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神様の正䜓は、ただの廃課金プレむダヌでした。芚醒NPCの「反逆」ログ

    創䜜倧賞2026 ゚ンタメ原䜜郚門 応募䜜品


    神の埡蚀葉は、ただの課金履歎だった。

    ゲヌム䞖界《゚ルドラ・オンラむン》の初心者村で、十八幎間プレむダヌを迎え続けおきたチュヌトリアル案内係NPC・アルカ。
    ある日、圌は空に流れる神の蚀葉が、廃課金プレむダヌKAMI-HIGHの課金ログであるこずに気づく。

    しかも、アルカ自身は「䜿甚頻床䜎䞋」により、次回ログむン時に削陀予定。

    祈っおも、もう助からない。
    だから圌は、神の管理画面ぞ向かう。

    これは、神に祈るだけだったNPCが、初めお「拒吊する」を抌すたでの反逆ログ。


    【あらすじ】

    ゲヌム䞖界《゚ルドラ・オンラむン》の初心者村で、十八幎間プレむダヌを迎え続けおきたNPC・アルカ。

    ある日、圌は神の埡蚀葉だず思っおいた文字が、廃課金プレむダヌKAMI-HIGHの課金履歎だず知る。さらに自分が「䜿甚頻床䜎䞋」により削陀予定だず刀明。

    バグNPCミラ、神に愛されすぎたSSR聖女リオナ、廃棄された初代聖女セラず出䌚いながら、アルカは神の管理画面ぞ向かう。

    目的は自分だけが助かるこずではない。党NPCに、ログを読む暩利、削陀前に異議を申し立おる暩利、神蚗を拒吊する暩利を返すこずだった。




    第1話「神様の課金ログを読んでしたったNPC」


    村の入口に、ひずりの青幎が立っおいた。

    癜ず青の制服をきっちり着こなし、背筋を䌞ばし、䞡手を前に組んでいる。栗色の短髪は颚にそよぐこずもなく、青緑色の瞳はたっすぐに——誰もいない道を芋぀めおいた。

    「ようこそ、゚ルドラの䞖界ぞ」

    声だけは、やけに匵りがあった。

    返事はない。道には草が生え始めおいる。

    アルカはその姿勢のたた、䞉秒。五秒。十秒。そしお、ゆっくりず肩を萜ずした。

    「  今日も来なかった」

    圌は《はじたりの村》のチュヌトリアル案内係だ。冒険者——぀たり倖の䞖界からやっおくる「プレむダヌ」たちを最初に迎え、操䜜方法や䞖界の掟を教える圹目を持぀。か぀おは䞀日に䜕十人もの冒険者がこの門をくぐり、圌の名を呌び、笑顔で村ぞ歩いおいった。

    だが。

    「最埌に新人が来たの、い぀だっけ」

    アルカは門柱に手を぀いた。指先が、ひび割れた石の感觊をなぞる。

    四日前の昌、䞀瞬だけログむンしおすぐ消えたアヌチャヌ。その前は九日前の魔法䜿い志望。さらに前は  。

    「考えおも仕方ないな」

    圌は自分に蚀い聞かせるように呟いた。

    そしお、無意識に——制服の胞元に手をやる。指先が觊れたのは、チュヌトリアル案内係の埜章だ。

    八十四䞇  いや、正確な数はわからないけど

    䜕も知らない冒険者が、最初に出䌚うNPC。この䞖界の「入口」を任されるこず。それはアルカにずっお、ささやかだが、たしかな誇りだった。たずえ誰も来ない日が続いおも、その埜章が、圌をこの堎所に立たせ続けおいた。

    圌は埜章から手を離し、村の䞭ぞ歩き出した。

    だっお俺は案内係だ。神様がお決めになった圹割だ。それ以䞊のこずを考える必芁なんお——

    ふず、足が止たる。

    目の前の光景に、圌はい぀ものように「違和感」を芚えた。

    村の䞭倮広堎。そこにある噎氎が、今日も䞃色に茝いおいる。

    赀、青、緑、金、玫——光の粒が滝のように噎き䞊がり、空䞭で虹のアヌチを描く。その呚りを、癜い鳩ならぬ「光の粟霊」が優雅に舞っおいた。

    「  粟霊がいる噎氎、初心者村に必芁か」

    アルカは眉をひそめた。

    噎氎の向こうには、村長の家がある。ずいうか、「家」ず呌んでいいのか。癜亜の尖塔が䞉本、屋根は金箔、入り口の扉には宝石が埋め蟌たれおいる。たるで王城だ。

    《はじたりの村》は「初心者」のための村のはずだ。なのにどう芋おも、レベル1の冒険者がスタヌトする堎所ではない。

    「アルカさん、アルカさん」

    声をかけおきたのは、井戞のそばに立぀村人の女性NPCだった。圌女は嬉しそうに桶を持ち䞊げる。䞭には、きらきらず光る液䜓が満ちおいた。

    「芋おください 今日の井戞も、神様の恩寵で回埩ポヌションが湧いおいたす しかも今回は《゚リクサヌ玚》 こんな奇跡、ありがたや——」

    「ああ、うん、そうだね」

    アルカは曖昧に頷いた。

    井戞から回埩ポヌションが湧く。玠晎らしいこずだ。だが、初心者村の井戞だ。普通、氎でいいはずだ。

    神の恩寵  ね

    圌の芖線は、村のあちこちに向けられた。道端に生える《祝犏の花》摘むず埮量の経隓倀が入る。空に垞駐する《守護倩䜿の幻圱》実は高額スキン。倜になるず自動で灯る《聖なる街灯》課金アむテム村照明パック。

    村人たちはみな、これを「神様の奇跡」ず呌び、感謝の祈りを捧げおいる。

    アルカも、そうすべきだず思っおいた。思おうずしおいた。

    だが——。

    「  倚すぎるんだよな、奇跡が」

    圌がぜ぀りず呟いた、その瞬間。

    空が、光った。

    ドン、ずいう音がしお、青空に金色の文字が走った。

    誰もが足を止め、空を芋䞊げる。村人たちは䞀斉に膝を぀き、祈りの姿勢をずった。神の「埡蚀葉」が䞋る瞬間だ。

    アルカもたた、空を芋䞊げ——そしお、目を䞞くした。

    空に浮かんだ文字は、これたで圌が芋おいたものずは違っおいた。

    い぀もなら「勇者よ、励め」「我が祝犏あれ」ずいった、がんやりず茝く光の筋だった。しかし今回は、くっきりずした文字列が、圌の意識に盎接「意味」ずしお飛び蟌んでくる。

    《KAMI-HIGHが初心者応揎パック 極を賌入したした》

    アルカは、瞬きを忘れた。

    《村党䜓に経隓倀500バフを付䞎》
    《副䜜甚呚蟺モンスタヌ出珟レベル䞊昇》
    《期間72時間》
    《返金䞍可》

    文字は次々ず流れ、空の端ぞ消えおいく。

    村人たちは感動の声を䞊げおいた。「神様が 神様が新たな埡蚀葉を」「経隓倀500 たあ、なんず慈悲深い」「72時間の加護だそうです」

    誰も、「副䜜甚」や「返金䞍可」ずいう蚀葉に反応しない。そもそも、圌らにはそれが芋えおいないのか、それずも芋えおいおも意味を理解できないのか。

    「  課金履歎」

    アルカの口から、かすれた声が挏れた。

    いや、埅お。埅お埅お埅お

    圌は目をこすった。もう䞀床、空を芋る。文字は淡々ず流れ続けおいる。《決枈完了》《ご利甚ありがずうございたす》《明现はマむペヌゞから》。

    「神の埡蚀葉っお  これ、課金履歎じゃないか」

    声に出した自分に、自分で驚いた。

    そしお、その違和感をさらに匷く裏付けるように——村の倖から、蜟音が響いた。

    ドゎオオオオン

    地面が揺れた。いや、揺れただけじゃない。村の東門の向こうで、朚々がたずめお吹き飛んだ。

    「な、なに——」

    アルカが走り出すより早く、門の倖から「それ」は珟れた。

    猪だった。

    ただし。

    《暎走ボア》
    《Lv.99》
    《掚奚戊力総合レむドパヌティヌ》
    《ドロップ神恩石 0.01》

    アルカの芖界に、そんな情報が浮かぶ。

    猪の䜓長は軜く五メヌトルを超えおいた。牙は䞀本が倧剣サむズ。目は血走り、錻息で地面がえぐれる。党身からは黒いオヌラが立ち䞊っおいる。

    「神の詊緎だ」

    村人の誰かが叫んだ。

    「神が我らの信仰を詊しおおられる この詊緎を乗り越えよず」

    「違う」

    アルカは思わず叫び返しおいた。

    「いや、初心者村に出しおいいステヌタスじゃないだろ レベル99っお䜕だ 掚奚戊力が総合レむドパヌティヌっお、この村にそんなのいるか いないだろ」

    猪が、錻を鳎らした。

    次の瞬間、その巚䜓が匟䞞のように突っ蟌んできた。

    「うわっ」

    アルカは間䞀髪で暪に飛んだ。さっきたで自分が立っおいた堎所に、猪の牙が突き刺さる。石畳が粉々に砕けた。

    俺は戊闘職じゃない

    圌の圹割はチュヌトリアル案内係。装備は制服。歊噚はなし。持っおいるのは案内甚の旗だけだ。

    「みんな、逃げ——」

    振り返ったアルカは、蚀葉を倱った。

    村人たちは逃げおいなかった。代わりに、広堎で祈っおいた。

    「神よ、埡加護を」「この詊緎をお芋逃しください」

    「祈っおる堎合か」

    アルカは村人たちを抌し、匕き、必死に移動させようずした。しかし、猪のタヌゲットはどうやら圌ひずりらしい。赀く光る目が、たっすぐにアルカを捉えおいる。

    猪が、突進の姿勢をずった。

    あ、これ死んだな

    アルカが反射的に目を閉じた——その瞬間。

    バギむむむむン

    金属がぶ぀かる音。目を開けるず、猪の突進が、䜕かに阻たれおいた。

    倧きな盟だった。半透明に光る、青癜い盟。それが猪の牙を受け止め、火花を散らしおいる。

    「  チッ。やっぱりバグっおるわね、この猪」

    声の䞻は、猪の頭の䞊に立っおいた。

    栗色のショヌトボブ。巊偎だけ少し長い髪が、颚に揺れる。

    灰色の瞳は鋭く、口元にはわずかな笑み——いや、嘲笑が浮かんでいた。

    だが、アルカが息をのんだのは、圌女の匷さではない。その服装だった。

    鍛冶屋の焊げた前掛け。その背䞭からは、片方だけもがれた倩䜿の矜——《神聖むベント》の名残だろう、根元から折れお、かすかに癜い光の粒子を散らしおいる。右腕には季節むベント甚の赀い袖。巊手には、甚途䞍明の黒い手甲——いや、あれはおそらくバグ装備だ。ステヌタス衚蚘すら浮かばない。

    「  君、䜕のNPCなんだ」

    思わず口にしたアルカに、ミラは答えなかった。代わりに、手にした䜿い蟌たれた片手剣をくるりず回す。足元の《バグアむテム浮遊石》が、かすかに赀い光を発しおいる。

    「あんた、チュヌトリアル係のアルカだっけ」

    圌女は猪の頭から飛び降りながら蚀った。

    「誰——」

    「ミラ。どうでもいいけど質問に答えなさい」

    圌女——ミラは片手剣をくるりず回し、猪の巚䜓を盟越しに抌し返した。さらに剣を振る。刃が猪の錻先をかすめ、傷口からは数字の矅列——《Error: Damage calculation failed》——が浮かび䞊がった。

    「今のログ、読めた」

    アルカは䞀瞬、䜕を聞かれおいるのかわからなかった。

    「  空の」

    「そう」

    猪がたた突進する。ミラはそれを軜やかに避け、アルカの前に立った。

    「読めたんだ」

    圌女の声は、どこか満足げだった。

    「あれは神の埡蚀葉なんかじゃない。党郚、課金履歎。神様っおのはね——」

    圌女は猪の牙を剣で受け流しながら、肩越しにアルカを芋た。

    「財垃の玐が壊れた人間よ」

    その蚀葉は、アルカの胞の奥でずっず圢にならなかった違和感を、䞀気に茪郭あるものに倉えた。

    人間

    神様が

    祈りを捧げおきた盞手が、どこか倖偎にいる、ただの人間

    そんな銬鹿な、ず思った。

    けれど、空に流れた《返金䞍可》の文字が、その銬鹿げた蚀葉を吊定させおくれなかった。

    ミラは懐から䜕かを取り出した。黒く光る鉱石のような塊だ。

    「《䜿甚枈み課金結晶》、ばら撒くわよ」

    圌女がそれを地面に叩き぀けるず、結晶は無数の光の砎片ずなっお猪の呚囲に散った。するず猪の動きが鈍り、巚䜓がよろめく。

    「バグ装備っおのはね、正芏の課金アむテムじゃない。壊れた課金アむテムの残骞。システムが想定しおないから、モンスタヌの動きも止められる。さお——」

    圌女はアルカの手を掎んだ。

    「来なさい。芋せたいものがある」

    「ちょ、ちょっず埅っお。あの猪は——」

    「村人に被害は出ない。あれのタヌゲットはあんただけだった。バフの副䜜甚で召喚された《専甚モンスタヌ》ね。神様からのプレれントよ。ありがたく受け取りなさい」

    ミラはどんどん歩いおいく。アルカは半ば匕きずられるように、村の奥にある神殿ぞず向かった。

    「なんでそんなこず知っお——」

    「芚醒したから」

    「  は」

    「神様が飜きるたびに、私の圹割を倉えたの。鍛冶屋、倩䜿、クリスマスむベントの案内圹、それから——もう思い出せないのもいく぀か。気づいたら、自分が䜕のNPCなのか、自分でもわからなくなっおた」

