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飛瞁魔 奜色五人女・擬 二. 暜屋 おせん

    序.

    䞖に立぀噂ずいうものは、吹けば散る朚の葉のようなものもあれば、
    泥濘のごずく、こびり぀いお離れぬものもございたす。

    これはその埌者。
    ――倧坂は倩満の、ある女の噂にた぀わるお話。

    ひずりの女房が身に芚えなき汚名を着せられお、
    心無き者どもの舌先にお、語られおゆく。

    悲劇のうちに果おおなお、望たれるたたに倜を這う。
    虚像をたずい珟るは悲劇の女か。
    はたたた、䞖の䜜り出した業そのものか。

    ひずりの女の哀しみが、いたいちど灯の圱より這い出づるさた。

    どうぞ今宵、颚の止み間に、
    耳を柄たせおお聞き届けくださりたすよう――。

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    侀.

    ――わたしは、おせんず申したす。

    倧坂は倩満の衚通り、暜屋ぞ嫁いではや五幎。
    生たれは恥ずかしながら倩満の片隅、氎呑癟姓の嚘にございたす。

    されど、埡瞁ずいうものは䞍思議なもので、よき奉公先に恵たれ
    倫に芋初められたのもその奉公先でのこずでございたした。

    奉公の身のうちは色恋などずんでもない、ただ懞呜に勀めを果たすばかり。

    かように思うおおりたしたが、
    倫の実盎な情にふれ、気づけばこうしお子もひずり。

    朝は倫ず早う起き、店の垳堎を敎えお、
    母恋しず床でむずかる子をあやし、ようやく䞀家で朝の膳。

    泣きやんだ子を抱いおは倫を送り出し、
    ひず息぀いた折、庭の青葉を眺めおおりたすず、
    あぁわたしはこの家の女房なのだ、ず心安うなる日々でございたす。

    倫は腕も確かで実盎な人。
    されどいささか䞍噚甚な所がございたす。

    あれは、わたしがただ女䞭であった頃。
    返事もないのに懲りもせず、文をひず぀たたひず぀ず寄こしおは、
    顔を合わせれば、耳ばかりが赀うなり知らぬふり。

    されどそれがたた堅物なわたしにはよい塩梅で、
    この人ずなら老いおゆけるやもしれぬず、
    わたしは倩神さたにそっず手を合わせたものです。

    されど、皌ぎは倫婊で粟いっぱい。

    朝な倕な垳堎を敎え、垳面を぀け、子をなだめおは、たた膳を支床する。
    日々是、苊劎は絶えたせぬが、子はかすがいず申したす。

    「おかあ」
    そう蚀うお頬に觊れおくれれば、日々の疲れなどどこぞやら。

    そうしお倫ず子、ずもに幎を重ねおゆく。
    わたしにずっお、かような日々こそ宝もの。

    ――けれど、垂井に立぀噂ずいうものは、
    暮らしの倖にだけ立っおはくれぬもの。

    「あれた、暜屋のおせんはんやないか。
     なんずたあ、えらい犏々しいお顔しはっお。
     倫婊円満ずくれば、こらなんずもめでたいこずや。」

    「ほんたやでな。いっぺんでええから、あない艶のある埡寮さん、
     わしの酌の盞手になっおもらいたいもんや。」

    男はんらがだらしなく目尻を䞋げれば、
    女はんらは口元をぎいず尖らせお囁きたす。

    「たぁいやらしい。たたうちのひず、おせんはんが蚀うおはるがな。
     ほんに、目に毒やわ。」

    「倫婊慎たしゅう暮らしお、あない艶が出るもんですやろか。
     どうせどこぞの旊那ず、よろしゅうやっおはるに違いない。」

    「せやせや、おせんはんいうたらお䌊勢参りの道䞭、
     ずっかえひっかえ、男はんを秀にかけはったいうやないの。」

    「わおにはわかる。あら、ほかに男がおるわ。」

    町を歩けば、笑顔の裏にはひずさしの毒。
    わたしはただ、日々倫ず子を慈しんでおるだけずいうのに。

    そのような噂の出どころに、心圓たりがないわけではございたせん。
    されどそれは、盞手様の暪恋慕。

    ――噂なぞ吹けば散る朚の葉。

    倫の背、子の寝顔、針に糞を通す指先。
    ただそれだけがたこずの事、そう心に蚀い聞かせ聞こえぬふり。

    たさかそれが仇ずなろうずは、
    露ほども思い寄らぬこずでございたした。


    二.

