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03 / まちに泊まる、という発想

静岡市の清水区蒲原中456番地に、「まち泊456(シゴロク)」という一棟貸しの宿があります。

名前は住所の番地をそのまま取りました。読み方はシゴロクです。

以前住んでいたお婆さんが亡くなり、空き家になっていた家を相続された方から買い取りました。昭和47年築、築50年ほどの平屋の町家です。


壊されていくのを止めたかった

蒲原は旧東海道の宿場町で古い町家が今も残っています。

ただ、残っていても住む人がいなくなれば解体される。そうやって一軒ずつ減っていくのを止めたかった。それが、まち泊を始めた理由です。

改修前の456

この家についてもう一つ聞いた話があります。

お婆さんが暮らしていたころ、近所の人がたくさん集まる家だったそうです。

その話を聞いて、壊すのではなく新しい役割を持たせて残したいと思いました。

土間を残した

この家には、古い町家特有の土間がありました。

玄関から繋がる土間とキッチン

古いものをただ新しくするのではなく、この家が持っている良さを残しながら宿にしたい。そんな考えを形にしてもらうため、設計はあの有名な建築家の岸田イッキ氏にお願いしました。

半屋外の「ミセ」と呼ばれる空間も残しました。江戸期の東海道の町家にあった、通りに向かって開く商いの場です。

内側から見るミセ

縦格子の外観、坪庭から入る光、建物を貫く風。

新しくきれいにするのではなく、この家がもともと持っていた良さをできるだけ生かしました。

壁も戸も、現場で作った

ここからが大変でした。

古い家なので壁も柱も傾いています。まっすぐな建材がそのまま入る場所がほとんどありません。

仕方がないので壁も戸も現地の寸法に合わせて一枚ずつ作りました。

施行中と456、柱が傾いているのがわかる

耐震基準を満たすためには、壁の中に耐震装置を入れる必要もありました。

費用は当然かさみます。

古い建物を直すというのは、新築を建てるより手間もお金もかかる仕事です。

やってみて分かりました。

蒲原には観光客がいない

2023年3月に予約受付を始めました。定員4名、JR蒲原駅から徒歩10分です。

蒲原には観光客がほぼいません。そういう場所で宿をやるわけですから正直なところ不安でした。

夜の蒲原駅前

やってみて意外だったのは、外国人のお客さんが泊まってくれることです。

日本語もほとんど通じないような小さなまちにわざわざ来てくれる。

有名な観光地があるわけでもありません。

それでも、まち泊があることで蒲原に新しい人が来てくれているのであれば、それがいちばん嬉しいことです

「まち泊」という名前の意味

456はまち泊の一棟目です。

施行中の離れ(お風呂)


歴史を感じる梁の雰囲気

これから何棟も増やしていく計画で始めました。

101号室があそこ、102号室があそこ、というように、一棟貸しの宿がまちなかに散らばっている。

ホテルに泊まるのではなく、まちに泊まる。

それで「まち泊」という名前にしました。商標も取得しています。

456という名前には、「123のその先へ」という意味合いもあります。

ただ正直に言うと、いちばんの理由はゴロが良かったからです(笑)。

多能職が、一棟でつながった

私たちグループには、いろいろな職種の人間がいます。

土木、建築、飲食、メディア、アウトドア。

いわば、多能職の集まりです。

ただ、456を始めたころは、それぞれが自分の専門をやっているだけでした。

設計は設計。
経営は経営。
広告は広告。

それが、一棟をみんなで作ったことで変わりました。

傾いた柱をどう納めるかを、設計と現場で一緒に考える。

耐震装置を入れて膨らんだ費用を、どの単価で回収するのかを経営と詰める。

完成した建物をどう撮り、どう見せるのかを広告と考える。

一つの建物を通して、他の職種が何を考え、どう判断しているのかが見えるようになりました。

456が完成したあと、チームにはSNSチーム、不動産、伝統工芸、進行管理、コピーライターの人間も加わりました。不動産はその後、社内の部門になっています。

一棟直すたびに、できることが一つずつ増えていく。

誰かが先生になって専門を教えるのではなく、一緒に手を動かしながら、互いの仕事を覚えていく。

そんなチームになってきました。

456から、その先へ

その積み上がったものを持って、2026年7月に2棟目の「まち泊 新坂アガル」ができました。

まち泊新坂アガル

広重の東海道の版画”蒲原夜の雪”に描かれた「新坂」という坂から名前を取っています。

456とはまったく違う、昭和の戸建住宅です。

そして今、3棟目、4棟目も動いています。

一軒の古い家を残すところから始まった「まち泊」が、少しずつまちの中に広がり始めています。

建物を一棟だけきれいにして終わりではなく、空き家に新しい役割を与え、そこに人が泊まり、まちを歩き、店に立ち寄る。

蒲原館を残したこととも、私の中ではつながっています。

店を残すこと。
家を残すこと。
そこに、もう一度人が集まる理由をつくること。

それを一軒ずつ増やしていけば、まちそのものが少しずつ変わっていくんじゃないかと思っています。

新坂アガルの話は、この次に書きます。

蒲原に来られたときは、ぜひ泊まっていってください。

歩いて行ける距離に蒲原館もあります。是非食べに来てください!

塩チャーシューメンと激辛トッピング

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