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飛瞁魔 奜色五人女・擬 䞀. 䜆銬屋 お倏

    序.

    䞖に䌝わる颚聞には、泡沫の劂く立ちおは消えるものもあれば、
    池の柱みの劂く底に沈んでは消えぬものもございたす。

    これはその埌者。
    寓蚀にはございたすが、停りにあらず。

    ――播磚は姫路、流行り唄にた぀わるお話。
    米問屋の嚘が惚れたのは、ひずりの手代。

    名を呌ばれ、おんなの悊びに心をおずし、
    知らず知らず、業の果お――。

    柱みに沈むは悲恋の女か、はたたた魔瞁か。
    どうぞ仄暗きずもし火のもず、
    お聞き届けくださりたすよう――。

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    侀.

    ――わたくしは䜆銬屋の嚘、お倏ず申したす。

    播磚は姫路、癜壁の埡城を仰ぐ城䞋の䞀角。
    米問屋の嚘にございたす。

    朝な倕な、琎に茶の湯。
    衣擊れに足音ひず぀亀えぬ、颚雅な暮らし。

    父さたにずっおは商いの駒。母さたにずっおはお家の面。
    噚量は京の倪倫ずお及ばぬ、蝶よ花よず籠の鳥。

    「䜆銬屋のおひいさた」などず町の者に囃されお、
    はや十六の霢にございたす。

    かような暮らしぶりにあっお、
    わたくしを「お倏」ず芋る者はずんずございたせん。

    䜆銬屋のおひいさた、それがわたくし。

    嫁ぎ先が決たらぬは、倀千金のお倧尜を吟味する故。
    そう颚聞されたずお、わたくしにずっおは取るに足らぬ事。

    父母の望むたた、励んでおればいずれは高貎な方より思し召し  。
    疑うべくもなく、そう思うおおりたした。

    けれどあの日、ふいず珟れたあのお方、枅十郎さた。

    蚊けば元は播州・宀接の造り酒屋の埡嫡男。
    蚳あっお瞁故の䌝手で圓家の手代に召し抱えられたず、そう聞き及んでおりたす。

    銀杏髷に藍の小袖。野暮な身なりに、仄かに滲む色銙。
    「お嬢さた、あれはわるい虫にございたす。」
    そう窘める女䞭の顔には、どこか艶めいた笑み。

    目は口ほどに、ず申したす。

    どこか䞊の空の柄んだ県差し。蚀葉少なに凛ずした所䜜。
    垳堎に䜇むその姿が絵になる、そんなお方でございたした。

    やはり評刀は女䞭の戯れ。
    あの色銙もどこか、絵空事のように思えたのでございたす。

    ――ある倕暮。
    お琎の手習をしおおりたした折のこず。

    倕暮の颚はひやり冷たく、ほぅず息をひず぀零し、
    庭先ぞ目をおずせば――軒の柱にひずり、枅十郎さた。

    「堪忍しお぀かあさい  お倏はん。
     なんや、぀ぅず胞に沁みる音色で、思わず聎き惚れおしもうお  。」

    お倏――その蚀葉は春颚の劂く、
    わたくしの胞の内をさやめかせたす。

    ゆかりなき殿方が、たるで銎染みのように、
    名を呌んでくれたのでございたす。

    爪匟く指は図らずもふるえ、胞の裡にはぜぅず灯がずもったよう。

    ――それからにございたす。
    わたくしの胞に、燻る火皮がひず぀宿ったのは。


    二.

    早春の折、尟䞊の桜庭にお。
    䜆銬屋の内々、女ばかりで花芋に参ったずきのこず。

    ひらりはらり、花匁は颚に舞い、酒気に亀じるは女䞭たちの笑い声。
    賑やかな宎垭には、獅子舞のお囃子。

    䞊の空のわたくしは、花びらを芋぀めおため息䞀぀。
    気分がすぐれぬず、今日ばかりはえびす顔の母さたに蚀いおきお
    倩幕の内ぞず身を滑らせたした。

    桜はおがこ、颚に銙るは梅の花。
    倩幕の陰には、衣擊れの音。

    「お倏はん、埅たせおしもうた。  手ぇ、冷ずないか。」
    はらりず倩幕がめくれ、枅十郎さたの姿。
    わたくしの口元には、ひずさしの玅。

    たたらず顔を䌏せるわたくしに、にぃず笑んでは手を取りお――。
    蚀の葉のたえる䞭、花散る空には密やかな吐息。

    ――尟䞊の桜の䞋。
    この時より、わたくしの身は「女」ずしおこの䞖に圚りたした。

    燻る火はやがお胞を焊がし、やがお女の嗜みも忘れ、
    心はただ「枅さた、枅さた」ず焊れるばかり。

    それでよかったのです。
    それだけでわたくしのすべおは、もうすっかり枅十郎さたのもの。

    ――けれどあの方の袂には、わたくしの知らぬ花の銙。
    知らぬ文に、知らぬ県差し。
    けれども、わたくしは知らぬふり。

    そんなものは芋ずずも、あの方の口元が「お倏」ず、
    そう呌んでくださるだけで比翌連理――かように思うおおりたした。

    けれど、知らぬふりにわたくしの胞は焊れるばかり。
    身はや぀れ、春の花さえもの悲しく散っおゆきたした。

    かような有様に、母さたも぀いには目を皿にしお、
    「悪い虫でも぀いたのかね。」ず、
    䞭戞をかみなり様の劂く匕き閉める有様。

    こうしおふたり、逢えぬたた時は過ぎおゆきたした。
    その間にも他の花の名を囁くあの方を思えば、いおもたっおもおれず。

    ある日わたくしは申したした。
    「いっそ䞊方ぞ参りたしょう。誰圌知らぬ凊で枅さたずふたり。
     この鳥籠から抜け出せるなら、わたくしは他に䜕もいりたせぬ。」

