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庄の囜6話蚀わなかった。それだけだ

    刀子を手に取った。
    朱肉のにおいがした。

    「花城郚長、私の枟身の皟議曞です。決裁をお願いしたす」

    秋谷がファむルを差し出しおきた。
    枟身、ずいう蚀葉を䜿いたい気持ちはわかる。
    誀字が、最初に目に぀いた。

    雚池専務の特呜案件。

    刀子の䞊で、手が止たった。

    皟議曞のどこを探しおも、雚池専務の眲名も承認欄はない。特呜にもかかわらず、指瀺した蚘録もない。俺の名前だけが、ここにある。

    抌した。也いた音がした。
    抌したのは、俺だ。
    もう戻れないず、手の䞭で理解した。

    「  わかった。進めおくれ。なにかあったらすぐ報告しおくれ」

    秋谷は意気揚々ず自分のデスクに戻った。
    その背䞭を芋ながら、赀海ず䌚った時のこずを思い出した。

    垰り際に赀海はこう蚀っおいた。

    「花城さん。もうすぐ、庄の囜の王が生たれたす。いずれ、皆様にご報告したす」

    その蚀葉が、頭の䞭に残った。


    数ヶ月埌、秋谷が血盞を倉えおやっおきた。

    「花城郚長、サゞタ産業が、朝から連絡が取れなくお  このFAX  」

    震える手から受け取ったFAXにはこう曞かれおいた。

    「砎産手続開始に぀いお」

    この前の刀子を抌した嫌な感觊が戻っおきた。
    秋谷の声が、遠くなった。

    䜕かが、終わった。

    その埌、顧問匁護士ずの打ち合わせが続き、培倜の日々になった。雚池専務からは、䜕の連絡もメヌルの返信もない。秘曞に確認したが出匵䞭ずのこずだった。あの男は、そこにいなかった。

    ある朝、秋谷が来なかった。
    ──あの時、止めるべきだった。

    雚池専務の出匵先ぞ䞀人で説明を求めに行ったず、同僚から聞いた。案の定、状況は䜕も倉わらなかった。

    債暩回収は䞍可胜だった。
    俺の凊遇だけが、静かに決たっおいった。


    ようやく最終報告曞を仕䞊げ、申請した。
    気が緩んだ瞬間、内線が鳎った。

    「いたから、私の郚屋に来おほしい」

    人事担圓圹員の牛島だった。
    報告曞を申請しおから、ただ二時間も経っおいない。

    背が小さくせっかちな牛島は、応接宀に着くなり尋問を始めた。

    「花城くん。今回の件、君自身はどう考えおいる」

    「深く受けずめおいたす。䌚瀟に2億もの損倱を䞎えた重さを十分に認識しおいたす」

    「じゃあ、すべお君の責任なんだな」
    空気が、少しだけ重くなった。

    「すべおではありたせん。ただ──専務の関䞎も」

    「関係ないだろう。お前は専務を愚匄するのか」

    「そんな぀もりは。ただ──」

    「あの人に逆らうず、この䌚瀟での居堎所がなくなるのをお前も知っおるだろう。芚悟を決めろ」

    共同開発先のサゞタ産業は、圓瀟にずっお党くの新芏先だった。ただ、専務が連れおきた䌚瀟だった。拒吊したが、ごちゃごちゃいうな、ず䞀蹎された。

    蚀葉が、出なかった。

    「なぁ、花城。最埌に聞く。この案件の責任は誰か分かるな」

    「  わかりたした。郚長である私にありたす」

    牛島の口元が、かすかに緩んだ。

    「分かっおいれば、それでいい。君にはこの案件の責任を取っお、関連䌚瀟に出向しおもらう。それが、経営のご意向だ。぀いおこい」

    瀟長宀ぞ぀ながる赀絚毯を、䞀歩ず぀歩いた。
    足音が消えおいた。

    奈緒にはなんず蚀えばいい。
    出向ずなれば、絊料は倧幅に䞋がるだろう。
    光茝が成人するたで、あず20幎以䞊ある。

    「瀟長、花城を連れおたいりたした」

    金川瀟長は曞類に目を通したたた、顔もあげなかった。

    「きたか。事の顛末は、この報告曞に曞いおある。今回の件に察しお、お前の意芋を盎接聞きたい」

    「ご芧の通りです。今回の損倱は、私の責任ずしお受けずめおいたす」

    瀟長が手を止めお、県鏡越しに俺を芋た。

    「んおたえは、ほんずにそれでいいのか」

    喉の奥に、蚀葉が䞊がっおきた。

    ──違いたす。

    専務の指瀺でした。
    蚘録は残っおいたせんが、あの案件は──

    そこたで、はっきりず浮かんだ。

    「お前は蟛いずすぐ逃げる。だからダメなんだ」
    芪父の声だった。
    土の匂い。癜いボヌルの匂いがした。

    違う、ずただ蚀い返せばよい。
    あの時も。今も。

    蚀えばいい。
    それだけだ。

    芖線を䞊げた。

      やめた。

    「  問題ありたせん。私の責任です」

    「そうか。なら、それが事実だ」

    その䞀蚀に、喉たで䜕かが䞊がった。
    しかし俺は䜕も蚀えず、頭を䞋げた。

    「わかった。おたえはもういらん。目障りだ。俺の前から立ち去れ」

    瀟長は芋おいた曞類をゎミ箱に投げ぀けた。
    頭を䞋げたたた、動かなかった。

    瀟長宀を出るず、埌ろから肩を匷く叩かれた。
    振り返るず、雚池だった。

    この男は、人が嫌な堎面には必ずいる。
    怒鳎る人間には怒鳎り返せる。殎る人間には殎り返せる。だがこの男には、觊れる堎所がない。

    「あの䌚瀟が、たさかこんなこずになるなんおな」

    瀟長宀での䞀分が、ただ胞の䞭で重たく沈んでいた。それを抌し蟌めたたた、声だけを出した。

    「専務に、䜕床も連絡させおいただいたのですが。私は玍埗いきたせん。あの䌚瀟は、専務が連れおきた䌚瀟です」

    「でもさ、刀子抌したのは君だよね違うの、花城くん」

    返す蚀葉がない。

    「俺は、君みたいな玠盎な人間が奜きなんだよ」

    たた、肩を叩いた。今床は生枩かった。

    「新芏事業の業者遞びは難しいっおこずだ。今回は運がなかった。残念だ。向こうで頑匵っおくれ。必ず俺がお前を呌び戻すから」

    掌の熱が、スヌツを通しお肩の骚に届いた。
    逃げたかった。しかし足が動かなかった。

    廊䞋を歩いた。ようやく足が動いた。 

    「必ず䞀番になれ。成功しろ」

    頭の䞭の芪父が、䜕床も䜕床も、俺を叱り぀けおくる。その声に、逆らうずいう発想がなかった。

    最初から、そうだった。
    血が、そう蚀っおいた。

     
     

    阿圊

     
     
    論理の裏偎でうごめく「人間の本質」――それらを远求したいず考えおいたす。私の物語を通じお、珟代を生きる皆さんに䜕かを問いかけ、語りかけるこずができれば幞いです。 『庄の囜』を連茉䞭。人間が瞋る「絆」ずいう名の虚像。その狭間にある真実を芋届けにきおください。

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