
「SaaSの死」で本当に死んだもの|8銘柄の決算が映すAI時代の評価軸
DuolingoのQ1決算を見ただろうか?
DAU(日間アクティブユーザー)は前年比+21%、利益も予想を大幅に上回り、数字だけ見れば「好決算」だ。なのに株価は52週高値から77%落ちた。

業績が壊れていないのに、株価が壊れる。市場が疑っているのは今期の売上ではない。5年後もそのサブスクリプションが払われ続けるかを疑っている。AIが語学学習を代替する未来が来たとき、月額課金の理由そのものが問い直される。その「まだ起きていない侵食」を、株価はすでに織り込み始めた。
Duolingoはエンタープライズ向けSaaSではないから、本編の比較対象には入れない。しかしこの銘柄が映し出す構造は、いまSaaS株全体を覆っている不安そのものだ。
「今の数字が良くても、未来の課金理由が疑われたら株価は壊れる」。
この不安を、エンタープライズSaaS 8銘柄の決算で検証する。
「SaaSの死」とは何が死んだのか
2026年2月、SaaS銘柄群から48時間で約2,850億ドルの時価総額が蒸発した。市場ではこの売りを「SaaSpocalypse」と呼ぶ声が出た。AnthropicのClaude Coworkリリース、OpenAI Project Operatorの広域展開、BainとDeloitteが、AIエージェントによって従来のシート課金が見直しを迫られる可能性を指摘した。SalesforceとAdobeは年初来25%超の下落。IGV(iShares Expanded Tech-Software Sector ETF、米国ソフトウェアETF)は2025年9月の高値から30%超下落し、ソフトウェア株全体が売り込まれた。
4ヶ月経った今だからこそ考えたい。何が死んだのか。
SaaSという事業モデルそのものが崩壊したわけではない。死んだのは、「サブスクリプション収益なら永続的に高く評価してよい」という値付けの前提だ。
SaaS株のバリュエーション(株価評価)が他のセクターより高かった理由は、サブスク、高粗利、低解約率、NRR(Net Revenue Retention:既存顧客が前年比でどれだけ多く払っているかの比率。100%を超えていれば既存顧客だけで売上が伸びていることを意味する)という4つの言葉に集約される。加えて、多くのSaaSは工場や在庫を持たず、製造業ほど重い設備投資を必要としない。売上が増えても利益がキャッシュに変わりやすい資本効率の高さがある。この構造が「収益が安定して積み上がり、しかも利益率が高い」という保証になり、PSR(株価売上高倍率)やPER(株価収益率)に厚いプレミアムを乗せていた。
AIエージェントの登場が揺るがしたのは、その「積み上がりが永続する」という信頼そのものだ。将来の解約率が上がるかもしれない。NRRが下がるかもしれない。シート数が減るかもしれない。いずれも「かもしれない」にすぎないが、バリュエーションは将来の「確実性」に値段をつけている。確実性が揺らげば、今期の数字がどれだけ良くてもマルチプルは剥落する。Duolingoで起きたことは、その構造の最も鮮明な表出だ。
ただし、全部が壊れたわけではない。ServiceNow(NOW)のQ1 2026決算を見てほしい。

