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【短線】共通䞖界 〜マシュマロずピヌナッツにアルコヌル〜⑥

    誰でもない誰かの話

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    雚の音に目を芚たす、明け方の5時。

    眠りに぀く時は床に寝おいたのに目を芚たすずベッドにいる。川内さんが運んでくれたに違いない。

    あの人ず出䌚った日もこんなふうに雚の音がしおいた。ただ忘れられない。他人からすれば他愛のない恋愛。僕がずおも子ども染みおいた。それだけのこず。

    「ごめんね、もう奜きじゃないの。」
    あの人が最埌に残した蚀葉。僕は、嫌われたんだ。

    もう誰にも恋ができない。

    あの人を奜きになりすぎた。䞀瞬で消えおいなくなったあの人を。

    雚の音が聞きたくなくお垃団に朜った。
    無駄な抵抗だずわかっおいるのに。


    匊矀匓矎。それが圌女の名前だ。

    匊楜噚を匟くために生たれたような名前だず思った。ノァむオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス。クラシックからゞャズ、それにオルタナティノ 。䞀床奜きになったのにすっかり匊を抑えなくなった僕の巊指が圌女の音色に埮かに動いた。

    才胜のある人。
    それはきっずこの人のこずなんだろう。
    匟むように転がる音は確かにノァむオリンで、蚘憶に転がる音よりも煌めいお雚粒よりも茝き、路䞊で雚宿りする店先で匓を滑らせ匊が空気を揺らす床、僕の心臓がドクンず動く。

    銖筋が透き通る癜。髪の黒が際立぀。ブルヌベヌスの肌。
    螊り出しそうな足元のロヌファヌ。センタヌプレスのロングパンツが倧人に芋えた。
    「君、ずっず芋おるね。私のこず。ノァむオリン奜きなの」
    䞊がった口角が印象時だった。
    「ずおもステキな音ですね。」
    「チャルダッシュだよ。」
    僕は、それは知っおるっお思っおくすっお笑った。
    「他には䜕を匟くんですか」
    「今」
    「はい」
    「䜕がいい」
    「え」
    「なんでも匟くよ。」
    ノァむオリンを構えた姿はなぜか勇敢だった。
    雚の音を楜しむように倩を仰いでひず぀、呌吞をする。匟き始めたのはカむザヌのノァむオリン緎習曲第番。蚘憶の䞭の僕の音色が連奏するように蘇っおくる。匟ける雚粒が共にリズムを刻んでいた。


    「起きお、越智くん。」
    息を吞い蟌むずトヌストの匂いがしお川内さんに矜毛垃団の䞊から頭を抑え蟌たれた。
    「お、おはようございたす。」
    垃団をめくられるず眩しくお敵わない。
    「今日、朚村さんに䌚うから。」
    「はい。」
    「君も来おくれない」
    「はい え」
    「ん」
    「朚村さん 」
    「そう朚村さん。」
    僕は暪になったたた起きたばかりの頭で、川内さんの蚀うこずを敎理しおみた。朚村さんは、僕がノァむオリンを習っおいた朚村先生に違いない。
    「なぜですか」
    「君が拒吊反応を衚すのはどうしおなんだろうね。」
    「わかっおいお䌚わせるのはなぜですか」
    寝転がっおいる僕の身䜓を川内さんが抱き起こす。僕は䞀般的な成人男性より小さく軜い。
    「真剣な話だよ。いじけないで。」
    「いじけおたせんよ。」
    「仕事の話だ。」
    「仕事の話ですか。」

    朚村さんには嚘がいるこずは僕も知っおいる。海倖で仕事をしおいるノァむオリニストずいうこずは知らなかった。
    仙台フィルのコンサヌトにゲスト出挔するために垰囜するこずになり、その期間に地元の小孊校でも挔奏䌚を開く。挔奏䌚の挔出を頌たれたのが川内さんの䌚瀟であり、朚村さんをその挔奏䌚にゲスト出挔させようずいうのが、川内さんの䌁画だった。

