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ありがとうをあなたに

    ありがとうをあなたに

    私は、Bさんの中に自分と似たものを見ていた。

    それは「傷ついた人」だった。

    事業がうまくいかなかった経験。

    家族のアルコールのこと。

    変わりたいのに変われない苦しさ。

    変えたいのに変わってくれない悔しさ。

    私はそこに、自分を重ねていた。

    だから、一緒に回復していけたらいいなと思っていた。

    でも、Bさんはなかなか変わろうとしなかった。

    その気持ちも分かる。

    変わろうとして失敗したら、今度こそ立ち直れないかもしれない。

    私もそうだったから。

    だから私は、言葉で説得する代わりに、自分が変わって見せようと思った。

    付き合っていた間も、私は少しずつ変わり続けた。

    苦手だった手術を克服するために、オペテストを受けに行った。

    エキゾ診療を続けるために、全国の病院へ連絡をした。

    その結果、新しい病院とのご縁をいただいた。

    お酒もやめ続けている。

    やめ続けるために、今も病院へ通い、自助会へ参加している。

    社交ダンスはスタンダードを深めながら、ラテン種目も始めた。

    SNS発信も始めた。

    InstagramもThreadsもnoteも、最初は何も分からなかった。

    それでも、分からないことは人に聞きながら、一つずつ進めてきた。

    そうしているうちに、私の世界はどんどん広がっていった。

    新しい出会いが増えた。

    新しい挑戦が増えた。

    私を必要としてくれる場所も増えた。

    気づけば、私たちの歩くペースは変わってしまったのかもしれない。

    でも、それはBさんを置いていこうとしたわけじゃない。

    私は変わらず、Bさんのことを大切にしたかった。

    ただ、もう以前のように、その場に立ち止まり続けることが難しくなっていた。

    私は前へ進みたかった。

    そして、その先の世界も見てみたかった。

    私は、Bさんと、昔傷ついていた頃の自分に、同じことを伝えたかったのかもしれない。

    ほら、大丈夫だよ、と。

    世界は思っているより怖くないよ、と。

    もちろん傷つくこともある。

    思い通りにならないこともある。

    それでも、意外と優しい人はいる。

    助けてくれる人もいる。

    新しい景色もある。

    私はそれを、自分の人生で確かめたかった。

    だから変わり続けた。

    そして、変わっていく私の姿を見て、

    Bさんにも、昔の私にも、

    「大丈夫だよ」

    と伝えたかった。

    でも、その願いは叶わなかった。

    少なくとも、今は。

    それは悲しかった。

    とても寂しかった。

    一緒に見たかった景色があったから。

    一緒に歩きたかった未来があったから。

    それでも。

    私は言葉足らずだったかもしれない。

    我慢した時間も長かった。

    勘違いさせたこともあったかもしれない。

    でも。

    私は自分にも、あなたにも誠実だった。

    それだけは胸を張って言える。

    だから今は、

    ありがとう、と言いたい。

    ありがとうをあなたに。

    そして、あの頃の私にも。

    私はこれからも前へ進んでいこうと思う。

     
     
    獣医師。鳥や小動物の診療をしています。 回復のこと、人とのつながり、感謝している人たちのこと。 助けてもらった経験を、いつか誰かへの恩返しに。

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