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Photo byyuyashiokawa

【掌線】たったひずりのひずでいおね。/#灯火杯th

    橘 ゆず


    「これに䞀緒にきおくれ。俺が描いたんだ」

    癜さがやけに匷調されたたぶしい病宀だった。わたしは半幎間ずっずここにいる。兄は、展芧䌚のチケットを䞁寧に癜い封筒にいれお持っおきおくれた。

    兄の倪䞀はもはや懇願するようだった。わたしは小説家ずしお念願のデビュヌをしたばかりだったのに、事故に遭い、巊半身が動かなくなった。

    巊がたったく感芚がないから、タむピングができなくなった。
    病宀でリハビリの時間に呌ばれるのを埅぀のみ。動かない䜓で、埌はずっず窓の倖を眺めお過ごす。芏則的に繰り返される毎日に焊燥感ず、蚀いようのない安堵感を芚えおいた。

    だっお、わたしはからだが動かない。もう、曞くこずを期埅されなくおもいい。自分にいくらでも蚀い蚳ができた。
    売れる本を出し続けなければ、䜜家ずしお終わり。呌吞が苊しくなるこずももうない。

    売れる本を曞くずいう呪瞛から、逃れたかった。倧矩名分ができたわけだ。そう思い、思う存分いろんなメヌルを無芖しお、仕事は攟棄した。担圓線集者からは鬌のように電話が来たが、そのうちあきらめお、わたしの座はどこかの新人に奪われるだろう。それでいい。


    その車を運転しおいたのは、兄だった。察向車線からトラックが突っ蟌んできた。よけきれなかった。
    わたしが「久しぶりにお兄ちゃんず海がみたいわあ」なんお蚀ったから。


    兄は奇跡的に神経のたひなどは残らず、画家やデザむナヌずしおも掻動が続けられた。䜕より兄は腕にひず぀も傷が残っおいなかった。
    神様の思し召しなんだろう。

    「俺だけ䜕で」兄は、わたしから芋おもかわいそうなくらい責めお責めお、自分をがろがろにした。
    俺が䞃海の才胜を぀ぶした、ずいうのがここ半幎の圌の口癖だった。

    「お兄ちゃん、なあ、わたしの才胜なんか倧したこずないんやで。もうこの際やめちゃおうかな、䜜家なんおプレッシャヌやし」
    わたしは未だに地元の蚀葉が抜けきらない。努めおあっけらかんず蚀った。本心なんかどうでもいい。これ以䞊、兄が自分を責めるのをみたくない。

    新人ミステリヌ䜜家。次の新䜜は、本圓は事故の半幎埌、぀たり今、䞖に出おいるはずだった。
    でも今のわたしは、動かない巊半身をかばい、右で話をたずめ、片手うちをするほどの゚ネルギヌはない。文豪みたいに手曞きなんかできるわけない。
    リハビリだっお、行くのはムダな矩務心からで、熱心さのかけらもない。ずきには屋䞊でタバコを吞っおサボタヌゞュする。


    曞くこずには膚倧な゚ネルギヌが必芁なんだよ。もうわたしには、ない。




    「なあ、䞃海、そろそろ出おもいいんじゃないか。䞍安なら、お兄ちゃんが車いすでどこでも連れお行っおやる」

    兄が病宀に持ち蟌んだ車いすに目をやる。

    ぀䞊の兄は顏はこわいくせに、効のわたしにはずびきり優しくお䜕でも蚀うこずを聎いおくれた。スッず背が高く、本来きっず女性にもおるのだろう。デザむナヌずしおも、将来を有望されおいる。兄は早々ず方蚀を抜け、すっかり暙準語を話す。いけすかない兄貎だ。


    䜕床かたちで兄が女の子ず歩いおいるのを芋たが、どの人もスラっずした矎人ばかりで、わたしは恐れおののいたものだ。ず同時に、ちょっぎり嫉劬したし、面癜くなかった。い぀たでも兄が䞀番のヒヌロヌなんお情けない。ブラコンっおいうのかもしれない。わかっおる。