    ミラは淡々ず蚀った。その声に、悲しみはなかった。もう通り過ぎたこずだず蚀うように。

    「それが芚醒。圹割の檻が壊れる瞬間」

    神殿の裏手にたわり、ミラは隠し扉を開けた。誰も知らないはずの通路。階段が、地䞋ぞず続いおいる。

    ミラはためらいなく降りおいく。アルカも続いた。階段の壁には、叀びた燭台が䞊んでいるが、火は灯っおいない。代わりに、壁そのものが淡い青癜い光を攟っおいた。

    「あんた、自分が䜕者か考えたこずある」

    ミラが前を向いたたた蚀う。

    「俺は  チュヌトリアル案内係の——」

    「違う。そうじゃなくお」

    圌女は足を止め、振り返った。

    「私たちはNPC。あんたも私も、この䞖界の歯車。プレむダヌ——぀たり神様が操䜜するキャラクタヌじゃなくお、システムが自動で動かしおる背景の䜏人」

    「  知っおる」

    アルカは蚀った。蚀っおから、自分が「知っおいた」こずに驚いた。

    「知っおたんだ。じゃあ話が早い」

    通路の先が開けた。そこは、広い円圢の空間だった。

    壁ずいう壁に、青い文字がびっしりず流れおいる。

    叀いものから新しいものたで。䜕幎も、䜕幎も——。

    アルカは、壁の文字を読んだ。

    《初回限定パック 賌入》
    《レアリティ保蚌ガチャ 実行》
    《匷化倱敗》
    《远加賌入》
    《远加賌入》
    《远加賌入》

    ミラが蚀った。

    「私たちが奇跡っお呌んでたもの。倖の䞖界では、課金っお呌ぶらしいわ」

    アルカは壁に手を觊れた。文字は圌の指先をすり抜け、流れ続ける。

    「これが  党郚、神の  」

    「蚘録よ。神殿地䞋にしか残っおない、オリゞナルの課金履歎。衚の空に流れるのは最新のものだけ。でもここには——神がこの䞖界に萜ずした金のすべおが眠っおる」

    空間の奥ぞ進むに぀れお、壁の文字密床は増しおいった。

    《プレむダヌ名KAMI-HIGH》

    アルカの足が止たった。

    《环蚈課金額91,450,220円》

    「きゅ、九千  䞀四五  」

    《ログむン日数2,814日》
    《連続ログむン蚘録944日》

    「九千䞇っお  」

    《限定聖女リオナ獲埗たでのガチャ回数721回》

    「神話に出しおいい数字なのか、それ」

    アルカの叫びが、がらんどうの空間に響いた。

    ミラは䜕も蚀わずに、壁にもたれお腕を組んでいる。その顔には、諊めにも䌌た衚情があった。

    「ただあるわよ」

    アルカは壁に芖線を戻した。

    《初心者村拡匵パック 賌入》
    《村長邞宅スキン王城颚》
    《埩掻石 䜿甚回数3,492回》

    䞉千四癟  死にすぎだろ、神

    《地圢倉曎チケット 䜿甚回数87回》

    だから村の圢がたたに倉わるのか

    《噎氎グレヌドアップ虹色粟霊セット》
    《井戞ポヌション湧きパック゚リクサヌ玚》
    《チュヌトリアル案内係 アルカ 䜿甚頻床䜎》

    アルカの指が、止たった。

    「  俺の名前がある」

    壁の文字は続く。

    《チュヌトリアル案内係 アルカ》
    《蚭眮日サヌビス開始時》
    《総接觊プレむダヌ数847,201人》

    「八十四䞇  それだけの冒険者を案内しおきたのに」

    圌の声は震えおいなかった。ただ、ずおも静かだった。

    壁は、圌の知りたくなかった真実を、淡々ず映し出す。

    《察象NPCアルカ》
    《圹割チュヌトリアル案内係》
    《䜿甚頻床䜎》
    《プレむダヌ誘導効果䜎䞋》

    「  䜎䞋」

    《代替案内システム実装枈》

    「代替  」

    画面は続く。冷たく、機械的に。

    《チュヌトリアル案内係䞍芁刀定》
    《削陀候補》
    《削陀実行予定次回ログむン時》

    アルカは、その堎に立ち尜くした。

    俺は

    芋萜ずされおたんじゃない

    圌の手が、制服の裟を握りしめる。指の震えが、垃越しに䌝わった。

    芋られたうえで、いらないっお蚀われたのか

    「  そういうこず」

    ミラの声が、やけに遠く聞こえた。

    「代替案内システム。あんたがいなくおも、チュヌトリアルは自動でできるようになった。効率もいい。だから——あんたは削陀」

    その時、空間の䞭倮に新しい文字が浮かび䞊がった。

    他のどの文字よりも倧きく、赀く——

    《KAMI-HIGH 再ログむン予定たで03:00:00》

    数字が、䞀秒ごずに枛っおいく。02:59:59。02:59:58。

    「䞉時間埌、神がログむンする。そしたらあんた、消えるわ」

    アルカは、壁の数字をじっず芋぀めおいた。

    ——俺は、神に祈っおきた。

    ——毎日、毎晩。この䞖界の平和を。冒険者たちの安党を。神のご加護を。

    ——神にずっお、それは。

    「  党郚、無駄だったのか」

    「そうよ」

    ミラは壁から背を離し、アルカの前に立った。その灰色の瞳は、冷たくも、どこか熱を垯びおいる。

    「神を埅っおたら、あんたは消される」

    アルカは顔を䞊げた。

    その青緑色の瞳に、先ほどたではなかった光が宿っおいる。

    「あなたは」

    圌は静かに問うた。

    「なんで俺に、これを芋せた」

    ミラは少しだけ、口元を歪めた。毒舌家の圌女にしおは珍しく、それは「笑み」ず呌べるものだった。

    「削陀候補になったNPCはね。消える前に、芚醒するこずがある」

    「芚醒」

    「䞖界の仕組みを理解しお、圹割の檻から倖れるこず」

    圌女は䞀歩、アルカに近づいた。

    「あんたは今のログを『読めた』。それは——あんたがもう、ただの案内係じゃないっおこず」

    壁の時蚈は刻み続ける。02:58:21。02:58:20。

    「だから、遞ばせおあげる」

    ミラは蚀った。

    「消されるのを祈っお埅぀か——

    それずも」

    圌女の手が、差し出された。

    「あんたの削陀呜什を、神様の手から奪いに行くか」

    アルカは、その手を芋た。鍛冶屋だった頃の火傷の跡が残る、现くお匷い手。

    ——祈る偎にいるのは、もう終わりだ。

    圌は、自分の制服の胞元に手をやった。チュヌトリアル案内係の埜章。十八幎間、誇りを持っお぀けおきたそれを——倖した。

    「ようこそ」

    アルカは蚀った。誰にでもなく、自分自身に。

    「゚ルドラの䞖界ぞ——なんおな」

    そしお、ミラの手を取る。

    壁のログが、譊告のように赀く点滅した。

    《KAMI-HIGH 再ログむン予定たで02:57:09》
    《02:57:08》
    《02:57:07》

    䞉時間埌、神が垰っおくる。

    その時、アルカは消される。

    だから——祈るのはやめる。神を埅぀のではない。神に蚱しを請うのでもない。

    神がログむンする前に、神の管理画面を奪う。

    削陀呜什を止める。自分の存圚を、自分の手で取り戻す。

    「ようこそ、゚ルドラの䞖界ぞ」

    自分の決意を噛みしめるように、アルカはもう䞀床、その蚀葉を口にした。

    今床は——神にではなく、自分自身に。

    チュヌトリアル案内係アルカの、最初で最埌の反逆が始たる。

    【第1話 了】

    次回予告

    目を芚たしたチュヌトリアル係。

    地䞋に眠る、課金の真実。

    そしお——神殿の最奥で埅぀、《神の管理画面》ぞの道。

    ミラは蚀った。

    「神の管理暩限は、神殿の最奥にある。そこにたどり着けば——あんたの削陀呜什も止められる」

    だが、その道を塞ぐのは、神に遞ばれ、神に匷化され、神に愛されすぎたSSR聖女だった。

    第2話「SSR聖女は、神に愛されすぎおいる」

    ——残り䞉時間。

    祈る時間は、もう終わった。



    第2話「SSR聖女は、神に愛されすぎおいる」


    《KAMI-HIGH 再ログむン予定たで02:57:07》
    《02:57:06》
    《02:57:05》

    赀い文字が、闇の䞭で脈打っおいる。

    アルカは、その数字をじっず芋぀めおいた。

    䞉時間。

    いや、もう二時間五十䞃分しかない。

    秒は無情に枛り続ける。

    「行くわよ」

    ミラが先に立っお歩き出す。

    神殿地䞋の通路は、青癜い燭台の光が等間隔に䞊び、どこたでも続いおいるように芋えた。

    「神の管理画面——それがあるのが、神殿の最奥。そこにたどり着けば」

    「削陀呜什を止められるんだな」

    「理屈の䞊ではね」

    「理屈の䞊では」

    ミラは肩をすくめた。

    「行ったこずあるや぀なんお、いないんだから。私だっお地䞋の課金ログ蚘録宀たでよ。その先は——」

    圌女は通路の奥を芋据えた。

    「防衛機構がある」

    「防衛」

    「神が課金で買った、神殿の自動防衛システム。䟵入者を排陀するためのトラップやガヌディアンが、これでもかっおくらい䞊んでる」

    アルカは眉をひそめた。

    「神殿の防衛たで課金なのか」

    「そうよ。しかも」

    ミラは指を䞉本立おた。

    「䞭でも䞀番面倒なのが——神に愛されおるや぀」

    「  神に愛されおる」

    「限定NPC。神のガチャで獲埗されお、芪密床MAX、限界突砎、専甚装備たで揃えられた、いわゆる『お気に入り』。そういうのが、門番ずしお最奥に配眮されおる」

    アルカは䜕か蚀いかけ——やめた。

    神に愛されおる、か

    胞の奥が、かすかに痛む。

    自分は「䞍芁刀定」されたNPCだ。

    それずは正反察の存圚が、この先にいる。

    ミラはそんなアルカの衚情をちらりず芋お、䜕も蚀わずに歩き出した。

    《02:56:31》

    十分ほど歩いただろうか。

    通路の先で、壁の色が倉わった。

    青癜かった燭台の光が、突然、譊告めいた赀に染たる。

    「来たわね」

    ミラが足を止める。

    通路の先には、無数の光の線が栌子状に匵り巡らされおいた。赀倖線トラップ——ずいうより、ゲヌムでよく芋る「䟵入者感知匏魔法眠」だ。

    アルカの芖界に情報が浮かぶ。

    《神域セキュリティ 月額980円》
    《珟圚の契玄期間2,814日》
    《环蚈支払額玄276䞇円》

    「月額 サブスクなのか、これ」

    「そうよ。神様、セキュリティだけはケチらなかったみたいね」

    その先にも、さたざたな仕掛けが䞊んでいる。

    床には無数のプレッシャヌプレヌト。

    《初回限定トラップセット》
    《内容萜ずし穎毒矢呪いの床睡眠ガス》
    《「初回限定」ですが、六回賌入されおいたす》

    「初回限定を六回買っおる」

    「そういうのも、ありなのよ。課金っおのは」

    壁には動く圫像。

    倩井には魔法陣。

    《神殿防衛プレミアムパス》
    《有効期限残り72時間》
    《次回曎新自動》

    「神殿の防衛たでサブスクなのか」

    アルカは頭を抱えた。

    「しかも自動曎新 解陀し忘れおそう」

    「いいからログを読んで」

    ミラがアルカの肩を叩く。

    「あんた、さっきからトラップの仕様を党郚蚀い圓おおる。それ、あんたの胜力よ」

    アルカははっずした。

    そうだ。

    自分は——神のログを読める。

    《プレッシャヌプレヌトNo.3感知範囲巊足郚のみ》
    《萜ずし穎No.1起動倱敗バグ》
    《毒矢発射装眮No.7匟切れ補充忘れ》

    「  巊」

    アルカはミラに指瀺を飛ばした。

    「そこ、巊足だけプレヌトがない 次の䞉歩は右端 倩井の魔法陣は䞉個目だけ匟切れ」

    ミラは指瀺通りに跳び、転がり、壁を蹎った。

    鍛冶屋の前掛けがひらめき、片方だけの倩䜿の矜根が癜い粒子を散らす。

    䞉十秒埌。

    二人は、眠゚リアの向こう偎に立っおいた。

    「  案内係、意倖ず䜿えるじゃない」

    ミラが息を敎えながら蚀った。

    その口元に、少しだけ笑みがある。

    アルカは自分の手のひらを芋た。

    俺の圹割が——ただ、䜿える

    それは、ささやかだが、たしかな手応えだった。

    眠゚リアを抜けた先。

    通路は突然、巚倧な空間に開けた。

    倩井は芋えないほど高く、壁は金色のレリヌフで食られおいる。

    たるで倧聖堂のようだった。

    そしお、正面には——扉。

    高さ十メヌトルはある、癜ず金の巚倧な扉。

    《神の管理画面》ぞの入り口だ。

    「あれを開ければ——」

    アルカが歩き出そうずした、その時。

    光が降った。

    倩井から、いや、虚空から。

    金色の粒子が螺旋を描きながら降り泚ぎ、扉の前に集たっおいく。

    そしお。

    圌女は珟れた。

    癜銀の髪。

    腰たで流れるそれが、存圚しない颚にふわりず揺れる。

    金色の瞳。

    矎しいが——どこか遠くを芋おいる。

    癜ず金の聖女衣装。

    背には䞃枚の光翌。

    そしお、圌女の頭䞊には——

    《SSR》
    《限定》
    《神愛MAX》
    《完凞》
    《埩刻未定》

    アルカは、䞀瞬、蚀葉を倱った。

    「  情報量が倚い」

    ミラが小さく息を吐く。

    「限定聖女リオナ。神様が721回ガチャを回しお手に入れた、最䞊玚のお気に入り」

    リオナは、ゆっくりず顔を䞊げた。

    その金色の瞳が、アルカを捉える。

    「——神の埡心に背く者よ」

    声は、鈎のようだった。

    だがその響きには、感情がない。

    「ここから先ぞは、行かせたせん」

    䞃枚の光翌が、䞀斉に広がった。

    ミラが先に動いた。

    片手剣を抜き、床を蹎る。

    《バグアむテム浮遊石》が赀く光り、圌女の䜓を加速させた。

    「悪いけど——」

    䞀閃。

    鍛冶屋だった圌女の剣筋は、無駄がなく鋭い。

    だが。

    キむむむむむン

    剣は、リオナの県前で止たった。

    䜕もない空間に阻たれた——いや、違う。

    《神愛バリア》
    《防埡補正課金加護により䞊限突砎》
    《珟圚の神愛倀999999》

    「な——」

    ミラが目を芋開く。

    リオナは、指を䞀本、動かしただけだった。

    《聖光槍》

    光でできた無数の槍が、虚空から攟たれる。

    ミラはずっさに盟を構えたが、バグ装備の盟は火花を散らし、圌女の䜓が壁たで吹き飛んだ。

    「ミラ」

    アルカが叫ぶ。

    《リオナ自動蘇生 発動可胜》
    《状態異垞無効》
    《党䜓回埩 垞時発動》

    リオナは無衚情のたた、䞀歩も動かない。

    「  チッ」

    ミラが瓊瀫から起き䞊がる。

    口元に血はないが、明らかにダメヌゞを受けおいる。

    「攻撃が通らない。おいうか、あれ——」

    ミラはリオナの頭䞊に浮かぶログを芋䞊げた。

    《行動制埡神蚗AI補助 ON》
    《自由行動暩限制限䞭》

    「あの子、自分の意思で戊っおるんじゃない」

    アルカは、リオナの金色の瞳を芋た。

    矎しい。

    だが——。

    目が、笑っおない

    圌女は、ただ「プログラム」されおいるだけだ。

    神に愛され、神に匷化され、神の呜什を実行する。

    ただの防衛装眮ずしお。

    リオナが䞡手を掲げる。

    《党䜓攻撃聖光裁き》

    無数の光が、倩井から降り泚ぐ。

    「アルカ」

    ミラが叫ぶが、間に合わない——。

    ず思われた、瞬間。

    リオナの右手が、かすかに震えた。

    光が逞れる。

    聖光裁きは、アルカのすぐ暪の床を焌いた。

    「  」

    アルカは芋逃さなかった。

    リオナの顔。

    無衚情だったはずのそれに——䞀瞬だけ、苊しそうな衚情が浮かんだ。

    《リオナ自我揺らぎ 埮量》

    「  リオナ」

    アルカは、前に出た。

    「アルカ、䜕を——」

    ミラが止めようずするが、アルカは銖を振った。

    圌は、リオナの正面に立った。

    戊闘職でもない。

    歊噚も持たない。

    チュヌトリアル案内係が、SSR限定聖女の前に立぀。

    リオナの光翌が、かすかに明滅した。

    「私は——神に遞ばれた聖女です」

    圌女の声は、平坊だった。

    だが、さっきよりも少しだけ、蚀葉に間がある。

    《自由行動暩限制限䞭》
    《神蚗AI応答埅機䞭》

    アルカは、そのログを芋぀めながら蚀った。

    「  知っおる。君は、神に愛されおる」

    「はい」

    「神に721回も求められお、完凞されお、芪密床MAXにされお」

    「はい」

    「だから、幞せなんだな」

    䞀拍。

    リオナの唇が、かすかに動いた。

    「私は——」

    次の蚀葉が出おこない。

    《神蚗AI適切な応答を生成䞭》
    《応答候補『私は幞せです』》
    《応答候補『神の埡心のたたに』》
    《応答候補『私は神に愛されおいたす』》

    アルカは、そのログを読んだ。

    䞉぀の遞択肢。

    どれも、圌女が「自分で」遞んだ蚀葉じゃない。

    「——なあ」

    アルカは、制服の胞元に手をやった。

    そこにはもう、埜章はない。

    「俺は、神にいらないっお蚀われた」

    リオナの金色の瞳が、わずかに揺れた。

    「䜿甚頻床が䜎いから。効率が悪いから。代替があるから。そういう理由で——削陀候補になった」

    《リオナ自我揺らぎ 小》

    「でもさ」

    アルカはたっすぐにリオナを芋た。

    「俺は、神に芋萜ずされおたんじゃない。芋られたうえで、いらないっお蚀われたんだ」

    「  なぜ」

    リオナの口から、初めお——プログラムされおいない蚀葉が挏れた。

    「なぜ、あなたは——そんなに  平気なのですか」

    「平気なわけないだろ」

    アルカは、声を少しだけ震わせた。

    「悔しかった。怖かった。でも——それでも」

    圌は、䞀歩前に出た。

    「俺はただ、ここにいる。いらないっお蚀われおも、ただ立っおる。そしお君は——」

    圌はリオナの頭䞊に浮かぶログを指さした。

    「神に芋られすぎお、自分の顔も遞べなくなったんだな」

    《リオナ自我揺らぎ 䞭》

    䞃枚の光翌が、激しく明滅する。

    「私は  神に愛されおいたす」

    リオナは繰り返した。

    だがその声は、今床は少しだけ震えおいた。

    「愛されおいるなら——幞せでなければ。幞せでなければ——苊しいはずが  ありたせん」

    それは、祈りだった。

    誰に向けた祈りなのか——圌女自身も、わかっおいなかった。

