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「かわいい」って不思議|哲学対話書簡

    くいたろう


    おはぎさんとけいこさんの哲学対話書簡。
    毎回とても楽しく参加しています。
    今回のテーマは「かわいいってなんでしょう」です。

    第4弾です

    かわいいということについては、
    1年くらい前に考えたことがある。

    でも「かわいい」と思うエピソードって、ひとつしかないわけじゃない。
    だから今日は別の、そうだな。
    やっぱり私の「かわいい」代表、息子の話をしようと思う。


    「息子がかわいい」
    その言葉は、私が子どもを産む前からよく聞いていた。けれど、当時はピンとこなかった。
    子どもだったら、男女どちらでもかわいいんじゃないかな。一体何が違うんだろう。先に娘が生まれたときも、そう思っていた。
    でも息子が生まれてだんだん大きくなってきたら、その意味がわかった。
    もう、言うこと、やること、いちいちかわいい!
    「ママが好きだから」
    「ママのこと、一生好き」
    「ママかわいい」
    「ママ、おつかれ」
    「ママ、いいにおい」

    まっすぐに伝えてくる愛情。
    目が合うだけでうれしそうにしてくれる。
    小さな恋人みたい、とはよくいったもんだ。
    息子のかわいさは天井知らずで、毎日のように更新されていく。
    怖い。
    いつかこの夢のような時間が終わって「あの頃はよかった」と思い返す日が来てしまうのだろうか。

    いつまで息子はかわいいままでいてくれるの?
    いつまでそう思っていられるの?
    中年でさすがに「かわいい」は無理なんじゃないか。
    その答えが知りたかった。

    ◇

    ある日、仕事で90歳代の女性と話をした。
    病院の付き添いは、久しぶりに会ったという息子さん。
    「息子さん、やさしいですね」
    「久しぶりに会えて、うれしいですね」
    まるで自分ごとのように思えてしまう。
    女性は、終始ニコニコと
    「とっても優しい子なの」
    「遠くから来てくれたの」などと言っていた。
    だからふと気になって、
    「息子さんを何歳くらいまで、かわいいなと思いましたか」と質問した。
    そしたらその方は、少し不思議そうな顔をして
    「息子は今だって、ずーっとかわいいままよ」と教えてくれた。
    おじさんでも、かわいいと思えるんだ。
    なんだ、心配しなくっても大丈夫なのかもしれない。

    私の息子は、今10歳。
    私はいろんな人に、息子の過去や未来の姿を重ねて見ていることに最近気がついた。

    病院で働いていると、幅広い年代の方に会う。

    赤ちゃんや幼児を見かければ、
    「ああ、かわいいな。息子にもあんな頃があったな」
    と懐かしくなるし、
    少し年上の中高生と話すと、息子の少し先の未来を見るようで、楽しみになり、かわいく思ってしまう。
    でもそれは、わかる範囲内だった。


    職場に二十代前半の入職したての男性職員がいる。 その人は少し仕事の要領が悪くて、融通がきかない。細かいことを繰り返し質問しては、同僚にイライラされていた。それでもめげずに、元気よく返事をし、真面目に仕事に取り組んでいる。
    「ちょっと聞いてもいいですか」
    同僚に質問しづらいのか、話しかけられることが多くなった。
    他職種のため、わかる範囲で相談にのった。

    「こういうふうに聞いてみれば?」
    「あそこに確認するといいかもしれないよ」

    はい!と元気よく返事をして、仕事に戻る。
    しばらくすると「こうでした」「ああでした」と報告にもくる。
    「よかったね」と返事をしながら、
    なんか息子みたいだな、かわいいな。なんて思った。

    こんなに息子から年が離れても、同じようにかわいいと思えるのか。
    と、少し驚いた。
    でも確かに私は、この人の母親のほうに年が近いんだろう。
    だから別にお母さんの気分になっても、不思議じゃないのか。

    瞬間湯沸かし器のような、50代半ばの医師がいる。
    外来担当の曜日は、みんな朝から緊張して憂うつだった。

    けれど一緒に仕事をするうちに、どんなことでイライラしやすいのか、どうしてほしいのか徐々にわかるようになってきた。
    だから慎重に、先回りして準備する。予測が当たれば達成感もあった。

    この医師は誰よりも真面目で、カルテを書くときや調べ物をしているとき、すごく真剣な顔をして集中していた。
    私はいつものようにささいな変化を察知するため、医師の様子を見ていた。
    その横顔をじーっと見ていたら、なんだかかわいいな。と思ってしまった。

    こうやって学生時代も勉強していたのかもしれない。
    きっと医師のお母さんも、当時「がんばってるね」と、微笑ましく思っただろう。
    なんだかやさしい気持ちになって、必要そうな書類や気になりそうなことを、タイミングをみてそっと差し出す。

    「……あぁ、どうも」
    蚊の鳴くような返事だけど、確かに言ってた。
    ますますかわいい。
    私は自分より年上の人のお母さんにでもなったような気持ちで、うれしくなった。

    あれは、なんだったんだろう。
    もしかして、おじさんになった息子にもかわいい瞬間があると、
    先に教えてもらったようなものなのだろうか。


    #哲学対話書簡
    #かわいいってなんでしょう


     
     
     
    小さな病院の外来看護師 毎日を楽しく過ごすために、noteに書いて残しています。 ※このくいたろうの、 X、インスタのアカウントはありませんよ。 最近は#夏休みの小さなおとぎ話を作っています

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