
食べ終えたお皿を、ひとつひとつ運ぶこと
食べ終えたお皿を、
ひとつひとつ流しへ運ぶ時間が好きだ。
もうそこには、
さっきまでのご馳走は残っていない。
美味しかった味も、
楽しかった会話も、
「もうお腹いっぱい~」って笑った時間も、
だいたい終わっている。
お皿には、
ソースの跡とか、
パンくずとか、
食べ終わった痕跡がちゃんと残っている。
決して、
綺麗な状態ではない。
でも私は、
そのお皿をひとつひとつ運ぶ時間に、
なんだか人生っぽさを感じる。
味わい尽くしたこと。
もう役目を終えたもの。
戻らない時間。
それらを、一緒くたにして、
「はい次!」と雑に片付けるのではなく、
丁寧に持ち上げて、
静かに流しに運ぶ。
人生も、そんなふうでいいのかもしれない。
美味しい瞬間だけじゃなくて、
少し硬かったものとか、
味付けが足りなかったものとか、
好みでなく食べきれなかったものとか。
綺麗な瞬間だけじゃなくて、
食べ散らかした日とか、
泣いた日とか、
もう戻れない時間とか。
そういうものを全部抱えながら、
「美味しかったねぇ」
「楽しかったねぇ」
って、
ゆっくり片付けていく。
私はたぶん、何かを完璧に残したいわけじゃない。
ちゃんと味わいたいのだと思う。
空っぽのお皿を見ながら、
「あぁ、美味しかった」
って思える人生がいい。
そしてできれば、
最後のお皿も、丁寧に流しへ運びたい。
そんな私の得意料理は、
グレープフルーツのサラダと
タコのカルパッチョ。
おわり