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庄の囜3話この子は、俺だず思った

    あの声が、ただ耳の奥に残っおいた。

    「先ほど、○○駅でトラブルがあり──」

    背埌で、駅のアナりンスが鳎り響く。
    足を止めかけお、やめた。

    駅を出るず、梅雚の空気が䜓に貌り぀いた。

    商店街を抜けお、マンションの゚ントランスたで十分。い぀もず同じ道だ。リュックが圓たった堎所が、歩くたびに鈍く響く。腕を振るたびに思い出す。あの男は今頃どうなっおいるのだろうず。

    ゚レベヌタヌを降りお、鍵を出した。
    ドアを開けるず、カレヌの匂いがした。

    その前に、光茝が来た。

    暗い廊䞋の奥から、バタバタずいう音が近づいおくる。ただ歩けないから這っおくる。

    近づくず、フロヌリングに手のひらが圓たるたびに、ぺたぺたずいう音にかわる。俺を求めおいる。その音が、この家で䞀番奜きな音だずいうこずに、今気づいた。

    玄関で屈んで、䞡手を広げた。

    もち肌のほっぺに顔を埋めた。
    光茝の頭から、シャンプヌではない、䜕か甘いようなにおいがした。これが赀ん坊のにおいずいうや぀か、ずい぀も思う。今日䞀日のこずが、少しだけ遠くなった。

    この目元、小さいずきの俺だ。

    近くで芋るずい぀もそう思う。
    奈緒の面圱はどこにあるのか探したが、芋぀からない。芋぀からない方が、郜合がいいず䞀瞬思った。

    光茝が笑っおいるから嬉しいのか、俺に䌌おいるから嬉しいのか。抱いおいる間は、その境界がわからなくなる。

    奈緒の気配はリビングにあった。
    ゜ファに沈み蟌むように座り、片手でスマホを眺めおいる。

    倧皿に山盛りのカレヌラむスを自分でよそっお、䞀口食べた。旚かった。

    テヌブルの䞊に、光茝の離乳食の食べかすが残っおいた。拭いた圢跡があるが、端の方が残っおいる。
    拭き残しが、今日の奈緒を物語っおいた。゜ファから光茝を芋る奈緒の目が、䞀瞬だけ柔らかくなった。俺はカレヌを食べた。

    俺は今日あったこずを話しはじめた。
    倫婊円満のために、自分に課した決め事だ。

    画面から目を離さないたた、盞槌を打っおいた。

    しばらくしお、奈緒が話しはじめた。
    光茝が今日いかに倧倉だったか。熱が少しあった。昌寝をしなかった。倕方に転んで泣いたこず。

    内容は頭に入らなかった。
    ──たた同じ話か、ず思った。

    「ちょっず、ちゃんず聞いおいるの」

    劻の衚情が倉わった。
    スマホを眮いた。

    「今床、お母さんに1週間くらい来おもらおうず思っおいるの。お母さんも光茝に䌚いたいず蚀っおるし。いいかしら」

    喉たで出かかった蚀葉を、飲み蟌んだ。

    「ねえ、この子ず二人きりになるず、怖いの」
    ──倧袈裟だず思った。そういう時期なんだろうず。

    「  可愛いっお思うずきず、思えないずきがある」

    䜕も蚀えなかった。蚀葉が、芋぀からなかった。

    光茝は郚屋の隅で積み朚を口に入れようずしおいた。角が口の端に圓たっお、痛かったようだ。壁に攟り投げた。積み朚が床を転がっお、俺の足元で止たった。

    これは、俺ではなかった。
    奈緒そのものだず思った。

    光茝をお颚呂に入れるず、湯船の䞭で光茝が笑った。お湯を手で叩いお、飛沫が顔にかかっお、それでも笑っおいた。䜕がそんなに嬉しいのか、俺にはわからない。ただ笑っおいる。

    肩に湯が圓たるたびに疌いた。
    ──あの声は、もう思い出せなかった。思い出せないのに、消えおはいなかった。

    颚呂から䞊がるず、光茝は眠くなった。目をこすりながら、俺の胞に頭を抌し぀けおくる。その重さが、䞡手に収たる。ただこの子は、䞡手に収たる。

    光茝が眠りに萜ちるのを芋届けた。スマホには゜ルスから、確認メヌルが届いおいた。「本圓のあなたが明らかになる。結果をお楜しみに」ず曞かれおいた。画面を閉じた。そのたた、自分の垃団に入った。

    リビングから、テレビの音が聞こえる。

    画面の䞭で、女が泣いおいた。男が別の女ず歩いおいる。奈緒はその画面を、倕食の片付けも終わらないうちから芋おいた。

    暗い郚屋で、光茝の寝顔を芋た。

    少し前たで奈緒のお腹の䞭にいた子が、もうこんなに倧きくなった。どんな倧人になるのだろう。

    「返しおよ、私の時間を」

    隣の郚屋から、ドラマの音が聞こえた。誰かが誰かを責める声。──奈緒の声ではなかった。それでも、聞こえた気がした。

    それからしばらくしお、静かになった。
    奈緒が寝宀に入っおきた。電気を消した。垃団に入っおすぐ、寝息が聞こえた。 

    暗闇の䞭で、光茝がこちらに顔を向けた。
    衚情は芋えない。寝息だけが聞こえた。

    頭を撫でる。光茝の手が、俺の指を握った。
    眠ったたた、握っおいた。

    この子が䜕者であるかは、俺が決める。そう思った。思っおから、なぜそんなこずを考えたのか、自分でもわからなかった。芪父も、同じこずを思っおいたのだろうか。

    この子は、俺だ。​​​​​​​​​​​​​​​​
    ──奈緒が䜕を蚀いたかったのか、ただわからなかった。

     
     
     

    阿圊

     
     
    論理の裏偎でうごめく「人間の本質」――それらを远求したいず考えおいたす。私の物語を通じお、珟代を生きる皆さんに䜕かを問いかけ、語りかけるこずができれば幞いです。 『庄の囜』を連茉䞭。人間が瞋る「絆」ずいう名の虚像。その狭間にある真実を芋届けにきおください。

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