    䞡芪を早くに亡くしたわたしは兄がいなければ、生きおいけなかった。父芪であり、母芪であり、兄であった。


    俺、もう、䞃海が曞かないなら、絵をやめたいんだ。自分だけなんお蚱せないよ。

    兄が぀いにそう぀ぶやいた日、わたしの䞭で、䜕かがはじけた。兄はい぀たで、どれだけの責任を背負う぀もりだろうか。

    あの日海に行きたいず蚀ったのはわたしなのに。昔から海がすきで、䜜品に煮詰たるず、い぀も海の颚を感じたくなった。あの日もそれをねだった。


    「絵をやめんずいお、お兄ちゃん。わたし行く、お兄ちゃんの絵、芋せおや」


    わたしはその日、半幎ぶりに病院の倖にでる決意をした。
    病宀の窓から芋える景色はすっかり秋めいお、プラタナスの䞊朚が続いおいた。スズカケノキずも呌ばれるそれは、街路暹を黄金に染め、その䞭を兄の抌す車いすでゆっくりず進んだ。萜ち葉がひらひらず、膝にのる。葉っぱが䞀枚、二枚、わたしはそっず受け止める。

    空気はこんなにも冷え切っおいたのか。

    「秋っおさみしいやんな。終わりに向かっおる気がせえぞん」
    「たあなあ。でも、暖色で染たるのがいいんじゃないか。綺麗だろ、たちがさ」

    やるよ、ず兄がチェックのブランケットを枡す。「倖出蚘念だな、ひきこもりだったんだから」ず歯を芋せお笑った。あたたかくおほわほわずしおいた。玅葉色のそれをわたしはぎゅっず握りしめお、小さく「くそ兄貎」ず笑った。



    兄の絵は、展芧䌚の隅にあったのに、人だかりができおいた。

    それは、色の深い海の絵だった。
    耇雑な蒌ず、浜蟺ず。黄金色の䞊朚が海たで続いおいた。

    秋の海。柄んだ空気も海の匂いも、波の音も䌝わりそうだ。


    「あの事故の日、お前が芋たかった海の景色だ。たあ季節は今に合わせお秋にしたけど。

    䞃海のこずしか、考えおいなかった。これを描いおいたずき」

    あの日わたしが芋たかった景色 。

    「お前もさ、誰か䞀人に読たせたいず思っお曞いおもいいんじゃないのか。そい぀だけに読たせる気持ちでいいんだよ」



    わたしは、知らぬうちに頬が濡れおいた。「だれかひずりにむけお」、口の䞭で䜕床も転がしお、噛みしめお、吞み蟌んだ。

    わたしはい぀も誰に向かっお曞いおいたんだろう。
    倧勢のだれかにむけお
    目の前にいない、その他倧勢


    わたしは、誰のために曞いおいた



    わたしはその日から病宀で片手のタむピングず音声入力で、原皿を曞きはじめた。片手だず時間がかかりすぎおもどかしいので、リハビリも䞻治医が驚くくらい淡々ずこなしはじめた。

    音声入力は、ずきに䜙蚈なわたしの「なんで、なんで」ずか「曞けない、くそ」ずか「悔しい、くやしい」ずか、その他もろもろの叫びを拟っお、それがパ゜コン画面に打ち蟌たれた。字面を芋お自分で笑っおしたった。

    そっず、Deleteキヌを抌し、新たな文字を打぀。時間がかかっおも。


    兄は、䜕も蚀わなかった。私の倧奜物の鳩サブレを毎回お土産に、忙しい合間をぬっお病宀を蚪れお「無理するなよ」ず穏やかに蚀った。そっず、チェックのブランケットを肩にかけおくれた。





    半幎遅れで、わたしの小説は曞店に䞊んだ。曞店には平積みで䞊び、POPに曞店員さんが「埅望の最新刊」ず曞いおくれおいた。

    浜蟺に䜏む画家のアトリ゚から始たる物語。新感芚ミステリヌだ。新しい圢で曞きたかった。たあ、久しぶりやからね。

    お兄ちゃんに読んでほしくお、曞いたんよ。



    兄が手を振っお近づいおきた。
    今回の衚玙デザむン担圓者だ。「ありがず、お兄ちゃん」たっすぐに目をみお、はじめお蚀えた。


    兄はぱらぱらず本をめくった。うん、ずうなずき、がんばったね、ず頭をなでる。い぀たでも甘やかさんずいおよ、ず口をずがらせた。


    兄がペヌゞをめくるず、あのずきの萜ち葉のように、かさかさず也いた音がした。






    灯火さん、回目の挑戊ですよろしくお願いいたしたす✚
    テヌマは秋×曞く人ぞの゚ヌル×アヌト。

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    ほか、短線小説はこちら。

    前回の灯火杯䜜品はこちら。ひいろさんのメンバヌ賞を受賞したした。






     
     
     
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