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Photo byfug

握られるなら綺麗なあの人が良かった

    最近、夜中に家の近くを救急車がよく通る。

    岐阜にいた時は、たまにしか聞こえない救急車のサイレンの音に隣のおばちゃんやおじいちゃんが顔を出し、何だ何だと物珍しいように見ている。

    でも、大阪に来てからは日常茶飯事。毎日のようにパトカー、救急車、消防車が街中を行ったり来たりしている。

    映画『君の名は』で岐阜の女の子が都会に憧れて
    「もうこんな街嫌やぁ!!」
    僕はその逆だ。
    「こんな都会嫌やぁ!!」

    ところで、僕も大阪に来て、初めて救急車にお世話になった事がある。

    一人暮らしを始めて2年目。
    まだ右も左もよく分かってなく、一人で暮らす事が寂しくて、夜の河川敷をぷらぷら歩いていたあの時。
    コロナがおさまり、マスクを外し始めて、あんたそんな顔やったんやって思ったあの時。

    僕は遅らせながらコロナにかかった。
    寝たら元気になると思って、眠りにつこうとするけど、呼吸するのも苦しくて、
    あっ、このままやったら死んじゃうなと思って
    スマホに119を打ち込んだ。
    「火事ですか、救急ですか」
    僕「き、救急で」
    「どなたが具合が悪いのでしょうか」
    僕「僕です」
    「どんな症状ですか」
    僕「死にそうなんで早よしてもらってもいいですか」
    えらい(岐阜弁でしんどいって意味)って言ってんのに何やねんこいつと思って、少し怒ってしまった。
    そして、住所を伝えたら、10分くらいで救急車が来た。

    誰か人が近くにいる事に安心した僕は落ち着いて呼吸が出来るようになった。

    そして、僕の症状を見た救急隊員に
    「多分病院行くほどじゃないですけどどうします」

    いやでも、ここで断ったら、ただの冷やかしやと思われるのは恥ずいと思った僕は救急車に自分で乗り込み、病院に向かった。

    病院に着くと、お医者さんが
    「しんどかったやろ。多分、一人やったからパニックになったんやね」

    その優しい言葉に僕は目頭が熱くなった。

    医者「じゃあ、座薬だけ入れて、少し落ち着いたら帰ろうか」

    え?座薬?

    座薬にはいい思い出がないし、僕は座薬が人生で一番嫌いだ。

    でも、抵抗する力もなかった僕はズボンを下げ、半ケツになった。

    どうしても嫌すぎた僕は近くにいた看護師さんに
    「手握っといてもらってもいいですか」と。

    そしたら、勘違いしたお医者さんが僕の手をがっちり握ってきた。

    せめてさ、せめてさ、こんな嫌な事される時くらい綺麗な人に手握ってもらいたかった。

    座薬を入れて、落ち着いた僕は家に帰ろうと思い、
    受付に「帰りの救急車は?」
    受付の人「ないです。ご自身でお帰りになってください」

    呼吸ができず、いらない救急車を呼び、嫌いな座薬を入れ、手にはおじさんのぬくもり。

    もう絶対に病気になんてならないと誓ったあの日だった。

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