    「぀たり芪子共挔だよ。地元の人も喜ぶだろ。」
    「そうですか。それず、僕が朚村さんず䌚う理由がわかりたせん。」
    川内さんが僕の顔を芗き蟌む。
    「朚村さん、越智くんみたいな子に楜屋呚りのお䞖話しおほしいんだっお。」
    「え」
    「料理屋でアルバむトしおるずころ芋お気に入ったんだっお。」
    アルバむト䞭の僕は党く冎えない。
    「気がきがなくお、党然䜿えない感じが良いらしい。」
    「ひどい。」
    「俺が蚀ったんじゃないよ」
    「川内さんもきっずそう思っおたすよね。」
    「ん」
    「いや、あの。」
    「俺は君を料理屋のアルバむトずしお䞀人前にしようなんお考えは毛頭無いから、そんなのどうでも良いんだよ。」
    僕の頭に手を眮いおわしゃわしゃずいじりたわす。
    「それずも、ホヌルの仕事を極めようず思っおいるの良い考えだずは思うけど、人芋知りだったり、感受性が匷すぎる君だから、接客なんお向いおないず思うし、君はよく頑匵っおいるず思うけどな。」
    料理人に地面に叩き぀けられたこずを思い出す。
    ”やる気ないのあるの”
    わからないず答えたのは本質で正解だず思っおいる。
    「君がやらなければいけないこずは䜕」
    「僕のやらなければいけないこずは 。」
    「わかるよね。銬鹿じゃないんだから。」
    「 病気の治療です。」
    「そうだよ。だから、それ以倖は党郚雑音だから。倧きく聞こえおも党く関係ない。そうでしょ」
    「はい。」
    「良い子だね。」

    僕の心が䞍安定な時、川内さんは僕を抱きしめる。僕を萜ち着かせようずするために慰めるひず぀の方法ずしお。それが朝であれ倜であれ、川内さんが忙しいずかそんなこずは関係なく。
    川内さん自身、僕を慰めながら自分のバランスをずっおいる様でもあった。
    僕ず川内さんは同じような境遇であるようで党く違うのだけどお互いに倱ったたたのものを埋め合うようでもあった。
    2人だけの空間でずおも小さな䞖界の傷の舐め合いのような儀匏的な行為はごく自然なこずだった。


    「朚村さんはプラむドが高いから、あたり口ごたえしないように。良いね。」
    埅ち合わせの堎所に向かう途䞭、プリりスを運転しながら川内さんが怖い人に我が子を奉公に出すような顔぀きで蚀うから少し笑っおしたう。
    「俺は真面目に蚀っおるよ。」
    「わかりたした。」
    「越智くんは時々、饒舌になるから危なっかしいよ。」
    「では、黙っおいたす。」
    「 そうしお。」
    「はい。」
    こんな䌚話がおかしくお、2人ずも笑いを堪えおいる。
    「ねえ、朚村さんのノァむオリンおすごいの」
    「なぜ、僕に聞くんですか」
    「越智くんは、朚村さんの生埒だったんでしょ。」
    「あたり憶枬で喋るず違った時に恥をかきたすよ。」
    本圓は間違いではないけれど、僕は隠し事にしたかったし、䜕より朚村さんに、今の僕ず蚘憶の僕が同じ人物であるず思っお欲しくなかった。
    「 それ、その蚀い方。やめおね。朚村さんの前では。絶察。棘があるよ、越智くんの吊定の仕方。」
    「怒らないでくださいよ。これ以倖に話し方を知らないんですから。」
    「困ったね 。良い子でいおよ。頌むから。」
    「保蚌できたせんね。」
    「お願いね。」
    「仕方ないですね。」

    埅ち合わせ堎所は川沿いのカフェ。
    新しくできたばかりの癜い建物は景色に溶け蟌んでいる。僕よりも呚りに溶け蟌むのが䞊手だず思う。

    「越智くん、奜きなもの食べお良いから良い子にしおね。」
    「 わかりたした。」

    駐車堎には癜いビヌトルが䞀台。僕がレッスンに行っおいた時は、スマヌトに乗っおいたから趣味が倉わったんだろうか。
    䞀応、ちゃんずしたゞャケットを着せられお、銖の傷が芋えないようにハむネックのむンナヌを着おボタンダりンのシャツを着た。履いおいるパンツもカゞュアルながらきちんずしたもの、靎もそれなりの革靎。たるで䞃五䞉のようで着慣れない服に倚少の違和感を芚えおいた。

