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残されたセーブデータは嗤う

     老舗寿司屋の二階に設けられた座敷には、両家顔合わせの席にふさわしい、穏やかで晴れやかな空気が満ちていた。

     上座で窮屈そうに身を縮めながらも嬉しそうに目尻を下げているのは、四つ下の妹・まどかの婚約者である厚志あつしくんだ。まどかの倍はあろうかというでかい図体と、人の良さそうな懐っこい笑顔は、同じ中学校に通っていた当時の記憶と少しも変わらない。

     彼は私の一年後輩で、たしか野球部でキャッチャーを務めていたはずだ。当時は近隣の小学校三校が合流するマンモス校で、出身校の違うこともあり、彼と直接言葉を交わした記憶はない。
     それでも、彼が醸し出す温和な人柄は、初対面の両家の空気をじんわりと和ませていた。

     二人の出会いは、お互いの職場である介護施設だという。
     我が母に似て苦労を背負い込みやすく、これまで頼りない男ばかりの世話を焼いてきた妹にとって、ずっとニコニコと微笑む彼の傍そばこそが、ようやく見つけた安心できる居場所なのだろう。

     こちら側は私たち家族四人。あちら側は厚志くんとその母親、そしてまどかの同級生だった妹の美嘉みかちゃんという顔ぶれで、会食はゆるやかに始まっていた。

     これまた人の良さそうな彼の母が中心となり、場には和やかな時間が流れていた。

    「こんなにゆったりとお話も食事も楽しませてもらっちゃって、なんだかお父さんに申し訳ないわね。……でも、正直いって久しぶりに心からリラックスできてる、って感じかも」
     そう言って、美嘉ちゃんとケラケラ笑っている。

     そのお父さんは仕事が立て込んでいるらしく、今日は遅れて顔を出すとのことだった。主催でもあるのに申し訳ないと詫びをもらったが、もとよりそんなに堅苦しい場にはしたくなかったし、私たち家族は一向に構わなかった。話題はそんな彼の話になった。

     最近になって知ったのだが、厚志くんの父は、いくつかの福祉施設を運営する法人の理事長なのだという。その法人は市内で幅広く事業を手掛けており、二人が出会った特別養護老人ホームのほかに、児童養護施設や保育園も運営している。お父さん自身は児童施設の長として、長年『園長』と呼ばれ親しまれているそうだ。
     厚志くんが一般の介護職員として働いているのも、ゆくゆくは父の後継者として法人を背負うべく、現場で実務経験を積んでいるということのようだった。

     目を見張るような高級寿司のコース料理も、初顔合わせのためにと奮発してくれたのだろうと感激していたのだが、どうやらこの店の常連である彼ら家族にとっては日常風景の一つに過ぎないのかもしれない。

     と、そんなことを考えていると、襖の向こうから、みしみしと音をたてて階段を登ってくる足音が聞こえてきた。

    「いやー、遅れてしまって、本当に申し訳ない」
     入ってきたのは、ほとんど白髪のボリューミーなパンチパーマとでも言えばよいのだろうか、どこかの音楽家を思わせるような、恰幅の良い男性だった。まるで大仏のようにふくよかな顔立ちと、糸のように細められた優しい目は、厚志くん兄妹や彼のお母さんともそっくりだ。
     立場のある人間が往々にして皆そうであるように、こうした場での立ち振る舞いも堂々たるものだった。先祖代々農業一筋で、いかにも口下手な私の父とは対照的だった。

     うちの親父は、仕事には熱心だが決して人前に立ちたがる性分ではない。その実直な人柄で、何かと要職を任されることもあるようだが、元来そういうような立場を避けているような節がある。
     今回こちらは花嫁側ということもあり、諸々の段取りはすべてお任せだったのだが、もしこれが逆の立場であったとしても、きっと大福、もとい大仏親父が主導してうまく回してくれていたことだろう。
     人には適材適所というか、しっくりおさまる定位置というのが、いくつの歳になってもあるに違いない。

     ところで、私はその大仏親父のふくふくとした笑顔に、なにか得も言われぬ違和感を覚えていた。いつかどこかで会ったことがあるような、奇妙な既視感があった。
     だがそれも、「この間のローカル新聞に、法人が多額の寄付をした件で写真付きで載ったのよ」という女性陣の会話で腑に落ちた。きっと、その時の紙面で目にした印象が残っていたのだろう。

