
高卒ブルーカラー、山手線内側徒歩圏に小さなビル2棟を持つまで。 ⑤ 第4話:時給効率の「韋駄天」と、志賀高原の啓示。「ビジネス書」より「求人誌」
稼げる現場をハシゴした日々
高校を卒業した僕の愛読書は、ビジネス書ではなく、隅々まで赤字を入れた「アルバイトの求人誌」だった、選ぶ基準はたった一つ。
「高時給であること」
時間が空けば、迷わずその隙間を「最も効率よく稼げる仕事」で埋めていった。
バブルの入口、現在と同じように人手不足、現少年サンデー位の厚みのあるアルバイト雑誌。
給料のやりとりは、ほぼ茶封筒に入った現金だった。
僕は、貰った側からあの、忍術の修行場に足蹴なく通い預け入れる、昼は手弁当を持ってバイトに邁進していた。
スーパーの景品配り・デパートのポーター・肉屋のバックヤード・ガス配管の手伝い・真夏のゴミ清掃員・解体現場の清掃等、さらには葬儀の祭壇作りまで。
どんな現場でも即座に適応し、結果を出す。そんな僕を見て、友人の一人は呆れたようにこう言った。
「お前は、歩く東急ハンズだな」
何でも揃い、何でも解決する。
どんな現場でも最短ルートで完遂させる僕の立位置は、単なるバイトの域を超えていた。
その器用さと現場対応力こそが、僕が「高時給」を勝ち取り続けるための最大の武器だった。
「志賀高原、叔父様たちを圧倒する未成年」
ある冬、僕はリフト券無料の誘惑で、志賀高原スキー場の個人経営ホテルのバイト先発隊として入っていた。
飲食店のバイト経験もあったので本領を発揮し、10代にして年上の叔父様たちを尻目に厨房のオペレーションを完璧に仕切っていた。
そこに後発隊として合流した、一人の大学生がいた。
仕事が終われば、毎晩のように狭い倉庫のような寝室で彼と語り合った。
僕の過去遍歴を話していた時。
この大学生が、ある夜、こう切り出した。
「……君みたいなタイプは、絶対に行ったほうがいいよ、アメリカに、意外に安いし!」
彼の語る「アメリカバス横断」の話。
アメリカへの憧れはあった、でも本当に安いのか……?疑問も浮かんではいたが。
彼の話は、求人誌の白黒の数字しか見ていなかった僕の考えを根底から覆し、一気にフルスロットルの冒険の書へと塗り替えてしまった。
「聖徳太子の束を、グレーハウンドのパスへ」
感化された僕は、即座に行動に移した。
「忍術」「高時給」という名の戦利品を積み重ねた「聖徳太子の束」。
それを握りしめ、地球の歩き方を買い、調べ上げ、ABロードを本屋で暗記し、旅行会社に電話を入れる。
銀行でトラベラーズチェックを発行する。
まだHISが小さい時代に。
僕はついに航空券と、アメリカ全土を網羅する長距離バス「グレーハウンド」のパスを手に入れる。
準備は整った
しかし、出発を目前に控えた僕の前に、最後の、そして最大の「壁」が立ちはだかる。
祖母から放たれた、あの衝撃の一言だ。
誰よりも僕の「忍術」を応援してくれていたはずの祖母から放たれた、あの衝撃の一言。
「あんた、――」
つづく
かわいい子には旅をさせろ、昔の人はいい事を言ったものだ。ただ旅をするのは大変だけど。
https://note.com/83nor1/n/n467ac4534146
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