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りんご右折/#毎週ショートショート

    橘 ゆず


    あんな標識、見たことない。

    洋二は母の見舞いの帰り、ふと道に迷った。いつも通っている道なのにおかしい。違和感をどことなく感じ、周りを見渡すと何と対向車が一台もなかった。もやがかかり、急に視界が悪くなった。

    おれはどこを走っているのか。

    目をこすると、りんごの下に右折のマークがついた看板が現れたのだ。
    瞬きしても消えないその標識にあわせて、導かれるようにハンドルを切った。
    ハンドルを握る手がじわりと汗ばんできた。

    何回か曲がると、霧が濃くなり視界が一気に悪くなる。それでも、りんごマークの右折標識に合わせて曲がり続けた。

    視界がひらけると、そこにはりんご畑が広がっていた。

    「え…?」

    甘酸っぱい、さわやかな香りが漂う。

    すると、ひげを立派に蓄えた初老の御仁がどすどすと近づいてきた。

    忙しい、忙しい!ほらっ、あんたも収穫を手伝ってくれ!

    軍手をほいと投げられる。

    この道は収穫の時期だけ、右折標識が立つのさ。あんたは選ばられたんだね。


    とにやりと笑う。

    給料はりんごだ。明日母の見舞いに持って行ってやりたいが、果たしてここから帰れるのか。


    了




    たらはかにさん、今週もお題をありがとうございます♪

    毎週頭をひねるのが楽しいですね。
    ショートショート、密かなわたしのブームです。

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