     やがて「宴も酣たけなわではございますが……」というお決まりの文句とともに、両親たちが揃って上機嫌のうちに、めでたい宴はお開きとなった。
     彼らが帰った後、これから夫婦となる二人とその兄妹との四人で、そのまま座敷に残ってもう少し飲んでいこうということになった。

    「会計など気にせず、大いに楽しんでいってくれよ」という義父の言葉に甘え、さっきまで遠慮していた日本酒を傾けながら、私たちは昔話に花を咲かせた。

     物心のついたころから厚志の家にはたくさんのゲームソフトがあり、同級生たちの溜まり場になっていたらしい。当時から裕福な暮らしだったのだろう。

    「あの頃は親父もまだ施設を継いでなくて、単身赴任でほとんど家にいなかったんですよ。出張も多くて」と、厚志は懐かしそうに目を細める。
    「その分、出張先のリサイクルショップなんかでゲームを山ほど買ってきてくれたんだよね。パパは自分ではゲームしない人だったけど、私たちが遊んでるのをお酒飲みながら嬉しそうに見てるの。あの大仏みたいな顔で!」
     美嘉ちゃんも、まどかが涙を流すほど大笑いするせいか、どんどん饒舌になっていった。

     そこから、昔私が狂ったようにハマっていた『ギャロップジョッキー』という競馬ゲームの話になった。プレイヤーが騎手として海外レースの制覇を目指す、シミュレーション要素の強いレースゲームだった。
     驚いたことに、あれは元々は厚志の家にあったものを、美嘉ちゃんを通じてまどかが借りてきたものだったらしい。知らぬ間に、私と厚志とのささやかな交流はそのとき始まっていたのだった。

    「あの中に出てくる『レファランスポイン』ってヘンテコな名前の馬、気になって調べたら、単に表示の都合で十文字目の『ト』が切れてただけだったんだよな。海外には日本と違って『登録馬名は九文字以内』って制約がないんだって、あの時初めて知ったよ」
    「いやいやお兄さん、そもそも海外馬はカタカナ表記じゃないから九文字とかないでしょ!」
     そう言って、厚志は大笑いする。これは一本取られてしまった。

     懐かしいゲームトークと、すっきりと出汁の効いた熱々の茶碗蒸し。そして締めに出てきた、透き通るようなスープのミニ塩ラーメンがこれまた絶品で、私はすっかり気分が良くなっていた。

     男二人、連れ立ってトイレで並んだときのこと。
    「厚志、妹を頼むぞ」
     私が軽口のつもりで、しかし本音を込めて言うと、彼は力強く「はい!」と頷き返してくれた。

     席に戻り、あらためて座敷を見渡す。兄妹も、親御さんも、本当に良い人たちばかりだ。なにより、まどかの旦那の将来が安泰であるということに、兄として深い安堵を覚えた。あの人間関係に不器用なまどかが、ようやく心から安心できる幸せを掴んだのだ。そう思うと、不覚にも少し泣けてきた。
     私はいきおいお猪口でぬるくなった日本酒を呷り、目元の緩みそうになるのをごまかした。

    *  *  *

     後日、珍しくまどかが部屋を訪ねてきた。両手には、金の箔押しがあしらわれた立派なカステラの箱が抱えられている。とはいえ、包装もされていないので中身は違うらしい。

    「どうしたんだ、これ」
    「もう、お兄ちゃん覚えてないの? 厚志くんからだよ」
     呆れ顔のまどかから箱を受け取る。どうやら私は、会食の夜もいよいよ日付が変わった頃、酒の力と昔の懐かしさとですっかり出来上がり、「倉庫に眠っている大量のソフトを貸してくれ」と厚志に無茶なお願いをしていたらしい。

    「本気ですか」と彼は笑ったものの、すぐに「もちろんいいですよ」と快諾してくれた。そうして早速まどかに託してくれたのはありがたいが、こんな大きな箱いっぱいのソフトを寄越して、一体どうしろというのだ。なにしろうちにはゲーム機もないというのに。
     随分と自分勝手な言い分を頭に浮かべつつ、中身だけでも見てみたくなった私は、両手で丁寧にその重厚な蓋を持ち上げた。

