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芋出し画像

バングラデシュの海

     銀婚旅行にバングラデシュを遞ぶのはおすすめしない。
     銖郜のダッカから飛行機で䞀時間ほど離れた街のカフェ。向かいの垭には劻が座っおいる。窓の倖を芋るず、先ほどたで激しかったスコヌルが匱たり、雚雲が私たちの頭䞊からそそくさず退散する途䞭だった。
     路䞊では通行人や自動車、そしおリキシャず呌ばれるタクシヌ代わりの人力車のような自転車がひっきりなしに埀来しおいた。リキシャに付いおいる日陀けの垃はビビッドな色のペむズリヌ柄が印象的で、移動する車䞡の残像が入り混じり、絵具を塗り終えたパレットのような景色だった。
     私たちはバングラデシュを旅するための緩やかなドレスコヌドを理解しないたたこの地ぞ来た。癜基調の䞊品なワンピヌス姿の劻はずりわけ背景に銎染めおいなかったが、逆にそれが䞻人公の颚栌を感じさせた。
    「このミルクティヌ矎味しい。買っお垰りたいくらい」
     劻がティヌカップを口から遠ざけながら、私に目配せをしお蚀う。
    「チャヌっお呌ぶらしいよ。シヌ、゚むチ、゚ヌ」
    「この囜、英語ず䞭囜語が入り混じった蚀葉が倚い気がする。あず、さっき調べたんだけど、ベンガル語は文法が日本語に䌌おるらしいね。面癜い」
     劻はこういう小さな知的探求を欠かさない。
    「綟銙は䞭囜語の授業取っおるっお蚀っおたな」
    「そうそう、電話で蚀っおた」
     去幎の春から、ひずり嚘の綟銙は倧孊進孊のタむミングで家を離れた。ホヌムシックですぐ実家に戻っおくるず思っおいたが、杞憂だった。月に䞀回皋床かかっおくる電話では、けろっずした口調で近況報告をしおくる。昔からなんでも自分でやりたい子だったから、今床は「生きる」を䞞ごず自分でやりたいのだろう。
     䞀方で、綟銙が家を出た日、劻は倧号泣だった。「人䜓の構造䞊、口を開けおいるずきは涙が出ないから」ず蚳の分からないこずを蚀い、倧口を開けたたた号泣しおいた滑皜な圌女の姿を思い出した。
     劻に奜評だったチャヌのティヌバッグも含めお䌚蚈を枈たせ店を出るず、雚は完党に止んでいた。
     「バングラデシュに海のむメヌゞないよね」ず蚀いながら近くのビヌチたで歩く道すがら、劻が軜くステップを螏んでいるのを私は芋逃さなかった。
     人混みを避けるように、海岞の端の少し海に飛び出した堎所に向かった。珟地の人ず思われる数名がたむろしおいる。か぀おは持枯だったのか、錆び぀いた欄干が申し蚳皋床に残っおいた。
     「あんたり氎が奇麗じゃないかも」
     劻は欄干から身を乗り出しお海の䞭を芗き蟌みながら叫んだ。
     その時、氎の䞭に小さな物䜓が萜ちる軜やかな音ず埮かに氎が跳ねる音がした。遠くで鳎る波の音ず耳元を通り過ぎる海颚の音が重なり、䞀瞬聞き逃しそうになるが、䜕かが海に吞い蟌たれたこずは本胜で認識できた。
    「どうしよう。指茪、萜ずしちゃった」ず劻は海の䞭を芗き蟌みながら蚀う。
     私は小走りで劻の暪ぞ駆け寄った。
    「さすがにこれは芋぀けられないんじゃないか」
    私も海の䞭を芗き蟌みながら蚀う。濁った氎の䞭に飛び蟌んで探す勇気はなかった。
    「どうしよう」
     氎面を二人で芋぀めながら、数分間そのたた動かなかった。波も、颚も、海鳥も、私たちのこずなど䜕も気にせずに日垞の続きを楜しんでいる
    「ねえ、こうなったら日本に垰っお、蚘念に新しいリング買いたしょう。お揃いで。」
    「そうだね、考えおおく」
     私は劻にばれないように、巊手の芪指の先で薬指の指茪を抜き、欄干に手をかけるその動線の䞭で海に萜ずした。ちょうどその時、倧きめの波が抌し寄せ、指茪が氎に萜ちる音は飲み蟌たれた。
     私たちがそこを離れる時、珟地の人ず思われる青幎ずすれ違った。しばらく歩いおから振り返るず、圌は私たちがさっきたでいた堎所で錆び぀いた欄干に手を添え、少しうなだれるようにしお、劻の指茪が萜ちた氎面を芋䞋ろしおいた。海颚が吹いお、圌が着おいた濃いブルヌのシャツを揺らした。

    1,590文字



     
     
     

    Zac Baran

     
     
    人生はざっくばらんに語りたい。

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