売上+22%、cRPO(1年以内に売上化される契約残額)+22.5%、FCFマージン44%。これは「SaaSの死」と呼ばれた四半期のど真ん中に出た決算だ。
DuolingoもServiceNowも、業績の数字自体は悪くない。チャートはどちらも下落トレンドにある。だが下落の深さとその後の回復の速度がまるで違う。Duolingoは77%沈んだまま戻らず、ServiceNowは決算後に持ち直しの兆しを見せている。
同じSaaSというラベルなのに、なぜこの差が出るのか。 それがこの記事のテーマだ。
AIエージェントはSaaSをどう侵食するのか
SaaSの値付け前提を崩している力は、3つの侵食パターンに整理できる。
パターン1:AIが既存SaaSの画面を操作してしまう
OpenAI Operator、Claude Cowork、MicrosoftのCopilot Wave 3。これらがやっていることの本質は、人間の代わりにSaaSのボタンを押すことだ。
あなたの会社がSalesforceを500シート契約しているとする。営業担当500人がそれぞれログインし、商談を入力し、レポートを見ている。そこにAIエージェントが入り、50人分の入力作業を1つのエージェントがこなすようになったら。500シートは本当に必要か。
シート課金の根拠は「使う人間の数」だ。AIが人間の代わりに操作するようになれば、シート数の土台が揺らぐ。
パターン2:特定業務そのものをAIエージェントが置き換えてしまう
Sierra(評価額45億ドル)やDecagonのようなバーティカルAIエージェントは、カスタマーサポートや営業支援といった業務を「丸ごと」引き受ける。SaaSが「ツールを提供する」のに対し、彼らは「仕事そのものを代行する」。しかもアウトカム課金(解決したチケット数や成約数に応じた課金)で参入してくる。
「月額いくらでツールを使う」と「解決1件あたりいくら払う」。少なくとも、企業の調達担当者が比較せざるを得ない土俵に乗ってくる。
パターン3:企業が欲しい機能を自前で作れてしまう
Claude Code(年間売上規模10億ドル)やCursor(評価額500億ドル超)の登場で、ソフトウェア開発の生産性が跳ね上がった。かつては「自社で作るより買ったほうが安い」がSaaS導入の大前提だった。その前提が崩れつつある。
ただし、作るコストと運用するコストは別だ。セキュリティパッチ、障害対応、法規制対応、バージョン管理は自前ツールにも全部ついて回る。SaaSを買う理由の半分はそこだ。AIが保守まで担える領域は広がっているが、本番の信頼性を丸投げできる段階にはまだ至っていない。作るコストの急落と、運用保守を含めた総コストの差がどこまで縮まるかが、パターン3の侵食速度を決める。
圧力は加速している
Claude Opus 4.8が5月28日にリリースされたが、前バージョンの4.7から約6週間。同社史上最速のバージョン更新だ。しかも同価格帯で性能が向上し、fast modeは前世代の3分の1のコストになった。「SaaSを迂回する力」「SaaSの業務を代行する力」「SaaSを自前で作る力」のすべてが、四半期ごとに強くなり続けている。
「SaaSは死ぬ」派の最強論点
ここで、SaaS悲観論の最も強い形を正面から見ておこう。
AIエージェントがユーザーの入口を握る。人はSaaSの画面を直接開かなくなる。シート数は減る。AIが複数SaaSを横断操作すれば、個々のSaaSはAPIを叩かれるだけのバックエンドとして後景化する。社内開発者はClaude CodeやCursorで必要なアプリを自作する。大企業はMicrosoft、Google、AWSのAI基盤に集約を進め、個別SaaSの価格決定力は低下し、マルチプルは切り下がる。
この論理は筋が通っている。反論しにくい部分も多い。
だが、すべてのSaaSがこの論理に当てはまるわけではない。 AIエージェントが増えるほど、むしろ構造的に需要が増すレイヤーがある。「食われる」のではなく「食うために必要とされる」側のSaaSが存在する。
最大の反論:Microsoftが全部取るのでは
「結局Microsoftが全部飲み込むのではないか」。
合理的な疑問だ。そして部分的に正しい。
MicrosoftはOS、Office、Teams、Azure、Entra ID、Defender、GitHub、Power Platformを擁する。Copilot Studioは23万組織超が利用していると報じられており、Microsoft 365の上位ライセンスにAI機能をバンドルする戦略で、既存契約基盤は巨大だ。差別化が薄い単機能SaaSは、Microsoft製品群に「機能として吸収」されるリスクが現実的にある。
Microsoftの守備範囲は圧倒的に広い。しかし、すべての業務領域で最深部まで取り切れるわけではない。Microsoftが最も得意なのは「80%の機能を全顧客に配る」ことだ。しかし特定業務の最後の20%を掘り切るのは専業の仕事であり、そこにServiceNow、Palantir、Snowflake、Palo Alto Networks、CrowdStrike、Datadogが生きる余地がある。深い専門性と長年のデータ蓄積が参入障壁になっている。
問題は「余地がある」で安心することではなく、どの銘柄にどれだけの余地があるかを見極めることだ。
SaaS生存の3条件
DuolingoとServiceNow。業績はどちらも悪くないのに、株価の明暗はまるで違った。この差を突き詰めると、3つの条件に集約される。
条件1:通り道か、行き止まりか
AIエージェントがタスクを実行するとき、必ず通過しなければならない場所にいるソフトウェアは生き残る。
API(ソフトウェア同士が通信するための接続口)やワークフローエンジン(業務の承認・処理の流れを自動管理する仕組み)、権限管理システムはエージェントにとっての「通り道」だ。エージェントがどれだけ賢くなっても、承認プロセスを飛ばすことはできないし、認証なしにデータベースに書き込むこともできない。
一方、人間がクリックすることを前提に作られた画面だけを提供しているソフトウェアは「行き止まり」になる。エージェントはその画面を迂回できるからだ。
条件2:書き戻しを握れるか
AIエージェントが「こうしたほうがいいですよ」と提案するだけなら、便利なアドバイザーだ。しかしエージェントが基幹システムに直接「書き戻す」(データの変更、承認、登録を実行する)ようになると、書き戻しの権限を持つソフトウェアは、提案ツールから実行インフラに格上げされる。
ここに権限管理と監査ログが絡む。Okta(OKTA)はエージェントを独立IDとして管理する方向に動いている。ある調査では、エージェントの88%がセキュリティ上の懸念を指摘される一方、独立ID管理を実施しているのは22%にとどまる。
書き戻しで最も重い接続先の一つはERP/HCM(Workday、SAP、Oracle)のような基幹システムだが、権限管理と監査の要件が極めて重く、導入に時間がかかる。書き戻しの侵食は「遅いが深い」。3年以上のスパンで見るべきテーマだ。
条件3:AIが働くほど売上が増えるか、減るか
消費課金やアウトカム課金なら、AIエージェントの活動量が増えるほど売上が伸びる。シート課金に依存するモデルは、エージェントが人間の代わりに作業するほどシート数が減り、売上が縮むリスクを抱える。
AI売上の「質」を疑う目
SaaS各社が発表するAI関連売上やARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)の「質」にも目を向けたい。
防衛的AI売上。
既存製品にAI機能を載せ、解約を防ぐもの。成長爆発にはつながりにくい。
アップセル型AI売上。
既存顧客の単価を引き上げるもの。たとえば今まで月100万円払っていた顧客がAI機能付きプランに切り替えて月150万円になった、というイメージだ。顧客数は増えていないが、1社あたりの単価が上がる。NRR改善に寄与するが、新規市場の拡大とは別物だ。
課金メーター型AI売上。
AIワークロードの利用量がそのまま課金に直結するもの。爆発力が最も大きいが、推論コストで粗利率が下がるリスクも伴う。