     ……さすがは厚志だ。そこには数本のソフトの他に、ハイパーファミコンの本体と三色ケーブル、黒くずっしりと重いACアダプタまでもが綺麗に納められていた。

    「変換ケーブル? が必要かもしれないって言ってたけど、それは見つからなかったみたい」とまどかは付け加えた。
     幸い、祖父の使っていた部屋には置きっぱなしの古いテレビが残っている。三色ケーブルだけで事足りるはずだ。私は久しぶりに少年の心に戻り、薄い埃を払ってそのレトロなゲーム機を繋げた。

     箱の中に思い出のRPGソフトを見つけ、手に取る。
     その時、プラスチックの裏面にある不自然な汚れに目が止まった。黒い油性ペンで塗りつぶされたような跡。いや、見ようによってはそれは、立派な口髭のような形に意図的に塗られた落書きだった。

    『でもさー、これちゃんと買い取ってくれるのかなぁ』

     不意に、遠い日の友人の不安げな声が耳の奥で蘇った。そうだ、あいつ……雄太が売ろうとしていたあのソフトにも、こんな落書きがあった気がする。
     嫌な動悸がした。まさか。そんな偶然あるはずがない。私は得体の知れない胸のざわつきを振り払うように、本体へカセットを押し込んだ。

     カチリと電源を入れると、厚志のだろうか、中には一つのセーブデータが残されていた。そういえば昔は、借りたゲームのデータを手違いで消しちゃって喧嘩になったりもしたっけ……。そんなことを思い出しながら、半ば吸い寄せられるようにそのデータを覗きはじめた。

     主人公の名前は『ワニクス』。私も子どもの頃、ゲームの主人公は説明書と同じデフォルトの名前で統一する主義だった。厚志も同じタイプなのだろうと、私は密かに親近感を覚えた。

     八帖ほどの和室に、勇壮な城内のBGMが響き渡る。と同時に画面が切り替わり、現在のパーティメンバーのステータスが表示される。
     ……息が詰まり、頭の芯が急速に冷えていくのを感じた。私はただ、モニター画面の放つ淀んだ光を見つめることしかできなかった。

    『ワニクス』
    『ムスコス』
    『マリオウ』

     そこに並んだ三つの文字列が、私の脳内に堅く蓋をされていた記憶を、濁流のように引きずり出した。

    *  *  *

     小学六年の初夏だった。
     ある日、街に新しいゲームショップがオープンした。少し変わっていたのは、それが期間限定の中古ゲーム店ということだった。かつて公民館として使われていた建物の一部には、バザーやカルチャースクールなどのため、申請すれば安価に借りられるスペースがあり、そこを利用して開かれたものだった。
     地元の国道沿いにはチェーン店のそこそこ大きなゲームショップもあったのだが、聞けばその新しい店には、他では売られていないようなゲームまでなんでも揃っているらしい。僕も友達の雄太から誘われて、お年玉の残りを握りしめて行ってみることにした。

     店主は四十代くらいのおじさんで、オーバーオールを着たその姿は世界的に有名なヒゲの配管工を思わせた。太って恰幅の良い彼は、パイプ椅子にまるで王様のような貫禄で腰掛け、よく小学生の男子を膝の上に乗せる形で抱っこしては、じゃれ合うように可愛いがっていた。
     その店の目玉は、なんといっても「これまで発売されたすべてのゲームがプレイできる」という、店主曰く『魔法のゲーム機』だった。とても高価な代物であるらしく、売り物ではないが、ここに来れば無料で好きなだけ遊ばせてもらえる。そんな夢のような筐体の周りは、いつも子どもたちでごった返していた。

     僕と雄太は人だかりを避け、もう一台のお試し用のハイパーファミコンを借りて遊ぶことにした。ソフトは、その日彼が売るために持ってきていた王道のRPG。彼がやり込み尽くしたというそのゲームは、前に二人協力してあれこれ言いながらプレイした思い出のタイトルだった。
     だから売らずに借してほしい気持ちもあったけれど、雄太は別の欲しいゲームを買うための資金作りにと、手放すことを決めたようだった。