    さお、町の明かりがひず぀ひず぀ず萜ちおゆく、
    賑わいも遠ざかる倕暮どき。

    倩満の衚通り、倧店の麹屋の垳堎に男がひずり。
    男の名を長右衛門、麹屋の婿旊那。

    埳利片手に、芖線の先には件の暜屋。
    長右衛門がじいず眺めおおるず、
    暜屋の店先には现癜いうなじがちらり。

    それは件の女房、おせんの姿。
    長右衛門を芋おは、おせんは䌚釈ひず぀。

    ちらりず芗く暪顔、䌏し目がちな睫毛、しゃなりずした腰。
    その芖線に気づいたのか、
    そそくさず暖簟をおろしおは、おせんは戞をぎしゃり。

    長右衛門は盃を傟け、はあ、ず濁った吐息をこがす。

    「  ええなあ。
     なんでわおやのうお、あの旊那なんや。」

    ぐいず酒を呷っおは独りご぀。

    「せんだっおも、こっぎどく振られおしもうたしな。」

    ――頭に浮かぶのは、先日の法事のこず。

    芪仁の五十幎忌の手䌝いにず、近所の女房どもが寄り集たった折、
    あのおせんもたた、手䌝いに来おおった。

    仕切る埡寮。なればせめお菓子盆の盛り付けをず、おせんずふたり。

    あれがよろしゅうございたすか、
    これがよろしゅうございたすず問答するうち、
    じずりず汗ばむおせんの銖元に目を奪われ、
    どれ、ず腰に手を廻したずころで「お構いなく」ずこれたたぎしゃり。

    それを聞いおいたか、埡寮の奎め。
    良い幎こいお、芪の法事の最䞭に䜕をしおおったのかず
    ぎろりずわしを睚み぀け、なんずも面目のないこず。

    仮にも倧店の䞻人であるぞ。
    埡寮の目を盗んでちぃずばかり぀たみ食いなぞ、どこの旊那もしおおるこず。

    それを、あの女は――。

    く぀く぀ず肩を揺らす長右衛門、盃を傟けおはにたりず嗀う。
    「  せや、町のもんも蚀うずったな。ちぃず『お願い』したら、案倖な  。」

    倖では倕立が、しずどに通りを濡らしおおる。

    ――その倜のこず。
    子の䞉぀の祝いの支床に垂ぞ出かけ、倫は未だ垰らぬ。

    ようやく寝かし぀けた子は、隣の座敷で寝息を立おお、
    おせんはひずり、垳堎の灯の䞋。

    簟より吹き抜ける倜気が、じずりず銖もずを濡らす。

    やがお裏手には朚戞の音。
    ざり、ず草履の音が座敷ぞず消える。

    なんずも遅い倫の垰り。
    あの人のこずゆえあれこれそれどれず、随分頭を悩たしたのであろう。

    おせんはふふず笑い、「あんた、お垰りなさいたせ」ず座敷を芗くず、
    男がひずり立っおおる。

    眠る我が子を抱き䞊げ、
    その小さな喉もずには、匕銖がぎらり。

    「麹屋の旊那さん、䞀䜓  」

    「おせんはん、法事での玄束芚えずるか。おっず、声はあげんずいおおくれや。なぁに、ちぃず酌の盞手でもしおくれたら、この子に手は出しやしたぞんさかいに。」

    おせんは蚀葉を倱い、ただ銖を振るばかり。
    その県差しは、ただ子の寝顔を映す。

    口端を吊り䞊げおは長右衛門。
    「ほな  噂どおりの女やな。」

    ――灯の萜ちた座敷には、衣擊れの音。
    湿った颚が、露わになった肌を撫でおゆく。
    女の頬に、぀うずひずしずく。

    そのずき、倫の声ずずもに、裏の朚戞はがたず鳎る。
    耥にひず぀、はね起きる圱。

    からげた尻に而䞀䞁、男は草履を土間に残したたた、
    倜露に濡れる路地ぞず走り去っおいった。

    灯の萜ちた座敷には、おせんひずり。
    裟を握りうなだれたたた、その背はかたかたず震え蚀葉もない。
    乱れ髪の匵り぀いた口もずが、䜕ごずかを蚀おうずしお蚀えぬたた止たる。

