メインコンテンツへスキップ
見出し画像

日々余白 #011

    毎朝、ゆでたまごをゆでる。

    ちょっとこだわりがある。

    固ゆではだめ、
    流れる半熟もだめ。

    オレンジ色のゼリーのような
    でも、
    しっかり、
    外も中も形を保っている、
    美しいゆでたまご。

    冷蔵庫からたまごを出し、

    穴あけ機でおしりに針の穴をあける。

    ミルクパンにちょうど5個。
    パック半分、一日の量。

    殻の温度を戻すため、
    蛇口から45度のお湯を出し、
    ミルクパンを満たす。

    お湯を一度捨て、
    岩塩のミルを七回ひねり、
    塩を加える。

    98度の熱湯を
    卵が完全に浸るまで入れ。
    火にかける。

    沸騰した瞬間、
    三分の砂時計を返す。

    サラサラと砂が落ちる。

    砂が落ち切った瞬間に火を止め。

    ミルクパンが冷え切るまで放置。

    以上。

    砂は、機嫌屋だ。

    落ちきる前に
    わずかに残る日もある。

    途中で、
    ふと、つまることもある。

    その砂時計の機嫌が、
    その日の、
    ゆで卵を変える。

    誤差。
    揺らぎ。
    気分。

    そのどれもが、
    今日の卵をつくっている。

    毎日食べても飽きないのは、
    砂時計のおかげ。

    こだわりながらも、
    最後の仕上げは、
    彼の機嫌に委ねる。

    今日の余白は、砂のきまぐれ。



     
     
    数年後にはデビューして半世紀になる。 続けてきたわけじゃない。 続いてしまったのだ、 というほうが近い。 やめる理由を探すより早く、 次の音が鳴ってしまう夜が、 四十六年分あった。 ここまで歩いてきて、 ようやく 「ここから先は、静かに書きたい」 と思える場所に辿り着いた。