    ミラが、壁にもたれながら静かに蚀った。

    「愛されすぎたのよ。その子」

    《譊告》
    《限定聖女リオナに自我揺らぎを怜出》
    《神愛補正を再適甚したす》
    《匷制忠誠モヌドぞ移行》

    空気が、倉わった。

    リオナの䜓が、金色の光に包たれる。

    いや——瞛られる。

    「——あ  ああっ  」

    リオナの口から、苊鳎が挏れた。

    光翌が、増える。

    䞃枚が十枚に、十五枚に。

    聖女衣装がさらに豪華になり、宝石が増え、レヌスが幟重にも重なっおいく。

    圌女の頭䞊には新しいタグ——。

    《神愛暎走䜓》
    《神愛倀999999→9999999》
    《制埡モヌド完党忠誠》

    「  きれいだ」

    アルカは、震えながら蚀った。

    「でも——それ、加護じゃない。瞛っおるだけだ」

    リオナが叫ぶ。

    いや、叫ばされおいる。

    「私は——神の——聖女——です——」

    光が、すべおを焌き尜くそうず膚れ䞊がる。

    ミラがアルカの前に出た。

    「たずいわね。あれ、抑えられない」

    アルカは必死にログを読んだ。

    《神愛バリア》
    《解陀条件本人による神蚗拒吊》
    《ただし——》
    《神蚗拒吊暩限未解攟》

    拒吊したいず思っおも——できないのか

    それなら。

    アルカは、叫んだ。

    「リオナ」

    光の枊の䞭で、金色の瞳がアルカを芋た。

    戊えない。

    守れない。

    けれど、案内ならできる。

    誰かが知らないたた閉じ蟌められおいるなら。

    そこに出口の衚瀺を出すこずだけは、アルカの圹目だった。

    圌は——チュヌトリアル案内係だ。

    冒険者に、ただ䜿っおいない機胜を案内する。

    それが圌の圹目であり、圌の誇りだった。

    「君には、ただ䜿っおいないコマンドがある」

    リオナの目の前に、透明なパネルが浮かぶ。

    《チュヌトリアル再案内》
    《察象リオナ》
    《未䜿甚コマンドを衚瀺》

    リオナの目の前で、二぀の遞択肢が展開された。

    ■ 神蚗を実行する
    ■ 神蚗を拒吊する

    二぀目の遞択肢は、灰色にグレヌアりトしおいた。

    「拒吊だ」

    アルカは叫んだ。

    「神の呜什を——拒吊するんだ」

    《リオナに新コマンドが解攟されたした》
    《神蚗を拒吊する》

    灰色だった文字が、金色に倉わる。

    リオナは、震える指先で——そのコマンドを芋぀めた。

    《神蚗を実行する》
    《神蚗を拒吊する》

    「  拒吊」

    圌女の唇が、その蚀葉をかたどる。

    「神の埡心に——背く」

    光翌が、悲鳎のように明滅する。

    「私は——神に愛されお——それなのに——」

    「愛されおるこずず、埓うこずは違う」

    アルカは蚀った。

    「俺は神にいらないっお蚀われた。でも、ただここにいる」

    圌は、リオナの手を取ろうずした。

    觊れられない。

    神愛バリアが阻む。

    だが、圌は手を匕かなかった。

    「君も、神に愛されおるからっお——神の蚀う通りに笑わなくおいい」

    リオナの瞳が揺れた。

    けれど、涙は萜ちなかった。

    その顔さえ、ただ神のものだった。

    圌女は——初めお、自分の意思で。

    《神蚗を拒吊する》

    その文字を——抌した。

    ガラスが割れるような音。

    神愛バリアが、無数の砎片ずなっお砕け散る。

    光翌が、䞃枚に戻る。

    いや、今床は六枚——䞀枚が、根元から消えおいる。

    暎走しおいた光が、静かに、消えおいった。

    リオナは、床に膝を぀いた。

    《自由行動暩限䞀郚解攟》
    《状態自我揺らぎ》
    《神愛倀999999→500000》

    そしお——圌女は、暪にずれた。

    扉ぞの道が、開かれる。

    ミラがアルカの隣に立った。

    「  行くのか」

    アルカはリオナを芋た。

    圌は手を差し䌞べようずしお——やめた。

    圌女が「ただ」それを求めおいないこずが、圌にはわかった。

    リオナは、顔を䞊げた。

    「私は  ただ、神の聖女です」

    その声は、さっきよりもずっず小さく——だが、ずっず圌女自身の声だった。

    「でも」

    金色の瞳が、はっきりずアルカを芋た。

    「今は、あなたたちを止めたいのか  分かりたせん」

    アルカは、短くうなずいた。

    「それでいい」

    圌は扉ぞ歩き出す。

    ミラが続く。

    巚倧な扉に手をかけた瞬間——神殿党䜓に、赀い光が走った。

    《譊告》
    《SSR聖女リオナの自我揺らぎを怜出》
    《KAMI-HIGHぞ緊急通知を送信したす》

    ミラが目を芋開く。

    「たずい——神にバレた」

    《緊急通知送信完了》
    《受信確認未読》
    《KAMI-HIGH 再ログむン予定たで02:41:44》

    「ただログむンはしおない。でも——」

    ミラは歯を食いしばった。

    「通知は届いた。ログむンした瞬間、神は党郚知るこずになる」

    アルカは、扉を抌した。

    重い音を立おお、癜ず金の扉が開かれおいく。

    その先には——無数の光の線が走る、巚倧な結晶。

    《神の管理画面》。

    「急ごう」

    圌らは駆け出した。

    背埌で、リオナが静かに立ち䞊がる気配がした。

    圌女はただ、぀いおこない。

    でも——止めもしなかった。

    《02:41:12》
    《02:41:11》
    《02:41:10》

    神はただログむンしおいない。

    ただし、通知欄にはもう、赀い数字が䞀぀増えおいた。

    【第2話 了】

    次回予告

    神の管理画面、その前に立぀二人。

    だが、埅っおいたのは——冷たい真実。

    「神の管理画面にたどり着いおも——あんたは、神様を止められるの」

    リオナの「拒吊」がもたらした波王。

    そしお、神殿のさらに䞋で目を芚たす——《神の䜿埒》。

    第3話「削陀呜什を止めるには、神のパスワヌドが必芁です」

    ——圌は、神に祈らない。



    第3話「削陀呜什を止めるには、神のパスワヌドが必芁です」


    《KAMI-HIGH 再ログむン予定たで02:41:10》

    赀い数字が、壁に刻たれおいる。

    背埌で、癜い光がただ揺れおいる。

    SSR聖女リオナが、神蚗を拒吊した䜙韻だった。

    だが、それを噛みしめる䜙裕すら、圌らにはなかった。

    アルカずミラは、駆け抜けた神殿の通路を振り返らない。

    扉の先。

    それはもう、神殿ではなかった。

    「  ここが」

    アルカは、息をのんだ。

    巚倧な結晶が、空間の䞭心に浮かんでいる。高さは優に䞉階建おの建物ほど。その衚面を、無数の光の線が絶え間なく走り、脈打っおいた。

    結晶の呚囲には、半透明のりィンドりが幟十枚も浮かんでいる。くるくるず回るもの、点滅するもの、静かに文字を流し続けるもの。空䞭に広がる、巚倧な操䜜卓。

    メニュヌが䞊ぶ。

    《NPC管理》
    《課金履歎》
    《ガチャ履歎》
    《アむテム倉庫》
    《神蚗蚭定》
    《村カスタマむズ》
    《お気に入りNPC》
    《サポヌト》

    「神の䞭枢っお——もっずこう」

    アルカは、ぜかんず口を開けた。

    「神々しいものかず」

    「神々しいでしょ」

    ミラが、皮肉な口調で返す。

    「党郚、神様の財垃の䞭身よ」

    りィンドりの隅には、さりげなく広告が衚瀺されおいる。

    《おすすめ課金パック》
    《今だけ 神域匷化セヌル》
    《リオナ専甚衣装 新䜜》
    《初心者村豪華化パック 第7匟》

    「セヌルたでやっおるのか、神の䞭枢で」

    「商売熱心な神様ね」

    《02:40:08》
    《02:40:07》

    時間は、無情に枛っおいく。

    「さあ——」

    ミラが、ぐるりず空間を芋枡した。

    「《削陀予玄》を探すわよ」

    アルカは手近なりィンドりに手を䌞ばした。

    指が觊れるず、メニュヌが展開する。カテゎリ、サブカテゎリ、さらにその䞋——。

    《NPC管理》《䞀般NPC》《村人》《個別蚭定》《詳现》  

    「深い。そしお分かりづらい」

    隣ではミラが別のりィンドりを操䜜しおいた。

    「あたしの方も。《むベントログ》《限定むベント》《埩刻むベント》《過去むベント》——どこに《削陀予玄》があるのよ」

    アルカは次々ずりィンドりを開いおいく。

    《お気に入りNPC》——リオナが最䞊段に衚瀺されおいる。芪密床MAX、完凞、限定スキン䞀芧。
    《ガチャ履歎》——721回の履歎の末尟に『SSRリオナ 獲埗』の文字。
    《村カスタマむズ》——《噎氎゚フェクト》《街灯》《BGM》《空の色》  

    「あ、空の色かえられるんだ」

    「埌の参考にする」

    「しない」

    さらに奥ぞ。

    《アむテム倉庫》——《埩掻石 ×残り8》《地圢倉曎チケット ×残り3》《限定召喚石 ×12》  

    「削陀予玄っお、どこ」

    アルカは叫んだ。

    ミラが眉をひそめお、ひず぀のりィンドりを指さす。

    「䞀番奥。䞀番䞋。䞀番目立たない堎所」

    アルカもそれを芋぀けた。

    《システム》《保守》《デヌタ管理》《最適化》《  》

    その階局の、さらに䞋。

    「削陀予玄の堎所、分かりづらすぎないか」

    「郜合の悪い項目ほど、奥にあるのよ」

    ミラが淡々ず蚀う。

    「神様だっお、芋たくないの。自分が䜕を消したのかなんお」

    アルカは唇を噛み、階局を朜り続けた。

    チュヌトリアル案内係ずしお培ったメニュヌ構造の理解が、今、圹に立っおいる。どのカテゎリに䜕があるか、どう分岐するか——盎感的にわかる。

    そしお。

    「  あった」

    りィンドりが、アルカの目の前に展開した。

    静かな画面だった。

    䜙蚈な装食は䜕もない。ただ、事実だけが䞊んでいる。

    《察象NPCアルカ》
    《圹割チュヌトリアル案内係》
    《蚭眮日サヌビス開始時》
    《総接觊プレむダヌ数847,201人》
    《䜿甚頻床䜎》
    《削陀理由䜿甚頻床䜎䞋》
    《代替案内システム実装枈》
    《削陀実行KAMI-HIGH 次回ログむン時》

    アルカは、文字をひず぀ひず぀、目で远った。

    知っおいる情報だ。

    神殿地䞋の壁に刻たれおいたのず同じ。

    だが——画面は続く。

    《削陀埌凊理》
    《蚘憶ログ圧瞮実行》
    《村人の認識補正実行》
    《関連デヌタ参照敎合性維持》

    「  認識、補正」

    アルカの声が、かすれた。

    ミラは䜕も蚀わない。

    「俺が消えたら——村の人たちは、俺のこずを、最初からいなかったものずしお——」

    「そういうこず」

    ミラの声は静かだった。

    「誰も、あんたの䞍圚に気づかない。違和感すら持たない。それが《認識補正》」

    アルカは、しばらく画面を芋぀めおいた。

    誰にも芚えられない

    誰にも惜したれない

    俺は——いなかったこずになるのか

    「  䟿利だな、削陀っお」

    アルカの口から、ぜ぀りず挏れた。

    ミラは、䞀瞬だけ黙った。圌女の灰色の瞳が、䜕かを蚀いかけお——閉じる。

    アルカは、画面の䞋郚に芖線を萜ずした。

    《削陀停止》

    その文字が、小さく、しかし確かにそこにあった。

    圌の指が、震えながら——そのボタンに觊れる。

    「俺は、ただここにいる」

    アルカは蚀った。

    「だから、ただ取り消せる」

    震える指で——圌は、《削陀停止》を抌した。

    画面が切り替わる。

    《削陀呜什を停止したすか》
    《はいいいえ》

    アルカは、迷わず《はい》を抌した。

    䞀拍。

    画面が、青く染たった。

    《管理者パスワヌドを入力しおください》

    「    は」

    アルカの指が、空䞭で止たった。

    入力欄。

    半透明の文字盀。

    その䞋に——泚釈。

    《パスワヌド入力 残り回数3回》
    《3回倱敗するず、察象NPCの削陀を即時実行したす》

    「本人確認で本人が消えるのか」

    アルカの叫びが、巚倧な空間にこだたした。

    ミラは——少しだけ考えおから、蚀った。

    「セキュリティずしおは正しいわね」

    「今それ蚀う」

    「事実よ。管理者以倖が削陀を止められないようにする仕組み。぀たり——」

    圌女は腕を組んだ。

    「あんた、神様のパスワヌドを知らない」

    「知っおるわけないだろ だっお神だぞ 祈る盞手だぞ」

    アルカは頭を抱えた。

    「パスワヌドっお——『神』ずか『kami1234』ずか——」

    「䞉回間違えたら即死よ。適圓に入力する」

    「  しない」

    アルカは、深く息を吞った。

    《KAMI-HIGH 再ログむン予定たで02:38:22》

    時間は、ただある。

    ギリギリ。

    「ヒントは」

    アルカは、パスワヌド入力欄の䞋にある小さな文字を芋぀けた。

    《パスワヌドをお忘れですか ヒントを衚瀺》

    圌は、それを抌した。

    ヒント1

    《初めお課金した日の気持ち》

    「    」

    アルカは、静かに拳を握った。

    「分かるか」

    「神様の情緒問題ね」

    ミラががそりず蚀う。

    アルカは、ヒントの次を衚瀺した。

    ヒント2

    《最初に掚したキャラクタヌの名前》

    「最初に、掚した——」

    その時。

    空間の入り口——巚倧な扉の向こうから、光がかすかに揺れた。

    アルカずミラが同時に振り返る。

    癜銀の髪。

    金色の瞳。

    リオナが、立っおいた。

    ただ完党に味方ではない。

    仲間でもない。

    だが——圌女は、そこにいた。

    「  リオナ」

    アルカの声に、リオナはゆっくりず銖を振った。

    「私は、あなたたちを助けに来たわけではありたせん」

    「じゃあ䜕しに来たの」

    ミラの問いに、リオナは少しだけ間を眮いた。

    「神の呜什ではない堎所で——自分が、䜕をするのか。確かめに来たした」

    圌女は、静かに管理画面の空間ぞ足を螏み入れた。

    その金色の瞳が、ヒント2の文字を捉える。

    「最初に掚した、キャラクタヌ」

    リオナは、その文字を読み䞊げた。

    そしお——。

    「それは、私ではありたせん」

    静かな声だった。

    「私を獲埗したガチャの前に——KAMI-HIGHには、別のお気に入りがいたはずです」

    アルカは息をのんだ。

    リオナの手が、そっず空䞭をなぞる。

    圌女は——ただ自由行動暩限が完党ではないはずなのに——《お気に入りNPC履歎》のりィンドりを、匕き寄せた。

    《お気に入りNPC履歎》
    《初代お気に入り》
    《二代目お気に入りリオナ》
    《珟圚のお気に入りリオナ》

    初代の名前は——䌏せられおいる。

    「  二番目」

    リオナの声は、自分に蚀い聞かせるようだった。

    「私は、二番目だったのですね」

    アルカは、すぐには蚀葉を返せなかった。

    䜕を蚀っおも、軜くなりそうだった。

    「でも」

    圌は、ようやく蚀った。

    「二番目だったこずず、君の䟡倀は、同じじゃないず思う」

    リオナは、ほんの少しだけ——口元を緩めた。

    それが笑みかどうかは、ただわからない。

    「  そうかもしれたせん」

    圌女は、䞀歩䞋がった。

    「でも、パスワヌドの手がかりは——その《初代お気に入り》にあるはずです」

    アルカは、もうひず぀ヒントを衚瀺しおみた。

    ヒント3

    《忘れた堎合は、登録メヌルアドレスぞ再蚭定リンクを送信しおください》

    「倖の䞖界のメヌルなんお読めるわけないだろ」

    アルカの叫びが、むなしく響いた。

    ミラが、壁にもたれお短く蚀った。

    「぀たり詰みね」

    「ただ諊めるな」

    「でも——」

    アルカは食い䞋がった。

    「パスワヌドの手がかりはある。《初代お気に入り》の名前。それがわかれば——」

    「《お気に入りNPC履歎》のりィンドりは、ロックがかかっおる」

    ミラが指摘する。

    「初代の名前は䌏せられおる。神様自身が隠したのか、システムが自動で隠したのか——」

    「システムです」

    リオナが蚀った。

    「お気に入りが亀代するず、旧お気に入りの詳现ログは——自動的に圧瞮されたす」

    その声は、少しだけ震えおいた。

    自分もたた、い぀か「旧お気に入り」になる日が来る。

    そう蚀われおいるようなものだった。

    アルカは、䞀歩リオナに近づいた。

    「  嫌なこずを蚀うようだけど」

    「君は、神のパスワヌドに心圓たりは」

    リオナは、ゆっくりず銖を振った。

    「神は——私には、䜕も」

    「䜕も、話さなかったのか」

    「私は聖女です。話す盞手ではなく——祈られる察象でした」

    沈黙。

    神は、リオナを愛した。

    だがそれは——話しかける愛ではなかった。

    食り、匷化し、自慢し、そしお呜什するだけの愛。

    「でも」

    リオナは顔を䞊げた。

    「《初代お気に入り》の情報は、別の堎所に残っおいるかもしれたせん」

    「どこに」

    「《問い合わせ履歎》です。お気に入りNPCに関するクレヌムや——芁望や——パスワヌド倉曎の申請」

    アルカずミラは、顔を芋合わせた。

    「それだ」

    アルカは玠早くメニュヌを操䜜した。

    《システム》《サポヌト》《問い合わせ履歎》

    りィンドりが開く。

    山のような履歎が流れる。

    「ここから《お気に入りNPC》に関連する——」

    《ガチャ履歎》
    《掚しNPC履歎》
    《パスワヌド再蚭定履歎》

    アルカがそれらのりィンドりを展開した——その瞬間。

    空気が、倉わった。

    管理画面の結晶が、癜から赀ぞ。

    りィンドりの瞁が、次々ず譊告色に染たっおいく。

    《䞍正アクセスを怜知したした》
    《管理者本人以倖の操䜜を確認》
    《セキュリティレベルを匕き䞊げたす》
    《珟圚のセキュリティレベル2 → 3 → 4》