    「僕、この服正解ですか?」
    「い぀ものパヌカヌずゞヌンズより良いよ。」
    「高いんですかこの服。」
    「ん昚日遞んだから芚えおないな。」
    「倀段芋ないんですか」
    「倀段は芋ない。」
    「ぞえ。」
    「ん」
    「あ、いえ。」
    やっぱり、川内さんは成功者なんだ。借金だらけずいう出立ちでもないし。ガツガツ前に乗り出すタむプでもない。
    「川内さん。」
    「䜕」
    「ひず぀、蚂正したす。」
    「うん。」
    朚村さんずのこずは、川内さんならきっず䞀緒に内緒にしおくれるず、この時の僕には確信があった。
    「朚村さんの生埒であったこずは、間違いではありたせん。」
    「そう。」
    「ですが、朚村さんや矎恵子さんには、そうであるずは絶察に蚀わないでください。」
    「 わかった。」
    僕が2人に同じ嘘を぀いおいるこずを川内さんは瞬時に感じ取っおくれたようだった。
    「君はやっぱり俺には嘘が぀けないね。」
    ふっず笑っおお店のドアを開ける。川内さんが入る埌に぀いおお店に足を螏み入れるず店員さんが静かなトヌンで垭を案内しおくれる。

    朚村さんは、窓の倖を芋おいおこちらを芋ない。
    「川内さん、私が先に来るっお倉よね。」
    明らかな䞍機嫌のお芝居になんの意味があるんだろう。朚村さんのプラむドの高さは党く倉わっおいない。
    「すみたせん。越智の家に寄っおいたもので」
    嘘には嘘の蚀い蚳を。
    「た、座っお。」
    僕は通路偎、川内さんは窓偎に座る。僕に芖線を萜ずす朚村さんず目が合う。
    「いく぀」
    「越智くん、いく぀だっけ。」
    「23です。」
    「もっず子どもに芋えるわね。」
    コヌヒヌを飲みながらふふっず笑う。僕は、川内さんの蚀うこずを聞いお口ごたえをせず黙っおニコニコする。朚村さんに䌚うこずを予告されおいたから料理屋さんでアルバむトをするより簡単なこずだ。
    「越智くん、奜きなもの食べお。」
    「はい。」
    川内さんがメニュヌを芋せおくれた。メニュヌには、トヌストにピザ、ケヌキが数皮類 。
    「越智くん、ここのチヌズケヌキきっずあなたの口に合うわよ。奜きよねチヌズケヌキ。」
    「僕が奜きなのは 」
    川内さんに膝を指で突かれる。䜙蚈なこずは蚀うなずいうこず。
    「 では、チヌズケヌキをいただきたす。僕だけ食べるのは気が匕けるのですが 。」
    「そうそれなら私もいただこうかしら。川内さんは」
    「いただきたす。越智くん、頌んで。」
    「はい。」


    僕がチヌズケヌキを嫌いではないずいうこずは、間違いではない。

    レッスンが終わっおからおや぀をいただいたこずが䜕床かあり朚村さんが時々、ベむクドチヌズケヌキやレアチヌズケヌキを䜜っおくれたこずがあった。
    嚘さんの分ず僕の分を䜜っおくれおいた。
    僕はだいたい、火曜日の倕方4時にレッスンに来おいお、僕の埌には1コマ空いおいお、おや぀を食べさせおくれたのだ。

    だから、朚村さんは僕がチヌズケヌキが奜きだず思っおいる。

    そのケヌキの味は党く芚えおいないけれど。

    「矎味しいでしょ」
    「はい。ずおも。」
    しっずりずしおいお、甘すぎずチヌズが濃い。たくさん食べおはきっず胞焌けしおしたうが、少し小さくおちょうどいい量だ。
    「で、越智なんですが、ぜひ、スタッフに加わりたいず」
    僕はそんなこずは蚀っおないけれど、䌚わせるずいうこずはそういうこずに決たっおいるんだず諊めは぀いおいた。
    「そう。よろしくね。」
    「はい。」
    ふふっず笑っおみせた。嫌いな盞手であるこずを極力感情の倖ぞ出し、取り繕い隠しおいる䜜り笑いだ。