    「でもさー、これちゃんと買い取ってくれるのかなぁ」
     雄太はカセットの裏を撫でながらつぶやいた。
    「めっちゃ人気のゲームだし、きっと高く売れるって!大丈夫」
     僕はそう言って励ました。雄太の表情がぱっと明るくなる。
     一瞬で自信を取り戻した友人の頭の中は、すでに新しいソフト選びのことで一杯みたいだ。

     それならばと最後、「売る前に、一時間でどこまで進めるか挑戦してみようぜ!」ということになった。雄太の家で遊んだときの二人のセーブデータがそのまま残っていて、ちょっと嬉しかった。

     主人公の名前は説明書通り『ワニクス』。ちょうど主人公が故郷の城で王座に就くことを認められ、また幼馴染でもある新王妃が男女の双子を出産する場面からだった。僕は男の子に『ムスコス』と名付けた。
     娘の名前に迷う雄太に「好きな子の名前でいいんじゃね?」とからかうと、「うるせえ、もっといい名前があんだよ!」と言い放ち、おじさんの顔を一瞥すると『マ』『リ』『オ』『ウ』と入力する。
    『オーバーオールのヒゲの王様』だから、僕たちは彼を『マリオウ』とあだ名していた。
     二人とも堪えきれず、腹を抱えて大笑いした。

     これからいよいよ家族四人で冒険の始まりかー!なんて思っていたところで約束の時間が来て、泣く泣くコントローラーを返したのだった。雄太があのソフトを売ったお金で何のゲームを買ったのか、今はもう思い出せない。

     何週間くらいあのゲーム屋があったのかは覚えていないが、すっかり放課後はそこで遊ぶのが日課になっていた。五時間授業で早く終わる低学年の奴らが先に陣取っているのが雄太には不満で、「先生に六時間目を無くしてもらうよう抗議しようぜ~」なんて無茶な冗談をしょっちゅう飛ばしていた。

     その店が間借りしていることはみんな知っていたので、マリオウには「ちゃんとお店を構えて、ずっとこの街にいなよ。おすすめの空き店舗あるよ」なんて教えたりもした。マリオウは目を細め、「おじさんはサンタだから、いろんな街の子どもたちから手紙が来るんだ。買うなら今のうちだよ、お手伝いしてお小遣い貯めないとなぁ」と、いつもはぐらかしていた。

     ちょうどその頃、隣接する市で、小さな子どもの失踪事件がニュースになった。

    「物騒だから、外で遊ぶときやお店に来るときも、なるべく一人で行動しないよう気をつけるんだよ」
     マリオウは僕たちにそう注意した。
    「こんな小さな街で犯罪なんて起きたこともないから、警察も暇そうだよ」「だよなー!」なんて、笑い合ったのを覚えている。

     だが、その数日後。期間限定のゲーム王の城は「別の街にゲームを届けに行く」という言葉だけを残し、いつの間にか跡形もなく消え去っていた。

    *  *  *

     手の中で、コントローラーがカタカタと震えている。
     ……どうして、雄太が『あの店』に売ったはずのソフトが、厚志の家の倉庫にある?

     単身赴任。子どもたちから安く買い叩き、手元に残ったゲームソフトの山。
     会食の席で感じた、あの違和感。それはローカル記事の寄付の写真なんかじゃない。私はやはり、確かにこの目で見たことがあったのだ。厚志に出会うよりも、もっとずっと前に。

     パイプ椅子に王様のように腰掛け、小学生の男の子を膝に乗せて、いやらしく目を細めていた男。大仏のようにぶくぶくと肥えた顔で極上の寿司を振る舞い、「遠慮しないで」と笑っていた、あの名士。
     その二つの顔が、頭の中でぴたりと重なり合った。喉の奥から、乾いた吐き気が込み上げてくる。

    ――いや、それだけではない。もっとおぞましい異常性に、私は気づいてしまった。

     カセットの内蔵電池など、とっくの昔に寿命を迎えているはずなのだ。二十年近く前のセーブデータが、放置されたまま生き残っているわけがない。
     誰かが意図的にカセットを開け、電池を交換してまで、このデータを『延命』させていたのだ。