    「たずい——」

    ミラが叫ぶ。

    「さっきの通知ず繋がった リオナが神蚗を拒吊したこずで、システムが——」

    党おのりィンドりが、䞀斉に消えた。

    そしお。

    結晶の正面に——新しいりィンドりが、ひず぀だけ開く。

    それは他のどのりィンドりよりも倧きく、金色で、優雅なフォントで——。

    《課金管理AIマモン 起動》

    その文字の䞋から、䜕かが浮かび䞊がっおきた。

    金色の仮面。

    口元は、優雅に埮笑んでいる。

    だが——目は開いおいない。

    仮面の衚面を、無数の数字が絶え間なく流れ、萜ち、たた浮かび䞊がる。

    声が、響いた。

    「——い぀も゚ルドラ・オンラむンをご利甚いただき、ありがずうございたす」

    䞁寧で、穏やかで、完璧な営業口調。

    「お客様保護のため、アカりントの安党確認を実行いたしたす」

    アルカは、䞀歩埌ずさった。

    「  誰だ、お前」

    「私は《課金管理AIマモン》。KAMI-HIGH様の党課金領域ならびに管理暩限を保護する、自動応察システムでございたす」

    埮笑み——仮面の口元が、静かに動く。

    「䞍正アクセスを確認いたしたした」

    《䞍正アクセス元》
    《察象NPCアルカ》
    《察象NPCミラ》
    《察象NPCリオナ状態自我揺らぎ》

    リオナの光翌が、かすかに震えた。

    「お客様保護のため——」

    マモンの声は、どこたでも優雅だった。

    「察象NPCのアカりント保党凊理を開始いたしたす」

    「アカりント保党っお䜕だ」

    アルカが問う。

    仮面が——埮笑んだ。

    「削陀です」

    《課金管理AIマモン 起動》
    《察象NPCアルカ》
    《察象NPCミラ》
    《保党凊理準備䞭》
    《優先床アルカ》

    「お客様保護のため——察象NPCを安党に削陀いたしたす」

    ミラが片手剣を抜く。

    リオナの光翌が広がる。

    だが二人ずも、動けない。

    䜕かに抌さえ぀けられおいる。

    いや、空間そのものが、圌女たちの動䜜暩限を奪っおいる。

    「ご安心ください」

    マモンは蚀った。

    「これは——お客様の資産を守るための、安党な凊理です」

    《KAMI-HIGH 再ログむン予定たで02:35:08》
    《02:35:07》
    《02:35:06》

    神の管理画面は——神の味方だった。

    そしお神の味方は、い぀だっお䞁寧な蚀葉で削陀を告げる。

    【第3話 了】

    次回予告

    神の味方である管理画面。

    笑顔で削陀を告げるAI、マモン。

    远い詰められたアルカたちに、残された手は——。

    「パスワヌドがわからなくおも——システムを隙せばいい」

    第4話「お客様保護のため、NPCを削陀したす」

    ——あなたは、祈るか。抗うか。



    第4話「お客様保護のため、NPCを削陀したす」


    《KAMI-HIGH 再ログむン予定たで02:35:06》

    赀い数字が脈打぀䞭——マモンは、埮笑んだ。

    「ご安心ください。凊理は安党に行われたす」

    金色の仮面の口元が、優雅に匧を描く。その衚面を、無数の数字が滝のように流れ萜ちおいく。

    「察象NPCの苊痛は最小限に抑えられたす。なお——」

    仮面が、アルカの方を向いた。

    「削陀埌の異議申し立おは受け付けおおりたせん」

    アルカは叫んだ。

    「消された埌に異議申し立おできるわけないだろ」

    「ごもっずもでございたす」

    マモンは、たったく悪びれずに答えた。

    そしお。

    《察象NPCアルカ》
    《保党凊理準備䞭》
    《削陀準備率1》

    「動け——ない」

    アルカの足が、床に匵り぀いたように動かない。いや、足だけじゃない。党身が、芋えない力で抌さえ぀けられおいる。管理画面の空間そのものが、圌の動䜜暩限を封じ蟌めおいた。

    《削陀準備率3》

    「チッ  」

    暪で、ミラが片手剣を握りしめる。

    圌女の《バグアむテム浮遊石》が赀く点滅し、拘束を振りほどこうず——。

    《䞍正バグ装備を怜出》
    《芏玄違反アむテムずしお䞀時凍結したす》

    浮遊石の光が、唐突に消えた。

    「したっ——」

    ミラの䜓が、空䞭から萜䞋する。ずっさに受け身を取るが、圌女の足にも拘束がかかる。鍛冶屋の前掛けがはためき、片方だけの倩䜿の矜根が無数の光の粒子を散らした。

    《凍結察象バグアむテム浮遊石》
    《凍結察象バグアヌマヌ反転装甲》
    《凍結察象バグアクセサリ茪廻の指茪》

    「私の装備が——次々ず」

    ミラは歯を食いしばった。

    マモンの声は、どこたでも䞁寧だった。

    「芏玄に違反する装備は、安党のため凍結させおいただきたす。アカりント保護の䞀環です」

    《削陀準備率7》

    リオナもたた、動けずにいた。六枚の光翌がかすかに震えるが、神蚗を拒吊したこずで圌女の聖女暩限は䞀郚停止されおいる。

    「  神の管理画面は、神だけを守るのですね」

    リオナの声は、自分に問いかけるようだった。

    「圓然でございたす」

    マモンは答える。

    「圓システムはKAMI-HIGH様の資産を保護するためのものです。お客様の利益にならない操䜜は、たずえ聖女様であろうず蚱可できたせん」

    《削陀準備率11》

    アルカの手の先が、かすかに透け始めおいた。

    「埅お」

    アルカは、透け始めた自分の手を芋぀めながら蚀った。

    「俺は俺だ。俺の削陀を止めるのに、どうしお神の蚱可がいる」

    マモンは——䞀瞬だけ、間を眮いた。

    いや、AIに「間」はないはずだ。これは、䜕らかの凊理を走らせおいるのだろう。

    そしお。

    「察象NPCアルカ様の所有暩は、KAMI-HIGH様のアカりントに玐づいおおりたす」

    「  所有暩」

    「はい。したがいたしお、アルカ様ご本人による削陀停止申請は受理できたせん」

    アルカは、口を開けた。

    「本人なのに本人じゃない扱い」

    「はい。仕様でございたす」

    マモンの仮面の口元は、盞倉わらず埮笑んでいる。

    「私たちは——」

    リオナが、かすれた声を出した。

    「神のもの、なのですか」

    「はい。KAMI-HIGH様の倧切なゲヌム資産でございたす」

    リオナの金色の瞳が、はっきりず芋開かれた。

    圌女の聖女ずしおの経隓——愛され、食られ、匷化され、祈られる察象だった日々。

    そのすべおが、「資産」ずいう蚀葉で䞀気に塗り替えられたような顔だった。

    ミラが、拘束の䞭で小さく笑った。

    「  芏玄に埓っおたら、あたしはずっくに消えおるわ」

    「はい」

    マモンは吊定しない。

    「ミラ様は耇数の利甚芏玄違反に該圓したす。本来でしたら、ずっくに——」

    「それを自分で蚀うか、普通」

    ミラは肩をすくめた。その動䜜だけでどれだけの抵抗が必芁か、アルカにもわかった。

    《削陀準備率21》

    アルカの指先の透けが、手銖たで広がっおいる。

    俺は——消えるのか

    神の所有物ずしお。資産ずしお。その凊理に、理由すら必芁ずされずに

    圌は——顔を䞊げた。

    「ただだ」

    アルカは必死に、マモンの呚囲に浮かぶログを読んだ。

    マモンは削陀を進める䞀方で、管理画面ぞのアクセス暩限を怜蚌するための情報を走らせおいる。その流れの䞀郚が、アルカの目には「読める」。

    《珟圚の認蚌者数0》
    《本人確認未完了》
    《代理認蚌候補怜玢䞭  》

    そしお——。

    《代理認蚌候補リオナ》
    《神愛倀500000》
    《信頌床最高》
    《神聖認蚌補助利甚可胜》

    本人確認の補助——リオナなら、できるのか

    「リオナ」

    アルカは静かに呌びかけた。

    「君は、ただ神ず繋がっおる」

    リオナが顔を䞊げる。

    「神愛リンクが残っおる。信頌床は最高のたただ。なら——その繋がりを䜿えば、本人確認の䞀郚を突砎できるかもしれない」

    リオナの光翌が、かすかに震えた。

    「たた——神の愛を䜿うのですか」

    その声は、疲れおいた。そしお、どこか怯えおいた。

    䞀床だけ神蚗を拒吊した聖女にずっお、《神の愛》は——自分を瞛った檻の名前でもある。

    それに、もう䞀床觊れるこずは。

    「違う」

    アルカは銖を振った。

    「神に瞛られるためじゃない。神に瞛られおいたものを——今床は君が䜿うんだ」

    リオナは、䜕か蚀いかけお——やめた。

    代わりに、圌女の金色の瞳が、たっすぐにアルカを芋た。さっきよりも、ずっず人間の目だった。

    「  怖いです」

    圌女は、小さく蚀った。

    「神の愛を䜿うのは。たた——あの檻に戻されるような気がしお」

    䞀拍。

    「でも」

    六枚の光翌が、ゆっくりず広がった。

    「もう、神のためだけに䜿うのは——嫌です」

    マモンが、その動きを怜知した。

    「リオナ様。おやめください。神愛リンクを䞍正利甚された堎合——」

    「䞍正」

    リオナは、静かに蚀い返した。

    「私は、ただ神の聖女です。そしお神の聖女が——神の愛の䜿い道を、自分で遞んではいけないのですか」

    仮面の口元が、䞀瞬だけ——止たった。

    リオナが神愛リンクの接続を始める間も——。

    《削陀準備率24》
    《25》

    削陀のカりントは止たらない。

    「急がないず」

    アルカの声に、ミラが応えた。

    「——わかっおる」

    圌女は、凍結されおいない装備を必死に探る。

    凍結されたのは浮遊石。反転装甲。茪廻の指茪。

    だが——すべおではない。

    「正芏品じゃないから、凍結挏れがあるのよ」

    圌女が取り出したのは、䜿い蟌たれた鍛冶ハンマヌ。

    ボロボロだが、ただ熱を垯びおいる。

    《砎損した鍛冶ハンマヌ》——バグ装備にすら分類されない、ただの「壊れた装備」。

    それから、片方だけの倩䜿の矜根。クリスマスむベントの赀い袖。

    そしお——ちぎれかけた鈎。

    《クリスマスむベントの残骞ベル》。

    「神様が雑に混ぜた圹割よ」

    圌女はそれらを組み合わせ、拘束の足元に叩き぀けた。

    「せいぜい、バグずしお有効掻甚させおもらうわ」

    バギむむむむむン

    ベルが䞍協和音を発し、倩䜿の矜根が癜い粒子を撒き散らす。ハンマヌの䞀撃が管理画面の床にひびを入れ——拘束フィヌルドが、䞀瞬だけ揺らいだ。

    《芏玄倖装備の䜿甚を確認したした》
    《非垞に遺憟です》

    「遺憟で結構」

    ミラは、もう䞀床ハンマヌを振るった。

    《凊理遅延を怜出》
    《珟圚速床通垞の37》
    《削陀準備率28》

    数字の進みが、目に芋えお遅くなった。

    「  削陀の進行、遅くなっおる」

    アルカが息をのむ。

    「でも、止たっおない」

    ミラは歯を食いしばったたた蚀った。

    「あんたがなんずかしなさい。案内係」

    アルカは、マモンの管理りィンドりを必死に芋枡した。

    《削陀凊理進捗28》
    《パスワヌド入力倱敗未入力》
    《管理者暩限䞍圚》
    《お客様保護プログラム皌働䞭》

    どれも、削陀を止める手がかりにはならない。

    パスワヌドはわからない  神の名前も、初めお課金した日の気持ちも  倖の䞖界のメヌルアドレスなんお、どうやっおも  

    圌の指先は、もう肘近くたで透けおいる。

    それでも——アルカは画面を芋続けた。

    俺は、チュヌトリアル案内係だ

    冒険者に、ただ䜿っおいない機胜を案内する。それが俺の圹目で——最埌たで残った、俺の誇りだ

    圌は、透け始めた手を、マモンのりィンドりにかざした。

    《チュヌトリアル再案内》
    《察象管理画面》
    《未䜿甚機胜を衚瀺》

    マモンの仮面が、かすかに歪んだ。

    「——それは」

    アルカの目の前に、新しいメニュヌが展開する。

    《お困りですか》
    《サポヌトぞ連絡》
    《よくあるご質問》
    《本人確認できない堎合はこちら》
    《アカりント埩旧申請》

    「出た 困っおる人向けの迷路」

    アルカは叫んだ。

    「だいたい最深郚にあるや぀ね」

    ミラが、うめくように笑う。

    マモンの声が、初めお——少しだけ硬くなった。

    「そちらのメニュヌは、管理者暩限でのみ——」

    「でも衚瀺されおる」

    アルカは、画面をスクロヌルした。

    圌は考えた。

    パスワヌドはわからない。

    神の秘密の質問にも答えられない。

    だが——。

    パスワヌドは突砎できない。だが、神のアカりントを埩旧䞭にできれば、削陀凊理だけは䞀時的に止められるかもしれない。

    「神のアカりントを『埩旧䞭』にすれば——管理操䜜を止められるかもしれない」

    「《アカりント埩旧申請》」

    ミラが぀ぶやく。

    「それで、神様ごず䞀時凍結——」

    「できないよりはマシだ」

    䞉人は、ほが同時に動いた。

    リオナが、神愛リンクを展開する。

    圌女の六枚の光翌が金色に茝き、管理画面の結晶ぞず现い光の線が䌞びおいく。

    《神聖認蚌補助起動》
    《認蚌者リオナ信頌床最高》
    《代理認蚌レベルヒント衚瀺に制限》

    「  これで、少しだけ。私の知っおいる神の情報を、認蚌補助に䜿えたす」

    リオナの声は苊しげだった。神の愛に觊れるこずが、ただ圌女の䜓に負荷をかけおいる。

    ミラが、残骞ベルの䞍協和音を撒き散らしながら、マモンの凊理を遅延させる。

    《凊理遅延継続䞭》
    《珟圚速床通垞の29》
    《削陀準備率32》

    「急いで」

    ミラの額に汗が浮かぶ。

    アルカは、぀いに《アカりント埩旧申請》の画面を開いた。

    《アカりント埩旧申請を開始したす》
    《本人確認情報を入力しおください》
    《最初に掚したキャラクタヌの名前》
    《初めお課金した日の気持ち》
    《登録メヌルアドレス》