    川内さんに恥をかかせないために僕は良い子でいる。

    「越智くんは ノァむオリンは奜き」
    あごに指を圓おながら喋るクセも同じだ。僕の䞭ではノァむオリンのレッスンを受けた朚村先生の蚘憶ず完璧に䞀臎しおしたう。幎霢こそ重ねおいるものの薄く笑い目を现める衚情も党く倉わっおいない。
    「 はい。」
    「奜きな䜜曲家はいるかしら」
    「 詳しくはわからないです。」
    「正盎で良いけど。 お勉匷しおちょうだいね。」
    ただの楜屋係に䜕を求めおいるんだろうか。
    「むベントスタッフなのに、䜕もわからないなんおおかしいじゃないねえ、川内さん。」
    僕ができないず川内さんが恥をかく。
    「わかりたした。越智には勉匷させたす。」

    父ず母に恥をかかせた小孊4幎生の頃ず同じになっおはいけないず思う。
    僕はこの人の前で再び自分に近い人に恥をかかせおしたうかもしれない。
    「よろしくね。越智くん。」
    「よろしくお願いしたす。」
    僕の嘘の笑顔を剥がすように䜙裕の笑みを浮かべお芗いおくる。

    やっぱり、嫌いだ。

    背䞭に流れる汗が僕の䜓枩を䞀気に䞋げる。寒気がしおきお震えがずたらない。
    「あら、寒い越智くん。」
    もう、笑えない。䜜り笑いの仮面は音もなく割れた。
    「朚村さん、越智はあがり症であたり話したこずがない方の前だず緊匵しおしたっお。」
    「そうなの。あ、矎恵子さんのお店でもよく倱敗しおるわね。あなた、本圓に倧䞈倫」
    「 すみたせん。」
    苊味の少ないコヌヒヌの枩床はずおもぬるい。䜕のごたかしもできない。そんな気分にさせられた。
    「昔、コンクヌルの日に熱を出した男の子がいたの。」
    「え」
    「あの子、私にもご䞡芪にも謝らなかったわ。䜓調の管理は挔奏者の基本よ。健康でいるこずは瀌儀だから。その埌からずる䌑みをするようになっお教宀を蟞めたの。才胜はあったけど、子どもだからっお蚱されないこずをしたのよ。」

    13幎も前の出来事だ。今ここで匕き合いに出す意味などないはずだ。

    「くだらないわね。こんな話は。」
    コヌヒヌを飲む姿にむラ぀きを感じる。
    「私をがっかりさせないで。いいわね。」

    僕ががっかりさせおはいけない人は、この人よりも
    「越智にはこれから勉匷させたす。」
    「そうね。よろしくね、川内さん。」
    川内さんの方だ。
    固く握りしめる拳が、虚しい行いだずはわかっおいる。こんなこずを悔しがるこず自䜓が銬鹿気おいるこずも。

    実家の自分の郚屋に垰った。
    クロヌれットの䞭、したいっぱなしのノァむオリンを匕っ匵り出しおケヌスを開けおみた。
    予想通り匊は党お切れおいお匓はボロボロ。束脂に至っおは、ツダを倱っお割れおいる。


    謝るのは僕じゃない。
    あの頃の僕が䜕を謝らなければいけないず蚀うのか。

    僕は確かに間違っおなどいなかったんだ。


    レッスンをやめおからもノァむオリンを匟き続けおいたかった。

    切れおしたった匊がその道を断った理由だった。

    共通䞖界 〜マシュマロずピヌナッツにアルコヌル〜⑥
    ⑊に぀づく

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    萜語ず講談ず猫ずKing Gnuが奜きな䌚瀟員 瀟䌚人萜語家ずしお趣味で掻動しおたす 趣味で短線小説も曞きたす。 ゞャンルは様々です。 萜曞きむラストも茉せおいたす。 デゞタルむラストは「楜しげ」なものを茉せおいたす。

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