ここまで来ると、「SaaS」という言葉がかなり雑なラベルに見えてくるはずだ。通り道にいる会社と行き止まりにいる会社を、同じ一語で括ること自体に意味がない。
8銘柄の決算検証
細かい数字は多い。ただ、見るポイントはシンプルだ。この会社の売上は、AIが動くほど増えるのか。それともAIに迂回されて減るのか。 8銘柄を役割別に4つのグループに分けて検証する。


実行・統制レイヤー:PLTR、NOW
AIエージェント時代に「誰が実行を統制するか」を握るポジション。
Palantir(PLTR)

売上+85%、GAAP営業利益率46.2%、Rule of 40(売上成長率と利益率の合計。40%以上が優良企業の目安)は145%。数字の強さは8銘柄の中で突出している。
しかし投資家が確認すべきなのは数字の大きさではなく、その構造だ。PLTRの強みはOntology(データの関係構造をあらかじめ設計し、AIエージェントがその構造を理解した上で行動する仕組み)にある。「書き戻し設計」が最初から組み込まれており、エージェントは定義された権限とルールの中で実行する。3条件すべてを設計思想のレベルで満たしている。
予算源にも注目すべきだ。PLTRは単なるIT予算だけでなく、業務改善、オペレーション変革、人件費削減の文脈からも予算を取りにいける。もはやSaaSというカテゴリで語ること自体に違和感がある。AI実行基盤というほうが実態に近い。
PLTRはSaaSというより変革プロジェクトに近い面も持つ。導入コンサルティング、顧客内での運用設計、組織変革まで含めた重い実装が強みである一方、ソフトウェアだけで勝手にスケールする一般的SaaSとは拡大の仕方が違う。導入の深さは堀であると同時に、スケール時の摩擦にもなりうる。そしてこれだけの構造的強さは現在のマルチプルにすでに反映されており、成長率が鈍化した瞬間の下落幅は8銘柄で最も大きくなる可能性がある。
PLTRのERP領域での構造的強みについてはこちらの記事でも書いている。
私にとってPLTRはコア保有。構造を信じている。マルチプルの問題はあるが今も買い増し対象だ。ここ数日で株価は大きく戻したが、私は125ドルを買い増しラインに設定して待っていた。そこまで落ちてこず買い逃している。引き続きチャンスを探る。
ServiceNow(NOW)