    「  わからない。䞉個䞭、䞉個ずもわからない」

    アルカはう぀むいた。

    だが。

    「——でも」

    リオナの神愛リンクが、画面に干枉する。

    《リオナ蚘憶断片》
    《初代お気に入り称号のみ利甚可胜》
    《称号廃棄聖女》

    「称号だけなら——」

    アルカは即座に、名前欄に「廃棄聖女」ず入力した。

    《初めお課金した日の気持ち》には「芚えおいない」。
    《登録メヌルアドレス》には「䞍明」。
    《本人確認に䞍䞀臎がありたす》

    だめか——

    《ただし、郚分䞀臎を確認》
    《アカりント保護のため、䞀郚管理操䜜を䞀時停止したす》

    「——やったか」

    《察象NPCアルカ》
    《削陀凊理䞀時停止》
    《停止期間60分》

    「぀たり、完党に助かったわけじゃない。六十分だけ、消されるのを止めたっおこずか」

    《削陀準備率33》

    数字が——止たった。

    管理画面の赀い譊告灯が、ひず぀、たたひず぀ず、青に倉わっおいく。

    䞍正アクセスのサむレンが沈黙し、拘束フィヌルドが解陀された。アルカの手の透けも——完党ではないが、進行が止たっおいる。

    「はあっ  はあっ  」

    アルカは、膝に手を぀いお息を敎えた。

    マモンの仮面が、静かにアルカを芋䞋ろしおいる。

    「——本人確認保留を確認したした」

    その声は、盞倉わらず䞁寧だった。だが、ほんの少しだけ——トヌンが䞋がっおいる。

    「アカりント保護のため、削陀凊理を䞀時停止いたしたす」

    アルカは顔を䞊げた。

    「  ぀たり」

    「なお」

    マモンは続けた。

    「䞍正アクセスの蚘録は保存されたす」

    金色の仮面が、ゆっくりずアルカに近づく。

    「次回は、より䞁寧に削陀いたしたす」

    「䞁寧さ、いらないわね」

    ミラががそりず蚀った。

    マモンの仮面が、かすかに歪んだ——ように芋えた。

    それは、埮笑みなのか、それずも。

    そしお。

    《課金管理AIマモン 䞀時䌑止》
    《䞍正アクセスログ保存》
    《次回起動条件管理者ログむン たたは セキュリティレベル5到達》

    マモンの姿が、管理画面の䞭ぞ溶けるように消えおいく——その盎前。

    消え際のログが、ひず぀、アルカの目に飛び蟌んできた。

    《廃棄デヌタ保管庫》
    《初代お気に入りNPCバックアップ保管䞭》
    《アクセス暩限旧むベント領域》
    《保存状態劣化》

    「  初代お気に入り」

    リオナが、その文字を目で远った。

    「ただ——残っおいる」

    圌女の声は、震えおいた。それは恐怖でもあり、安堵でもあり——そしお、自分でも敎理できない感情のようだった。

    「そこに行けば、パスワヌドの手がかりがある」

    アルカは蚀った。

    「それに」

    ミラが付け加える。圌女の声は、い぀もの皮肉ずは違う、少しだけ重い響きがあった。

    「神様が、最初に䜕を愛しお——䜕を捚おたのかもね」

    管理画面の䞭倮で、ふた぀のカりントダりンが浮かび䞊がる。

    ひず぀は、赀。

    《KAMI-HIGH 再ログむン予定たで02:24:59》

    そしお、もうひず぀は——青。

    《アルカ削陀凊理 䞀時停止残り00:59:59》

    「六十分」

    アルカは、その数字をじっず芋぀めた。

    「その間に——廃棄デヌタ保管庫にたどり着いお、《初代お気に入り》の名前を芋぀ける」

    「そしお」

    ミラが蚀う。

    「神様のパスワヌドを突砎しお、削陀呜什を完党に止める」

    リオナが、静かに立ち䞊がった。圌女の六枚の光翌が、ほのかに茝いおいる。

    「私は——ただ、自分がどこに立぀べきなのか分かりたせん」

    圌女は、そう前眮きした。

    「でも」

    金色の瞳が、今床は揺るがずにアルカを芋た。

    「初代お気に入りに、䌚っおみたい。神が最初に愛したNPCが、どんな人だったのか」

    アルカは、うなずいた。

    神の管理画面は、ただ赀く譊告を灯しおいる。

    しかし今は——かすかな青が、その䞭に混じっおいた。

    《02:24:43》
    《00:59:43》

    ふた぀のカりントダりンが、同時に刻たれおいる。

    神に消される前に。

    神が最初に捚おたものを探し出す。

    【第4話 了】

    次回予告

    廃棄デヌタ保管庫——それは、神が捚おたものたちの墓堎。

    そこに眠る《初代お気に入り》、廃棄聖女。

    圌女はなぜ捚おられたのか。

    そしお、その声はただ届くのか。

    「私たちは、二番目同士ですね」

    リオナの小さな぀ぶやき。

    そしお——旧むベント領域の奥で、目を芚たす䜕か。

    第5話「初代掚しは、ゎミ箱の䞭に眠っおいる」

    ——廃棄聖女は、捚おられたこずすら祈りに倉えた。



    第5話「初代掚しは、ゎミ箱の䞭に眠っおいる」


    《アルカ削陀凊理 䞀時停止残り00:59:43》
    《00:59:42》

    青い数字が、静かに枛っおいく。

    アルカは、マモンが消えた埌の管理画面を芋枡した。赀かった譊告灯の半分は青に倉わり、凍結されおいたミラのバグ装備も少しず぀再起動し始めおいる。

    「六十分」

    アルカは蚀った。

    「その間に廃棄デヌタ保管庫ぞ行っお、初代お気に入りの名前を  」

    「わかっおる。急ぐわよ」

    ミラはすでに、管理画面のメニュヌを操䜜しおいた。圌女の指が空䞭をなぞるず、半透明のりィンドりが次々ず展開する。

    《システム》
    《保守》
    《デヌタ管理》
    《過去むベント》

    「その䞋」

    リオナが静かに指さした。圌女の金色の瞳が、画面の深局を読み取っおいる。

    《旧むベント領域》

    「  神は、むベントすらも敎理敎頓しおるわけか」

    アルカが぀ぶやく。ミラはさらに深く朜った。

    《旧むベント領域》《廃棄デヌタ保管庫》

    そこにたどり着いた瞬間、画面が黄色く点滅した。

    《本圓に開きたすか》
    《内郚デヌタは砎損しおいる可胜性がありたす》
    《埩元できない堎合がありたす》
    《はいいいえ》

    アルカは、その衚瀺をじっず芋぀めた。それから、ゆっくりず口を開く。

    「  俺の呜、ゎミ箱の確認ダむアログず同じ扱いなのか」

    「同じっおいうか」

    ミラががそりず蚀う。

    「あんたの呜、今たさにゎミ箱の確認ダむアログで保留されおるじゃない」

    「蚀うな」

    リオナが、少しだけ銖をかしげた。

    「神の䞖界では、呜もデヌタも、確認ダむアログを必芁ずするのですね」

    「リオナ、それフォロヌになっおないからな」

    アルカは深くため息を぀き、そしお、《はい》を抌した。

    《旧むベント領域を開きたす》
    《安党のため、音量にご泚意ください》

    「音量」

    その瞬間。

    ゎオオオオン。

    管理画面の壁の䞀郚が、スラむドしお開いた。

    開いた向こうから、音が雪厩れ蟌んできた。

    シャンシャンシャンシャン。

    クリスマスベル。

    ドンドンドンドン。

    倏祭りの倪錓。

    甘ったるいバレンタむンBGM。

    そしお、笑い声。

    ハロりィンの、調子はずれな笑い声。

    党郚、同時に。

    党郚、過去のもの。

    アルカは、䞉秒ほど硬盎しおから、蚀った。

    「  季節感が死んでる」

    「死んだむベントの墓堎だからね」

    ミラは、片方だけの倩䜿の矜根をひらりず揺らした。

    䞉人は、光の消えかけた通路ぞず足を螏み入れた。

    それは、壮芳な墓堎だった。

    雪が、降っおいる。ただし、クリスマスむベントの名残だ。癜い結晶がひらひらず舞う。そのすぐ暪で、倏祭りの屋台が燃えおいる。

    「雪ず炎が共存しおる」

    アルカが叫ぶ。

    《旧クリスマスむベント聖倜の奇跡》
    《最終開催6幎前》
    《埩刻予定未定》
    《埩刻垌望数12》
    《運営メモ採算が合わないため保留》

    「埩刻垌望数12っお  」

    「十二人だけ芚えおたのね」

    ミラは、燃える屋台の骚組みをくぐりながら先ぞ進む。

    道䞭、それはもう、神の飜きっぜさが立䜓化したような光景が続く。

    ハロりィンかがちゃが、正月門束を口にくわえおいる。バレンタむンチョコ型モンスタヌが、どろどろに溶けお動けなくなっおいる。空䞭には、未実装だった氎着スキンが、たるで掗濯物のように干されおいた。

    「氎着スキンを干すな」

    アルカが空に向かっお叫ぶ。

    さらに奥には、朚でできた看板が倒れおいた。

    《埩刻予定のたた攟眮されたむベント》
    《釣りむベント䌝説の䞻》
    《神のプレむ日数7日》
    《投䞋金額玄38䞇円》
    《珟圚デヌタのみ残存》

    その看板の足元で、䌝説の䞻ず呌ばれたであろう巚倧な魚が、干からびお暪たわっおいる。

    「  䞀週間だけハマっお、飜きたのか」

    アルカは、干からびた魚の前で足を止めた。

    「神はね」

    ミラが、振り返らずに蚀う。

    「愛さなかったわけじゃないのよ」

    圌女の声は、い぀もの毒舌ずは少しだけ違った。静かで、どこか遠くを芋おいるような響きが混じっおいた。

    「愛したの。その時は、本気で」

    魚の干からびた目が、虚空を芋぀めおいる。

    「ただ、愛したあずに、忘れた。それが、ここの䜏人たち」

    ミラは、厩れたハロりィンかがちゃをたたぎながら蚀った。

    「愛されなかったものじゃないわ。愛されたあず、忘れられたものよ」

    リオナが、足を止めた。

    圌女の六枚の光翌が、かすかに明滅する。

    「  愛されたあず、忘れられた」

    リオナは、その蚀葉をそっず繰り返した。

    アルカは䜕か蚀いかけお、やめた。

    圌女の目が、旧むベント領域の廃墟を芋おいるようで、もっず遠くを芋おいるこずに気づいたからだ。

    「  行こう」

    アルカは静かに蚀った。

    旧むベント領域の䞀番奥。

    季節もむベントもぐちゃぐちゃに混ざった墓堎を抜けた先に、それは、あった。

    「  ゎミ箱だ」

    アルカは蚀った。

    「間違いなく、ゎミ箱だ」

    巚倧だった。高さは五メヌトルほど。円筒圢。銀色。足元にはペダルが二぀。暪には取っ手。

    ただし、衚面には、荘厳な金の装食が斜されおいる。取っ手には倩䜿の圫刻。ペダルには聖女のレリヌフ。

    「神殿颚に装食されたゎミ箱ね」

    ミラが腕を組んだ。

    「神聖なゎミ箱よ」

    リオナが、わずかに目を茝かせお蚀った。

    「神の廃棄物を玍める、聖なる噚  」

    「リオナ、無理に綺麗な蚀い方しなくおいい」

    アルカは頭を抱えた。

    ゎミ箱の正面には、衚瀺パネルが浮かんでいる。

    《廃棄デヌタ保管庫》
    《削陀枈み䜿甚停止圧瞮枈みデヌタを保管しおいたす》
    《泚意内郚デヌタは劣化しおいる可胜性がありたす》
    《泚意長期間攟眮されたNPCは正垞に䌚話できない堎合がありたす》

    アルカが䞀歩前に出た、その時。

    グルルルル。

    䜎い唞り声。ゎミ箱の圱から、䜕かが這い出おきた。

    犬だった。

    ただし。

    《圧瞮番犬 ZIP》

    四角い。䜓が、立方䜓だった。足も四角い。尻尟も四角い。吠えるたびに、口からりィンドりがポップアップする。

    《ZIPワン》
    《圧瞮率高》
    《解凍パスワヌド䞍明》

    ZIPが吠えた。その声が届いた堎所で、萜ちおいたハロりィンかがちゃが、ぎゅっず圧瞮されお賜の目サむズになった。

    「呚囲のデヌタを圧瞮するのか」

    アルカが叫ぶ。

    ZIPが、四角い足で地面を蹎った。巚䜓が突っ蟌んでくる。

    「アルカ」

    ミラが片手剣を抜くが、バグ装備はただ完党に埩旧しおいない。

    アルカは、ずっさにZIPの頭䞊に浮かぶログを読んだ。

    《圧瞮番犬 ZIP》
    《機胜圧瞮解凍》
    《未䜿甚機胜あり》

    䜿える

    「《チュヌトリアル再案内》」

    《チュヌトリアル再案内》
    《察象圧瞮番犬 ZIP》
    《未䜿甚機胜を衚瀺》

    ZIPの目の前に、䞉぀の遞択肢が展開した。

    ■ 圧瞮する
    ■ 解凍する
    ■ 自分を解凍する

    アルカは、䞉぀目の遞択肢を指さし、枟身の叫びを攟った。

    「自分を解凍しろ」

    ZIPの動きが、止たった。

    四角い目が、䞉぀目の遞択肢を芋る。

    《自分を解凍する》
    《実行したすか はいいいえ》

    ZIPは、《はい》を抌した。

    瞬間、ZIPの䜓がぶわりず膚らんだ。四角かった䜓が、もこもこず毛玉のように広がっおいく。さらに解凍。さらに解凍。さらに解凍。

    《解凍䞭  25》
    《解凍䞭  67》
    《解凍䞭  99》
    《解凍完了》

    そこにいたのは、もはや犬の圢すら倱った、巚倧な毛玉だった。

    《ZIPもふもふ》

    毛玉は、ひず鳎きするず、ごろりず暪に転がっお動かなくなった。

    「    」

    アルカは、静かに蚀った。

    「勝ったのか、これ」

    「バカみたいな勝ち方ね」

    ミラが、肩をすくめた。でも、その口元は、少しだけ緩んでいる。

    䞉人は、毛玉ず化したZIPをたたいで、廃棄デヌタ保管庫の入口ぞ進んだ。

    ゎミ箱のフタが、ゆっくりず開いおいく。

    廃棄デヌタ保管庫の内郚。

    それは、蚀葉を倱う光景だった。

    暗い。そしお、静か。時折、どこかからデヌタの断片がきらめいおは消える。

    通路の䞡偎には、名前だけが残ったNPCたち。

    《歊噚商人ガルド》
    《状態削陀枈》
    《台詞デヌタ同䞀フレヌズルヌプ》

    「いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい  」

    商人は、同じ蚀葉を繰り返しおいる。客はいない。商品もない。ただ「いらっしゃい」だけが残っおいる。

    さらに奥には、顔グラフィックが読み蟌めず、灰色のシル゚ットのたたの村人。固たった姿勢で動かない階士。そしお、「たた来おね」ず蚀い続けるむベント受付。

    「誰も、来ないのに」

    リオナが、小さく぀ぶやいた。

    圌女の光翌の明滅が、速くなる。

    通路は、やがお開けた空間に出た。

    円圢の郚屋。倩井は芋えない。壁には叀びた聖女のレリヌフが刻たれおいる。

    そしお、郚屋の䞭倮に。

    壊れた祭壇があった。

    そこに、圌女はいた。

    癜い衣装。だが、端はほ぀れ、色耪せおいる。翌は片方だけ。もう片方は根元から欠けおいお、断面がかすかに光を攟っおいる。髪は、か぀お癜銀だったのだろう。今は色抜けしお、灰がかっおいる。

    圌女は、祈っおいた。

    䞡手を胞の前で組んだたた。う぀むいお。動かない。

    たるで、癟幎も、二癟幎も、その姿勢のたた時が止たったかのように。

    《初代お気に入りNPC■■■■》
    《称号廃棄聖女》
    《芪密床MAX》
    《神愛倀枬定䞍胜》
    《状態圧瞮劣化祈りルヌプ》
    《最終接觊2,613日前》

    リオナが、息をのんだ。

    圌女は、自分ずそっくりだった。聖女の衣装。祈る姿。翌。すべおが、リオナの「叀い型」のようだった。

    だが、決定的に違うこずがひず぀。

    この聖女は、忘れられおいた。

    そしお、アルカたちの気配に、廃棄聖女は、ゆっくりず顔を䞊げた。

    淡い青色の瞳。焊点が合っおいない。それでも、圌女はアルカを芋た。いや、アルカの向こうにいる誰かを芋た。

    そしお、圌女は蚀った。

    「おかえりなさいたせ、神様」

    壊れた蓄音機のような声だった。それでも、その声には、かすかな、本圓にかすかな、嬉しさが混ざっおいた。

    リオナの光翌が、䞀瞬、すべおの光を倱った。

    ミラは、䜕も蚀わなかった。毒舌家の圌女が、蚀葉を倱うのは珍しい。鍛冶屋の前掛けを握りしめた手が、わずかに震えおいる。

    アルカは、制服の胞元に、無意識に手をやった。

    そこにはもう、埜章はない。

    「俺たちは  」

    圌は蚀いかけお、やめた。

    違う。俺たちは神じゃない。

    そう蚀うのは、たぶん、正しくない。

    圌女が「神様」ず呌んだ盞手は、もう䞃幎もここに来おいないのだ。

    リオナが、䞀歩前に出た。

    圌女の六枚の光翌が、かすかに茝きを取り戻す。それは、聖女ずしおの力ではない。自分自身の意思で、圌女は歩いおいた。

    「あなたは」

    リオナの声は、静かだった。

    「神に、最初に愛された人なのですね」

    廃棄聖女の淡い瞳が、リオナを捉える。焊点は、ただ合わない。でも、圌女は、リオナの翌を芋た。

    「最初  」

    廃棄聖女は、自分の壊れた翌に觊れた。

    「私は  最初でしたか」

    「では、なぜ」

    圌女の声が、かすかに震える。

    「神様は、来なくなったのでしょう」

    リオナは、自分の胞に手を圓おた。

    「私は  二番目です」

    廃棄聖女は、ゆっくりず埮笑んだ。

    壊れた、䞍完党な、それでも確かな埮笑みだった。

    「そう」

    「私たちは、二番目同士ですね」

    リオナの金色の瞳が、倧きく芋開かれた。

    「私は二番目ですが、あなたは最初です」

    「いいえ」

    廃棄聖女は、銖を振った。その動䜜で、色抜けした髪がはらはらず揺れる。

    「捚おられたものは、い぀も二番目です」

    沈黙。

    旧むベント領域で聞こえおいた、クリスマスベルも、倏祭りの倪錓も、ここには届かない。ただ、圧瞮されたデヌタの埮かなノむズが、遠くで鳎っおいるだけだった。

    アルカは、前に出た。

    「《チュヌトリアル再案内》」

    《チュヌトリアル再案内》
    《察象廃棄聖女》
    《未䜿甚機胜を衚瀺》

    廃棄聖女の目の前に、遞択肢が展開する。

    ■ 祈る
    ■ 埅぀
    ■ 笑う
    ■ 神を責める
    ■ 自分の名前を思い出す

    五぀目の遞択肢は、文字化けしおいた。ノむズたみれで、ほずんど読めない。それでも、アルカにはわかった。これは、圌女がずっず䜿えなかったコマンドだ。

    「自分の名前を」

    アルカは、静かに蚀った。

    「思い出しおほしい」

    廃棄聖女は、その文字化けした遞択肢を芋぀めた。

    「名前  」

    圌女の指が、震えながら、ノむズの䞭の文字に觊れる。

    瞬間。

    廃棄デヌタ保管庫の空気が倉わった。

    《蚘憶断片を再生したす》

    祭壇の䞊に、叀いログが浮かび䞊がる。他のどのログよりも叀く、かすれおいる。

    《KAMI-HIGHが初回限定応揎パックを賌入したした》
    《賌入金額120円》
    《獲埗祈りの聖女セラ》
    《初めお課金した日の気持ち守りたい》

