
我が家の味
一日の最初の一杯の珈琲はインスタントコーヒーであることが多い。
自分でコーヒーを淹れられるし、本当はハンドドリップのコーヒーの方が好きだ。
でも数時間後に起きてくる夫に淹れてもらうと決めている。
ちなみに夫にコーヒーの淹れ方を教えたのは私だが、今や彼の方が上手に淹れられることを密かに認めている。
コーヒーを淹れているときの香りと、湯気と、夫と、「自分にもやらせて!」と小競り合う子ども達がいる風景が気に入っている。
その様子を何度か写真に収めたことがあるが、大抵子どもたちは眉を歪ませて怒った顔をしている。どちらがコーヒーにお湯を落とすかで必ずと言っていいほど押し合いへし合いになるからだ。
このやりとりを風物詩かのように眺めているのも面白い。
「コーヒー淹れたけど、飲む?」と聞いてくるときの彼らの得意げな顔もまたなんとも言えない。
飲むに決まっている。待っていたのだから。
淹れたてのコーヒーを届けて踵を返した背中に「ありがとう、美味しい!」とやや大げさにお礼を言った時の後ろ姿もまた得意げなのが良い。
朝ごはんの味は、いつもの納豆と味噌汁、パンと目玉焼きの味だけじゃない。この、珈琲に関連する一連のやりとりも含めて我が家の朝ごはんの味というものだ。
また夕ごはんには夕ごはんの味がある。
子ども達が食べ終わりテーブルを離れたら、後片付けの前に好きな音楽をかけてワインを一杯飲むことにしている。
少しだけ残しておいた夕ごはんのおかずとワインが合うかを試してみたいのもあるが、一日の終わりに自分への労いのような意味合いの方が大きい。
なんでもない普通の日の一区切りには、果実味がフレッシュで渋みが穏やかな親しみやすい赤ワインがホッとする。
イタリアのバルベーラというブドウ品種が最近のお気に入りだ。
バルベーラのワインが持つ親しみやすさは、例えるなら、馴染みの食堂の暖簾をくぐった時に、気さくな女性の店員さんに「いらっしゃい」とほほ笑んでもらった時のような安堵感と嬉しさがある。
価格もお手頃なものが多いのもまたホッとさせてくれる。
このタイプの赤ワインは甘辛い和食に合わせやすく、オムライスやミートソースパスタのような親しみやすい洋食にも合う。
キッチンが片付いたらダイニングテーブルでもう一杯。
特に際立ったことの無かった普通の一日を振り返る。
ここまでが私の夕ごはんの味だ。
明日も普通の一日になるといい。