売上+22%、cRPO+22.5%、FCFマージン44%。500万ドル超の取引は16件で前年比+80%。Now Assist(AI機能)のACV100万ドル超顧客は前年比130%超の成長。
NOWの強みは、企業のワークフロー基盤として承認、記録、監査、権限管理をすでに握っていることだ。IT部門のチケット管理から始まり、HR、カスタマーサービス、法務、調達へ版図を広げている。「AIエージェントが何かを実行するとき、その承認プロセスを通すのはどこか」。その有力な答えの一つがServiceNowだ。
同社はAI Control Towerを掲げているが、これは会社側のストーリーだ。その実態はNow Assist ACV、cRPO、大型案件数、価値ベース課金への移行速度で検証する必要がある。Now Assist ACV +130%超はアップセル型AI売上の色が強い。高品質なアップセルはNRRを押し上げCompounderとしての評価を支えるが、「AIで売上が爆発している」という文脈とは区別すべきだ。
焦点は成長率の曲がり角だ。+22%は立派だが、この成長率が15%以下に落ちた瞬間、PSRは大幅に剥落するリスクがある。構造は強いが、バリュエーションの感応度は高い。
今回の調査を通じて、8銘柄の中で最も構造的な強さと面白さを感じた銘柄。「地味なワークフロー基盤こそが、AIエージェント時代に最も迂回しにくいインフラになる」という逆説に投資テーマとしての筋の良さがある。ウォッチリストに入れたい。
基盤レイヤー:NET、SNOW
AIエージェントが動くほどトラフィックやデータ処理が増える、インフラ側のポジション。
Cloudflare(NET)

売上+34%。ただしNon-GAAP粗利率は前年同期の77.1%から72.8%へ約430bp低下。人員約20%削減と同時に「agentic AI-first」を宣言。経営陣は「2027年までに非人間トラフィックが人間を上回る」と予測している。
NETの構造は明快だ。Workers(エッジでプログラムを実行する環境)とDurable Objects(エッジで状態を保持できる仕組み)がエージェントの実行基盤になる。エージェントが増えるほどトラフィックが増え、課金メーターが回る。
しかし投資家が注視すべきは粗利率だ。430bpの低下は軽視できない。CloudflareはAI時代の道路になれるかもしれないが、道路はコモディティ化しやすい。単なる帯域ではなく、セキュリティ、認証、Bot管理、データ主権管理を束ねた高付加価値な「通行料」にできるかどうかが分かれ目だ。売上成長率だけでなく、粗利率の底打ちと反転を確認することがNETの投資判断では不可欠になる。
私はNETをサテライト枠で保有している。「読むAI」への課金よりも「動くAI」の認証・制御レイヤーにCloudflareの本当の料金所がある、という仮説で追っている。粗利率の低下が構造の強度を毀損するリスクを見極めている段階であり、6月9日のInvestor Dayが次の判定ポイントだ。
詳しくは以下の記事を参照してもらいたい。
Snowflake(SNOW)

製品売上+34%、NRR 126%(前四半期125%から改善)、RPO 92.1億ドル(+38%)。AI機能利用アカウントは13,600超。AWSとは60億ドル規模の複数年契約を締結。Natoma買収によるMCPとエージェント接続の強化。決算発表後、株価は一日で37%急騰した。
SNOWの構造は完全消費課金のデータ基盤だ。AIワークロードが増えるほどクエリと処理が増え、課金メーターが回る。3条件の「AIが働くほど売上が増えるか」で最もストレートに「増える」側にいる。
注目すべきはSNOWの進化方向だ。Natoma買収とSnowflake Intelligenceの急成長は、「単なるデータ倉庫」から「AIエージェントが安全にデータへ接続し、ガバナンスされた形で使うためのレイヤー」への転換を示している。まだ書き戻しの中心にはいないが、データ参照の場からAI行動の制御面へ広げようとしている。
リスクは二つ。「データを一箇所に集める価値」がAIで相対化される可能性と、AIワークロードの粗利率だ。消費課金の追い風で売上が伸びても、推論コストが膨らめば利益に転換されにくい。
私は未保有。消費課金モデルと制御プレーンへの進化は面白いが、粗利率の裏付けが出てからでも遅くない。
セキュリティレイヤー:PANW、CRWD
エージェントが増えると、守るべき入口が増える。AIエージェントはAPI接続、データアクセス、外部通信と、あらゆる方向に接点を広げる。そのすべてが潜在的な攻撃経路だ。セキュリティは「あると便利」ではなく「なければ動かせない」。構造的に需要が増加するレイヤーだ。
セキュリティ2社は構造的な恩恵が似ている。差はバリュエーションと成長の仕方にある。
Palo Alto Networks(PANW)