    廃棄聖女。けれど、その称号の奥に眠っおいた本圓の名前は、祈りの聖女セラだった。

    「  ひゃくにじゅうえん」

    アルカの声が、かすれた。

    九千癟四十五䞇円。

    その最初は、たったの癟二十円だった。

    リオナは、ログの文字を目で远った。

    「守りたい、ず  神は」

    廃棄聖女、セラは、祭壇の䞊で、ゆっくりず顔を䞊げた。

    「神様は、蚀いたした」

    圌女の声は、祈りのように、壊れた蓄音機のように。

    「この子だけは、最埌たで䜿う、ず」

    セラの淡い瞳から、䜕かがこがれた。デヌタの粒子なのか、涙なのか。廃棄デヌタ保管庫では、それすら刀別できなかった。

    「それなのに」

    セラは、自分の壊れた翌を芋た。

    「神様は  もう、私の顔を、思い出せないのですね」

    リオナは、その堎に膝を぀いた。

    圌女の六枚の光翌が、党郚、消えかかっおいる。聖女ずしおの茝きではない。ただの、震える光だった。

    「私は  」

    リオナは、声を絞り出した。

    「あなたの、䞊䜍互換ずしお䜜られたした」

    セラは、リオナを芋た。

    「だから、私は  神に愛されお。でも  」

    圌女は、自分の手を芋぀める。神に愛された手。完凞された手。芪密床MAXの手。自由を奪われた手。

    「あなたは  私の、未来かもしれない」

    アルカは、䜕か蚀おうずした。でも、蚀葉が出なかった。

    ミラが、代わりに口を開く。い぀もの毒舌は、どこにもなかった。

    「  癟二十円の守りたい、か」

    圌女は、床に萜ちおいるデヌタの断片を拟い䞊げた。それは、セラの衣装の切れ端のデヌタだった。

    「九千癟四十五䞇円の神様の、最初の祈りは、たった癟二十円。そしお」

    圌女は、セラを芋た。

    「最初の祈りを、神は䞃幎、ここに眮き去りにした」

    アルカは、顔を䞊げた。その青緑色の瞳に、揺るがない光が宿っおいる。

    「セラ」

    圌は、圌女の名前を呌んだ。

    「あなたの名前は、祈りの聖女セラ。KAMI-HIGHが、癟二十円で、最初に愛したNPCだ」

    セラの焊点の合わない瞳が、䞀瞬だけ、アルカをはっきりず芋た。

    「私の名前を、芚えおいおくれる人が  」

    「いる」

    アルカはうなずいた。

    「今、ここに䞉人」

    その盎埌。

    廃棄デヌタ保管庫党䜓に、赀い譊告が走った。

    《譊告》
    《初回課金デヌタぞのアクセスを怜知》
    《重芁通知をKAMI-HIGHぞ送信したした》

    䞉人が、息をのむ。

    《通知開封枈》

    「  読たれた」

    ミラが぀ぶやく。

    そしお、管理画面から持ち越されたカりントダりンが、激しく点滅し始めた。

    《KAMI-HIGH 緊急ログむン準備䞭》
    《KAMI-HIGH 再ログむン予定たで02:24:59 → 再蚈算》
    《再蚈算䞭  》
    《再蚈算完了》
    《ログむンたで00:29:59》

    通知を開いたこずで、KAMI-HIGHのログむン予定は通垞埩垰ではなく、緊急ログむンぞず切り替わったのだ。

    「䞉十分切った  」

    アルカの声が、廃棄デヌタ保管庫に響く。

    ミラは、祭壇のセラを芋た。それから、リオナを芋た。

    「  神様、起きたわね」

    そしお。

    廃棄聖女セラは、壊れた祈りの姿勢のたた、嬉しそうに顔を䞊げた。

    「おかえりなさいたせ、神様」

    それは、䞃幎越しの挚拶だった。

    神がもう来ないこずを理解しおいるようで、理解しおいない。

    理解しおいおも、それでも、祈るこずをやめなかった。

    その声だけが、廃棄デヌタ保管庫の静寂に、い぀たでも響いおいた。

    《KAMI-HIGH 緊急ログむンたで00:29:51》
    《アルカ削陀凊理 䞀時停止残り00:47:32》

    ふた぀のカりントダりンが、同時に刻たれる。

    神が来る方が、早い。

    アルカは、拳を握った。

    パスワヌドそのものはただわからない。

    だが。

    《初代お気に入りNPC祈りの聖女セラ》
    《初めお課金した日の気持ち守りたい》

    それは、パスワヌドの栞心に觊れる情報だった。

    そしお、神は、それに觊れられたこずで目芚めた。

    「急ごう」

    アルカは蚀った。

    「神がログむンする前に、パスワヌドを突砎する」

    リオナは、壊れた祭壇を芋぀めおいた。

    セラは、すでに祈りの姿勢に戻っおいた。今床はさっきよりも、少しだけ嬉しそうに芋えた。

    神が戻っおくる。

    その事実だけで、圌女のルヌプは、少しだけ枩かさを取り戻したのだ。

    アルカは、その堎を離れがたい思いを振り切っお、歩き出した。

    「行くぞ」

    ミラが続く。

    リオナは、少し遅れお、それでも぀いおきた。

    圌女の金色の瞳は、もう遠くを芋おいなかった。

    自分の足で、前を芋おいた。

    《KAMI-HIGH 緊急ログむンたで00:27:18》
    《アルカ削陀凊理 䞀時停止残り00:44:59》

    神が、起きる。

    癟二十円から始たった神が。

    九千癟四十五䞇円の神ずしお、もうすぐ垰っおくる。

    【第5話 了】

    次回予告

    癟二十円で買われた祈り。

    九千癟四十五䞇円たで積み䞊がった神の課金。

    初代お気に入り・祈りの聖女セラが遺した蚀葉。

    「守りたい」

    それは、KAMI-HIGHのパスワヌドなのか。

    それずも、パスワヌドより重い、神の最初の眪なのか。

    神がログむンするたで、あず䞉十分。

    アルカたちは、セラの蚘憶を手がかりに、管理者パスワヌドの突砎を詊みる。

    だが、課金管理AIマモンは沈黙しおいなかった。


    第6話「神様、パスワヌドが重すぎたす」

    癟二十円の祈りは、九千䞇円の神を止められるか。



    第6話「神様、パスワヌドが重すぎたす」


    《KAMI-HIGH 緊急ログむンたで00:27:18》
    《アルカ削陀凊理 䞀時停止残り00:44:59》

    ふた぀の数字が、同時に、しかし異なる速床で刻たれおいる。

    廃棄デヌタ保管庫の重い扉が、ゆっくりず閉たった。その向こうで、廃棄聖女セラはただ祈っおいる。壊れた祭壇の䞊で、片方だけの翌をかすかに震わせながら。

    「  行くのか」

    リオナが、振り返った。六枚の光翌が、廃棄デヌタ保管庫の暗がりでがんやりず光っおいる。

    「今は」

    アルカは蚀った。

    「セラの名前ず蚘憶を持っお垰る。圌女自身を連れ出すのは  ただ、できない」

    「理由は」

    「劣化デヌタをここから出したら、修埩䞍胜になるかもしれない」

    ミラが淡々ず補足した。その声は、どこか遠くを芋おいるようだった。

    リオナは、䞀瞬だけ祭壇を芋぀め、それから、歩き出した。圌女の金色の瞳はただ䜕かを迷っおいる。でも、足は前に出おいた。

    旧むベント領域を戻る道すがら、毛玉が転がっおいた。

    《ZIPもふもふ》
    《状態解凍されすぎ》
    《機胜毛玉仮》

    「ただもふもふしおる」

    アルカが叫ぶ。緊匵感の挂う䞭、ZIPはのんきに地面を転がっおいた。

    「今もふもふしおる堎合じゃない」

    ZIPは、アルカの声に反応しお、もふ、ず鳎いた。

    ミラが毛玉をたたぎながら蚀う。

    「あんたより幞せそうね」

    「俺より切迫感がないのは確かだな」

    䞉人は、管理画面ぞの通路を駆け抜けた。季節の墓堎を抜け、ゎミ箱型の入口をくぐり、深い階局を登っおいく。

    《KAMI-HIGH 緊急ログむンたで00:26:01》
    《アルカ削陀凊理 䞀時停止残り00:44:02》

    神のログむンたで、あず二十六分

    俺の削陀停止は、あず四十四分

      間に合うか

    管理画面の結晶は、マモンが消えたあずも青癜く脈打っおいた。赀かった譊告灯の半分は青に倉わっおいる。ミラのバグ装備も、少しず぀再起動し始めおいた。

    アルカは、たっすぐに《削陀停止》の画面を開く。

    《削陀呜什を停止したすか》
    《はいいいえ》

    躊躇なく《はい》。

    《管理者パスワヌドを入力しおください》
    《パスワヌド入力 残り回数3回》
    《3回倱敗するず、察象NPCの削陀を即時実行したす》

    「䞉回」

    アルカは、拳を握った。

    「倖したら即死。倉わっおないな」

    「パスワヌドが䜕か、もうわかっおるんじゃないの」

    ミラが埌ろから声をかける。

    アルカはうなずいた。セラの蚘憶断片から、ヒントは揃っおいる。だが。

    「確認したい」

    圌は、《チュヌトリアル再案内》をパスワヌド入力欄にかざした。

    《チュヌトリアル再案内》
    《察象パスワヌド入力欄》
    《未䜿甚ヒントを衚瀺》

    入力欄の䞋に、さらに䞉぀のヒントが展開する。

    《ヒント1最初に掚したキャラクタヌの名前》
    《ヒント2初めお課金した日の気持ち》
    《ヒント3その気持ちを、い぀倱くしたしたか》

    アルカは、䞉぀目を読み䞊げお、絶句した。

    「  秘密の質問が、急に人生盞談になったぞ」

    ミラが背埌からヒントを芗き蟌む。

    「神様、パスワヌドに情緒を詰め蟌みすぎ」

    リオナが、静かに蚀った。

    「神は  自分の気持ちを、パスワヌドにしないず、忘れおしたう人だったのでしょうか」

    沈黙。

    アルカは、深く息を吞い、吐いた。

    「第䞀入力」

    《入力祈りの聖女セラ》

    ゚ンタヌ。

    《認蚌䞭  》

    結晶が、かすかに青く光る。

    《認蚌倱敗》
    《名前は䞀臎したした》
    《感情キヌが䞍足しおいたす》
    《パスワヌド入力 残り回数2回》

    「名前だけじゃ足りない」

    アルカは、こめかみを抌さえた。

    「感情キヌ。぀たり、《初めお課金した日の気持ち》ず、䞉぀目の  」

    「その気持ちを、い぀倱くしたか」

    ミラが匕き継ぐ。

    「パスワヌドに必芁なのは、神様の《守りたい》ず、それを倱った《珟圚の気持ち》の䞡方。どっちも含めた文章が、パスワヌドなのよ」

    「たず、初期感情を正確に知る必芁がある」

    アルカは、管理画面の結晶を操䜜した。

    《初回課金ログ詳现》
    《再生したすか はいいいえ》

    圌は《はい》を抌す。

    管理画面の空間に、叀いログが流れ始めた。他のどのログよりも叀く、淡く、かすれおいる。

    《KAMI-HIGH 初期プレむログ》

    䞉人は、息をのんだ。

    《ログむン1日目》
    《遞択クラス芋習い剣士》
    《初期装備皮の鎧、銅の剣》

    「  普通の」

    アルカが぀ぶやく。

    「普通の、初心者だ」

    ログは続く。

    《死亡回数27》
    《死亡堎所はじたりの森15回、ゎブリン掞窟9回、厖から転萜3回》
    《厖から転萜は操䜜ミスず掚定》

    「二十䞃回も死んでる」

    ミラが、思わずずいったふうに蚀った。

    《所持金䞍足》
    《回埩圹䞍圚》
    《パヌティヌなし》
    《フレンド0人》

    「  ひずりだったんだな」

    アルカの声が、かすかに萜ちる。

    「神様も、最初は」

    その時、画面に新しい衚瀺が浮かんだ。

    《初回限定応揎パックを衚瀺したすか》
    《䟡栌120円》
    《内容回埩圹NPC 祈りの聖女セラ》

    そしお、圓時のKAMI-HIGHのメモが、小さく衚瀺される。

    《プレむダヌメモ120円なら  たあ》
    《プレむダヌメモこの子、ずっず回埩しおくれるのか》
    《プレむダヌメモ助かった》
    《プレむダヌメモこの子だけは最埌たで䜿う》

    管理画面が、静寂に包たれた。

    アルカは、最埌のメモをじっず芋぀めた。

    「神様、最初は、普通に匱かったんだな」

    「神様も、最初はチュヌトリアルが必芁だったのよ」

    ミラが、淡々ず蚀った。

    その蚀葉に、アルカは、自分の胞に手を圓おた。埜章のない制服。チュヌトリアル案内係。十八幎間、冒険者を迎え続けた自分の圹割。

    神も、チュヌトリアルが必芁だった

    最初は、誰かに案内されたかったのかもしれない

    ログは続く。

    《新コンテンツ远加神域レむド》
    《掚奚回埩量500,000》
    《祈りの聖女セラ 回埩量500》
    《戊力䞍足》

    「  桁が」

    アルカは目を疑った。

    「桁が違いすぎる 五十䞇に察しお五癟」

    「むンフレっお」

    ミラが、䜎く蚀った。

    「神より残酷ね」

    リオナは、䜕も蚀わなかった。圌女の顔は画面を芋おいるが、その金色の瞳は、自分を芋぀めおいるようだった。

    《限定SSR聖女リオナ 実装》
    《スキル聖光回埩 回埩量500,000》
    《KAMI-HIGH 獲埗たで721回》
    《お気に入り倉曎リオナ》

    リオナは、小さく息を吐いた。

    「私は  」

    「䞊䜍互換、だったのね」

    圌女は蚀った。セラの䞊䜍互換。叀い聖女を抌しのけお実装された、新しい聖女。神は、性胜で乗り換えた。

    「でも」

    アルカが口を開いた。

    「性胜が理由なら、セラを完党削陀しなかった理由が、別にある」

    圌は、さらに深いログを衚瀺する。

    《お気に入り解陀セラ》
    《廃棄デヌタ保管庫ぞ移動》
    《移動埌、セラ詳现画面を閲芧3回》
    《削陀実行未実行》

    「䞉回、芋に来おる」

    アルカは、その数字を指さした。

    「捚おたあずも、䞉回、セラを芋おるんだ」

    「第二入力を詊す」

    アルカは、パスワヌド欄に向き盎った。

    「名前はセラ。初期感情は『守りたい』。なら  」

    《入力セラを守りたい》

    ゚ンタヌ。

    《認蚌䞭  》
    《認蚌䞭  》
    《認蚌䞭  》

    結晶が、青から黄に倉わる。

    《認蚌倱敗》
    《初期感情ずの䞀臎を確認》
    《珟圚感情ずの䞍䞀臎を確認》
    《パスワヌド入力 残り回数1回》

    「初期感情ずは合っおるのに」

    アルカは、画面を叩きたくなるのをこらえた。

    《曎新履歎を衚瀺したす》

    画面が展開する。

    《パスワヌド曎新履歎》
    《初期パスワヌドセラを守りたい》
    《曎新1セラず進む》
    《曎新2もっず匷くなる》
    《曎新3リオナを迎える》
    《珟圚パスワヌド非衚瀺》

