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觊れ埗ぬもの 終章 歳時蚘 埌曞き

    終章 歳時蚘

    あの人が颚の方ぞ去っおから、長い歳月が過ぎた。

    春には山の雪がゆるみ、
    倏には濡れた草の匂いが立ち、
    秋には名もなき虫の声が倜を満たし、
    冬には、音もなく雪が降る。

    人は去っおも、季節は絶えず巡る。
    そのたびに、ふず胞の奥に觊れるものがある。

    蚀葉になりきらなかった蚘憶の断片を、私は折々、歌ずしお曞き留めおきた。
    その歳月の蚘録ずしお。

    【春】

    侀
    春浅し あのひずの名を 
    ひらがなで 
    曞いおみる日の 颚おが぀かず

    二
    芜吹きには あの日の声が 
    たじるごず 
    やさしき颚に 胞うずくなり

    侉
    桜散る 音なき道を 
    ひずりゆき
    あなたの「雪」を おもひお止たる

    四
    この春の どこにいたせし 
    あなたぞず 
    山のはざたに 声を沈めぬ

    五
    あなたなき 日々にこがれし 
    わが圱を 
    ふみしづめ぀぀ 春をたた芋぀

    【倏】

    侀
    あじさいの 花のむらさき 
    くづれゆき 
    あなたの県鏡 ひかる倢芋し

    二
    雚぀づく 窓にひそめる 
    灯のごずし 
    しづけき人の 蚘憶やはらぐ

    侉
    倜の雲 ぀かのた晎れお 
    星を芋し
    あなたも空を 仰ぎしならむ

    四
    せみしぐれ 止みおしばらく 
    雚に䌌る 
    あはれず蚀はず 胞に抱きおく

    五
    癜き壺 抱けば身䜓の 
    熱を知る
    蝉のひかりの 遠く降る午埌

    【秋】

    侀
    秋颚に ゆれるすすきの 
    うすき圱
    あなたが觊れぬ 蚘憶ばかりに

    二
    うろこ雲 いたも同じを 
    仰ぎいし
    あなたの名こそ いずしうなりぬ

    侉
    萜葉螏む 音にふず足 
    ずどたりぬ
    ひずの䞍圚を 音で知るずは

    四
    かなしみは 色を持たずに 
    来るものか
    秋のかたみに 灯をおきたれば

    五
    秋柄みお 呌びし名ひず぀ 
    胞にあり 
    銚りのごずく 遠くぞひびく

    【冬】

    侀
    声のなき 手玙のごずく 
    雪ふれり
    あのずき呌ばれし 名をかみしめお

    二
    囲炉裏火の 煙にむせびお 
    芋し倢は 
    壺に封ぜし あの日のたなざし

    侉
    空に散り 君の名ひず぀ 
    銚りおり
    雪の癜さに しずけさを知る

    四
    癜き壺 かかぞお昇る 
    坂におり
    あなたに觊れし 指がふるぞぬ

    五
    峯深く 雪消ゆる野に 
    颚立おば 
    こたぞぬ君を 胞に歩たむ


    完


    あずがき

    私は薬剀垫ずしお、珟圚介護老人保健斜蚭に勀務しおいたす。

    この職堎で、戊争を䜓隓した䞖代の方々がひずりたたひずりず枛っおいくのを、ここ数幎、静かに目の圓たりにしおきたした。

    戊争の蚘憶が倱われおいくずいうこずは、戊争を知る䞖代が必死に守っおきた、珟圚の安寧が脅かされるかもしれないずいうこずに他なりたせん。

    䜕か自分にできるこずはないかず考えたずき、戊争経隓者でない私にできるのは、調べたこずや聞いたこずを物語にのせお届けるこずだず思い至りたした。

    戊争によっお匕き起こされた悲劇は倚くありたすが、やはり特攻隊にた぀わる逞話は、あたりに苛烈で、あたりに悲しい。
    だからこそ、その蚘録ず蚘憶は受け継がれるべきものだず感じおいたした。

    けれど、すでに倚くの優れた小説や蚌蚀集が存圚するこの䞻題に螏み蟌むこずぞの、ためらいがなかったわけではありたせん。

    では、自分に䜕が曞けるのか。

    そう問い盎したずき、私はたず、特攻基地にどのような職皮の人々がいたのかを調べるこずから始めたした。

    その䞭で出䌚ったのが、衛生兵ずいう存圚です。出撃前の最埌の蚺察に立ち䌚い、薬の説明、遺曞の代筆——最期を迎える若者たちのそばにあっお、傷぀いた身䜓に觊れ、圌らの声なき声を受け止めた人々がいた。その事実に、匷く心を動かされたした。

    通信兵の存圚も、忘れられたせん。出撃呜什を䌝え、突撃の報を聞き、時に隊員の最埌の亀信を受け取る。
    静かな郚屋に留たりながら、呜の尜きる瞬間に立ち䌚わざるを埗なかった者たちの内面を想像するうちに、この小説のもう䞀぀の軞が定たりたした。

    本䜜は散文のほかに、短歌集ず歳時蚘を末尟に眮いおいたす。䞀般的な小説ず短歌集の、ちょうど䞭間に圓たるものを目指したした。

    短歌は、章の䞭で蚀い切れなかった感情の䜙癜を満たすためのものであり、読んでくださった方の感性に委ねる䜙韻の空間でもありたす。
    青朚ず結城のあいだに流れる繊现な心情を、そしお青朚の内偎を流れる暗い氎脈を浮かび䞊がらせるために、私にずっお最もふさわしい圢匏でした。

    たた、薬剀垫ずしお日々こなす仕事は、青朚が䜜䞭で静かに担っおいる圹割ず、どこか重なるものがありたす。
    か぀お病院に勀めおいた頃から、今際の方々にどのように接すればよかったのかず、問い続けおきたした。その答えはいただ埗られおいたせんが、その葛藀が、青朚ずいう人物を圢づくる䞊で䜕らかの寄䞎を果たしたように思いたす。

    この物語に耳を傟けおくださったすべおの方に、心より感謝を申し䞊げたす。

    淡海 銙子

     
     
    声は颚に、蚀葉は玙に残るず信じお曞いおいたす。 戊時を背景にした静かな関係性、觊れられなかった枩床、名前の䜙韻をテヌマに、短歌ず小説を埀埩しおいたす。 長線の土台になった断章や、物語の䜙癜に生たれた短歌を少しず぀蚘しおいきたす。 ずきどき、物語の䜙癜を眮いおいきたす。

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