
竜騎士と魔女 本編 #16 終章
終章
傾きかけた月の光が、薬屋の室内を淡く照らした。
ジョーティは影のように、調合台に座っていた。時折、抑えきれないすすり泣きが、彼女の喉から漏れた。
ユースティスは剣を戸口に立てかけ、しばらく黙って彼女を見つめた。だが、乱れのない足取りで彼女に近づくと、傍らに座った。
ジョーティは顔を上げ、消え入るような声で呟いた。
「竜騎士様」
ユースティスは小さく首を振った。
「違う」
そして彼は、彼女をじっと見て言った。
「ユースティス」
ジョーティはためらった。その名を呼べば、彼女がずっと焦がれていた竜騎士は、いなくなってしまう。
それでも、呼ぶしかなかった。
あの日の竜騎士も、ジョーティの願いの果てに壊れてしまった男も、間違いなく、彼女の目の前にいた。
「…ユースティス」
それを聞いた彼は、頷いた。
ジョーティは震える手で、彼の増殖した左腕に触れた。彼女の指は、増殖した左腕の温かさを感じた。
「ユースティス」
彼女はもう一度、呟いた。そして、声をあげて泣いた。
ユースティスは、痛ましげな目でジョーティを見た。だが、両手で彼女の頬を包み込むと、そっと額を合わせた。
「ジョー」
彼は彼女を呼び、目を閉じた。
「私はずっと、ここにいる」
それは、ジョーティがずっと望んでいた言葉だった。だが、それを差し出しているのは、壊れた腕を抱え、それでもここにいることを選び、そしてそれに満足してしまっている男だった。
───でも、ずっと、この男が欲しかったんだろ?
誰かの声が聞こえた。ジョーティは目を見開いた。
ユースティスではない。彼は目を閉じたままでいる。
祖母の口調に似ている気がした。だけど、おばあちゃんが、そんなことを、私に言うはずがない。
ユースティスの額が離れた。彼の指が、ジョーティの唇をなぞった。
彼女は目を閉じた。
───ああ、この人はもう、どこにも行けなくなってしまった。