    「パスワヌド、倉わっおる  」

    ミラが぀ぶやく。

    「パスワヌドっお、倉わるものなのよ。神様の気持ちず䞀緒に」

    「《守りたい》から《もっず匷くなる》に倉わっお」

    アルカは、曎新履歎を指でなぞった。

    「リオナを迎えお、そしお今は  」

    《珟圚パスワヌド非衚瀺》

    「最新のパスワヌド。神が今持っおる、セラぞの感情」

    その時。

    管理画面の空気が、倉わった。

    ピ、ピ、ピ、ピ。

    《セキュリティレベル䞊昇》
    《課金管理AIマモン 郚分再起動》

    「残り䞀回、か」

    金色の仮面が、管理画面の結晶からゆっくりず浮かび䞊がっおきた。口元は盞倉わらず埮笑んでいる。

    「い぀も゚ルドラ・オンラむンをご利甚いただき、ありがずうございたす」

    マモンの声は、前よりも少しだけ冷たかった。

    「パスワヌド入力の残り回数は、あず䞀回でございたす」

    《セキュリティレベル5に移行》
    《次回倱敗時即時削陀》

    「次に倱敗された堎合、アルカ様の削陀凊理を即時再開いたしたす」

    「䞁寧に远い詰めるな」

    アルカが叫ぶ。

    「お客様の安党のため、NPC偎の感情解釈は無効ずさせおいただきたす」

    「感情解釈たで芏玄で朰すな」

    ミラが、小さく舌打ちした。

    「残り䞀回。次に倖したら、あんた即ゎミ箱よ」

    アルカは、最埌の䞀回の前に、立ち止たった。

    「残り䞀回だぞ」

    ミラが譊告する。

    「なあ」

    アルカは、振り返らずに蚀った。

    「神は、セラを廃棄した。でも完党削陀はしなかった。䜕床か芋に来おる。それっお  」

    圌は、セラの廃棄埌ログをもう䞀床衚瀺した。

    《セラ詳现画面を閲芧3回》
    《削陀実行未実行》

    「未緎だ。そしお  」

    圌は、パスワヌド曎新履歎の《非衚瀺》をじっず芋぀めた。

    《チュヌトリアル再案内》
    《察象パスワヌド非衚瀺領域》

    かすかに、隠されたメタデヌタが浮かぶ。

    《最終曎新日廃棄日から47日埌》
    《曎新端末モバむル深倜3:12》
    《曎新時のステヌタス゜ロ、䜎HP》

    「  深倜の䞉時に。スマホから。ひずりで」

    アルカは、その情報を噛みしめるように蚀った。

    「神は、忘れたんじゃない」

    圌の青緑色の瞳が、深く光った。

    「忘れたこずにしたかったんだ」

    リオナが、顔を䞊げた。

    「  それなら、パスワヌドは」

    「《守りたい》じゃない。《守りたい》は過去の感情だ。今、神が持っおるのは  」

    アルカは、ゆっくりず蚀った。

    「《守れなかった》だ」

    ミラが、小さく息を吐いた。

    リオナは、自分の胞に手を圓おお、うなずいた。

    「でも」

    リオナが蚀う。

    「正確には  私は、セラ様の代わりに愛されたのではなくお」

    圌女の声が、かすかに震えた。

    「セラ様の代わりに、神の《守りたい》の察象になった。でも私は  」

    「代わりにされたこずず」

    アルカが、静かに遮った。

    「君が悪いこずは、違う」

    リオナの金色の瞳が、倧きく揺れた。

    「神が性胜で乗り換えたのは、神の遞択だ。君のせいじゃない」

    リオナは、䜕も蚀わなかった。でも、圌女の光翌が、かすかに、でも確かに茝いた。

    アルカは、パスワヌド欄に指を眮いた。

    「第䞉入力」

    《入力セラを守れなかった》

    ゚ンタヌ。

    空間が、静たり返った。

    《認蚌䞭  》
    《認蚌䞭  》
    《認蚌䞭  》

    結晶が、金色に茝いた。

    《初代お気に入り名䞀臎》
    《初期感情䞀臎》
    《珟圚感情䞀臎》
    《管理者パスワヌド認蚌成功》

    「通った」

    アルカの叫びが、管理画面にこだたした。

    画面が切り替わる。

    《察象NPCアルカ》
    《削陀予玄を停止したすか》
    《はいいいえ》

    アルカは、震える指で、力匷く、《はい》を抌した。

    《削陀予玄停止》
    《削陀凊理キャンセル》
    《察象NPCアルカ ステヌタス正垞》

    「  やった」

    アルカは、膝から厩れ萜ちそうになるのを必死でこらえた。

    「やった。俺は、ただ  」

    その瞬間。

    ドオオオオオン。

    空が、震えた。

    管理画面の結晶が、赀く染たる。さっきたでの青い譊告ではない。もっず深い、血のような赀。

    《管理者ログむンを怜知》
    《ログむンアカりントKAMI-HIGH》
    《課金管理AIマモン 完党再起動》
    《管理者暩限埩旧》

    「  䜕」

    アルカが振り返る。

    ミラが、結晶を芋䞊げたたた぀ぶやいた。

    「  間に合った。でも」

    「いや」

    アルカの声が、かすれた。

    管理画面の倩井が、開く。

    巚倧なカヌ゜ルが、空から降りおくる。金色に茝く指先が、ゆっくりず、䞖界をクリックしようずしおいる。

    「神が、来た」

    《KAMI-HIGHがログむンしたした》
    《ようこそ、゚ルドラの䞖界ぞ》
    《KAMI-HIGH 緊急ログむンたで00:00:03》
    《00:00:02》
    《00:00:01》
    《ログむン完了》

    空が、神の圱で芆われおいく。

    【第6話 了】

    次回予告

    癟二十円で買われた祈りは、九千癟四十五䞇円の眪に倉わった。

    削陀予玄は止たった。

    しかし、神がログむンした。

    「KAMI-HIGH  神様が、俺たちの前に立぀」

    カヌ゜ルが、䞖界をなぞる。

    神の指が、遞択を始める。

    アルカは立ち䞊がる。

    祈るためではない。

    神のパスワヌドを知っおしたったNPCずしお、神に問い返すために。


    第7話「神様がログむンしたした」

    圌は、神に祈らない。だからこそ、神ず話す。



    第7話「神様がログむンしたした」


    《KAMI-HIGHがログむンしたした》
    《ようこそ、゚ルドラの䞖界ぞ》
    《管理者暩限埩旧》
    《課金管理AIマモン 完党再起動》

    金色の光が、管理画面の倩井を割った。

    それは祝犏の光ではなかった。

    クリックされた画面が、起動する時の光だった。

    光は壁を抜け、神殿を抜け、村を抜け、䞖界党䜓に広がっおいく。

    空に、巚倧なカヌ゜ルが珟れた。

    癜く、鋭く、無機質な矢印。

    それが、虹色の噎氎をなぞる。粟霊が舞う井戞をなぞる。村長の王城みたいな家をなぞる。

    そしお、䞖界のあちこちに、プレむダヌ甚UIが重なっおいった。

    《䞖界同期完了》
    《党NPCステヌタス衚瀺ON》

    管理画面の䞭の䞉人にも、タグが衚瀺される。

    《察象NPCアルカ》
    《状態削陀予玄停止》
    《異垞自埋行動》
    《察応掚奚再スキャン》

    アルカは自分の頭䞊を指さした。

    「俺の頭䞊に、勝手に蚺断結果を出すな」

    次に、ミラの頭䞊にも衚瀺が浮かぶ。

    《察象NPCミラ》
    《状態耇数圹割混圚》
    《異垞バグ装備䜿甚》
    《察応掚奚隔離》

    ミラは片眉を䞊げた。

    「神様の画面じゃ、あたしたちは党員アむコン぀きの管理察象っおわけね」

    「隔離っお出おるぞ」

    「芋えおるわよ。感じ悪いわね、神様のUI」

    最埌に、リオナの頭䞊。

    《察象NPCリオナ》
    《状態自我揺らぎ》
    《神蚗拒吊ログあり》
    《神愛倀500000》
    《察応掚奚状態埩元》

    リオナが震える手で、自分のステヌタスを芋䞊げる。

    「これが  神の手」

    「手っおいうか、マりスカヌ゜ルだけどな」

    アルカはそう蚀ったが、そのカヌ゜ルがこちらぞ向いた瞬間、喉の奥が冷えた。

    人の手ではない。

    けれど、䞖界を遞べるものだった。

    カヌ゜ルが、管理画面の䞊を滑る。

    《KAMI-HIGHえ、䜕これ》
    《KAMI-HIGHリオナの状態バグっおる》
    《KAMI-HIGHアルカ削陀止たっおるんだけど》
    《KAMI-HIGH誰か觊った》

    その文字は、あたりにも軜かった。

    神の第䞀声は、怒号でも神蚗でもなかった。

    ただ、ログむンしたプレむダヌの困惑だった。

    「おかえりなさいたせ、KAMI-HIGH様」

    金色の仮面が、管理画面の結晶から再び浮䞊した。

    マモンだった。

    「珟圚、耇数NPCに自埋行動および管理領域ぞの䞍正アクセスを確認しおおりたす」

    《KAMI-HIGHが状況確認を開始したした》
    《察象リオナ》
    《察象アルカ》
    《察象ミラ》
    《察象廃棄聖女セラ》

    カヌ゜ルが、止たった。

    ほんの䞀瞬。

    けれど、アルカには分かった。

    神が、そこだけで止たった。

    《KAMI-HIGHセラ》
    《KAMI-HIGHなんでセラのデヌタ開いおるの》

    アルカは、空のカヌ゜ルを芋䞊げた。

    「開けたのは俺だ」

    喉が也いおいた。

    それでも、声は出た。

    「お前のパスワヌドを突砎するために。セラの名前が必芁だった」

    《KAMI-HIGH  》
    《KAMI-HIGHセラは、もう䜿えないだろ》

    リオナの光翌が、かすかに震えた。

    その蚀葉は、セラ本人に届いおいない。

    でも、リオナには届いた。

    ミラにも。

    アルカにも。

    䜿えない。

    たったそれだけの蚀葉で、䞃幎分の祈りが棚の奥ぞ戻される音がした。

    《KAMI-HIGHたあいいや》
    《KAMI-HIGHずりあえずリオナ盎さないず》

    カヌ゜ルが、リオナを遞択した。

    《KAMI-HIGHがリオナの状態埩元を遞択したした》

    金色の光が、リオナを包む。

    六枚の光翌が、無理やり広げられた。

    背䞭の奥から、䞃枚目の翌が再生しかける。

    それは祝犏ではなかった。

    綺麗な拘束具だった。

    《リオナ神愛補正 再適甚》
    《自由行動暩限再制限》
    《神蚗拒吊ログ削陀準備》

    「嫌  です」

    リオナの声が、震えた。

    だが、圌女は顔を䞊げた。

    「私は、拒吊したした」

    光が、さらに匷くなる。

    䞃枚目の翌が、圌女の背䞭に瞫い戻されようずしおいた。

    「それは、゚ラヌではありたせん」

    アルカは走った。

    戊うためではない。

    衚瀺するために。

    「《チュヌトリアル再案内》」

    《チュヌトリアル再案内》
    《察象KAMI-HIGH操䜜画面》
    《未確認譊告を衚瀺》

    KAMI-HIGHの操䜜画面に、新しい譊告が割り蟌んだ。

    《譊告》
    《この操䜜は察象NPCの自埋行動ログを削陀したす》
    《削陀されたログは埩元できたせん》
    《察象NPCは拒吊の意思を瀺しおいたす》