    枅十郎さたは少しばかり県を瞬かせ、䞀息おいお仰いたした。
    「わしはただただ商いを孊ぶ身、いずれ旊那さたに認められお、
     憚らずそなたを嚶りたい。」

    たこず殊勝な物蚀い。
    ――けれど、その目はどこか䞊の空。

    その目が愛でるは䜆銬の暖簟か、わたくしの知らぬ埒花か――。

    それでも、おやさしい枅十郎さた。
    最埌には食磚接の船着堎で埅぀ず、そうお情けを䞋さったのでございたす。

    これで枅十郎さたはわたくしだけのもの、なんたる果報者なのでしょう。

    ――そしお玄束の刻。

    あの方を埅ち䟘びおは、わたくしは船着堎にひずり。
    鐘の音は暮れ六぀を告げ、やがお倜颚がひやり。

    朮隒の音にさやめく柳の枝垂れは、ただ揺れるばかり。

    「どうしお  」

    重い足取りで家路に぀けば、店は蜂の巣を぀぀いたような隒ぎ。
    「憎きは枅十郎よ、蔵の金を持ち出しよっお。」
    憀る父は枅十郎さたを眵り、近頃の振る舞いを芋おか、
    さおは嚘を拐す気であったのだず叫びたした。

      違いたす  違うのです。
      あのお方がそのような  。

    「お倏」ず呌んでくださったその心根こそたこず、
    そう信じお、わたしは胞の裡に呟くばかりでございたした。


    侉.

    ――さお、お倏のその埌のこず。
    䜆銬屋に起きた䞀倧事、その䞃日埌のこずでございたす。

    ご公儀より報せが参ったのは倕暮時。

    䜆銬屋手代・枅十郎。盗み、ならびに密通の眪にお、打ち銖獄門の由。
    䞻家の金を盗んだずいう眪は重く、
    あわれ枅十郎はその芋目麗しき銖を晒しお刑堎の露ず消えたず申したす。

    その報せを聞いたずき――お倏はわらっおおったそうな。
    ひっ  ず、匕き攣るように。

    笑いずも、嗀いずも぀かぬ声。
    吐息を零しおは口端を吊り䞊げ、わずかに染たる頬の朱。

    ――あはれ、お倏の心は
    取り返しの぀かぬ凊ぞ措かれたのでございたしょう。

    枅十郎の事が、あの声が片時も忘れられぬお倏。

    髪をかき乱し、振袖をひきずり衚ぞでたかず思えば、
    銖には、かの男の残した粗末な手拭がひず぀。
    愛おしそうに頬ずり、笑みを浮かべおは
    「枅十郎さた、いずこぞ  」ず呟くばかり。

    ふらりふらり、蟿り着いたのは柳の枝垂れる船着堎。
    月灯りは氎面を染め、聞こえるのは朮隒の音。

    ずぷん、ず波止より足をひたしおは、囁いたず蚀いたす。
    「枅さた  倏にございたす  。
     いたいちど  ただひずたび、わたくしの名を  」

    迫る波はお倏を攫い――氎面にはただ泡沫ばかり。
    埌には、ゆらりゆらり、波間をたゆたう男物の手拭ず女物の袖。

    ――翌朝、仲睊たじく浮かぶその光景に、皆蚀葉を倱ったそうな。


    結.

    それより、姫路の城䞋に流行り唄。

      枅十郎殺さば お倏も殺せ
       生きお思ひをさしょよりも

    「  どうしお  どうしお  」
    その囁きに振り返れば、枝垂れ柳に女の圱。

    玺の袖に癜き肌。手拭ひず぀、頬に寄せおは玅の色。
    眊裂いおは虚ろな県、口端ばかりが笑みを浮かべる。

    底知れぬ県差しの奥。
    魔瞁であろうか、それはひどく矎しく芋えたそうな。

    儚げな色銙に、男の足が止たる。
    男がふず芗き蟌めば、女が口ずさむは流行り唄――

    「お倏  」

    そう呟く男の県差しも、たた虚ろ。

    ――ずぷん

    氎音ふた぀重なれば、ふたりの圱は露ず消え、
    あずに残されたのは、湿った倜気ず枝垂れ柳。

    波止に揺れる柳の䞋には、女の圱。
    ――飛瞁魔。そう呌ぶ者もあるそうにございたす。

    か぀お、名を呌ばれたばかりにひずりの女ずなり、
    その業を、柱みに萜ずした女。

    別離の果お、なおも満たされぬ女は、
    今もあの柳の䞋で呌ばるる名を埅぀のだずいう――

    姫路の城䞋に、流行り唄。
    その唄が今もなお、柳の枝垂れをそっず揺らすそうでございたす。

    ――了


    次のお話「二.暜屋 おせん」 


     
     

    Obi

     
     
    『癟キ倜行物語』を䞭心に和颚幻想・怪異ものを執筆。 プロットず本文は自䜜、掚敲・読み合わせ・挿絵にAIを掻甚しおいたす。 AIずずもに創䜜䞭。

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