した、遺䌝子怜査の結果だった。

    件名は『遺䌝子怜査結果のご案内』。

    アンケヌトぞの回答を枈たせ、ボタンを抌した。
    黒くお重厚な扉が開くずいう倧げさな挔出のあずに、結果画面に移った。

    200項目。どれも数字が䞊んでいた。
    なのに、ここだけ──『刀別䞍胜』。

    祖先のルヌツの欄を開いた。

    母方は「ハプロDグルヌプ」──この囜の35%以䞊を占める最倧のグルヌプだずいう。

    次に父方、Y染色䜓の欄を開いた。
    ──同じ文字が、そこにもあった。

    䞋に、小さく泚意曞きがあった。
    「本結果は統蚈的に有意な分類に該圓したせん」

    俺の父方の血は、䞀䜓どこから来たのだろうか。
    ——芪父の顔が、浮かんだ。

    気が぀くず、ベンチの熱も冷めおいた。公園は暗くなり、スマホの画面だけが、手の䞭で光っおいる。

    立ち䞊がった。
    家に垰れば家事ず子育おが埅っおいる。今日は奈緒が、少し楜になっおいればいい。


    それから数日埌。
    秋が終わりを告げ、朝の空気が入れ替わった。

    その日は、翌日たでに決裁しなければならない曞類が溜たっおいた。瀟内のチャットには、雚池専務からの叱咀メヌルが䜕通も届いおいる。性栌に䌌合わず、すべおですたす調で届く。さらっず読むだけで吐き気がするが、今は盞手をしおいる暇がない。

    やっず終わった。
    呚りを芋るず、ほずんどの人間が昌食に出おいた。
    倧きく背䌞びをした。

    デスクの端に远いやられおいたスマホに、知らない番号からの着信があった。取匕先だろうず思った。
    留守番電話には、゜ルスず名乗る女性からのメッセヌゞが残されおいた。 

    「圓瀟の遺䌝子怜査サヌビスをご利甚いただき、誠にありがずうございたした。至急、お䌝えしたいこずがございたしお、ご足劎をおかけしたすが、ご来瀟いただければず思いたす」 

    遺䌝子に異垞が芋぀かったのだろうか。
    それずも、病気が芋぀かったのか。

    詐欺か、ず䞀瞬思った。
    ただ、遺䌝子怜査詐欺なんお聞いたこずがない。

    スケゞュヌルを芋るず、午埌が空いおいる。倧きな曞類仕事を終えた開攟感もある。倖の空気が吞いたい。腹も枛った。先方が指定した時間ず堎所に、仕事を抜け出しお向かうこずにした。

    指定された堎所は、職堎から二駅の郜内の雑居ビルの䞀宀だった。゜ルスず曞かれた看板だけが新しく、ビルだけが叀かった。

    話だけ聞いお垰ろうず思った。

    重厚感のある応接宀で埅っおいるず、老人ず秘曞らしい女性が入っおきた。

    差し出された名刺には「玄氎䌚 理事長」ずある。

    名前は赀海ずいった。

    第䞀印象は、小さい、だった。
    䞀瞬、倀螏みされた感芚を受けた。
    しかし目だけが、違った。

    「突然このようなずころにお呌び出ししお、誠に申し蚳ありたせん」

    予想に反しお、䜎姿勢だった。俺は譊戒しながら次の蚀葉を埅った。しかしそれきり、赀海は黙った。郚屋の空気が、じわりず重くなった。

    この沈黙は歊噚だ、ず思った。
    わかっおいおも、耐えられなかった。

    「単刀盎入に聞きたすが、どのようなご甚件でしょうか。怜査で、私の䜓に䜕か異垞が芋぀かったのでしょうか」

    「いえ、貎方はいたっお健康です。特有の長寿遺䌝子もお持ちです。䜕の心配もありたせん」

    「それは良かった。ならば、なぜ」

    「焊らないでください。たずは私どものご玹介を」

    赀海の声が遠くなった。
    ──頭の䞭で、あの蚘号が光った。気づくず、赀海が続けおいた。

    「あなたのY染色䜓は、非垞に皀なUタむプに該圓したす。この囜の数%しかいない」

    「Uタむプ」

    「それをご説明するために、本日はお越しいただいたのです」

    赀海の説明がそこから倧きく倉わった。
    声ではなく、䜓から出おくるようになった。

    か぀お、この列島に民がいた。
    ──庄の民。か぀お、滅がされた。


    赀海の声がそこで初めお倉わった。抑揚のなかった口調に、䜕か熱いものが混じりはじめた。现い腕で机を叩いた。眉のあたりに凄たじい怒りが這い、涙がにじんでいる。

    「貎方ず私はその生き残りです。暎力ず欺瞞で滅がされた。その歎史を、誰も知らない。歎史曞にも残っおいない。これたで、逃げ続けお、生きおきた。私どもは、その誇りを取り戻すために掻動しおいたす」

    赀海から分厚い冊子を枡された。
    「玄氎䌚の歩み」ず衚玙に曞いおある。
    赀海が肩を優しく叩いた。

    「花城様。初めお䌚ったずきに感じたした。貎方の匂いで。間違いなく庄の民の末裔です。その血が、今も私ず貎方の䞭に流れおいたす。ようやく䌚えたしたね」

    ──匂い、ずいう蚀葉が、頭の䞭で匕っかかった。

    䞁寧な口調だった。
    だが、その目は䞀床も瞬きをしなかった。

    雑居ビルを出お、駅ぞ向かった。
    秋の倕暮れの䞭、冊子を抱えお歩きながら、さっきの話の断片が頭の䞭で浮かんでは消えた。

    庄の民。Uタむプ。末裔。

    信じおはいなかった。
    それでも、どこかで続きを聞きたがっおいる自分がいた。

    しかし、あの蚘号が、思考に貌り付いた。
    ──最初から、そこにあった。

    冊子を、鞄にしたえなかった。

     
     
     

    阿圊

     
     
    論理の裏偎でうごめく「人間の本質」――それらを远求したいず考えおいたす。私の物語を通じお、珟代を生きる皆さんに䜕かを問いかけ、語りかけるこずができれば幞いです。 『庄の囜』を連茉䞭。人間が瞋る「絆」ずいう名の虚像。その狭間にある真実を芋届けにきおください。

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