Q2 FY2026(最新決算)。売上+15%。NGS(次世代セキュリティ)ARR +33%、ただしオーガニック(自力成長分)は+28%で、買収による上乗せを含む。CyberArk買収でID管理を統合し、Chronosphere買収で観測機能を取り込んだ。
PANWの戦略の核はプラットフォーム化だ。セキュリティに必要な機能を1社で全部まかなえるようにする戦略で、バラバラに調達していたセキュリティ製品を自社プラットフォームに統合する。エージェント時代のセキュリティを自社内で完結させる布石だ。
ここで投資家が見るべきは、この成長が自前の自然成長なのか、買収込みなのかという点だ。NGS ARR +33%のうちオーガニックは+28%。買収込みの成長率だけを見ると、実力を過大評価するリスクがある。予算源はCISO(最高情報セキュリティ責任者)予算で、景気後退局面でも削りにくい。
CrowdStrike(CRWD)

Q4 FY2026(最新決算)。ARR 52.5億ドル(+24%)。Net new ARR 3.31億ドル(+47%、過去最高)。FY2026通期のNet new ARRは10.1億ドルで史上初の10億ドル突破。Falcon Flex(柔軟課金プログラム)ARR 16.9億ドル(+120%超)。
CRWDはFalconの単一センサーからモジュールを拡張して広げる「土地拡張型」。PANWの「買収統合型」とは成長の仕方が違う。Net new ARR +47%は、エージェント時代のセキュリティ需要を実数値で取り込み始めていることを示す。
私はどちらも未保有。セキュリティは構造的に追い風だが、2社の差はバリュエーションが織り込む期待値にある。どちらに投資するかは、買収統合型のPANWと単一センサー拡張型のCRWD、どちらの成長の質がより持続的かを見極めてからでも遅くない。
中間レイヤー:CRM + 監視レイヤー:DDOG
Salesforce(CRM)

8銘柄の中で最も構造が複雑な銘柄だ。
食う側と食われる側の境界線上にいる。
Q1 FY2027(5月27日発表の最新決算)。売上+13%。Agentforce & Data 360 ARR約34億ドル(+200%超)。年初来で株価は約32%下落し、ダウ構成銘柄で最大の下落幅を記録している。Bank of AmericaはAI時代のシート課金の構造的リセットを理由にUnderperform(売り推奨に近い評価)を付けた。
ここで一つ疑ってみよう。Agentforce ARR +205%、見事な数字だ。だが、もし既存のSales CloudにAgentforceというラベルを貼り直しただけだとしたら?同じ顧客が同じ金額を払っているだけで、見た目の成長率だけが跳ね上がる。
実際、Salesforce自身がこの四半期からサブスクリプション売上の開示区分を組み替えている。Agentforce & Data 360 ARR約34億ドルの主な構成として、Agentforce ARR 12億ドル(+205%)、Informatica Cloud ARR 11億ドルが開示されている。ブッキングの50%超は既存顧客からの拡張だと開示されている。+205%の主成分が既存製品のリブランディングなのか、実質的なアップセルなのか、本当の従量課金なのかを、四半期ごとに追う必要がある。
3条件で見ると、CRMのデータ(商談履歴、顧客情報)は営業プロセスの中核にあり通り道だが、画面は行き止まりになりうる。通り道と行き止まりが同居している。予算源は営業、マーケティング、カスタマーサポートの部門予算だが、ここはバーティカルAIエージェントが直接狙う領域でもある。
15万社超の既存顧客基盤は巨大な防衛線だが、スイッチングコストは「守り」であって「攻め」ではない。Salesforceの勝負は、AIを既存CRMの付加機能として売ることではなく、営業・サポート業務の成果課金に近い課金メーターへ移れるかにある。
私は未保有。構造的に最も不確実な銘柄であり、Agentforce ARRの質が明確になるまでは静観。
Datadog(DDOG)