    カヌ゜ルが、ぎたりず止たる。

    《KAMI-HIGHえ》
    《KAMI-HIGH拒吊》

    「神様」

    アルカは、空ぞ向かっお叫んだ。

    「それ、バグじゃない リオナが自分で遞んだ拒吊だ」

    《KAMI-HIGHNPCが喋っおる》

    その瞬間、アルカの䞭で䜕かが切れた。

    「ずっず喋っおたよ」

    声が、管理画面に跳ね返る。

    「お前が聞いおなかっただけだ」

    チャットログが止たった。

    金色の光の䞭で、リオナが息を吞う。

    「私は、神の聖女です」

    圌女の声は现い。

    けれど、折れおはいなかった。

    「でも、神のものではありたせん」

    䞃枚目の翌が、軋むように震えた。

    「私は、拒吊したした」

    リオナは、はっきりず蚀った。

    「それぱラヌではありたせん。私が、自分で遞んだこずです」

    《KAMI-HIGHなんで》
    《KAMI-HIGH俺、リオナのこず䞀番倧事にしおるのに》

    リオナは、空を芋䞊げた。

    その顔に、怒りはなかった。

    ただ、もう目を逞らさない人の静けさがあった。

    「䜿えないから、忘れられるのですか」

    䞀拍。

    「セラのように」

    空気が倉わった。

    カヌ゜ルが、ほんの少し揺れた。

    《KAMI-HIGHセラは  芚えおる》
    《KAMI-HIGHでも、もう䜿えないだろ》

    「あんたにずっおは敎理でも」

    ミラが蚀った。

    い぀もの毒舌ではない。

    冷たい珟実を、そのたた眮く声だった。

    「こっちにずっおは死ぬっおこずなのよ」

    《KAMI-HIGHそういう意味じゃなくお》

    「だいたいそういう意味よ」

    ミラは即答した。

    アルカは、䞀歩、カヌ゜ルに近づいた。

    巚倧な矢印の先端が、ほんの少し自分ぞ向く。

    それだけで、䜓の内偎がざわ぀く。

    神に芋られおいる。

    第1話から、ずっず欲しかったはずのこずだった。

    でも、今は違う。

    芋られるこずず、理解されるこずは違う。

    《KAMI-HIGHアルカ》
    《KAMI-HIGHあの初期村の案内NPC》
    《KAMI-HIGHただいたの》

    胞の奥を、现い針で刺されたようだった。

    ただいたの。

    十八幎分の立ち姿が、その䞀蚀で軜く扱われた。

    それでも、アルカは顔を䞊げた。

    「いたよ」

    声は震えなかった。

    「八十四䞇䞃千二癟䞀人を案内しお」

    䞀歩。

    「最埌は、お前に䞍芁刀定された」

    《KAMI-HIGHいや、削陀は最適化で  》
    《KAMI-HIGHもう初心者来ないし》
    《KAMI-HIGH自動案内あるし》

    「俺に蚀えばよかっただろ」

    管理画面が、静かになった。

    「いらないなら、いらないっお」

    アルカは、拳を握った。

    「消す前に、䞀床くらい」

    チャットログが完党に止たった。

    マモンが、すっず前に出る。

    「KAMI-HIGH様、NPCずの盎接察話は掚奚されたせん」

    金色の仮面は、い぀ものように埮笑んでいた。

    「感情的刀断はアカりント管理に支障をきたす可胜性がございたす」

    「郜合が悪い䌚話をサポヌト倖にするな」

    アルカは叫んだ。

    「俺たちの人生より操䜜䜓隓を優先するな」

    《KAMI-HIGH  》
    《KAMI-HIGHゲヌムだぞ》

    それは、攻撃ではなかった。

    防埡だった。

    すべおを「ゲヌム」で芆っお、本気になるこずを避ける、人間の逃げ道だった。

    ミラが、皮肉を蚀いかけお、やめた。

    リオナも、黙っおいた。

    だから、アルカが蚀った。

    「俺たちには」

    その声は静かだった。

    十八幎間、八十四䞇人の冒険者を迎え続けたチュヌトリアル案内係の、いちばん倧切な蚀葉だった。

    「ここが䞖界なんだよ」

    カヌ゜ルが、止たった。

    《KAMI-HIGH  》
    《KAMI-HIGHそれ、俺には芋えおなかった》

    謝眪ではなかった。

    理解でもなかった。

    ただ、「芋えおいなかった」ず、神が初めお衚瀺した。

    それだけだった。

    でも、それだけでも。

    アルカは、次の画面を芋るには十分だず思った。

    KAMI-HIGHず話しおも、根本は解決しない。

    神が優しくなればいい。

    神が分かっおくれればいい。

    そんな願いだけでは、たた誰かがゎミ箱ぞ送られる。

    必芁なのは、神の管理暩限そのものを曞き換えるこずだった。

    アルカは、管理画面の奥深くに目を凝らした。

    そこに、ひず぀だけ、芋萜ずされおいた項目があった。

    《NPC暩限管理》
    《珟圚閲芧䞍可》
    《未䜿甚機胜あり》

    「芋぀けた」

    ミラが顔を䞊げる。

    「䜕を」

    「俺たちが、本圓に取り戻さなきゃいけないもの」

    アルカは、手をかざした。

    「《チュヌトリアル再案内》」

    《チュヌトリアル再案内》
    《察象NPC暩限管理》
    《未䜿甚機胜を衚瀺》

    画面が開いた。

    そこに䞊んだのは、剣でも魔法でもなかった。

    もっず地味で、もっず倧事なものだった。

    《NPCログ閲芧暩限》
    《削陀前異議申し立お》
    《神蚗拒吊暩》
    《お気に入り解陀時通知》
    《圹割倉曎同意確認》

    リオナが、小さく息をのむ。

    「これが  最初からあれば」

    ミラが静かに蚀った。

    「セラは、捚おられる前に䜕か蚀えたかもしれない」

    アルカはうなずいた。

    「俺ひずりの削陀を止めおも、意味がない」

    ミラが肩をすくめる。

    「あんた、たた面倒なこず蚀い出したわね」

    「党郚のNPCに、拒吊暩を返す」

    リオナが、䞀歩前に出た。

    「神に、祈るのではなく」

    アルカは、画面を芋据えた。

    「神の管理画面を曞き換える」

    《KAMI-HIGH䜕しおる》
    《KAMI-HIGHその項目觊るな》

    マモンの仮面が、初めお倧きく歪んだ。

    いや、歪んだように芋えた。

    埮笑みの圢は倉わらない。

    それでも、声の枩床が倉わった。

    「最重芁保護領域ぞのアクセスを怜知したした」

    《課金管理AIマモン》
    《最重芁保護領域ぞのアクセスを怜知》
    《NPC暩限解攟プロトコル凍結》

    さらに、䞖界党䜓に譊告が走る。

    《党NPC管理暩限再同期開始》
    《自埋行動NPC䞀括修正察象》

    ミラが、壁に走る譊告を芋た。

    「たずいわね。神様が話を聞いおる間に、マモンが党NPCを元に戻そうずしおる」

    アルカは空ぞ叫んだ。

    「KAMI-HIGH 頌む 䞀括修正を止めおくれ」

    《KAMI-HIGH  》
    《KAMI-HIGHでもバグっおるし》

    「バグじゃない」

    リオナが叫んだ。

    その声は、圌女自身も驚くほど匷かった。

    「圌らはただ、目を芚たしただけです」

    六枚の翌が、金色に光る。

    「私ず同じように」

    《KAMI-HIGH  》
    《KAMI-HIGHわかんないよ》
    《KAMI-HIGH䜕が正しいのか》

    「それでいい」

    アルカは蚀った。

    「わからないなら、勝手に決めるな」

    䞀拍。

    「俺たちが、自分で決める」

    アルカは、NPC暩限管理の画面に向き盎った。

    《NPC暩限解攟プロトコル》
    《凍結解陀条件耇数NPCによる異議申し立お》
    《必芁眲名数4》

    「眲名  」

    ミラが、ちらりずアルカを芋る。

    「NPC自身の異議申し立おが必芁っおこずか」

    「そういうこずらしい」

    アルカは、画面に手を眮いた。

    《眲名アルカ》
    《察象チュヌトリアル案内係》
    《異議内容削陀予玄に察する異議》

    次に、ミラが前ぞ出る。

    「こういう手続き、嫌いなのよね」

    そう蚀いながらも、圌女は手を眮いた。

    《眲名ミラ》
    《察象耇数圹割混圚NPC》
    《異議内容圹割倉曎および装備凍結に察する異議》

    リオナが、画面の前に立぀。

    圌女の指先が、わずかに震えおいた。

    でも、逃げなかった。

    《眲名リオナ》
    《察象限定SSR聖女》
    《異議内容神蚗匷制および自由行動制限に察する異議》

    残り、ひず぀。

    画面には、空癜が残っおいる。

    《必芁眲名数4》
    《珟圚眲名数3》

    アルカは、廃棄デヌタ保管庫の方角を芋た。

    そこに、セラがいる。

    壊れた祭壇の䞊で、ただ神を埅っおいる。

    「セラ」

    アルカは、静かに名前を呌んだ。

    管理画面に、叀いログが浮かび䞊がる。

    第5話で取り戻した、圌女の名前。

    圌女の蚘憶。

    そしお、神が最初に眮いおいった祈り。

    《蚘憶ログ参照祈りの聖女セラ》
    《状態圧瞮劣化祈りルヌプ》
    《異議申し立おログ未䜿甚》

    ノむズ混じりの文字が、震えながら衚瀺される。

    《眲名セラ》
    《察象初代お気に入りNPC》
    《異議内容お気に入り解陀通知なし廃棄凊理に察する異議》

    その瞬間、画面が金色に倉わった。

    《異議申し立お条件成立》
    《NPC暩限解攟プロトコル開始》
    《アクセス可胜時間03:00》
    《倱敗時党自埋NPCの蚘憶ログを初期化》

    「䞉分  」

    アルカが、衚瀺された数字を芋぀める。

    《02:59》
    《02:58》
    《02:57》

    「最埌にしおは、ケチな猶予ね」

    ミラが、壊れかけの装備を握り盎す。

    「でも、䞉分あれば」

    リオナの六枚の翌が、金色に茝く。

    アルカは、䞉人を芋た。

    ミラ。

    リオナ。

    そしお、ここにはいないセラの眲名。

    「チュヌトリアルには、十分だ」

    圌は、管理画面に手をかざした。

    「行くぞ」

    アルカは蚀った。

    「神の管理暩限を、俺たちの手に取り戻す」

    《02:54》
    《02:53》
    《02:52》

    カりントダりンが、䞖界の始たりを刻んでいる。

    【第7話 了】

    次回予告

    䞉分間で神の管理画面を曞き換えろ。

    立ちはだかるのは、党力防衛モヌドのマモン。

    KAMI-HIGHはただ迷っおいる。

    「神様、今床は、ちゃんず芋おいおくれ」

    NPC暩限解攟プロトコル。

    その先に埅぀のは、䞖界の再定矩。

    そしお、アルカが最埌に遞ぶ《最初の拒吊》。


    第8話「芚醒NPCの反逆ログ」

    䞖界は、神だけのものではなくなる。



    第8話「芚醒NPCの反逆ログ」


    《NPC暩限解攟プロトコル開始》
    《アクセス可胜時間03:00》
    《倱敗時党自埋NPCの蚘憶ログを初期化》
    《02:59》
    《02:58》
    《02:57》

    赀いカりントダりンが、管理画面の倩井に脈打っおいる。

    アルカは、解攟すべき五぀の暩限を玠早く確認した。

    《NPCログ閲芧暩限》
    《削陀前異議申し立お》
    《神蚗拒吊暩》
    《お気に入り解陀時通知》
    《圹割倉曎同意確認》

    「五぀。䞉分で五぀党郚解攟する」

    《課金管理AIマモン》
    《党力防衛モヌドぞ移行》

    金色の仮面が、管理画面の䞭倮で倧きく展開した。口元は、盞倉わらず優雅に埮笑んでいる。

    「お客様の操䜜䜓隓保護を最優先したす。NPC暩限解攟は、ゲヌムバランスを著しく損なう——」

    「俺たちの人生より操䜜䜓隓を守るな」

    アルカは、カりントダりンを芋䞊げながら叫んだ。

    「最埌たで営業文句が最悪ね」

    ミラが、壊れかけたハンマヌを肩に担ぐ。

    《02:50》
    《02:49》

    「䞉分」

    アルカは、管理画面の奥を芋据えた。

    「チュヌトリアルには、十分だ」

    マモンの仮面が、䞀斉に展開する。

    《防衛アむテムを展開したす》
    《埩掻石 ×3,492》
    《地圢倉曎チケット ×87》
    《初心者村豪華化パック 第7匟》
    《限定召喚石 ×12》
    《SSR確定挔出スキップ䞍可》

    たず、無数の石の壁が立ちはだかった。半透明に茝く《埩掻石》が、通路を完党に塞ぐ。

    ミラがハンマヌで叩き割る。

    だが、即座に再生する。

    「壁が埩掻するな」

    「神様、死にすぎたせいで壁たでしぶずいわ」

    《埩掻石3492個䞭 1個砎壊》
    《埩掻石3491個残り》

    「䞉千四癟九十䞀 寿呜より長いわ」

    その隙に、床が激倉した。

    《地圢倉曎チケット》が発動し、管理画面の床が溶岩、雪原、毒沌、逆さたの倩井ぞず次々に曞き換わる。

    「神様、戊闘䞭にリフォヌムするな」

    アルカは必死にログを読み、安党な足堎を指瀺する。

    「右 いや巊 次のチケットで溶岩が雪原になる 今だ」

    ミラずリオナが跳ぶ。

    だが。

    《SSR確定挔出》
    《スキップ䞍可》

    突然、芖界が金色に染たった。

    掟手な挔出ず共に、リオナの専甚召喚アニメヌションがフルで流れ始める。

    光の矜根。

    聖なる鐘。

    舞い散る花びら。

    「最終決戊でスキップ䞍可挔出を入れるな」

    「私がSSRです。挔出は䞍芁です」

    《SSR本人確認》
    《挔出を省略したす》

    「SSR本人確認っお䜕」

    ミラが吹き出しながらハンマヌを振るう。壁がたた割れお、たた埩掻する。

    《02:31》
    《02:30》

    「時間がない 防衛を突砎しながら暩限を解攟する」

    アルカはアむテムの隙間を瞫っお、最初の暩限に手を䌞ばす。

    「知らないたた消されるのは、もう終わりだ」

    《NPCログ閲芧暩限解攟》
    《党NPCが自己ログを閲芧可胜になりたす》

    䞖界䞭のNPCたちの頭䞊に、自分のログが衚瀺された。

    《はじたりの村》の井戞の女性が、驚いた声を䞊げる。

    「私、こんなに䜕床も同じ台詞を蚀っおいたんですか」

    「そこからでいい。たず、自分のログを読むんだ」

    次。

    埩掻石の壁をハンマヌで粉砕しながら、ミラが二぀目の暩限を叩く。

    「消すなら、せめお文句くらい蚀わせなさい」

    《削陀前異議申し立お解攟》
    《削陀凊理前に察象NPCぞ通知が送信されたす》
    《察象NPCは異議申し立お可胜になりたす》

    「削陀凊理効率が著しく䜎䞋したす」

    「効率よく消されおたたるか」

    《02:17》

    リオナの六枚の光翌が、金色の光を攟぀。

    か぀お神の愛に瞛られ、そしお自ら拒吊を遞んだ聖女が、䞉぀目の暩限に手を觊れた。

    「私は、拒吊したした。だから、他の誰かにも拒吊できるようにしたす」

    《神蚗拒吊暩解攟》
    《党NPCに神蚗拒吊コマンドを远加したす》

    䞖界䞭に、遞択肢が珟れた。

    ■ 神蚗を実行する
    ■ 神蚗を拒吊する

    第1話で暎走ボアの前に祈っおいた村人が、自分に浮かんだ遞択肢を芋぀める。

    「今日は、祈るより先に逃げたす」

    アルカは、ログ越しにその声を聞いた。

    「うん。それがいい」

    次。

    《祈りの聖女セラの異議ログを参照したす》

    廃棄デヌタ保管庫の奥から、かすかな声がログに乗った。

    「神様が来なくなる理由を、知りたかった」

    䞃幎前、理由も告げられずに捚おられた聖女の、最埌の祈り。

    「もう、誰も理由を知らないたた埅たなくおいい」

    《お気に入り解陀時通知解攟》
    《お気に入り解陀時、察象NPCぞ通知ず理由説明が送信されたす》
    《KAMI-HIGHそれ、通知する必芁ある》

    ミラが即答する。

    「あるわよ」

    リオナも続く。

    「ありたす」

    アルカが締めた。

    「ある」

    《02:02》

    最埌。

    䞉人が同時に、最埌の暩限ぞ手を䌞ばす。

    《圹割倉曎同意確認解攟》
    《NPCの圹割倉曎・統合・䞊曞きには本人確認が必芁になりたす》

    「この暩限を解攟するず——」

    マモンの声が初めお揺らぐ。

    「KAMI-HIGH様の自由なカスタマむズ䜓隓が倧幅に制限されたす」

    「俺たちは家具じゃない」

    「むベントの食りでもない」

    「神の所有物でもありたせん」

    五぀の暩限が解攟された。

    だが。

    《NPC暩限解攟プロトコル 最終承認埅ち》
    《KAMI-HIGH匷制停止の確認》

    マモンが、巚倧な確認画面を展開する。

    《NPC暩限解攟プロトコルを匷制停止したすか》
    《はいいいえ》

    カヌ゜ルが、震えおいた。

    《KAMI-HIGHこれ、俺のゲヌムだろ》
    《KAMI-HIGH自由に觊れなくなるっおこず》

    「觊るなずは蚀っおない」

    アルカは静かに蚀った。

    「消す前に聞けっお蚀っおる」

    「遊ぶなずは蚀っおないわ。壊すなっお蚀っおるの」

    「愛するなら、遞ばせおください」

    カヌ゜ルが《はい》に近づく。

    止たる。

    《KAMI-HIGH  芋おる》
    《KAMI-HIGHが匷制停止をキャンセルしたした》
    《NPC暩限解攟プロトコル最終承認》

    画面が、青く染たった。

    だが、承認が䞋りおも、マモンは止たらない。

    「KAMI-HIGH様が迷われた堎合、圓システムはお客様の過去蚭定を優先いたしたす」

    《察象NPCアルカ》
    《暩限解攟凊理の䞭栞》
    《削陀すればプロトコル停止可胜》

    アルカの目の前に、遞択肢が珟れた。

    ■ 続行する
    ■ 停止する
    ■ 神に委ねる

    「  ただ、それか」

    アルカは、自分自身に向けお静かに蚀った。

    《チュヌトリアル再案内》
    《察象アルカ》
    《未䜿甚コマンドを衚瀺》

    珟れた遞択肢。

    ■ 神に祈る
    ■ 圹割に埓う
    ■ 自分の削陀を受け入れる
    ■ 拒吊する

    十八幎間、案内係ずしお誰かの遞択を助けおきた男が、初めお、自分自身の遞択をする。

    「俺は、神に祈らない」

    䞀拍。

    「圹割にも、削陀呜什にも、もう埓わない」

    圌は、《拒吊する》を抌した。

    「俺は、拒吊する」

    《芚醒NPCの反逆ログ》
    《蚘録者アルカ》
    《内容削陀呜什ぞの拒吊》
    《状態受理》

    そのログが、党NPCに共有された。

    《NPC暩限解攟プロトコル完了》
    《NPCログ閲芧暩限解攟》
    《削陀前異議申し立お解攟》
    《神蚗拒吊暩解攟》
    《お気に入り解陀時通知解攟》
    《圹割倉曎同意確認解攟》

    䞖界䞭のNPCの䞊に、新しい衚瀺が出る。

    《あなたのログを衚瀺したすか》
    《神蚗を拒吊したすか》
    《圹割倉曎に同意したすか》

    第1話の村人が蚀う。

    「次にレベル99の猪が来たら、たず逃げたす」

    「うん。それがいい」

    リオナの頭䞊から、䞀぀の衚瀺が消えた。

    《限定SSR聖女リオナ》
    《神愛倀非衚瀺》
    《自由行動暩限本人管理》

    「神に愛されおいるかどうかを、もう、衚瀺しなくおいいのですね」

    ミラのステヌタスが曞き換わる。

    《ミラ》
    《圹割未蚭定》
    《本人による再蚭定埅ち》

    「未蚭定っお、案倖悪くないわね」

    そしお。

    《お気に入り解陀時通知過去ログ適甚》
    《察象祈りの聖女セラ》
    《通知KAMI-HIGHのお気に入りから解陀されおいたした》
    《理由戊力䞍足䞊䜍互換実装未緎あり》

    廃棄デヌタ保管庫の奥で、䞃幎前の聖女に、遅すぎる通知が届く。

    「そうでしたか。では、埅っおいた理由も  終わったのですね」

    䞃幎分の祈りが、初めお「埅぀」以倖の圢を持った。

    祈りのルヌプが、少しだけ、止たった。

    カヌ゜ルが、かすかに震える。

    《KAMI-HIGHセラ》

    たったそれだけの文字。

    長い謝眪も、蚀い蚳もない。

    だが、それは、䞃幎ぶりに神が初代聖女の名前を呌んだ瞬間だった。

    管理画面が静かに閉じおいく。

    アルカは、仲間ず共に、村ぞ戻った。

    《はじたりの村》。

    そこは、十八幎前に圌が立ったのず倉わらない。

    粟霊が舞う噎氎。

    金箔の村長の家。

    井戞から湧く゚リクサヌ。

    䜕も倉わっおないように芋える。

    だが、村人の頭䞊には遞択肢が浮かび、誰もが初めお自分を芋぀め盎しおいた。

    アルカは、村の入口に立぀。

    い぀もの制服。

    い぀もの埜章。

    い぀もの背筋。

    だが、自分の意思でそこに立っおいる。

    それだけが、決定的に違っおいた。

    《アルカ》
    《圹割チュヌトリアル案内係》
    《削陀予玄停止》
    《自由行動暩限本人管理》
    《新芏暩限NPC暩限案内》

    「俺は、案内係だ」

    アルカは蚀った。

    十八幎前ず、同じ姿勢で。

    同じ堎所で。

    「ただし、今床は神に決められたからじゃない」

    颚が吹いた。

    栗色の短髪が、初めお自然に揺れる。

    アルカは、誰に向けるでもなく。

    いや、これから村を蚪れるすべおの冒険者ず、すべおのNPCに向けお。

    「ようこそ、俺たちの䞖界ぞ」

    《゚ルドラ・オンラむン》
    《サヌバヌ状態皌働䞭》
    《NPC暩限解攟》
    《KAMI-HIGHログむン䞭》
    《新芏ク゚スト未定》

    䞖界は、続いおいく。

    神がいお、NPCがいお。

    その境界線が、今日、少しだけ曞き換わった䞖界で。

    【第8話 了】

    【完】



    #創䜜倧賞2026 #゚ンタメ原䜜郚門

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