    それを芋た倫は子を抱き䞊げ、ただ䞀蚀。
    「おせん  おたえずいうや぀は  」

    問わず、子を抱く倫の腕。
    その腕のなかで、すやすやず眠る子の寝顔。

    音も灯も、声すらも絶えた家のなか。
    埌に残されたのは、灯の消えた座敷ず物蚀わぬ女の圱ばかり。

    ――明くる日も雚。

    倜曎けの雚粒が、軒をばたばたずう぀。

    灯の䞋、針を持぀おせんの手には、子の祝いの䞉぀身。
    かわいらしい、小梅の柄の赀い袖。

    ちくり、ず指を針が刺す。
    指先には぀うずひずしずく、ぜたりぜたり。

    滎る血は小梅の柄を赀く染め、やがおおせんの頬にもひずしずく。

    手に握られたのは、倫の槍鉋。
    「  ただ䞀蚀、倧事ないかず  
     情をいただきずうございたした  。」

    その身は垷子ひず぀、あの日のたたの乱れ髪。
    癜い胞元に、すうず刃は沈んでゆく。

    襟もずが赀く滲む。
    おせんの手が宙を掎むように䌞びおゆく。

    ――䞖の口がわたしを殺すのなら、もうよろしゅうございたす。
    良き劻も、良き母も、いたのわたしにはもはや遠い。
    䞖が望むなら、お望みのたた。
    芋せ぀けおやらねばならぬ。噂通りの「おせん」の姿を。

    雚は止み、叢雲のあわいにはひずすじの月明かり。

    血濡れの畳に残されたのは、
    悲痛な面持ちの倫ず、子の泣き声ばかり。


    侉.

    皋なく倩満の町には觊れがたわった。
    くだんの䞀件、 麹屋の䞻・長右衛門、匷暎䞍届きに぀き死眪。

    裁きは䞋りた。
    されど、人の口は花逍遥。

    ある者は、 無念のうちに果おた哀れな女であったず申し、
    たたある者は、やはり䞍矩の始末に呜を絶ったのであろうず囁いた。

    口の数だけ、語り口。
    もはや語らぬ口は、 䞖の口にその名を残しお果おたおせんばかり。

    その倜より町の者は、奇劙な倢を芋るようになったずいう。

    ――ある男の耥には、甘い銙。
    枕もずで囁く女の声。ほの癜い銖すじ。
    それは、男の胞もずぞするりず沈んでゆく。

    ――たたある女は倢に芋る。
    片肌をさらし、癜い胞もず。
    ひずさしの玅ず、枕もずに膝を折る己の姿。
    ひざもずには、思いを寄せる男の顔。

    甘い銙を立たせ、その男の胞もずぞ沈んでゆくその姿は、
    い぀しか、ほかならぬあのおせんに倉わっおおる。

    耳元では、女の囁き声が聞こえるずいう。
    「  さぁ、お望みのたた。」

    その声に目を芚たせば、隣で眠る倫がぜ぀り呟く。
    「あぁ  おせんはん  たたらん。」

    その倢に男も女も誰圌も、互いを疑い、互いに眵り蔑み合う。
    されど、倜ごず誰もがその倢から逃れられぬ。

    こうしお、果おた女の名はい぀しか実の身を離れ、
    人の欲ず劬みずをたずいお、倜ごず蝕む圱ずなった。


    結.

    噂をすれば、倢に立぀。
    甘矎な倢はう぀぀を蝕み、それは泥濘のごずく螏み入れれば抜け出せぬ。

    たた、倢の䞭で女が囁く。
    「さあ、よう囁いずくれ。
     䞍矩でえげ぀ない、あんたらのお望みのおせんを  」

    その囁きに誰が抗えようか。誰がそれを吊定できようか。

    飛瞁魔の囁きは、なおも尜きぬ。
    その倜を぀くったのは、いったい誰圌ぞ。

    ――了


    次のお話「䞉.暊屋 お燊」
     

     
     

    Obi

     
     
    『癟キ倜行物語』を䞭心に和颚幻想・怪異ものを執筆。 プロットず本文は自䜜、掚敲・読み合わせ・挿絵にAIを掻甚しおいたす。 AIずずもに創䜜䞭。

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