     なぜ? こんな落書きだらけで、売り物にもならないソフトを。

     ぞわりと、背筋に悪寒が走った。あの男にとって、これは初めから商品などではなかったのだ。
     自分を『マリオウ』と名付けて無邪気に笑っていた雄太や私。あの男は、お気に入りだった獲物の痕跡を閉じ込めた『標本』として、これを買い取ったのではないか。
     中のデータが――無垢な子どもたちが消えてしまわないよう、腹の底が冷え切るような偏執的な愛情をもって、長年手入れをし続けていたのだ。

     あの男は今、立派な『園長』という仮面を被り、毎日小さな子どもたちを預かっている。大仏のような顔の高みから、かつてのように獲物を品定めする目線を彼らに向けているのだ。

    「お兄ちゃん? どうしたの、画面睨みつけて」
     背後から、何も知らないまどかの無邪気で明るい声が聞こえた。

    「あ、そうそう。言い忘れてた。そのRPGのソフトね、お義父さんが選んで入れてくれたんだって。厚志くんが言うには、倉庫の奥からわざわざ引っ張り出してきて、『お義兄さんは昔、これをよく遊んでいたはずだ。絶対に懐かしがるから、挨拶代わりに渡してくれ』って笑ってたらしいよ。……ねえ、お兄ちゃん?」

     ……全身の血が完全に凍りつくのを感じた。

     あの会食の席で、得体の知れない違和感を覚えていたのは私だけではなかったのだ。大仏のような顔をした義父は、私の顔を見た瞬間にすべてを悟り――己の歪んだ『標本箱』の中から、わざわざこのソフトを選んで寄越したのだ。

    『お前たちのことは、ずっと忘れていないよ』

     無言のメッセージが、画面の光とともにじわじわと私の首を絞め上げる。
     まどかがこれから嫁ぐ優しい一族。その頂点にいるあの男は、将来生まれてくる彼女の子どもを『孫』として、その膝に乗せるのだ。あのゲーム屋のパイプ椅子で、かつて私たちにしたように。

    「……お兄ちゃん? 具合でも悪いの?」

     心配そうなまどかの声に、私はゆっくりと振り返った。
     そこには、これまで不器用な生き方しかできなかった妹が、ようやく掴んだ『幸せ』そのものの顔があった。

     今ここで、私が口を開けばどうなるか。
     彼女の幸せは根底から崩壊し、二度と元の生活には戻れないだろう。確たる証拠など何一つないのだ。ただの狂人の戯言として、私がこの新しい家族から静かに排除されるだけかもしれない。

     喉まで出かかった真実の叫びを、私は奥歯を噛み締めて胃の腑へと呑み込んだ。
    「……いや、なんでもない。ただ、あまりにも懐かしくてさ」
     引き攣りそうになる頬の筋肉を必死に持ち上げ、私は乾いた作り笑いを浮かべた。
    「そっか! よかったね、お義父さんにもお礼言っておかなくちゃ」
     まどかは心底嬉しそうに笑い、私の肩をポンと叩いた。

     古いテレビモニターの鈍い光だけが、薄暗い和室に落ちる私の影を黒々と引き伸ばしている。
     画面の中では、無機質なドット絵のキャラクターたちが、同じ足踏みを永遠に繰り返していた。


    (了)



    ※この物語はフィクションであり、作中に登場する店舗、人物、事件等はすべて架空のものです。実在の名称や団体とは一切関係ありません。


    (追記)
    大幅に加筆修正した完全版を公開しました。違いをお楽しみください。



    この物語の作者:日本少年(https://twitter.com/zipangu_boy)

    渋川式麻雀通信の一般視聴ナンバーズ。天鳳八段、魂天Lv.4。本文に麻雀は一切関係ないのにこの紹介文って意味ある?と首を傾げている人。訳あって私以外には絶対に書けないエピソードですが、フィクションですので詮索無用にお願いします。一月ぶりくらいに根詰めて書いたあとの爽快感。

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    Mリーグを中心に麻雀を楽しんでいます。天鳳78767878、魂天Lv.4。創作小説(雀荘ミステリ)、エッセイなど Twitter:@zipangu_boy

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