他の7銘柄とは異なる角度からAI時代の恩恵を受ける。Q1 2026で売上10.06億ドル(+32%)、初の10億ドル超四半期。FCFマージン29%。大口顧客は約4,550社。ARRは40億ドルを突破。MCP Server、Bits AI Security Agent、GPU Monitoringが正式リリース。
AIエージェントが本番環境に入ると、「なぜその判断をしたか」「コストはいくらか」「異常行動をしていないか」の監視が必須になる。エージェントが増えるほど観測対象が増える構造は、3条件の「通り道」と「AIが働くほど売上が増える」の両方を満たす。マルチクラウド環境における中立的な監視の立場はMicrosoftへの統合圧力に対する防衛力にもなる。
ただしリスクも直視すべきだ。最大のリスクは「観測コストの最適化圧力」だ。ログやメトリクスが爆発的に増えても、顧客は請求額の膨張を放置しない。サンプリング、データ階層化、オープンソース監視ツールで抑えようとする動きは常に存在する。加えて、PANWがChronosphereを買収しオブザーバビリティに参入したことで、セキュリティプラットフォーム側からの攻勢も始まっている。
未保有。AI監視は構造的に追い風だが、観測コスト最適化圧力と競合参入のリスクを織り込んでから判断したい。
この地図を投資に使う前に
8銘柄を構造で仕分けた。ここで確認しておくべきことがある。見てきたのは「どの企業の構造が強いか」であり、「どの株が安いか」ではない。
「良い企業」と「良い投資対象」は同義ではない。
構造的に強い会社ほどすでに高く評価されている。PLTRのマルチプルは最強の構造を最大限に織り込んでおり、成長率鈍化の下落幅も最大になりうる。NOWは成長率の曲がり角でPSRが剥落するリスクがある。PANWとCRWDは構造的な強さが近く、差はバリュエーションの期待値にある。SNOWの消費課金は追い風だが粗利率に注意が要る。CRMは配布力は巨大だが構造転換の成否は未確定。
今回取り上げた8銘柄をはじめ、ソフトウェア株の株価はここ数日でかなり回復してきている。決算の数字もむしろ良かった。しかし、構造的に強いことと、そこから「短期で株価として報われる」ことは別の話だ。市場がすでにかなり戻しているタイミングで、構造の強さだけを理由に飛び乗ると、短期では痛い目を見る可能性がある。構造分析は「何を見るか」を定める地図であって、「いつ買うか」を教えるシグナルではない。
ラベルを剥がしたあとに見えるもの
SaaSは死なない。だが「SaaSというラベルで買う時代」は終わった。
これからのソフトウェア株は、「サブスクで安定成長」という一つのラベルでは評価できない。企業内AIの実行権を握っているか。権限と監査ログを管理しているか。課金メーターがAIの活動量に連動しているか。そのどれを、どの深さで握っているかが評価軸になる。
侵食はすべて同時には来ない。UIの代行やカスタマーサポートの置き換えはすでに進行中で、株価はかなりの程度これを織り込んでいる。セキュリティと監視の需要増、データ基盤の利用量拡大は今後1年から3年の中期で本格化する。ERP/HCMへの本格的な書き戻しは3年以上のスパンだ。
今後追うべき指標を整理しておく。
AI ARRの内訳(防衛的か、アップセルか、課金メーターか)。
粗利率の推移(AIワークロードが利益を生んでいるか)。
消費課金の伸び率(利用量に売上が連動しているか)。
NRRとRPO(既存顧客が拡大しているか、将来の契約が積み上がっているか)。
シート課金依存度の変化(課金構造が進化しているか)。
これらの数字を3条件と突き合わせ、時間軸で投資判断のタイミングを計る。
8銘柄の決算が映しているのは、SaaSの死ではなく、ソフトウェア産業の評価軸そのものの転換だ。
参照元:
Palantir Q1 2026 Earnings Press Release (SEC Filing, May 4, 2026)
ServiceNow Q1 2026 Earnings Press Release (April 22, 2026)
Cloudflare Q1 2026 Earnings Press Release (May 7, 2026)
Snowflake Q1 FY2027 Earnings Press Release (May 27, 2026)
Palo Alto Networks Q2 FY2026 Earnings Press Release
CrowdStrike Q4 FY2026 Earnings Press Release
Salesforce Q1 FY2027 Earnings Press Release (May 27, 2026)
Datadog Q1 2026 Earnings Press Release
Anthropic Claude Opus 4.8 Release (May 28, 2026)
免責事項:本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではなく、構造分析に基づく情報提供を目的としています。投資判断は自己責任でお願いします。