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Photo bysatoshi_st

半月、夕空、眠り姫。

    人のまばらな駅のホームを覗き見るように半月が浮かんでいた。空の色は藍に染まりきらない夕暮れで、私の好きな色を湛えて暮れなずんでいた。月に惹かれるのは人の性なんだろうか。大学の授業で習う歌人たちはみな日本の自然の移り変わりをこよなく愛していたけれど、そのなかでもとりわけ桜と月は一段抜けて採られていたようにも思う。実際はきっと、他の誰でもない私自身が春と星を好んでいるのだろう。だから何千年も昔の貴族と同じ感傷や情動を抱えているという実感が湧くたび、世界が少しだけ眩しくなる。私は古典が好きだ。歌に込めて残された思いが長く長く紡がれてきたという事実そのものに希望を感じるから。私や誰かの文章も絶対、今だけではなく未来のどこかに遺されるべき価値を秘めている。何の生産性がなくても、読まれないまま忘れ去られたとしても、ここに文字を積んでいる瞬間がどこまでも遠くに息づいていくような気がしている。世界が滅びて何にもなくなって、言葉の残滓だけが宇宙の漂うように生き延びればいい。

    朝日に比べて西日の明るさのほうが幾分か柔らかく感じるのはなぜなのか。人の流れに追従するようにして通勤するのが嫌すぎるせいか、それとも何か物理的に陽射しそのものに違いがあるんだろうか。こういう取るに足らない疑問が浮かぶたびに、もっと本をたくさん読んでおくんだったと何度目かの後悔をする。本の流れが断絶しないように読書をするのが好きだったから、配架作業をしながら蔵書の位置を把握するのは本当に楽しかった。どの分類にも目印になってくれる本が居るから、その子を見つけ出すために何百回と棚を巡るのだ。日々補完され、保存され、そしてやがては破棄されていく。滞りなく循環する所蔵のサイクルに翻弄されながら、背表紙を整える。どの本が館に来るのか、私の立場ではさっぱり見当もつかなかったけれど、職員さんたちの選んだ本が新刊コーナーに並ぶのをいつだって待ち望んでいた。本が焼けてしまわないように設計されたあの図書館の窓は、学校に比べると大分小さかった。年季の入った児童コーナーを温めるように、夕方のわずかな時間にだけそこの窓から光が降り注いでいた。紙芝居の番号を確かめて、外れてしまった装飾を貼り直したりしながら、その眩しさに目を細める。あの時間が私は堪らなく大好きだった。帰宅を促すチャイムが響いて、館内の沈黙が軽快なメロディーで崩されるあの瞬間。シフトの終わりが近づいて、最後の業務の引継ぎも済んで、カウンターの喧騒も穏やかになる。私はただのアルバイトで、いたって普通の学生で、それでも確かにこの柔らかで厳格な知の空間を構成する一部として息をしているような、そんな錯覚ばかりが今でもずっと鮮明だ。

     
     
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